
新城幸也のチームメイト、ラヨビッチが第1ステージ圧勝|ツール・ド・熊野 第1ステージ

せいちゃん
- 2025年05月09日
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5月8日、新緑が目に鮮やかな紀伊半島を舞台に、第25回という記念すべき節目を迎えたUCIアジアツアー2.2クラスのロードレース「ツール・ド・熊野2025」が、4日間にわたる熱戦の火蓋を切った。大会初日、新たにステージとして加わった和歌山県印南町の「印南かえる橋周回コース」(125.3km)で、ドゥシャン・ラヨビッチ(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ、セルビア)が、ゴール前の激しい登りスプリントを見事に制し、ステージ優勝の栄冠を手にするとともに、個人総合時間賞の証であるリーダージャージ(イエロージャージ)を獲得した。新城幸也を擁する同チームは、終始レースをコントロールする圧倒的な力を見せつけ、記念大会の初日を完璧な勝利で飾った。
パワーアップした25周年大会、和歌山城クリテリウムも初開催で熱気
1999年に初開催された「3day’s 熊野」を前身とし、幾度かの開催を経て2008年からはUCIアジアツアーに組み込まれた本大会。コロナ禍による2度の中止を乗り越え、開催回数としては25回目を迎えた。今大会は「拡大」をテーマに掲げ、前々日には和歌山市のメインストリートであるけやき大通りを封鎖して「和歌山城クリテリウム」を初開催。多くの観客を集め、大会への期待感を高めた。
第1ステージの舞台となった印南町は、カエルをモチーフとしたオブジェが点在するのどかな町。スタート・フィニッシュ地点の印南町役場には、大会関係者、地元住民、そして課外授業の一環として訪れた多くの小中学生が詰めかけ、国際色豊かな選手たちの走りに熱い声援を送った。
パレードからリアルスタート、逃げを巡る攻防とプロチームの戦略

午前9時過ぎ、華やかな雰囲気の中、2.3kmのパレード走行を経てリアルスタートが切られると、早速アタック合戦が勃発。短いステージであり、総合を狙うチームは大きなタイム差をつけさせたくないという思惑が交錯する中、石橋学(JCLチーム右京)、岩村元嗣(チームユーラシア・IRCタイヤ)らが積極的に仕掛ける。
しばらくして、セントジョージコンチネンタルとトレンガヌの選手が飛び出す場面もあったが、集団はこれを容認せず。その後、タイのコンチネンタルチーム、ルージャイ・インシュランスの選手が単独で先行するも、これも吸収される。
そんな中、1周目のコントロールライン通過(スプリントポイント)が近づくと、各チームの動きが活発化。「かえる橋」からの登りで、ドゥシャン・ラヨビッチ(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ、セルビア)が冷静に位置を上げ、岡篤志(宇都宮ブリッツェン)、テグシュバヤール・バッサイカン(ルージャイ・インシュランス、モンゴル)らを抑えて1着通過。タイムボーナス(-3秒)とポイントを獲得し、早くもその実力を見せつけた。
このスプリントポイント通過後、U23アジアロードチャンピオンの鎌田晃輝(JCLチーム右京)と、マレーシアのナショナルチャンピオンジャージを纏うヌール・アミルール・ファフルディン・マズキ(トレンガヌサイクリングチーム)が2名で抜け出しに成功。メイン集団はこれを容認し、両チームはエースを温存できる有利な状況を作り出した。タイムギャップは徐々に開き、最大で1分30秒程度に達した。
若武者・岩村の果敢な追走、KOMポイントでの駆け引きと集団コントロール

メイン集団は、唯一のUCIプロチームであるソリューションテック・ヴィーニファンティーニがコントロールを開始。新城幸也をはじめとする強力な布陣で、逃げとのタイム差を巧みに管理する。この状況で、チームユーラシア・IRCタイヤの18歳、岩村元嗣が単独で追走を開始。高校を卒業したばかりの若武者は、臆することなく前を追い、チームユーラシア運営会社の代表取締役を務める解説の加藤康則氏も「こういう果敢な動きをしてくれるのは正直予想していました」と期待を寄せた。
3周目のKOM(キング・オブ・マウンテン)ポイントでは、逃げるマズキが先着し山岳ポイントを獲得。鎌田が2着で続く。岩村もこのKOMの手前からアタックをかけ、メイン集団から飛び出す形で3位通過を果たした。
岩村の追走は実を結び、先行する2名に合流。逃げは3名体制となり、ローテーションを組んでメイン集団との差を保とうと試みる。一方、メイン集団はソリューションテック・ヴィーニファンティーニに加え、LXサイクリングチームやチームブリヂストンサイクリングなども牽引に加わり、逃げ切りを許さない構えを見せる。
4周回目のコントロールライン(2回目の中間スプリントポイント)は、追いついたばかりの岩村が先頭で通過し、タイムボーナスとポイントを獲得。鎌田、マズキと続いた。この時点で、メイン集団とのタイムギャップは約45秒まで縮まっていた。
プロチームの鉄壁、新城の献身とラヨビッチの冷静沈着なスプリント

