TIME・ALPE D’HUEZ 01【ハシケンのロードバイクエクスプローラー】
ハシケン
- 2019年01月23日
走れるサイクルジャーナリスト・ハシケンによる100kmインプレッション連載。
気になる最新のフラッグシップモデル1台を徹底的に掘り下げて紹介。
今月は、フレンチバイク「タイム」が放つ軽量モデル
「アルプデュエズ01」の全貌を明らかにする。
1987年にペダルメーカーとして歩みを始めたタイムは、1993年にカーボンフレームの製造に着手する。独自のカーボン縫製技術のRTM工法を同ブランドのDNAとして、高品質なレーシングバイクを世に送り、またたく間にトップレーシングブランドへと飛躍。2004年に登場した名車「VXRS」は数多くの世界チャンピオンを輩出し、現在に至るプレミアムブランドとしての地位を確立していった。
そんなフレンチバイクが送り出す最新モデルが、かの名峠の名を冠する「アルプデュエズ」だ。同社のラインナップのなかで、アルティテュード(軽量オールラウンダー)に属し、軽さと重量剛性比を追求したタイム史上最軽量モデル。軽量化競争よりもバランスを重視するテクニカルポリシーとしながらも、フラッグシップモデルの「アルプデュエズ01」は、フレーム重量840g(Sサイズ)を実現している。
そして、今月のエクスプローラーでは、セカンドグレードの「アルプデュエズ21」との同時インプレッションが実現。最新スペックを搭載するタイムが誇る軽量オールラウンドモデルに迫っていく。
TECHNOLOGY
テクノロジー詳細!
実戦を重視した軽量フレームに独自のテクノロジーを搭載
独自のカーボン製法RTMをはじめ、フランスの自社工場での製造にこだわるメイドインフランスモデル。
オリジナリティあふれる成法によって作り上げられるアルプデュエズの細部に迫る
ソックス形状のカーボンブレードと
RTM工法の採用3Dヘッドチューブ
フランスの本社工場に設置されたカーボン原糸からシートを製造するマシンでは、ソックスのような筒状に細かく編み込みカーボンブレードを作り出す。これをカーボンブレード・テクノロジーと呼ぶ。さらに、筒状のカーボンブレードをフレームを型どるコア材にかぶせ、金型にセットして樹脂(レジン)を流し込み加圧するRTM工法を採用する。カーボンシートを貼り合わせて作り一般的なカーボンプリブレグ成形よりも、細かく肉厚をコントロールしやすく、さらに、つなぎめが少なく耐久性を高められる
アイゾン比、マイナス80gの
軽量化と25%の重量剛性比アップ
HS(標準弾性)カーボン、HM(高弾性)カーボン、ベクトランの3種類のカーボンを適材適所で採用するが、軽量化を剛性アップを実現するため、全体の比率のうち55%をHMカーボンで構成する(アイゾンでは45%)。また、表層の化粧カーボンも省略することでアイゾン比で80gの軽量化を可能にした。結果的に、重量剛性比もタイムのラインナップ中で最高値を示している
セミイングレーテッド式
新型クイックセットの採用
タイムのヘッドセットは外側からベアリングの玉当たりを調整する「クイックセット」方式を採用する。アルプデュエズでは、新型のクイックセットを開発し、フレーム側へセミインテグレートさせることで、従来よりもハンドル位置を9mmも下げられる
低周波振動を減衰する
アクティブフォーク
2015モデルから誕生したタイム独自のアクティブ(AKTIV)フォークを採用。フォーク内部に小型のダンパー機構を内蔵し、路面からの低周波の微振動を終息させる役割を果たす。これにより高い快適性を獲得している
大径チューブを採用し
パワー伝達性を向上
カーボンブレードの数を減らし軽量化を推し進めながら剛性も高めるため、チューブ径を大径化。角を落として丸みを出した四角断面のダウンチューブを特徴とする
コンパクト設計で反応性を向上
左右非対称チェーンステーも継承
登坂時の反応性を高めるため、リア三角をコンパクトに設計。また、シートステーがトップチューブと交差する独特の構造を採用する。全体的にエッジを利かせて剛性を高めつつも、伝統の左右非対称チェーンステーなどによって路面追従性を高めている。ペダリングパワーを受け止めるボトムブラケット(BB)にはBB386規格を採用。幅を確保しBBまわりのボリュームを確保し剛性を高められる
背面から固定する
独自のシートクランプ
カムテール形状の細身の専用シートポストを採用。シートチューブの背面で固定するシートクランプにより、トップチューブはツライチになる設計だ。また、シートポストのオフセット量がないゼロオフセットタイプで前乗りポジションを作りやすい
FSAがリリースした「KフォースWE」
今回のテストバイクのメインコンポーネントはFSAが開発した注目の新型電動コンポーネント「ケーフォースウィー」(K Force WE)だ。ワイヤレス・エレクトリック(WE)タイプで、バッテリーは1回充電で4000 〜 6000kmというロングライフを実現。スマホアプリとの連携が強みで、シフトボタンの割り振りや変速スピード、バッテリー残量と残りのシフト回数までも弾き出す。圧倒的なカスタマイズ性能を誇りつつ、変速時のレスポンスはライバルメーカーに引けを取らないレベルに仕上がっている
