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スペインでトレーニング・キャンプ中の與那嶺恵理選手に独占インタビュー

昨年末から、たびたびスペインでトレーニングキャンプをしている與那嶺恵理選手(Alé BTC ljubljana)。1月下旬にアリカンテでキャンプ中の與那嶺選手に、スペインでの生活の様子や、日本人サイクリストがヨーロッパで走るために必要なことなどを、スペイン在住のジャーナリスト、對馬由佳理がインタビュー。世界最高峰の舞台で戦う現役選手の声とは?

スペイン・アリカンテでのトレーニングキャンプ

アリカンテでは小林海選手(Giotti Victoria)と一緒にトレーニング

―昨年12月はテネリフェ島、今年1月はアリカンテとスペインでのトレーニングキャンプが続いていますが、與那嶺選手のキャンプ中のタイムテーブルはどのような感じなのでしょうか。

「トレーニングは毎日10時からスタートです。短くて4時間、長い時には6時間ぐらい走るので、14時から16時くらいまでがトレーニング時間ですね。いつも通っている海辺のレストランのお昼のラストオーダーが16時なので、その時間までには走り終わって、レストランに行くようにしています(笑)。お昼を食べた後は部屋に戻って着替えて、シャワーを浴びて一休み。そのあと19時から20時ぐらいに軽く晩御飯を食べて、22時か23時には寝ます。日々このスケジュールの繰り返しで、たまにスーパーマーケットに行くことがあるくらいですね。」

―この時期アリカンテ近辺では、たくさんのプロチームがトレーニングしています。現役のプロの自転車選手から見て、アリカンテのどのような点がトレーニングキャンプの地として魅力的なのでしょうか。

「まず、地中海特有の晴天率の高さはとても大切です。またチームキャンプをする場合、陸路で機材をチームバスやトラックで運ぶことができる、というのがアリカンテのアドバンテージの1つだと思います。スペインのカナリア諸島やマヨルカ島でもトレーニングキャンプはできますが、バスやトラックをフェリーで運ぶ手間がかかりますから。」

「アリカンテは小さい山がたくさんある地域なので、登りの斜度やコースのバラエティが豊富(30分は登り続けるルートや、20%を超える斜度の登りが多数)なんです。だから色々なタイプのトレーニングができますし、飽きずに走ることができます。とはいえ、1月中旬にスペインを襲った爆弾低気圧の影響で、いつも走っていた峠が、積雪で突然通ることができなくなったこともありました。」

「それに、このあたりを自転車で走っていても、車に煽られたり、あるいは寄せられたりして、怖い思いをすることが少ないんです。全体的にみると、日本と比べてもとても安全に自転車に乗ることができますね」

―多くの自転車選手がアリカンテでキャンプする場合、カルぺという街を拠点にすることが多いと聞いています。でも與那嶺選手は今回、アリカンテ郊外に拠点を置いていますよね。なにか理由があるのですか。

「この時期、プロツアーの友人同士、みなで誘い合ってカルぺでトレーニングキャンプしている女子選手も多いんです。でも、私は一人で走りたい時もあるので、いつも友人たちと一緒にグループで走るわけではないんですね。なので、カルぺからちょっと離れたアリカンテ郊外に泊まって、武井コーチやマリノくんと一緒に走る時と、友人らでのグループライドで走る時を、選択できるようにしたんです。」

―昨年12月にはカナリア諸島のテネリフェ島で、トレーニングをされていました。自転車選手のトレーニングキャンプの場所という視点から見ると、テネリフェ島とアリカンテの違いは、どのような点でしょうか。

「テネリフェ島の登りって、基本的にテイデ山に向かう40㎞の登り一つしかないんですね。それにその登り口も3カ所ぐらいしかないので、練習コースの選択肢が意外と少ないんです。それに、テイデは頂上は晴れていても、山の中腹には雲があるので、その雲の中を走る時には、体が濡れちゃうし。アリカンテは坂の種類やルートの選択肢が多いことが特徴でしょうね。」

ワールドツアーを走るためのフィジカルとは

―今年の與那嶺選手には、東京オリンピックで入賞するための走りとチームの中でのアシストとして走り、そして日本選手権などで自分が勝つための走り、という3種類の走り方が必要になるかと思います。今回のアリカンテでのトレーニングは、この3つをどのように両立させるものなのでしょうか。

「今回のアリカンテでのトレーニングは、ワールドツアーでの自分のフィジカルの能力を上げるためのものです。ワールドツアーのレベルの自転車選手にまず最初に必要とされるのは、150kmから200km弱をある程度のスピードで走り切れる持久力なんです。その持久力を上げるためのトレーニングは、チームで役割を果たすためにも、そして私が個人でレースを走るため必要なものです。なので、自分の中ではチームの役割を果たすことと、オリンピックの舞台で自分のために走ることが対立しているわけではありません。ワールドツアーレベルのチームでアシストとして働くには、個人の走力も高いものが要求されますし、個人の走力が上がればチームにもっと貢献できるようになりますよね。なので、自分の能力を日々向上させていくだけなんです。」

「現場の情報」の重要性

―與那嶺選手の将来について、ご自身がどのような計画をお持ちなのか、聞かせていただけますか。

「私個人としては、自分の選手としてのレベルを上げることができるうちは、現役のプロサイクリストとしての生活を続けていきたいと考えています。ワールドツアーのチームで走ることができる能力を維持できて、かつ、ワールドツアーのチームと契約できるうちは、ヨーロッパで選手生活を続ける予定です。そして、引退する前に、ワールドツアーのレースで1度は優勝したいです。」

―率直に伺います。日本人がヨーロッパのトップレベルで走るために必要なことは何でしょうか。

「日本人がヨーロッパで走るなら、ヨーロッパの選手と同じことをする必要があります。つまり、シーズンが始まる3か月前から走りこむためのトレーニングキャンプをして体を作ったうえで、レースシーズンに入ること。そして1年間通してレースを走ること。そして、その1年目で経験した反省点を改善して、翌年に生かすこと。その積み重ねができるかどうかだと思います」

「今はネットを通じてヨーロッパの自転車レースの様々な情報が手に入るようにはなりました。でも、ヨーロッパのレースの「現場の情報」を伝えられる人は多くないんじゃないかと思います。例えば、レースに出てくるの登りの斜度は、ネットの情報から知ることができます。しかし例えば、オランダやベルギーのレースでは斜度20%で距離200mの坂の直前に、車1台分の道幅しかない道を4~5kmくらい走ることがあるんです。そうなると、選手たちは登り口までの5kmをフルガスで走ってポジション争いをしたうえで、その20%の坂をやっぱりフルガスで上ることになります。このような情報って、実際に試走に行くか、現地をよく知る選手から話を聞かないとわからないことですよね。だから、レース前の試走は大事だし、コースを知る他の選手と話すことも重要になってくるんです。こうした「ワールドツアーレベルの現場の情報」にアクセスできる人、そして知ろうとする人が少ないことが日本の現状なのかな、と思います。」

著者紹介
對馬由佳理
スペイン在住。当地で10年以上ファンとして自転車レースを追いかけた後、ジャーナリストへ転向。スペインで開催される男子のレースはもちろん、女子のレースやパラサイクリングも取材経験あり。
Twitter: @TsushimaYukari
Instagram:yukaritsushima1

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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