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ツール・ド・フランス|フランスの感染情勢に立ち向かう自転車ロードレースの姿勢

いよいよツール・ド・フランスは運命の第3週へ。泣いても笑っても、残る6ステージですべてが決する。山岳比重の高いコース設定で、期待に違わず総合系ライダーやクライマーが主役争いを演じているが、最高の舞台であるはずのカテゴリー山岳には観衆の姿がほとんど見られなかった。主催者A.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)が示した、スタート地・フィニッシュ地、カテゴリー山岳への一般入域制限の厳格化は、どこか危機意識の薄さを感じる同国の情勢に対して毅然と立ち向かっていけるのか。あらゆる手を尽くしてパリ到達実現を目指す大会側と、レース現場の実情とをサイクルジャーナリストの福光俊介さんがお伝えする。

感染拡大の第2波に飲み込まれているフランス

フィニッシュ周辺への入域にはIDパスの確認が求められた PHOTO:Syunsuke FUKUMITSU

フランスではいま、新型コロナウイルスの感染拡大第2波が襲っている。1日あたりの新規感染者数の増大が続いており、9月10日には約1万人を記録。同12日もほぼ同数と発表された。同国全体では36万人以上の感染者を数え、3万人以上の死亡者が出ている。

ツール・ド・フランス2020のコース

これはフランス保険省が2020年9月12日にCOVID-19の感染状況を示したもの。緊急状態の2県を含む42県が赤いZCAにあり、先週と比較して12県が追加されている。

これを受け、政府は新規感染者が過去7日間で10万人あたり50人を超えた県を「レッドゾーン」に指定。フランス本土には95の県があるが、そのうち42県が「レッドソーン」になった。

レースは今まさに、レッドゾーンの中を走っている。超級山岳グラン・コロンビエでの激闘に誰もが熱狂した第15ステージ、そして休息日が明けて迎える第16ステージも危険区域を走る。第17ステージからはいったんレッドゾーンの外へと出るが、第19ステージで再び入域。最終日・第21ステージで到達する首都・パリももちろんレッドゾーンに指定されている。

こうした状況を受け、主催者A.S.O.も動き出した。9月12日に実施された第14ステージから、スタート地・フィニッシュ地、そして上級カテゴリーをメインに山岳区間への一般入域を制限することにしたのだ。

事実上の「無観客レース」だった第15ステージ

実質「無観客」となった第14ステージのフィニッシュ PHOTO:Syunsuke FUKUMITSU

今回設けられた入域制限では、スタートラインから100m、フィニッシュライン手前300mを基準に、一般の人たちの沿道観戦を禁止とした。

制限初日の第14ステージではフランス第二の都市圏であるリヨンにフィニッシュしたが、「厳格な新型コロナ対応」を早速実施。この日は「フィニッシュ前500m」から先を入域禁止とし、大会関係者の証であるIDパスを持つ者や禁止区域内の居住者・オフィスワーカー、招待客のみがバリケードの内側に入ることを許された。

第14ステージのフィニッシュ地・リヨン。フィニッシュ前500mでバリケードが張られ一般入域が不可能とされた PHOTO:Syunsuke FUKUMITSU

確かに、フィニッシュ付近の人影ははっきりと減ったが、バリケードの外側は人だかり。この日は土曜日で、前述したように同国では“都会”にカテゴライズされるリヨンの街だ。レースを一目見たい人たちが押し寄せ、ソーシャルディスタンスがまったく守られることはなかった。

無観客となった第15ステージの・コロンビエール PHOTO:A.S.O./Alex Broadway,Pauline Ballet

続く第15ステージでは、3つ設定されたカテゴリー山岳のうち、2つ目の登坂であった1級山岳コル・ド・ラ・ビッシュと頂上フィニッシュが設けられた超級山岳グラン・コロンビエへの一般入域が禁止された。

これは同地・アン県が「現地時間9月12日正午から13日午後8時まで、両登坂区間への立ち入りを禁止とする」との決定を、A.S.O.が承諾したもの。

実質の無観客として行ったレースは、ところどころで観客の姿が見られたものの、どうやら「9月12日正午」より前に入域していた人たちであったよう。さすがに早くからレースを待ち続けたファンを排除することはしなかったようだが、コース周囲の雰囲気を見た限りは指定された時間内での入域は厳しく制限していたと捉えてよいだろう。

フランスの威信をかけた1週間

一部観客が入れるエリアには人が集まった PHOTO:A.S.O./Alex Broadway,Pauline Ballet

ただ、スタート地・フィニッシュ地、上級カテゴリー山岳に限定して入域を制限したところで、感染リスクを大幅に減らせるかというと、決してそうではないというのが現地に滞在していての印象だ。

結局、「スタートが見られないなら」「フィニッシュを見られないなら」「山岳へ行けないのなら」といった理由で、現地観戦をしたい人たちはコース内の別の場所でプロトンを待つといった策を講じ始める。実際、入域制限が始まった第14ステージでは、リヨン市街地へ向かう最終盤に設けられた2つの上りにファンが殺到。カテゴライズとしては4級山岳ながら、さながら超級山岳のような趣きに。

第15ステージのスタート地点。スタートライン約100mにバリケードが張られて入域を制限する PHOTO:Syunsuke FUKUMITSU

街から街へとゆくラインレースでは、コースすべての立ち入りを制限するというのはさすがに現実的ではないが、部分的に対応をしたところでやはり観たい人たちは「適用外」の箇所で観戦をしようとする。もはや、こればかりはいたちごっこでしかないようだ。

キャラバンカーも閑散とした中を出発していく PHOTO:Syunsuke FUKUMITSU

そうなってくると、パリ到達を実現するためのカギはひとりひとりの意識と自覚になってくるのだろうか。マスク、消毒、できる限りでのソーシャルディスタンス…。残る1週間、ツール・ド・フランス2020の成功、そして終着地パリへの到達に向けた戦いは、すべての大会関係者にとどまらず、フランスの人々、そして国としての威信をかけた大勝負となりそうだ。

福光 俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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