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絶景が見られる峠へコーヒーを飲みに行くサイクリング|筧 五郎が大弛峠をゆく

ヒルクライマー、そして酷道の旅をライフワークとする筧 五郎さん。イベントやレースが少なくなっていた時期に「どうやって楽しみをみつけるのか?」ということで、いつもと嗜好を変えて、ヒルクライムしてから絶景&コーヒーを楽しんでみようということになった。ここでは筧さんが山梨県大弛峠のヒルクライム旅を紹介する。

乗鞍にとって代わった「クルマでいける日本最高地点、大弛峠」

いきなりだが、なぜ大弛峠を走ることになったのかからはじめよう。

今年の乗鞍ヒルクライムレースは年代別でエントリーをしていた。レースの5週間前の7月下旬から失敗のないよう 緻密にトレーニングを計画的に立てた。地元、岐阜県海津市の二ノ瀬峠でも目標タイム18分で走れる、パワーも体重の5.3倍の分のワットが出せるようになっていた。

2週間で乗鞍は7回ほど上り 順調にトレーニングが進んでいた矢先に乗鞍が中止とアナウンスされた。

でも、中止になったからといっても「僕の仕事柄」走ることは止めないので自然とトレーニングでは二ノ瀬へと向かっていた。

でもやり場のないこのエネルギーをどこに向ければよいのか?と思いながら上っていたときに、バイシクルクラブ編集部の副編山口さんから「上ったことがない 走ったことがない峠ってどこ?」とメッセージが入った。

上りながら 「どこかなぁ……」と考えていたら 思いついたのは大弛峠だった。ここかなぁとメッセージを送り、「今度山梨へ行く機会があったら上ってみよう」と即答した。

でもいざ走るとなると「いったい大弛峠ってどんな峠?」と調べてみたら、意外や意外、峠の標高が2365mと高く、クルマで行くことができる峠では日本一の標高らしい。以前までは乗鞍が日本一であったが2003年にマイカー規制が入り、その座を大弛峠へ受け渡す形となった。

乗鞍ではない、大弛峠を上れってことかと前向きに考えた。そして以前、大弛峠でヒルクライムレースが行われていたということも知った。その標高差1900m、距離は30kmと国内屈指のヒルクライムレースだったらしい。

乙女湖から上りはじめる15km

そのコースを甲府盆地から走るかと思いきや、山口さんが「オレ、そんなに体力ないよ!」と発言したことで、乙女湖にクルマをデポして15㎞(しか)だけ上るコースへと変更になった。しかし15㎞に変更になったからと言っても、後半のきつい勾配区間がなくなったわけではない。

初めて走る道にワクワクしつつ自転車の準備をした。今回はリュックサックを背負うのではなく、自転車に装着するバック類を色々と取り付けてみた。まずは峠でコーヒーを飲むための道具、そしてフロントバックには“山梨”と言えばブドウだろうと道中の農家さんで手に入れたブドウを、氷を仕込んだフロントバッグに入れた。

アルコールランプとカップなどをコンパクトにまとめ、サドルバッグへ収納した
フロントバックに保冷用のバッグと氷を仕込み、冷たく甘いブドウを峠で食べることにした

思っている以上にフラットで走りやすい道

林道川上牧丘線のゲート。12月1日から5月31日は通堂止めとなるという看板が設置されていた

さて、スタートでいきなりの直登の上りが出迎えてくれる。冬季ゲートを越えて、林道川上牧丘線で峠まで上っていく。琴川とランデブーしていく形になるが、釣り人が数名いたので少しばかりの時間、釣れるかな?と見ていた。途中、牧丘の千貫岩という溶岩の塊が岩を貫いたという巨石があったが、「こんなにデカいものが飛んでくるって自然の力はとんでもないなぁ……」と感心しながら上っていく。

クルマをデポした乙女湖の標高は1500m、そして目的地の大弛峠は2365m、その標高差865m。距離15㎞ということは平均勾配5.5%ぐらいかなぁと思って走るが、ずーっと緩やかな道が続くのでどのあたりから勾配がきつくなるのか?と心配になってしまうほどだ。

しかし、今日はほんとに天気が良好だ。左側に日本百名山の金峰山を見ながら走ることになるが、ひときわ目立つ五丈岩がはっきりと見える。

そのたたずまいは、登山者もヒルクライマーも安心して登頂できるよう見届けてくれているように感じられた。

正面に見える岩が金峰山

山口さんとは数え切れないほどの酷道を走ったのだが、幾度となく「この道いいねぇ」という言葉を交わすこが多い。

「それはどんな道?」と言葉にするのは難しいが、左右に木々が生い茂り、真ん中の道の先に、青空と目指す頂上が見えたりすると「良い道だね」となるのかな?

今日の天候と金峰山の頂を見ながらのヒルクライムはずーっと幸せな気分だった。

どこまでも走っても急こう配が現れない、まだか?まだか?と思っているうちに残り距離の看板が2km、1kmと表示される。

残り500mぐらいだなと思っていたら、いきなり九十九折れが現れたのでダンシングをしてみたら、サドルバックに取り付けていたマグカップがチリンチリンと音を立てる。

そうだ、コーヒーだ。僕は峠でコーヒーを飲むのだと思い出したのだ。

そして峠に到着するのだが、そこは観光客のクルマでごった返していて、どこがゴールというのもわからずじまいだ。残念ながら「着いたー」の歓喜の雄たけびを上げられる雰囲気もないまま、峠であろう場所に到着してしまったのだ。

山口さんはその昔、ランドナーで長野県側から上ったことがあるという。僕は初峠、山口さんは懐かしむ峠とお互いに別の感動を味わっていた。

そしてお待ちかねのコーヒータイムである。わざわざ峠の上で入れるコーヒーと思っていたけど、これはこれで楽しいし、おいしいぜい! さらに道中で汲んだ名水を使って入れられたら最高だ。

ここでネタ晴らしをすると、ここでコーヒーを飲んだ後に下山しはじめたときに、大弛峠には湧水があることに気が付いた。これはすごくもったいないことをしたが、次回リベンジするモチベーションにもなる。

このコース。絶景が見られるうえに、道の雰囲気が最高によかったのでぜひ訪れることをおすすめする。

ドリップコーヒーでもうまい。自力で持ってきたコーヒーセットだからなおさらおいしさが倍増するぜ!
ブドウもいい具合に冷えていて、糖分が身体に染み渡った
大弛峠にはこんな湧水がある

プロフィール 筧 五郎

全日本マウンテンサイクリングin乗鞍で優勝したほか、シクロクロスマスターズ元日本チャンピオン。酷道の旅をライフワークとする56サイクル店主。名古屋でメンテナンスやトレーニング指導を行う。
www.56cycle.com

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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