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自転車、ロードレース界をとりまく世界の人種の壁

いま世界中で注目されている人種問題について、ロードレース界ではどうなっているのか? 「非白人種率が極めて低い世界といわれる自転車ロード界」について、国際自転車連合(UCI)公式選手代理人山崎健一さんが現場で感じていることをお伝えする。

非白人種率が極めて低い世界自転車ロード界

PHOTO:Kei Tsuji 左はケヴァン・レザ(フランス/FDJ)、右は新城幸也(現、バーレーン・マクラーレン)

新型コロナ禍に続く世界中の関心事と云えば、Black Lives Matter=BLM(ブラック・ライヴズ・マタ―)、つまり“黒人の命は(も)尊い”運動かもしれません。

発端となったのは5月25日に米国にて白人警官が黒人を死亡させた事件。

被害者の黒人であるジョージ・フロイド氏はもともと結構な前科者だったとは云え、武器を所持しない彼に対し、白人警官が路上取り締まり中に過剰な抑え込みにて窒息死させ、その映像がSNSにて米国のみならず全世界に拡散。黒人ならずとも、誰もが違和感を覚える映像に、コロナ禍でストレスが溜まった世論が一気に飛びつき、全世界的なBLM運動へと発展しました。

この背景には、18~19世紀の米国・欧州に於ける奴隷制度に端を発する黒人の社会的地位の低さが根底にあり、偏見や差別が更に黒人へのチャンスを奪い続けてきたという悪循環があります。

さらに大局的に見ると、欧米においては移民をルーツに持つ可能性が高いアジア系、中東系、南米系人種等の非白人種もチャンスを狭められてきた側であり、BLMの当事者と云えるでしょう。

さて本問題、我々が見ている自転車ロードレースにとっても他人事ではないはずです。

ご存知の通り、世界ロードレース界に於ける、我々アジア人を含むいわゆる非白人種率の低さは言うまでもありません。

正確な数値データが無いので感覚論でしか言えませんが、UCIワールドチームの全選手数543人(6月16日現在)中、非白人率は多く見積もっても15%程度ではないでしょうか。黒人に限定すると、思いつく限りでは2020年シーズンはケヴァン・レザ(フランス/FDJ)のみ。このほか昨年までコフィディスに在籍していたダニエル・テクレハイマノ(エリトリア/チームディメンションデータ等に過去在籍)、引退したヨアン・ジェーヌなどの数名程度。歴史上で成績を挙げた非白人種選手がちらほら出始めたのもごくごく最近で、カレブ・ユアン(韓国系オーストラリア人)、ナセル・ブアニ(アルジェリア系フランス人)、リカルド・カラパス(エクアドル人)、そしてエガン・ベルナル(コロンビア人)ぐらいかと思います。

ロード界の非白人種の少なさは、他のプロスポーツと比べると更に際立っています。

NBA全米バスケットボール協会データによると、1990年以降の各シーズン全約450人に締める非白人種比率は常に75%前後を維持。

NFLナショナル(アメリカン)フットボールリーグの調査では、2020年現在の全約1,700人中、約70%が非白人種。

世界プロサッカーの正確なデータは見当たりませんでしたが、スイスのサッカー専門統計企業CIES Football Observatory社によると、全世界各国の主要プロサッカー1部リーグに所属する選手の合計は約30,600人(全51リーグx各1部リーグ20チームx各チーム登録選手数30名とした場合)。

そのうち、サッカー素人の私がざっと調べた(世界トップ数チームのHPで見ました……)だけで云うと、どんなに少なく見積もっても3分の1がいわゆる非白人種。更に突き詰めると、同社が定期的に発表している「プレー内容分析による世界選手クオリティランキング」では、ロシア・ワールドカップにて最優秀若手選手賞を受賞したアフリカ系フランス人であるキリアン・エムバペを筆頭に、トップ10選手中7名がいわゆる非白人種。

その他マラソンや、陸上、テニスに於ける非白人種進出率の高さは言うまでもありません。

この様に世界スポーツ界の潮流から見ると、自転車ロードレース界の異様な「閉鎖度」が際立っています。

なぜ自転車ロードレースでは人種が偏っているのか?

