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ハンドルなんていらない【革命を起こしたいと君は言う…】

スチールの限界に挑むケルビム今野真一の手稿

教授たちの依頼

アトリエには、さまざまな依頼が飛び込んでくる。
家具のデザイン、自動車パーツの試作、楽器の修理や金庫の修理もやったことがある。自転車以外の案件がいつでもいくつかは進行していたりする。
自転車の試作依頼でもっとも多いのが駆動系やパワー伝達の発明や考案だ。
大学の教授や研究者たちから見ると、どうやら自転車の構造は納得がいかない所が多くあるらしい。もっとも多いのは「クランクを長くすればいいのでは?」という疑問だ。
読者のみなさんは、理論的なことはわからなくても、感覚的にわかると思うのでそういった疑問はわいてこないとも思う。しかしスポーツ車に乗ったことがなかったりする教授らは、やはり一生懸命クランクが長いといい理由を私にぶつけてくる。
多くの学者や研究者は、私よりも年齢的にも上の場合が多い。作ってもムダなことを説明しても、あれこれ数字を並べて全力で挑んでくる。理解できない、というより相手の土俵に引きずり込まれてしまう。2年に一度くらいはこの手の依頼があるので、最近はあまり抵抗せずにお話をうかがうことにしている。
しかし成功した事例は、いまだにひとつもない。結局、現在の自転車の完成度の高さを時間をかけて知ってもらうこととなる(ほらね)。
よほどのことがないかぎり、自転車に新しい機構は入り込む余地などない。
しかし、駆動系やパワー伝達に対しては、いろいろな試みや研究が行われている一方、ステアリング系に関しては、どの学者や自転車関係の製作者もかなり保守的だ。あまり現状に疑問を抱かないようで、新しいハンドリングシステムを考案してくる教授は皆無に等しい、なぜだろう?

変わった依頼

叔父、鈴木信氏(旧姓今野信)から依頼があった。
叔父は幼いころより自転車に親しみ、後に今野三兄弟として、ケルビムの立ち上げに携わった。その後に、ミユキ自転車を作った。そのフレームを見事オリンピックに出場するまでに育てあげた。現在は三重県自転車組合理事を務めている。
依頼は前後輪駆動用自転車のフレームを製作したいというものだ。
ハンドサイクルというジャンルがある。トライサイクルや車椅子スタイルの物は多く存在し競技も盛んだ。
しかし私の知るかぎり2輪走行、すなわち自転車でこのスタイルは見たことがない。ペニーファージング(ダルマ自転車)以降、前輪駆動自転車はほぼ姿を消してしまった。
また、特徴的なのはハンドルが自転車のように180度のクランク位置であることだ。通常ハンドサイクルはステアリングに悪影響を及ばさないように同じ方向にペダルをつけるのが一般的だ。
彼はこのスタイルを、障害車用のトライサイクルなどでも実験を繰り返し、確立してきたという。
最初は乗れなかったが、いろいろな試行錯誤や乗り方のトレーニングをして今ではなんの恐怖心もなく乗れ、このスタイルに新たな可能性を感じているという。
重要なのは彼は乗り方のトレーニングをして乗りこなしをマスターしたということだ。みなさんは自転車に初めて乗れたときの感動を憶えているだろうか。
両親や仲間に先生など多くの支えがあり、なおかつトレーニングを積み重ね、やっとの思いで乗れたはずだ。自転車に乗るには技術習得や2輪走行のバランス感覚を頭に植え付ける作業が必要だ。みなさんもその技術を習得した強者たちであることを忘れてはならない。自転車は乗りやすい乗り物ではなく、ある程度の技術が必要となる。
叔父が研究している前後輪駆動自転車もまったく同じだ。あきらめずに根気よく改良やトレーニングを行うことが重要だ。慣れてしまったら、むしろ自転車より乗りやすいかもしれない。

(写真上)叔父・鈴木信(右)、裕美子(左)夫妻。ミユキの創業者でもある信氏はコーチとして裕美子夫人をバルセロナオリンピックの女子ロードレース代表へと導いた

信氏が現在情熱を傾けている前後輪駆動の自転車。固定概念を覆すアイデアだがまったく問題なく走破している様子がうかがえる

パラスポーツの自転車競技で目にする駆動系がハンドル側についたハンドサイクル。これは左右に振れる機構で原理は2輪走行となる実験車

ステアリングの正体

自転車は二つの車輪があり後輪が駆動、前が操舵装置でその上にそれをあやつるハンドルが付いている。このフォルムにわれわれは勘違いをしてしまう。ハンドルはただの支えであって、もともとハンドルの意味は「HANDLE=取っ手」だ。
船舶や四輪自動車のように舵取りをしている場合の表現方法は「ステアリングホイール」であり「ハンドル」ではない。ハンドルは「かばん」に付いている「取っ手」だ。
自転車の舵取りのイメージは一輪車のような物の上に乗って「取って」につかまり体重移動で曲がっている感覚となる。
いまだに、ペニーファージングが二輪車の大前提で基本なのかもしれない。
改革や研究のターゲットとならないのには、以下のような理由があると思う。まずは、自転車全体が大きなステアリングシステムとなっていること。ハンドリングを研究することは自転車を研究することに等しい。
また自転車は、人間の特徴「慣れ」に支配されている部分が多く不満を持ちにくい。そしてトレーニングや感覚に支配されている部分が多く、異なる感覚を受け入れにくく拒絶しやすい。

さまざまな挑戦

「FFミニ」。過去にも前輪駆動を積極的に取り入れた人物がいる。それはわが父、今野仁だ。出張で駅からの移動に便利なように、自身のために製作したのがFFミニだ。
設計も大胆で前途のように少し慣れれば難なく乗れるようになる。出張先の移動程度であれば、まったく問題はない。
おまけに折りたたみ自転車なので前輪駆動は機構的にも好都合だ。
「ワンポイントファイブ」。こちらはさらに大胆だ。なんと前輪を操作するハンドルがない。
まさに「取手」が車体側に付いているだけ、あとは体重移動のみで走行する。
こちらは、東京サイクルデザイン専門学校の生徒が発案し講師でもある木森氏の支えのもと、量産販売までにいたった自転車だ。
固定概念にとらわれない発想は、学校のさまざまな技術やデザインの交差点から生まれてくる。

FFミニ。操舵系となる前フォークに駆動系を取り付けるアイデアは、頭が柔らかい

体重移動のみで車体を操作する「ワンポイントファイブ」。ハンドルの固定概念にとらわれない発想

とらわれない人たち

「真一くん、ハンドルなんて迷信にすぎないんだよ。あんな不安定なものに僕らは行き先を委ねているんじゃないんだよ。あれは、ただの棒だから」鈴木氏の言葉だ。
何度もくりかえすが、二輪車の舵取りは体重移動によるものだ。
余っている腕が動力として追加できたなら……。
人間は多くの思い込みや固定観念にとらわれている。あたりまえのことを見直し変えて行く必要性は、まだたくさんありそうだ。
そこに気付けるかどうかが、開発者にとっても、どんな仕事に就く人にとっても運命の分かれ道となるのかもしれない。

Cherubim Master Builder
今野真一

東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている

今野製作所(CHERUBIM)

(出典:『BiCYCLE CLUB』2019年2月号 革命を起こしたいと君は言う……vol.66)

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