
ファンチェル圧巻の独走優勝!総合首位も奪取|ツアー・オブ・ジャパン いなべステージ

せいちゃん
- 2025年05月20日
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5月20日(火)、三重県いなべ市を舞台に開催された「NTN presents ツアー・オブ・ジャパン2025」第3ステージ いなべステージは、大会屈指の難コースで序盤から激しいアタック合戦が繰り広げられるサバイバルな展開となった。終盤に抜け出したアレッサンドロ・ファンチェル(JCLチーム右京、イタリア)が、力強い走りで独走勝利。ステージ優勝と共に個人総合時間賞でもトップに躍り出て、グリーンジャージとポイント賞ジャージの2冠を手にした。
新緑のいなべで熱戦火蓋、序盤から有力選手が動く激しい展開
大会3日目の舞台は、三岐鉄道北勢線の終着駅である三重県いなべ市の阿下喜駅前をスタートし、3.1kmのパレード区間を経て、いなべ市梅林公園を発着点とする1周14.8kmの周回コースを8周する、総走行距離127.0kmで争われた。コース中盤には「イナベルグ」と名付けられた最大勾配17%を超える激坂が待ち構え、勝負の行方を大きく左右する。この日は晴天に恵まれ、スタート時の気温は25℃。レースが進むにつれて気温は上昇し、厳しい暑さも選手たちを苦しめた。会場には19,000人の観客が詰めかけ、選手たちの熱い走りに声援を送った。
前日のJPF 京都ステージでステージ優勝と個人総合時間賞リーダージャージを獲得した岡篤志(宇都宮ブリッツェン)がグリーンジャージを着用してスタートラインに立った。
リアルスタートが切られると、昨年このステージの逃げが最終的な総合成績に大きな影響を与えたこともあり、有力選手たちが序盤から積極的に動く。山本元喜(キナンレーシングチーム)らがアタックを仕掛けるが、集団はこれを容認せず、なかなか決定的な逃げは決まらない。
2周目のイナベルグでは、山岳賞ジャージを着るニコロ・ガリッポ(JCLチーム右京、イタリア)が先頭で通過し、貴重な山岳ポイントを加算。その後もアタックと吸収が繰り返され、集団は常にハイペースを維持し、早くも数名の選手が遅れ始める厳しい展開となった。
中盤、総合上位勢が動く!まさかのリーダー岡篤志自らがエスケープ
レースが大きく動いたのは3周目のイナベルグ。ここで個人総合時間賞リーダージャージを着る岡自らがアタックを敢行。これにガリッポ、アレッサンドロ・ファンチェル(JCLチーム右京、イタリア)、マティアス・ブレンホイ(トレンガヌサイクリングチーム、デンマーク)、ディラン・ホプキンス(ルージャイ・インシュアランス、オーストラリア)、ヨハネス・アダミエツ(レンベ・ラド・ネット、ドイツ)といった総合上位の強豪選手たちが次々と合流し、非常に強力な6名の先頭集団が形成された。
このまさかの展開に、メイン集団ではソリューションテック・ヴィーニファンティーニやキナンレーシングチーム、ワンティ・NIPPO・リユーズなどが危機感を募らせ、追走を開始。しかし、強力なメンバーが揃った先頭集団は巧みにローテーションを回し、タイム差は一時40秒以上にまで開いた。
4周目のコントロールライン通過時に設定された1回目の中間スプリントポイントは、この強力な逃げグループの中からファンチェルが先頭で通過し、5ポイントとボーナスタイム3秒を獲得。ガリッポが2着、ホプキンスが3着で続いた。
しかし、この強力な逃げも長くは続かなかった。メイン集団からはネイサン・アール(キナンレーシングチーム、オーストラリア)が驚異的なペースで単独追走を敢行し、先頭集団に合流。その直後、ソリューションテック・ヴィーニファンティーニが牽引するメイン集団が、イナベルグ手前でついにこの逃げを吸収。レースは再び振り出しに戻った。
ゼライの独走と岡のメカトラ、そしてファンチェルらの最終アタック
5周目のイナベルグでは、ナホム・ゼライ(JCLチーム右京、エリトリア)がアタックし、単独で先頭に立つ。そのまま独走を開始し、6周目に設定された2回目の山岳ポイントもゼライが独走で先頭通過を果たした。この周回では、グリーンジャージを着る岡がチェーントラブルに見舞われるアクシデントが発生。チームメイトのルーベン・アコスタ(宇都宮ブリッツェン、コロンビア)の献身的なアシストを受け、なんとか集団復帰を果たす。