これを構造的に説明するには恐らく本が一冊書けちゃうのではないか!?というぐらい複雑だと確信していますが、フランスでアマロードチームに4年間所属し、現在仕事でも欧州プロチーム&レース運営企業と関わっている自身の経験をもとに、語弊を恐れずに言いますと……。

フランスに於ける自転車ロードレースは「古き良き時代のスポーツ」と見做されています。これは恐らくフランスの大半の方が否定はしないでしょう。多かれ少なかれ、他の欧州諸国でも似たような傾向があります(ベルギーを除く⁉)

結果、欧州自転車ロードレース界と云うのは、敢えて“先住民”と呼びますが白人がコントロールしている世界です。とにもかくにも「ロードレースは白人がやるものである」という固定概念が強いのは確実。

これはもう論理的な説明がなかなか難しいのですが、日本に例えた場合、「カウンターがあるお寿司屋の職人さんは日本人であるべき」と云うぐらいの固定観念を感じます。そしてロードレースの本場欧州は、そもそも他人種コミュニティ間との交流が遥かに少なく、白人のスポーツに他人種が入って来にくいという点もあるかと思います。

そもそも欧州(EU)各国に於ける非白人種率は、米国の約40%に対し、まだ10~20%程度(フランスは約19%=2019年データ)という点も見逃せません。

そして自転車機材が高価すぎる点も、所得が比較的低い移民層をこの競技から遠ざける重要な要素でしょう。

筆者自身が実際に体験した例で挙げますと……。

1990年中盤にフランス南部にて自力で所属するチームを探していた時の事。まずは近所の自転車屋さん複数に手あたり次第地元のチーム情報聞きまわったのですが、地域にあった5チームのうち、たった2チームしかそもそも入団の話を取り合ってくれない。

無事に私を入れてくれるチームが見つかってから2年後に知った話ですが、門前払いの3チームは、白人やスペイン系コニュニティーに属するチームだったため、アジア人である私は体よく避けられたそうでした。私が加入したチーム(全30選手中、非白人種は私のみ)に於いても、最初の半年間はチームメイトとの“壁“が確実に存在。1年ほどレースで走り、チームメイトをアシストしてあげるに従ってようやく壁が崩れてきた感じです。

具体的に”壁”が消え始めたのを感じたのは、チームメイトの家族の食卓に招待され始めた時ですね。その当時私が居た地域圏のアマチュア自転車競技界では、アルジェリア+フランス人のハーフ選手が一名いたのみで、黒人選手は人っ子一人見ていません。

さて、同じく90年代フランスでの事。

自転車の冬オフトレ(遊び?)のため、私は行きつけのベトナム料理屋店長のお誘いでベトナム人&中国人中心のアマチュアサッカーチームに加入していました。ある日、我々が使用中のフィールドに、黒人のみのサッカーチームがやって来て、まるで我々が存在しないかのようにプレイを開始し、「中国人出ていけ!」などの大合唱を浴びせてきたのです。

当然大げんかになりましたが、彼らの“てめぇらが俺らの場所でサッカーをするな!”という狂暴な主張(まぁ暴力というやつです)に負けて退散。今思い出しても腹が立ってきますが(笑)、百歩譲って彼らに寄り添って考えてみると、あの行動は白人社会で虐げられている彼らの悲痛の叫びなのかもしれません。

つまるところ欧州、少なくともフランスのスポーツ界では、「この人種はこのスポーツをすべき!」、または「するべきではない!」と云う偏見が多かれ少なかれ存在しました。

そして、欧州の白人たちにとっては、「自転車ロードレースが白人に向いているスポーツ」でしょうし、「その競技を仕切るのは、100年以上も自転車文化を紡いできた白人を中心とした欧州人であるべきだ!」という固定概念が存在している事も個人的には100%確信しています。

現在のプロロード選手人種分布も、それを如実に物語っていると思います。

人種的に「閉じられた」プロスポーツの弊害はなにか?

PHOTO:Keith Johnston(Pixabay)

では、世界自転車ロード界人種的に「閉じられている事」による弊害とは具体的に何なのでしょうか?

