日本のツーリングバイクは650Bタイヤがおすすめ?【ホビービルダーの続・鉄バカ日記】
トモヒロ
- 2019年07月03日
強烈な(一部の)コアファンに支持されていた人気連載がカムバック!編集部員みずからフレームビルドに挑戦し、日本初のビルダー界レース「JBT」出場を目指す!今回製作するのは、身長160cm台の日本人が乗りやすいモダンスチールツーリングバイクだ。
INDEX
パーツ構成の要は「650Bホイール」
ジャパンバイクテクニーク(以下JBT)出場バイクの製作のようすをレポートしよう。前回も述べたように、今回のテーマは「650×38B」「油圧式ディスクブレーキ」「フロントシングル」「無線コンポ」で、とくにこの650Bホイールが設計の要となる。
前回の製作レポートはこちら。
バイクを設計するうえで、何から考えるかをご存知だろうか?ホイールだ。正確にいうとタイヤサイズが重要になる。
今回のライダーは身長164cmで、コースはダートも含むハードな路面状況だという。タイヤ周長(外周)はなるべく小さく、クッション性も確保できる足まわりにするためには、ホイール径を小さくする=タイヤのボリュームを増やすのがベストだ。そこで有効なのが「650Bホイール」である。
ETRTO(エトルト)で見る26インチホイールの違い
では、具体的に650Bがどういうものなのかを見ていこう。
そもそも650Bとは何なのか?広くいえば、ママチャリでも聞きなれた26インチというサイズに当たる。しかし、じつはこの26インチには650A、650B、650Cという3つのサイズがあることを知っていただろうか?この違いは「ETRTO(European Tyre and Rim Technical Organization)」を見ると一目瞭然で、ビード座直径の違いに表れる。
今回採用を決めた650×38Bは、ETRTOで「40-584」(=幅40mm、ビード座直径584mm)となり、ビード座直径(ホイール径)で比較すると650A(ママチャリの26インチ)よりも大きく、700Cよりも小さい。しかし、650×38Bのタイヤ周長は2105mmで、じつは700×25Cとほぼ変わらないのだ。つまり、タイヤ径はロードバイクとほぼ変わらず、タイヤボリュームをがっつり増やすことができる。
※「キャットアイ公式サイト タイヤ周長ガイド」参照。
ただしタイヤによって誤差があるため、実際のタイヤ周長は実測するのが望ましい。
というわけで、スピードよりも快適性を考慮したい今回のようなレースであれば、650Bホイールはかなり有効だと考えられる。問題を上げるとすればタイヤの選択肢が少ないことだが、セミブロックやスリックのタイヤも展開されているので、困るほどのことではない。
ギヤ比はどうする?
フロントシングルは、不要なギヤを省くことで軽量化できるメリットもある。しかし、歯数構成を間違えてしまえば、ハードな峠コースで撃沈してしまうのは火を見るよりもあきらかだ。実際にギヤ比を考えてみた。
ノーマルクランクのインナーギヤ(39T相当)でフロントシングル化し、11-34Tのワイドギヤを使えば、トップはコンパクトのアウター50T×スプロケ14t(トップから3枚め)相当、ローはコンパクトのインナー39T×28tよりも軽いギヤ比になることがわかる。下りでそこまで踏むか?という考えと、それなりに乙女ギヤにできる事実、何より入手しやすい歯数構成でこれらが叶うとあればうれしいことだ。というわけで、今回はフロント39T、リア11-34tという組み合わせでいくことに決めた。
650Bホイールに最適なジオメトリとは?
