
イサーク・デルトロの“ピンク旅” 激動の第2週もマリア・ローザ守る|ジロ・デ・イタリア

福光俊介
- 2025年05月27日
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2025年シーズン最初のグランツール、ジロ・デ・イタリアは第2週までが終了。残すところ1週間、6ステージとなった。第1週後半に個人総合でトップに立ったイサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ・XRG、メキシコ)が、第2週もその座をキープ。マリア・ローザ着用を続けている。結果的に総合系ライダーにとっては「いかにタイムを失うことなく走り切るか」がカギとなった大会中盤戦。本記ではこの1週間を振り返るとともに、デルトロのコメントなども交えながら最後の1週間を展望してみる。
デルトロがボーナスタイム積み重ねて総合リード広げる
まずは第2週、第10~15ステージを振り返ってみよう。
28.6kmの個人タイムトライアルが設定された第10ステージ。ピサの斜塔を目指しての独走力勝負で第2週が幕を開けた。

この日はレース前の試走時から波乱が起こる。個人総合10位で第1週を終え、追い上げを図るプリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)ら数人が雨に濡れた路面で落車。大きなけがにはならなかったものの、不穏なムードが立ち込める。
迎えたレースは、この種目のオランダ王者であるダーン・ホーレ(リドル・トレック)が32分30秒で走破。その後、コースへと飛び出したワウト・ファンアールト(ヴィスマ・リースアバイク、ベルギー)は1分8秒遅れ。同じ個人タイムトライアルで競った第2ステージを勝ったジョシュア・ターリング(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)は、途中で前走者と接触しかけるなどリズムに乗れず、ホーレには6秒届かない。

個人総合上位陣が出走する時間帯になって雨が降り始め、コースコンディションが悪化。ログリッチは1分14秒差とまとめるが、多くの選手がタイムを伸ばせず。そんななか、UAE勢はフアン・アユソ(スペイン)が1分34秒遅れとまずまずの走りを見せ、マリア・ローザでスタートしたデルトロも2分22秒遅れで走って、ジャージを守った。最後までホーレのトップタイムは脅かされず、グランツール初勝利をつかんだ。

中盤に最大勾配19%の1級山岳アルペ・サン・ペッリグリーノを上った第11ステージ(186km)。逃げを狙った動きが続き序盤からハイペースで進行するが、アルペ・サン・ペリグリーノに入ったあたりから逃げが容認され、メイン集団はリーダーのUAEチームエミレーツ・XRGがコントロールする。
終盤にかけて、メイン集団ではリドル・トレックやEFエデュケーション・イージーポストがペースアップを図って、逃げる選手たちに迫っていく。そして残り9km、2級山岳を上る間にリチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト、エクアドル)がアタック。逃げライダーをパスし、独走へと持ち込む。後ろではデルトロみずから仕掛け、その他総合上位陣も動きを見せる。

カラパスは最終盤を逃げ切って、ジロでは6年ぶりのステージ優勝。メイン集団は10秒差でやってきて、デルトロが2位フィニッシュ。6秒ボーナスを獲得し、総合リード拡大に成功した。

前日から一転して、集団スプリントで決まった第12ステージ(172km)。しばし容認されていた3人の逃げは終盤までは続かず、ヴィスマ・リースアバイクやアルペシン・ドゥクーニンクが主にコントロールを担ったメイン集団にキャッチされる。

セオリー通りのスプリント決着のムードになると、この日主導権を獲ったのがヴィスマ・リースアバイク。ワウトのリードアウトから飛び出したのはオラフ・コーイ(オランダ)。第4ステージで勝っているカスペル・ファンウーデン(ピクニック・ポストNL、オランダ)やカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク、オーストラリア)らとの競り合いに勝利。大会前から注目されていたワウトとのホットラインがついに完成した。

マリア・ローザのデルトロは、レース後半に設置された「レッドブルKM」を3位通過。2秒のボーナスタイムを獲得し、総合リードをさらに広げた。
ログリッチが後退、落車の影響か
第13ステージ(180km)は全体的に平坦路が多いものの、要所はいずれも短いながらも急坂ばかり。パンチャー向けとの評が多かったが、実際にピュアスプリンターには出番はなかった。

