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オコーナーが雨のアルプスで独走勝利、ポガチャルは総合リード広げる|ツール・ド・フランス

ツール・ド・フランス2021の第9ステージが現地74日に行われ、今大会1つ目の超級山岳となるコル・デュ・プレを含むアルプスの山岳コースをベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)が独走で勝利。序盤から目まぐるしく動いたレース展開にあって、冷静に立ち回ってツール初勝利を挙げた。マイヨジョーヌを着るタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)は長くメイン集団でレースを展開したが、終盤にライバルの動きを見ながらタイミングを計ってアタック。ステージ6位にまとめるとともに、総合タイム差を広げることにも成功した。

オコーナー大差で逃げ切り個人総合でも2位に浮上

雨の山岳レースでマイヨジョーヌ争いに大きな変化があった第8ステージ。第1週の最終日となるこのステージも、アルプスの山々をかけるコースが設定された。クリューズをスタートし、ティニュにフィニッシュする144.9kmは、前半からカテゴリー山岳が連続し、中盤には今大会最初となる超級の上りコル・デュ・プレ(登坂距離12.6km、平均勾配7.7%)がそびえる。すぐに2級のコルメ・ド・ロズランを越えて下ったのち、フィニッシュ地ティニュを目指す21kmの上りが待ち受ける。1級山岳ポイントを通過して、1.9km走ったらフィニッシュライン。ティニュといえば、2年前の第19ステージでフィニッシュ予定だったが、降雹によりレースが途中打ち切り。リベンジとなるこの日も強い雨模様で、なかなか好天を引き当てられないよう。それでも、街は2年越しとなる選手たちの受け入れに状況を整えた。

このステージを前に、前日最終グルペットで走り終えていたプリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)が出走しないことを発表。第3ステージでの落車で負った傷の回復に努めるとともに、今後予定しているとみられる東京五輪とブエルタ・ア・エスパーニャに向けて調整していくことになりそうだ。また、第2ステージでの劇的な勝利から6日間にわたってマイヨジョーヌを着続けたマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス、オランダ)も大会から離脱。こちらは東京五輪のマウンテンバイク種目で金メダルを目指すと公言しており、今回のリタイアにあたり「ツールの1週間でハードに戦った体を休めて、東京に向けて調整する」とのコメントを残した。

©︎ A.S.O./Charly Lopez

そうして始まったレースは、前日同様にスタートからアタックの応酬。15kmほど走ったところでハリー・スウェニー(ロット・スーダル、オーストラリア)とダヴィデ・バッレリーニ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イタリア)がリードを奪う。そこへチームメートのジュリアン・アラフィリップ(フランス)が合流を目指すが、他選手のマークもありブリッジはかなわない。こうしている間に、最初のカテゴリー山岳である2級のコート・ド・ドマンシーの頂上へ達し、後ろから追い込んだピエール・ラトゥール(チーム トタルエナジーズ、フランス)がスウェニーをかわして1位通過する。

この流れのままラトゥールは先頭に立つと、追ってきたダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネイション、アイルランド)が合流し2人逃げの状態へ。ただ、後ろも動きが続いており、結局ラトゥールとマーティンは集団へ引き戻される。代わってソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)がトップに立つと、少し置いてアラフィリップやマイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ、オーストラリア)らが追いつき、6人のパックが形成される。

©︎ A.S.O./Pauline Ballet

このメンバーは32.7km地点に設定された中間スプリントポイントを目指したもので、コルブレッリが狙いどおり1位通過を決める。それからしばらくコルブレッリが先頭を走り続けたが、1級山岳コル・ド・セジーへ上り始めたところでトップが入れ替わり。山岳賞首位のワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス、オランダ)が仕掛けると、オコーナー、マイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネイション、カナダ)、セルヒオ・イギータ(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)、ルーカス・ハミルトン(チーム バイクエクスチェンジ、オーストラリア)、ナイロ・キンタナ(チーム アルケア・サムシック、コロンビア)が合流。この段階でようやくメイン集団が落ち着き、6人の逃げでレースが進んでいくこととなった。