残り距離が少なくなるにつれ、メイン集団はソリューションテック・ヴィーニファンティーニが再び主導権を握り、徐々にペースアップ。逃げていた3名も、6周目のKOMポイントを前に吸収され、レースは振り出しに戻る。
このKOMポイントでは、小石祐馬(JCLチーム右京)がアタックを試みるも、ソリューションテック・ヴィーニファンティーニがこれを冷静に潰し、集団を一つにまとめたまま最終周回へ。
最終周回に入ると、新城幸也が鬼気迫る表情で集団を強力に牽引。その圧倒的な引きで、他チームのアタックを許さず、集団のペースをコントロールし続ける。一時はホセビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ、スペイン)や愛三工業レーシングチームなどが仕掛ける場面もあったが、ソリューションテック・ヴィーニファンティーニの組織力の前には決定的な動きとはならない。

残り5kmを切り、ゴールが近づくと、各チームがゴールスプリントに向けて最終的な位置取り争いを展開。キナンレーシングチーム、シマノレーシングチーム、セントジョージ・コンチネンタル、愛三工業レーシングチーム、チームブリヂストンサイクリングなどが次々と列車を組んで前に出ようとするが、ソリューションテック・ヴィーニファンティーニは常に集団前方で有利なポジションをキープ。
そして迎えた最終盤、再び新城が先頭に立ち、エースのラヨビッチを発射台へと導く。最後のかえる橋への登りに入ると、草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)が良い位置につけ、宇都宮ブリッツェンの岡もスプリントを開始。しかし、その背後から満を持して加速したラヨオビッチが、力強いペダリングで先行する選手たちを抜き去り、両手を突き上げてフィニッシュラインに飛び込んだ。
2着には岡、3着にはベテラン、ベンジャミ・プラデス(VC福岡、スペイン)が入った。
各賞ジャージの行方と選手たちのコメント

第1ステージの結果、各賞ジャージは以下のように決定した。
- 個人総合時間賞(イエロージャージ):ドゥシャン・ラヨビッチ(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ、セルビア)
- ポイント賞(グリーンジャージ): ドゥシャン・ラヨビッチ(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ、セルビア)
- 山岳賞(レッドジャージ): 鎌田晃輝(JCLチーム右京)
- 新人賞(ホワイトジャージ): 岩村元嗣(チームユーラシア・IRCタイヤ)
ステージ優勝とイエロージャージ、グリーンジャージのを手にしたラヨビッチは、表彰式後のインタビューで「今日は決して簡単なレースではなかったが、チームメイトが素晴らしい仕事をしてくれた。子供たちもたくさん応援してくれてありがとう。明日も頑張るよ」と、チームへの感謝と翌日への意気込みを語った。
ラヨビッチのチームメイト新城幸也コメント「『2戦2勝!今のところ100%の勝率(笑) クリテリウムでの手応えから、集団スプリントだけに
絞ってレースを進めた。若手のローランドは、これまで集団コントロールをしたことが無かったので、後ろから指示を出しながら走った。若手だけのメンバーならこ言うことは経験出来ないので、彼の成長にも今後の経験にも今回のレースは良い機会になっていると思う。(自分がアシストしたことで、チームメイトが優勝してくれるのでやりがいを感じてくれているはず)チームはほぼ完璧にレースをコントロールして、ドゥシャンが優勝してくれたので、また明日へのモチベーションも高い。この調子で明日も頑張ります!』
新人賞のホワイトジャージに袖を通した岩村は「めっちゃ嬉しいです。まさか追いつくとは思ってなかったんで、追いついてまずはめっちゃ安心しました。明日以降もこのジャージを守れるように頑張ります」と笑顔を見せた。
山岳賞の鎌田は「コンディションが悪い中で、自分なりにマックスで走ることができた。逃げている時、タイム差も広がったのでワンチャンあるかなと思ったが残念。初めてこういうジャージを着たので、頑張って守れるように走りたい」とコメントした。
地元小学生の応援と恒例の「餅撒き」