一時メイン集団が割れ、総合上位陣の一部が後方に取り残される場面こそあったものの、何とかひとつに戻っていくつもの急坂区間をクリア。逃げる選手たちを捕まえてからも、ロマン・バルデ(ピクニック・ポストNL、フランス)やマティアス・ヴァチェク(リドル・トレック、チェコ)らが動いて、活発なまま最終局面へ。フィニッシュへと駆け上がる最後の直線で伸びたのは、ポイント賞のマリア・チクラミーノを着るマッズ・ピーダスン(リドル・トレック、デンマーク)。タフなレイアウトで追随できたのはワウトとデルトロだけだったが、彼らの追い込みをかわしてピーダスンが今大会4勝目を挙げた。

ピーダスンは同賞争いで得点を伸ばし、デルトロもレッドブルKMと合わせこの日だけで6秒のボーナスタイムをゲット。スペシャルジャージを着る2人が躍動する1日となった。

隣国スロベニアに入った第14ステージ(195km)。最大5人で形成された逃げが先行を続けながら国境を越えると、レースは大きな局面を迎える。
石畳の路面が雨に濡れる影響から、メイン集団の前方で大規模なクラッシュが発生。10人以上が落車したほか、集団後方に位置していた選手たちが足止め。ピーダスンが巻き込まれたほか、個人総合7位でスタートしていたジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック、イタリア)は右脚を負傷。しばらくしてバイクにまたがったものの、このステージ後にリタイアを決める。

この影響で集団が分裂。人数を残したヴィスマ・リースアバイクがワウトを中心に牽引をする一方で、UAEチームエミレーツ・XRGはデルトロが単騎に。後ろのグループにアユソやログリッチ、さらに後方で個人総合3位でスタートしていたアントニオ・ティベーリ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)が前を追った。
荒れに荒れた1日は、逃げグループから飛び出したカスパー・アスグリーン(EFエデュケーション・イージーポスト、デンマーク)が独走を決めステージ優勝。デルトロらのグループが16秒差で続き、ログリッチとアユソは1分4秒差、ティベーリは2分差でのフィニッシュに。

デルトロのマリア・ローザは変わらずも、追う選手たちの形勢が大きく変化。前方に残ったサイモン・イェーツ(ヴィスマ・リースアバイク、イギリス)が2位浮上。アユソは3位に下げ、ティベーリは8位まで落とした。

続く第15ステージ(219km)も驚きの展開が待っていた。ドロミテの山々に入ったこの日は、最大35人がレースをリード。UAEチームエミレーツ・XRGがメイン集団をコントロールし、着々と残り距離を減らしていく。
中盤に上った1級山岳モンテ・グラッパでは、メイン集団からエガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)がアタック。デルトロがすかさずチェック。他の総合上位陣も冷静に対処し、のちに集団でまとまる。

先頭では、カルロス・ベローナ(リドル・トレック、スペイン)が2級の上りでアタック。フィニッシュまで43kmを残して飛び出すと、快調に登坂をこなして後続との差を拡大。かたやメイン集団では、イネオス・グレナディアーズやEFエデュケーション・イージーポストが作るペースにログリッチがついていけなくなる。これを受けて総合上位陣の一部がアタックするが、UAEのコントロールが再度始まると落ち着きを取り戻し、ログリッチとの差を広げながらレースをクローズする格好に。
ベローナは他の追撃を許さず、そのままひとりでフィニッシュへ。前日にはチッコーネが落車し、総合エースを失ったリドル・トレックだったが、起死回生のステージ優勝を挙げた。