コル・ド・セジーの頂上は、わずかに先行していたプールスをキンタナがギリギリでかわして1位通過。山岳賞争いへの意欲を示す。いったん下って、超級のコル・デュ・プレに入ってもキンタナはポイント量産を目指して先頭で頂上通過。すでにプールスが遅れており、キンタナが山岳賞ジャージ獲得に優位な情勢になった。

©︎ A.S.O./Pauline Ballet

残り距離が減るとともに、先頭では上りでの脚の差が顕著に出始め、4つ目の上りであるコルメ・ド・ロズランではオコーナー、イギータ、キンタナの3人に絞られる。リーダーチームのUAEチームエミレーツが追撃を急いでいないこともあり、先頭とのタイム差は8分以上に広がる。同時に、オコーナーがバーチャルマイヨージョーヌとなる。

ダウンヒル区間では慎重になりながらも逃げ切りへ十分なリードを得た先頭の3人。ステージ優勝に向けた駆け引きも見ものとなるが、最後の上りへ向かおうかというタイミングでキンタナが遅れだす。直前のコルメ・ド・ロズランでも頂上を先頭通過しており、山岳での動きで消耗したか。さらに、2人となった後の残り17kmでオコーナーがイギータを振り切ることに成功。アタックを決めると、そのまま独走態勢に入ってフィニッシュまでを急いだ。

©︎ A.S.O./Pauline Ballet

一方、長くメイン集団をコントロールするUAEチームエミレーツは、オコーナーにマイヨジョーヌを明け渡しても問題ないとの判断か、一度縮まりかかったタイム差を意識的に拡大。そのままレースをまとめる方向にもっていく姿勢が見え隠れする。しかし、この状況を嫌ったのがイネオス・グレナディアーズ。残り10kmになろうかというところでUAEからペーシング役を引き継ぎ、前との差を減らしていく。

さらには、個人総合6位につけるリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)がアタック。これにポガチャルは反応したが、個人総合3位のアレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・プレミアテック、カザフスタン)や同9位のダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)が遅れ始める。

そして、満を持してポガチャルがカウンターアタック。これにはカラパスが対応できず、先行を許す格好に。ポガチャルはライバルとの総合タイム差を広げるべく、残る数キロを攻めた。

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

後方が目まぐるしく変化している間も好ペースを刻み続けたオコーナーは、1級山岳ポイントをトップで通過して、最後の1.9kmはウイニングライド。独走でツール初勝利の瞬間を迎えた。

鮮やかに勝ったオコーナーはプロ5年目の25歳。昨年はジロ・デ・イタリアでステージ勝利を挙げるなど、このところ伸び盛りのクライマー。今季から現チームに加わり、この大会では総合エースを担う予定だったが、大会序盤から少しずつ遅れを喫し戦術を切り替えてこのステージを走っていた。

©︎ A.S.O./Pauline Ballet

2位争いは、中盤以降追走グループでレースを進めていたマティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イタリア)が最後の上りで抜け出して順位をアップ。失速したイギータやキンタナをかわし、オコーナーから57秒差でフィニッシュへ。同じく追走メンバーの1人だったスプリンターのコルブレッリが山岳でも健闘。3位に入って15ポイントを獲得。この日だけで35ポイントを稼ぎ出すことに成功した。

それからほどなくしてポガチャルがフィニッシュへとやってきた。先行していた選手たちを拾いながら終盤を走り、最終的にはステージ6位。カラパスのほか、スタート時に個人総合4位につけていたリゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)、同5位ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)、同8位エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)を含んだグループは、その32秒後にレースを終えた。

これらの結果により、個人総合ではポガチャルが首位の座を堅守。マイヨジョーヌを着て大会第2週を迎えることとなった。2位には、この日快走のオコーナーが12ランク上げて急浮上。総合タイム差21秒でポガチャルを追う。スタート前まで2位につけていたワウト・ファンアールト(チーム ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)が遅れたため、前線に残った選手たちが少しずつ順位をアップ。518秒差の3位にウラン、532秒差の4位にヴィンゲゴー、533秒差の5位にカラパスがつけている。