表彰式では、地元の小中学生がプレゼンターを務めたり、英語教育の一環として選手にインタビューを行うなど、地域と一体となった運営が印象的だった。また、全参加チームへの応援旗が地元の子どもたちから贈呈される場面も見られた。
そして、ツール・ド・熊野名物となっている「餅撒き」がフィナーレを飾った。ステージ上位選手やキナンレーシングチームの選手たちが、観客に向けてお菓子やパンなどを投げ入れ、会場は大きな歓声に包まれた。初めて「餅撒き」を経験する海外選手も楽しんでいる様子で、大会の温かい雰囲気を象徴する光景となった。

テクニカルな古座川清流コース、総合争いは更に激化か
激闘の初日を終え、戦いの舞台は第2ステージの「古座川清流周回コース」(126.7km)へと移る。1周42.6kmのコースを3周回するこのステージは、昨年も採用されたが、当時は大会初日だった。今年は第2ステージとして行われるため、リーダージャージを着るラヨビッチを擁するソリューションテック・ヴィーニファンティーニの戦略や、タイム差を挽回したいライバルチームの動きなど、昨日とは異なる展開が予想される。
解説の加藤氏は「昨年はしょっぱなのステージだったので厳しいレース展開になったが、第1ステージを終えて総合順位が決まった状態での古座川はまた違う。今日遅れた選手が逃げを容認される可能性もある」と分析。テクニカルなコースレイアウトとアップダウンが、総合争いにどのような影響を与えるのか、注目が集まる。
25周年の節目を迎え、新たな歴史の1ページを刻み始めたツール・ド・熊野。残り3日間、紀伊路を舞台に繰り広げられる選手たちの熱いドラマから目が離せない。
第1ステージ リザルト
1位 ドゥシャン・ラヨビッチ(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ、セルビア) 2h55m59s
2位 岡篤志(宇都宮ブリッツェン)
3位 ベンジャミ・プラデス(VC福岡、スペイン)
4位 エリオット シュルツ(ヴィクトワール広島、オーストラリア)
5位 ジェラルド・レデスマ(VC福岡、スペイン)
6位 トム・セクストン(セントジョージ・コンチネンタル、ニュージーランド)
7位 ジル・ドックス(ワンティ・NIPPO・リユーズ、ベルギー)
8位 草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)
9位 山本哲央(チームブリヂストンサイクリング)
10位 住吉宏太(スパークルおおいたレーシングチーム)
個人総合成績(第1ステージ終了時点)
1位 ドゥシャン・ラヨビッチ(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ、セルビア) 2h55m46s
2位 岡篤志(宇都宮ブリッツェン) +05s
3位 ベンジャミ・プラデス(VC福岡、スペイン) +09s
4位 岩村元嗣(チームユーラシア・IRCタイヤ) +10s
5位 鎌田晃輝(JCLチーム右京) +11s
6位 テグシュバヤール・バッサイカン(ルージャイ・インシュランス、モンゴル) +12s
7位 エリオット シュルツ(ヴィクトワール広島、オーストラリア) +13s
8位 ジェラルド・レデスマ(VC福岡、スペイン)
9位 トム・セクストン(セントジョージ・コンチネンタル、ニュージーランド)
10位 ジル・ドックス(ワンティ・NIPPO・リユーズ、ベルギー)
ポイント賞(第1ステージ終了時点)
ドゥシャン・ラヨビッチ(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ、セルビア)
山岳賞(第1ステージ終了時点)
鎌田晃輝(JCLチーム右京)
新人賞(第1ステージ終了時点)
岩村元嗣(チームユーラシア・IRCタイヤ)
チーム総合成績首位(第1ステージ終了時点)
ワンティ・NIPPO・リユーズ
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PROFILE

稲城FIETSクラスアクト所属のJプロツアーレーサー。レースを走る傍ら、国内外のレースや選手情報などを追っている。愛称は「せいちゃん」のほか「セイペディア」と呼ばれている