デルトロら総合上位陣が入ったグループはベローナから29秒差でフィニッシュラインを通過したが、ログリッチはまさかの1分59秒遅れ。今大会に入ってからの数回の落車が影響しているようで、個人総合でも5位から10位まで落としてしまった。
ジロ・デ・イタリア2025 第15ステージ終了時順位
個人総合成績
1 イサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ・XRG、メキシコ)55:54:05
2 サイモン・イェーツ(チーム ヴィスマ・リースアバイク、イギリス)+1’20”
3 フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ・XRG、スペイン)+1’26”
4 リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト、エクアドル)+2’07”
5 デレク・ジー(イスラエル・プレミアテック、カナダ)+2’54”
6 ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)+2’55”
7 アントニオ・ティベーリ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)+3’02”
8 エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)+3’38”
9 テイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ、オランダ)+3’45”
10 プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ、スロベニア)+3’53”
ポイント賞
マッズ・ピーダスン(リドル・トレック、デンマーク)
山岳賞
ロレンツォ・フォルトゥナート(XDS・アスタナ チーム)
ヤングライダー賞
イサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ・XRG、メキシコ)
チーム総合成績
UAEチームエミレーツ・XRG
第3週の見どころ UAEはデルトロを軸に組み立てか
今大会の覇権が決まる運命の第3週。「ステージ編成が不均衡」との声もあるほどに、最後の1週間で急激に山岳比重が高まる。
その初日、第16ステージでカテゴリー山岳を5つ上り、その獲得標高は4900m。第17ステージではジロではおなじみのモルティローロへ。平坦の第18ステージをはさんで、第19ステージではコル・ッツェコレ(登坂距離16km・平均勾配7.7%、最大勾配15%)、サン・パンタレオン(16.5km、7.2%、12%)、コル・ド・ジュー(5.1km、6.9%、12%)、3つの1級山岳を立て続けに上る。今大会のクイーンステージとの呼び声も高い。
マリア・ローザをかけた最後の争いとなる第20ステージは、コース後半にコッレ・デッレ・フィネストレ(18.5km、9.2%)の登坂が待つ。頂上手前8kmからは未舗装区間となり、上り切ると標高は2178mに達する。今大会の最高標高地点(チーマ・コッピ)でもあり、その後いったん下ってフィニッシュ地・セストリエールに到達への上りをこなしたら、今年の王者が事実上決定する。
最終・第21ステージは首都ローマへ。少しばかりのパレード走行と、スプリントフィニッシュで大会のフィナーレを迎える。

やはり最終週は、マリア・ローザの行方に全世界の目が注がれる。UAEチームエミレーツ・XRGはデルトロとアユソがワン・スリーとしており、チームとしてどのように戦術を組み立てていくか。
当初はあくまで「アユソがチームリーダー」との姿勢を見せていたデルトロだが、戦いを進めるうちにチーム内序列が上昇。自身はもとより、チームとしても21歳の新リーダーを盛り立てていく構えだ。ここまで、アユソが落車や集団内でのトラブルに巻き込まれタイムを失う一方で、デルトロはほぼノーミスで走り続けている。ボーナスタイムもしっかり押さえており、少しずつ総合リードを広げている。

2回目の休息日(5月26日)に行われたオンライン会見では、デルトロが首脳陣と並んで報道陣の質問に答えたが、アユソは出席せず。チーム内での立ち位置が明確になっている。
スポーツディレクターのファビオ・バルダート氏は「まずはリーダーであるイサーク(デルトロ)を中心にまとまっていきたい」と述べ、改めてデルトロがチームリーダーであることを明言。デルトロ本人は、「チームとして有利な立場にある。1位と3位は他チームにプレッシャーを与えられると思う」と、今後の戦いにも自信を見せている。

派手さはないものの、堅実な走りで個人総合2位につけるサイモン・イェーツが最終週でどう動いていくかも見もの。ヴィスマ・リースアバイクへ今季加入し、UAEとの最強チーム争いの一端を担っている。近年の構図でもある両チームの争いが、このジロでも。デルトロやアユソと比べ、サイモンが経験で大きく上回る。ワウトらアシストに回る選手たちもここまで安定しており、大会終盤に合わせて一気に攻勢に転じることも考えられる。
個人総合トップ10が総合タイム差4分以内にひしめいており、マリア・ローザ争いの大勢を見るのはまだまだ先である。
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