人種差別をしている競技は嫌い!ダサい!という倫理的な問題は大前提として、個人的に何よりも先に思いつくのは「スポーツとしての魅力の半減」です。

私を含む多くのスポーツファンは、世界中から国籍や人種の壁に捉われずに集められた最高のアスリートたちが激闘を繰り広げるシーンを見たいはず。

他の多くのスポーツを見ても明らかなように、黒人アスリートの身体的能力は際立っていますが、自転車ロードレースではどの程度暴れてくれるのか⁉

サガン、フルーム、アラフィリップなどを遥かに上回る才能が、もしかしたら未発掘に終わっているかもしれないと思うと残念で仕方がありません。

そしてビジネス面での弊害も確実にあるでしょう。

特定の人種に偏っている競技は、単純に競技の視聴者層(ファンベース)が限られます。例えば、自転車が最も盛んであり、人口の過半数が白人種の国々であるフランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、ついでに自転車人気は微妙ながらも世界最大のチームがあるという事で一応イギリスも入れた人口総計は約2.6億人。

プロロード競技&チームに対して資本を投入する企業にとってみると、ロードレースは「約2.6億人の、言語が異なるおおよその白人層にしかメッセージが届かない広告ツール(道具)」なわけです。結果、世界最大予算のプロロードチームである「チーム・イネオス」でさえ年間予算(*)が約60億円。

(*スポンサーフィー等を売上とした場合の総収入)

人種の壁が比較的少なく、全大陸(米国は除く!?)で愛されているサッカーの場合、競技界に入ってくる資本額も格段に上がり、年間予算200億円以上のチームが全世界(と云っても欧州が中心ですが)で20以上もあります。

ところで、「米国のNFL、NBA、MLBには人種多様性があるものの、米国以外ではさっぱりじゃないか!」という方もいるかもしれません。しかし米国の人口は約3.3億人で、共通語は基本的に英語、そして視聴者層には有色人種層も含まれるため、資本を投入する側にとっては魅力的です。

実際に、世界で最も予算を得ているプロスポーツチームはNFLのダラス・カウボーイズ(年間約1,000億円)。なお、これら米国プロスポーツリーグチームの収入モデルは、自転車ロードレースの様に企業が各チームにスポンサーするのではなく、リーグが獲得したTV放映権料を各チームに分配するなどのシステムを採用しており、ビジネス的にも安定しています。

各スポーツの世界最大チーム年間収入(2020年初頭データ)

スポンサー収入、リーグからのTV放映権分配などの総計。

  • (アメリカンフットボールNFL)=ダラス・カウボーイズ(米/NFL)=約1000億円
  • (サッカー)レアル・マドリッド(スペイン/リーガエスパニョーラ)=約950億円弱
  • (野球)ニューヨーク・ヤンキース(米/MLB)=約720億円
  • (バスケットボール)ニューヨーク・ニックス(米/NBA)=約500億円
  • (自転車ロードレース)チーム・イネオス(英/自転車ワールドツアー)=約60億円

*ソース:Statista、その他

未来に向けて

現在の自転車ロードレースの姿が複雑な背景により出来上がった結果であるにせよ、人種的に「閉じられた」スポーツが今後衰退していくのは目に見えています。

これを打開して愛するロードレースを未来に向けて発展させるには、我々日本人もロードレースの閉鎖性に対して積極的に異議を唱えるべきだと思います。その方法は、単純に声をあげるだけでも十分でしょうが、やはり“壁“のハンデを乗り越えた上で競技結果をだしてアピールできれば理想ですよね。

私も“走り”では何もできませんが(泣)……
引き続き「フ〇ッキンジャップぐらい分かるよ馬鹿野郎!」(バイシクルクラブ誌にて連載中!)と叫び続けていきたいと思います。

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PROFILE

山崎健一

Bicycle Club / UCI公認選手代理人

山崎健一

UCI公認選手代理人&エキップアサダマネージャー。日本人選手の育成に尽力し、プロ選手からの人望も厚い。バイシクルクラブ本誌では連載「フ●ッキンジャップくらいわかるよ、コノヤロウっ!」を担当。

山崎健一の記事一覧

UCI公認選手代理人&エキップアサダマネージャー。日本人選手の育成に尽力し、プロ選手からの人望も厚い。バイシクルクラブ本誌では連載「フ●ッキンジャップくらいわかるよ、コノヤロウっ!」を担当。

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