プロ自転車選手にブルーマンデーはある? 元プロ選手のクリス・ホーナーに聞いてみた
中田尚志
- 2021年06月14日
「今日からまた仕事かぁ……」
自転車三昧の週末を終えて、ブルー・マンデー(憂鬱な月曜日)を迎えている方もいらっしゃるのではないでしょうか? もし自分がワールド・ツアーのプロだったら、毎日大好きな自転車に乗れて、嫌いな上司のご機嫌を伺うこともなければ社内政治に巻き込まれることもない。「自分もプロ選手だったらよかったのに!」と思うこともあると思います。
ではワールド・ツアーに行けば本当にブルー・マンデーは来ないのでしょうか?
2013年ヴェルタ・ア・エスパーニャで総合優勝したクリス・ホーナーにインタビューしたピークス・コーチング・グループのコーチ、中田尚志さんが、ホーナーの言葉を紹介します。
2013年ヴェルタ総合優勝のクリス・ホーナーはこう話す
プロの世界だって同じ。嫌な同僚も居れば、こいつの言うことなんて聞きたくないと思うような上司だって居る。自分の25年のキャリアの中で一緒に働きたい奴もいれば、嫌いな奴もいた。
僕らを見て人々は言う。”スポーツの世界は社内政治がなくていいね”ってね。
でも実際はチーム内の社内政治もあれば、レース出場のためのネゴシエーション、スポンサーとの折衝もある…ポリティクス(政治・駆け引き)だらけだ。それは一般の職業と一緒なんだよ。
41歳でブエルタを制したホーナー、レース最初にスペアバイクすらなかった
一例を示そう。僕がヴェルタで総合優勝したときは、ヴェルタに入る前からパワーメーターの数値は信じられない値を示し、明らかに調子が良かった。だから僕はエースを申し出た。
でもチームは僕を含めて4人をエースに指名した。メンバーの半分だ! 一体誰がエースをアシストするんだ? そんなチーム戦略でどうやって勝てる? でも僕には何が起こっているか分かっていた。
僕はそのときすでに41才。トレックは翌年僕を放出することが分かっていた。チームはファビアン・カンチェラーラと数億円の複数年契約を結んでいたからね。だからチームはファビアンとチームに残るメンバーをエースにしたかったんだ。
膝の故障から復帰した僕にチームはスペアバイクを準備してくれなかった。ヴェルタのために足を仕上げ、ダイエットしてきたのにも関わらずスペアバイクさえ与えられない。これでどうやってグランツールに勝てるんだ?でも僕は理解していた。この仕事を続けたいなら、このヴェルタで良い走りをするしか無いんだと。
チーム内の扱いは僕のメンタルをすり減らした。でも同時に”もっと勝ちたい”という気持ちを強くしてくれた。
(クリス・ホーナー)
華やかに見えるプロの世界ですが、それは同時にビジネスであり我々と同じ労働者であると感じるホーナーのエピソードでした。
中田尚志 ピークス・コーチンググループ・ジャパン
ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。
https://peakscoachinggroup.jp/
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