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誤差は必ず生じる【革命を起こしたいと君は言う……】

誤差は生じる

自分が教える東京サイクルデザイン専門学校の生徒たちに「自分の作るフレームの誤差の許容範囲はどのくらいですか」と聞いてみたことがある。「まったく誤差は許しません!」という強気な学生から「10mmくらいはオーケーかな」という、とんでもない学生まで認識の違いをまじまじと感じた。実際われわれのフレーム作りでの許容範囲は場所にもよるが0.2mm以内くらいが妥当な所だろう(こういう話は製品によほどの自信がないと書けないことを付け加えておこう)。

先日、精密測定機器メーカーの方と話をしたが「温度管理がなかなか大変で」と言っていた。世のなかの物体は温度によって伸び縮みし、熱拡張係数なる指標がある。鉄の場合、温度が1度C上がると1mあたり0.0117mm伸びる。10度C違えば0.1mm以上の違いがでる。

夏と冬、函館競輪場と佐世保競輪場では寸法は変わってくる。これを少ないと思うか多いと思うかは人それぞれだ(もちろん自転車フレームでこの係数はそのままあてはまらないが)。

公差

物を製作する際には図面を引く必要がある。また、誰かに製作依頼する場合、こちらの意図を知らせるにあたり、かならず出てくるのが「公差」という表記だ。

言い換えるならば、物を作るときの「誤差」ともいえる。たとえば「公差±0.5mm」プラスにもマイナスにも0.5mmの許容範囲内であれば問題ありませんよ、という意味だ。

なぜ公差表記が必要かといえば、人間の作るものや工業製品すべてにおいて誤差がないということはあり得ないからだ。誤差があることを前提とした製作方法や技術がポイントとなる。そして、それを全体としてどうやって解決していくかもポイントとなる。

その誤差の範囲も目的に対してどの程度をどの場所に置くかがポイントとなり、ひいては各製作者の思想や設計理論にまでつながることとなる。

製品に誤差があるということはあたりまえだ。一般的には誤差は少ないほどいいという観念が通説かもしれない。

間違っているとはいえないが、製作者にとっては誤差が大きいか小さいかということはもはや問題ではなく、目的に対してその誤差の設定値をどう決め、どう吸収し解決していくかが問題となる。

工房で使われる測定機。デジタルも多くあるが私の好みはダイヤルゲージが付いているタイプ。直感的に認識しやすい

フィアット・パンダ

私の大好きなクルマは、イタリアのフィアット・パンダだ。カーデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロが自身の最高傑作というイタリアの大衆車。
量産ベースのなかで可能なかぎりの機能とデザインを追求した名車だ。随所にそのアイデアを発見でき、物作りに携わる人間から見ていると興味深いポイントがたくさんある。

そのなかのひとつにボンネットの寸法がある。上から被せるデザインになっているが、ボンネットの誤差が10mmもあっても問題なく組み付けるられる構造となっている。

曲線を生かしたデザインではなく、直線的フォルムのためデザイン的にもほとんど気にならない。各工場で生産される生産の誤差を最初から考慮した設計で、お見事というしかない。

自転車史における誤差の吸収

最近では「ストレートドロップアウトエンド」「スルーアクスルエンド」などが代表的であるが、少し前まではロードエンドなるものが主流だった。

この構造の成り立ちには諸説あり、カンパニョーロ・カンビオコルサの構造のなごりとか、チェーン長を調整するため、などといわれている。そしてフレームの誤差を吸収する役目も少なからずあったと考えられる。

最近のスルーアクスルエンドなどは製作側からすると非常に困難な造形となっているのも事実だ。この場合、誤差を逃すポイントを今までの製作方法と変える必要が出てくる。

左/過去主流だったロードエンド。誤差を吸収するための目的とは考え難いがホイールが変形した際には重宝した
右/現在主流のスルーアクスルエンド。あらゆる意味で誤差に寛容ではない

量産工業製品の場合

現代は生産技術が進み誤差のない製品が多くなったのでは?

私とて、そんな希望を持ちたくなる。自転車にも欠かせないロストワックス製品を例にとってみよう。

こちらの場合は企業にもよるが1000個の製品を納品する際には1100個ぐらいの製品を作り、誤差の少ない物を拾い出し納品するという。

これを聞いたときにショックを受けた。できた多くの製品のなかから寸法通りの製品を探し出す。この場合、誤差は製品を分類させることと割り切り、そこに誤差を吸収させているということだ。

もちろん誤差の少ない物を作るのを諦めているわけではないと思うが、いまだに日本屈指のロストワックス工場や精度が求められるベアリング製造工程もこの方式だという。

フレームのパイプにも誤差はある。ふだんから肉厚や変形をチェックし、返品したり分別したりと同じ作業を行なっている。われわれも量産工業製品的な考え方も持ち合わせている。

フレーム作りでの誤差

あのビルダーの作るフレームは精度が出ていて誤差がないとか、ロウ付け後にも芯がズレていない、などの話をよく耳にする。私はいつも黙って聞くこととしているが、そんなことはあり得ない。あったとしてもコンスタンスにこなすことは不可能だ。

仮に「自分の作る製品に誤差はない」という製作者がいたとしたら、その人は「モノ作り」の本質を理解していない。

モノ作りに誤差ゼロはあり得ない。しかし、量産製品と職人たちのあいだには誤差に対して考え方が違う。

われわれ職人はひとつの工程をすませたら、次の工程に行くまでに誤差をチェックし修正し次の工程に受け渡していく、そしてその次に……と完成まで繰り返す。「修正して誤差を吸収し次に受け渡し最終的な完成を目指す」という、製作プロセスの随所に誤差の吸収を基本としているところが、量産工業製品とは決定的に違う。その意味では職人仕事というのは工業製品よりもはるかに誤差の少ない製品といえるかもしれない。

伝説の職人、左甚五郎

江戸時代の伝説の彫刻職人、左甚五郎は納品する際に同じ物を3個製作しできのいい物を納品し残りは壊したと伝えられている。

自転車でも天皇に献上された一台も同じだ。私の知るビルダーも同じことを行っていた。非常に感銘を受ける考え方のひとつだ。量産工業製品的な考え方をミックスさせたプロセスだろう。

その選別基準も何を優先させるかで大きく異なる。精度、丈夫さ、速さ、美しさ……。

誤差は必ずある。それをどこで吸収しどこに持っていくかが課題ではないだろうか。誤差を測る定規にも誤差はある。これらを受け入れ対処することに、よい自転車作りにつながるヒントがあることはいうまでもない。

ジウジアーロの最高傑作、フィアット・パンダ。直線的なデザインは生産効率と性能を兼ね備え20年ものあいだ生産され続けた

 

Cherubim Master Builder
今野真一

東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている
今野製作所(CHERUBIM)

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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