7周目に入るところで逃げていたゼライが集団に引き戻されると、イナベルグを前にファンチェルとガリッポのJCLチーム右京コンビがハイペースを刻み、集団の人数を絞りにかかる。この動きから、ミゲル・ハイデマン(レンベ・ラド・ネット、ドイツ)がアタック。これにファンチェルとブレンホイが反応し、先頭は3名となった。
最終周回に入るコントロールラインに設定された2回目の中間スプリントポイントは、ファンチェルが再び先頭で通過し、さらにボーナスタイム3秒と5ポイントを獲得。ガリッポが2着、マクサンス・プラス(ワンティ・NIPPO・リユーズ、ベルギー)が3着で続いた。この時点でメイン集団は25秒遅れで最終周回へと突入した。
ファンチェルとブレンホイの一騎打ち、JCLチーム右京がステージを支配
最後のイナベルグでハイデマンが脱落し、先頭はファンチェルとブレンホイの2名に。後方ではキナンレーシングチームなどが追走を試みるが、先頭2名の力強い走りの前に差は詰まらず、勝負はこの2人に絞られた。
そして、ゴール手前、登り基調のスプリント勝負。残り150m付近でファンチェルが満を持してスプリントを開始すると、力強い加速でブレンホイを突き放し、見事な独走でフィニッシュラインに飛び込んだ。2位にはブレンホイ、3位にはメイン集団からスプリントで抜け出したガリッポが入り、JCLチーム右京が1位と3位を占める圧巻のパフォーマンスを見せた。
ファンチェル、ステージ優勝と総合首位のダブル獲得。各賞ジャージの行方と選手コメント
ステージ優勝とボーナスタイム10秒を獲得したファンチェルは、個人総合時間賞でもトップに立ち、グリーンジャージを獲得。さらにポイント賞のトップにも立ち、ブルージャージも手にした。ファンチェルは「一度アタックしましたが集団に追いつかれたので、再び前に出ました。プラン通りの動きではなかったですが、今日のコースの登り基調のフィニッシュは自分に向いていると考えていて、スプリントになれば勝てる自信もありました。このリーダージャージを最終ステージまで着続けることが大きな目標になります」と力強く語った。
ステージ3位に食い込み、山岳賞ジャージを堅守したガリッポは「チームとしての目標はあくまで総合成績なので、チームでステージ優勝、そして総合成績を上げることを目指して走りました。とはいえ山岳賞ジャージを着て走るのは特別なことですし、チームのスポンサーのためにもキープしたいという思いもありました。続くステージでは勝利を掴みたいですね」とコメント。
ステージ10位に入り、新たに新人賞リーダーの座についたマクサンス・プラスは「新人賞が同タイムで競っていたので、難しいことは承知の上でジャージが獲れたらいいと思い走りました。中間スプリントでボーナスタイムを獲得でき、フィニッシュもいい順位で入れてジャージを着ることが叶いました。この先もできるだけこのジャージを着続けたいです」と喜びを語った。

一方、ステージ12位でリーダージャージを手放した岡は、「今日はリーダーチームとして迎えるステージだったが、非常にハードな展開となった。危険な逃げに対してレースをコントロールしきるのは難しいと判断して、1度、自ら逃げに飛び乗る賭けに出た。タイム差も開き、強力なメンバーだったのでチャレンジしたのだが、結果的に捕まってしまい、その後、かなり脚が厳しい場面があり、メカトラで遅れてしまったりもした。最後はルーベン選手に何度も助けてもらって集団内でゴールすることができた。今日もチームメイトに感謝したい。リーダージャージは失ったが、明日からは自由に走れるので、気持ち的には少し楽かなと思う。今後もステージ優勝に向けて毎ステージチャレンジしていきたい」と、悔しさを滲ませながらも前を向いた。