タイムほど独自の機構を明確に打ち出しているメーカーは珍しい。ソックス状に編み込んだカーボンブレードを独自のRTM(レジン・トランスファー・モールド)工法で成型することで、他ブランドで広く採用されるプリプレグ製法とは異なる手法で独自の高品質なフレームを生み出している。
また、路面からのノイズを減衰する画期的なアクティブフォークの開発や、フロント三角にリアの左右非対称チェーンステーとシートステーを挿し込む設計など、独自性が随所に光る。
そして、アルプデュエズでは、軽量化と剛性を追求するため、高弾性(HM)カーボンの比率を高めるなど、カーボンブレードの比率を最適化することで、タイム史上最軽量のフレーム重量840g(Sサイズ)を誕生させた。ちなみに、アイゾン比で80g(8.6%)の軽量化を実現している。
また、オリジナルの「クイックセット」ヘッドを下方位置へとアップデート。よりアグレッシブなポジションを取りやすくする新たなテクノロジーもつぎ込まれている。
このほか、タイヤクリアランスは28Cまでの設計とし、山岳レースに向いている25〜28Cのタイヤ幅に最適化されている。
GEOMETRY
INFO
タイム・アルプデュエズ ワン
59万円〜79万円(フレームセット/税抜)
■フレーム:カーボン
■フォーク:カーボン、2タイプ(アクティブ、クラシック)
■付属:専用シートポスト(ゼロオフセット)
■サイズ:XXS、XS、S、M、L、XL
■フレーム単体重量:840g(Sサイズ)
■カラー:ブラック、ホワイト、レッド、レーシングエディション、フランスエディション
*今回の試乗車(写真)はアルプデュエズワン リミテッド アクティブフォーク フレームセット(75万円/税枚)
IMPRESSION
上質で加速を促す登坂力穏やかに路面を滑走するフィーリング
これまで数々のモデルをテストしてきたハシケンが、フランスの名峠の名を冠するタイムの軽量モデル
「アルプデュエズ01」をインプレッション。本格的な山岳コースで100㎞乗り込んだ。
世界的な峠の名をモデル名につけることはこれまでにあった。しかし、サイクリストにとって特別な峠であるアルプデュエズを冠するバイクが発表されたときには、鳥肌が立つほどの衝撃を受けたものだった。
実車を目の前にすると、ヒルクライムバイクとして追求された設計が随所に見て取れる。たとえば、ボリュームを出したダウンチューブは剛性を高める狙いがあり、リアバックのコンパクト設計は登坂での反応性を高めるためのものだ。さらに、前作のアイゾンよりもヘッド長を短かくしたことにより、ヒルクライム時のポジションの最適化を実現している。
このバイクを山岳で走らせたいというはやる気持ちを抑えながら筑波山麓へと向かった。峠の手前でウォーミングアップがてらペダルを踏み込むと、いかにもフラッグシップモデルらしいペダリングパワーを受け止めるフレーム剛性を実感する。なんだか硬い……。そんな印象すら受けたが、傾斜をあげてトルクが高まっていくと、その感覚がガラッと変わった。
トルクの高まりとともに、入力時にウィップが効いてスムーズに脚を回していけるのだ。脚あたりがカツカツせず、スムーズに踏み抜きながら、推進力を得ていく。極薄チューブで仕上げた無機質な軽量フレームとは味付けが異なる上質な世界観。それでいて、路面を捉える力が強く、コンパクトなリア設計も相まって反応性も良好だ。
個人的にこのバイクの魅力はダンシングにあると思う。ハンドル位置を低くセッティングできるためバイクの安定性を得やすく、サドルから腰を浮かしても力が伝わるポジションをキープしやすい。
今回のテストバイクにアッセンブルされたホイールは、ヴィジョンのメトロン。真上からパワーをかけてもよれない横剛性の高さが印象的でバイクにもマッチしていた。リムハイトは40mmと55mmともに試してみたが、機敏な動きを引き出すなら40mmで間違いない。
ところで、ボリュームのあるアクティブフォークはガッチリと路面をとらえるイメージを持ちやすいが、実際のところは、意外にも穏やかに路面を滑走するフィーリングをもたらす。微振動を収束してくれる機構を実感できる。
一方で、フロント剛性は高いレベルにあるので、下りの安定性が抜群だ。名前負けしないヒルクライム性能にはもちろん納得だが、それ以上にダウンヒル性能には驚いたというのが今回のライドの最大のインパクトだった。山岳モデルとして開発されながら、この下りの安心感。さすがタイムといわざるを得ない。
今回のライドを通じて、ウィップを引き出し伸びやかな加速を得るためには、ちょっとしたコツがいるように感じた。フロントまわりの剛性レベルが高めなので、ハンドルをむやみに振って踏みつけるペダリングでは魅力は引き出せない。バイクにリズムを合わせてテンポを上げていくとよく走ってくれる。乗り手のスキルも試される魅力的な一台だ。
IMPRESSION RIDER
ハシケン
ロードバイクをメインにするサイクルジャーナリスト。国内外のレースやロングライドイベントを数多く経験。Mt.富士ヒルクライム一般クラス総合優勝、ツールド北海道の市民ステージ優勝、国内UCIグランフォンド世界大会に出場経験あり。身長171cm、体重62kg
TEXT:ハシケン PHOTO:小野口健太 ウエア協力:サンボルト
問:ポディウムwww.podium.co.jp
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