なお、このステージではティム・メルリール(アルペシン・フェニックス、ベルギー)、ナンス・ペテルス(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、フランス)、ジャスパー・デブイスト(ロット・スーダル、ベルギー)の3人が途中リタイア。さらに、ニコラス・ドラミニ(チーム クベカ・ネクストハッシュ、南アフリカ)、アルノー・デマール(グルパマ・エフデジ、フランス)、ジャコポ・グアルニエーリ(グルパマ・エフデジ、イタリア)、アントニー・ドゥラプラス(チーム アルケア・サムシック、フランス)、ステファン・デボッド(アスタナ・プレミアテック、南アフリカ)、ロイック・ヴリーヘン(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ベルギー)、ブライアン・コカール(B&Bホテルズ KTM、フランス)の7人が制限時間内でフィニッシュできず、タイムアウトとなった。

75日は今大会1回目の休息日。続く6日からレースが再開され、第2週最初となる第10ステージは、アルベールビルからヴァランスまでの190.7kmによる平坦コースが用意されている。

ステージ優勝 ベン・オコーナー コメント

©︎ A.S.O./Pauline Ballet

「ツール・ド・フランスに出場することが1つ目の夢だったが、その次の夢だった勝利を挙げられて最高の気分だ。まずは家族や友人にこの喜びを伝えたい。フィニッシュラインを通過した時は自然と涙が出ていた。私を信頼してレースに送り出してくれるこのチームには心から感謝を伝えたい。

レース前は逃げに入る予定はなかったが、大人数が先行するような局面が発生し、合流すべきだと思ってペースを上げているうちに逃げるような形になった。逃げグループではどう立ち回ろうか悩んだが、ステージ優勝だけではなく個人総合でも順位を上げられるチャンスだと思ったので、できるだけのことはやってみようと思った。

実のところ、悪天候のレースは好み。下りは慎重になるが、ペースを崩さないよう心がければ勝てるだろうと感じていた。ツールで勝つには冷静さも必要だ。まさにその通りのレースになった」

マイヨジョーヌ、マイヨブラン タデイ・ポガチャル コメント

©︎ A.S.O./Pauline Ballet

「昨日よりレース条件は悪かった。とても寒く、雨が止む気配がなかった。さすがに今日は多くの選手が苦しんだと思う。それを乗り越えて休息日を迎えられるのがうれしい。個人的には寒さよりも暑さの方が心配ではあるのだけれど。

オコーナーは今日とても強かったと思う。彼にはおめでとうと伝えた。正直言うと、マイヨジョーヌを彼に譲らなければならないと覚悟していた。結果的にキープできたので安心している」

ツール・ド・フランス2021 第9ステージ 結果

ステージ結果

1 ベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)4:26’43”
2 マティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イタリア)+5’07”
3 ソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)+5’34”
4 ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)+5’36”
5 フランク・ボナムール(B&Bホテルズ KTM、フランス)+6’02”
6 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)ST
7 リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)+6’34”
8 ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)ST
9 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)ST
10 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)ST

マイヨジョーヌ(個人総合成績)

1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア) 34:11’10”
2 ベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)+2’01”
3 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)+5’18”
4 ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)+5’32”
5 リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)+5’33”
6 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+5’47”
7 ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ、オランダ)+5’58”
8 アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・プレミアテック、カザフスタン)+6’12”
9 ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)+7’02”
10 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)+7’22”

マイヨヴェール(ポイント賞)

マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)

マイヨアポワ(山岳賞)

ナイロ・キンタナ(チーム アルケア・サムシック、コロンビア)

マイヨブラン(ヤングライダー賞)

タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)

チーム総合成績

バーレーン・ヴィクトリアス

 

ツール・ド・フランス スタートリスト&コースプレビュー

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PROFILE

福光俊介

福光俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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