RTA賞(将来有望なU23日本人選手に贈られる賞)は、2日連続で橋川丈(愛三工業レーシングチーム)が受賞。プレゼンターの浅田顕氏は、「昨日に引き続き、本日のレースでもU23選手による大きな動きは見られませんでした。そのため、U23選手の中で最上位に入った橋川選手に、本日も同賞を授与いたします。橋川選手は、自転車競技の本場であるベルギーで生まれ育ちました。ベルギーがどれほどの自転車王国かというと、往年の名選手エディ・メルクスの名を冠した駅があるほど、自転車が国民的に重要な存在となっている国です。そのようなベルギーと日本を拠点に、橋川選手は世界のプロ選手を目指して日々努力を重ねています。まだU23という若さですので、今後の成長を温かく見守り、引き続き応援していただければ幸いです」と、その将来性に期待を込めた。

集団コントロールに尽力した新城幸也(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ)は、11分40秒遅れの74位でフィニッシュ。「今日はコントロールするチームが無かったので、逃げがなかなか決まらずにいつものいなべステージとは違うレース展開になった。チームは先頭に追い付き、レースを振り出しに戻した。フィニッシュでは3人にタイム差を取られてしまったが、マーク(スチュワート)がステージ4位に入った事で最低限のダメージで今日を終える事が出来た。明日は平坦ステージなので、あまり荒れた展開になるとは思えない。チームは総合タイムを失わない走りになるだろう」と、冷静にレースを振り返った。
熱戦は第4ステージ美濃へ
激しいアタック合戦が終始繰り広げられたサバイバルないなべステージ。ファンチェルが圧倒的な強さを見せつけ、ステージ優勝と総合首位の座を掴み取った。大会は中盤戦へと突入し、翌21日には第4ステージ美濃(岐阜県美濃市)が行われる。歴史的な街並みを駆け抜けるコースで、総合争いはさらにヒートアップすることが予想される。
第3ステージ リザルト
1位 アレッサンドロ・ファンチェル(JCLチーム右京、イタリア) 2h59m32s
2位 マティアス・ブレンホイ(トレンガヌサイクリングチーム、デンマーク) +04s
3位 ニコロ・ガリッポ(JCLチーム右京、イタリア) +22s
4位 マーク・スチュワート(ソリューションテック ヴィーニファンティーニ、イギリス) +26s
5位 ネイサン・アール(キナンレーシングチーム、オーストラリア) +29s
6位 ベンジャミ・プラデス・レヴェルテル(VC福岡、スペイン)
7位 シモーネ・ラッカーニ(JCLチーム右京、イタリア)
8位 ディラン・ホプキンス(ルージャイ インシュアランス、オーストラリア)
9位 ヴァレリオ・コンティ(ソリューションテック ヴィーニファンティーニ、イタリア)
10位 マクサンス・プラス(ワンティ・NIPPO・リユーズ、ベルギー)
個人総合成績(第3ステージ)
1位 アレッサンドロ・ファンチェル(JCLチーム右京、イタリア) 5h41m09s
2位 マティアス・ブレンホイ(トレンガヌサイクリングチーム、デンマーク) +16s
3位 岡篤志(宇都宮ブリッツェン) +33s
4位 ニコロ・ガリッポ(JCLチーム右京、イタリア) +35s
5位 アンドレア・ダマト(JCLチーム右京、イタリア) +39s
6位 マーク・スチュワート(ソリューションテック ヴィーニファンティーニ、イギリス) +44s
7位 ディラン・ホプキンス(ルージャイ インシュアランス、オーストラリア) +45s
8位 ベンジャミ・プラデス・レヴェルテル(VC福岡、スペイン) +46s
9位 金子宗平(日本ナショナルチーム) +47s
10位 マクサンス・プラス(ワンティ・NIPPO・リユーズ、ベルギー)
ポイント賞(ブルージャージ)
アレッサンドロ・ファンチェル(JCLチーム右京、イタリア)
山岳賞(レッドジャージ)
ニコロ・ガリッポ(JCLチーム右京、イタリア)
新人賞(ホワイトジャージ)
マクサンス・プラス(ワンティ・NIPPO・リユーズ、ベルギー)
RTA賞
橋川丈(愛三工業レーシングチーム)
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PROFILE

稲城FIETSクラスアクト所属のJプロツアーレーサー。レースを走る傍ら、国内外のレースや選手情報などを追っている。愛称は「せいちゃん」のほか「セイペディア」と呼ばれている