タイヤサイズ、ホイールが決まったらいよいよジオメトリの設計へ。前回の記事でもジオメトリを軽く掲載したが、ここではもう少し詳細を見ていこう。設計は「BIKECAD」というフリーソフトを使っていて、各数値を入力すると上のような設計図ができあがる。
まず、今回はライダーの身長が164cmであること、そして、コロンブスのフーチュラグラベルという既製品を使うということが大前提だ。タイヤ周長こそロードバイクと同じだが、外周が重くなった足回り、身長がやや低いという条件だけでも、過去に自分用に製作したバイクの事例はかなり当てにならないと予想される……。まずは既存の(ライダーが普段乗っている)バイクのポジション情報を聞き、不満や希望をなるべくヒアリングする。また、サドルやペダルなどはそのまま移植して走る(そのほうが乗りやすいだろうから)つもりで、どのモデルを使っているかも事前に確認しておく。
あくまでオレ個人の勝手な想像であり、確度のない設計であることを承知のうえで書かせていただくが、
・既存バイクに合わせたスタック、リーチを確保
・ツーリングなので、通常よりもややアップライトに
・下りの安定性を向上させるためトレールを大きめに
・「地を這うように進む」イメージでハンガー下がりを大きく
・ボトムラインの剛性を高くして、違和感のあるねじれや起こさせない
というバイクにしたいと考えた。また、次回後述する「まんじゅう問題」があるため、キャリアやバッグなどの重量物はなるべく下側にマウントしたいという希望も盛り込みたい。
スチールバイクらしいシルエットとは?
これはなかなか難しい問題だが、個人的にはホリゾンタル=スチールバイクらしさ、とは思っていない。スローピングでもカッコいいモデルはたくさんあるし、そもそもこのヘッドチューブ長でホリゾンタルにすると極端にシートの突き出しが短くなってカッコ悪い。カーボンフォークやヘッドチューブの太さをうまく取り入れつつ、カーボンバイクにはない曲線を生かしたデザインを考えよう。
極太ヘッドチューブを旋盤で加工してみた
では具体的に製作に入っていこう。フレーム製作の方法はビルダーやフレーム設計によっていろいろあるが、今回はヘッドチューブの加工から始める。
ロードバイクではもはや当たり前となった上下異形ヘッドの場合、ヘッドチューブはかなり極太になる。タンゲにもこれに対応した外径50mmのチャンピオングレードのヘッドチューブがあるのだが、肉厚がありすぎて正直重いのが難点だ。そこで、ヘッドパーツを圧入する部分以外=応力が比較的掛からない部分を旋盤で削る。
ヘッドチューブ長114mmだが、削り終えるまでに数時間。しかし、肉厚1mmまで削り込むことで重量は422gから156gと、266gもの軽量化に成功した。これはすごい!
ちなみに、ハンドメイドビルダー御用達のパラゴンマシンワークス製ヘッドチューブの場合、最薄部でも肉厚1.3mmなので、これはかなりいい感じに仕上がったといえる。
オリジナルのハンドカットラグは健在
細部のディテールにもこだわりたいのがスチールバイクであり、ハンドメイドする醍醐味であることも忘れてはいない。正直、軽さだけを求めるならティグ溶接やラグレスにするほうがいいのだが、オリジナルラグはビルダーの個性を演出する貴重なポイントでもあるから、多少重くなろうがデザイン重視でいきたい。
ここ数年、製作しているバイクはほとんどハンドカットで、いわゆる“髭が長い”ロングポイントを採用している。個人的に、この伸びたシルエットが美しいと思うからだ。また、ロウまわりがよくなるように穴を空けたり、「猪の目(いのめ)」という飾り穴も開けてみた。
アルミ角材で組んだ自作冶具にヘッドチューブ、ダウンチューブ、シートチューブをセットした状態。ダウンチューブはタンゲ・プレステージジャパンのスーパーオーバーサイズ(外径34.9mm、肉厚0.7-0.5-0.7mm、焼き入れ有)を採用した。これに先ほどのラグを被せたトップチューブを合わせ、ロウ付けして前三角を完成させる。
次回は後ろ三角の製作レポートをお届けする。650×38Bタイヤが入るフレームクリアランスを確保しつつ、スチールバイクらしさを感じられる曲線デザインをどうまとめるか?そして、ディスクブレーキ=スルーアクスルエンドをどう仕上げていくのだろうか?
ジャパンバイクテクニークについてはコチラから。
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