坂を上り続けて成層圏!? 高校生が放課後にエベレスティング10K達成! 日本で39人目
- 2022年01月22日
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自転車好きの息子が、「近所の山を上り下りする」と
バイシクルクラブと同じPEACSで、flick!という本を作っている村上タクタと言います。
じつは、息子の村上マキシが自転車が好きで(熱心なバイシクルクラブ読者でもあります)、友だちとエベレスティングにチャレンジしたので、そのレポートをお届けします。
彼は中学のときは棒高跳びの競技をやっていたのですが、高校には棒高跳びの部活がなく、そのエネルギーを自転車に注ぐようになりました。1年半ほど前にアルバイトで貯めたお金で、2年落ちで半額セール(約18万円)になっていたピナレロのGANを買って以来、自転車どっぷりの生活になっていました。
週末に気がつくと、200km、300kmという距離を走っていたり、ヤビツ峠を上ったり、河口湖や熱海の方まで出掛けたり。大磯の駐車場であるレースに出て、ピュアビギナーとビギナークラスで優勝したりするようになっていました(次に出たスポーツクラスはあともう少しというところで大転倒してリタイアしました)。
親としては「高3なので、そろそろ受験勉強を……」と思うのですが、「最後にエベレスティングに挑戦したい」と言って、友だちと都内某所の遊園地の横の上り坂に出掛けてしまいました。
日本のエベレスティング達成者は336人
バイシクルクラブの読者ならご存知の方が多いと思うのですが、『エベレスティング』とは『サイクルコンピュターのログを使ってエベレストの高さ(8,848m)と同じ標高を獲得する』というゲームというか、競技です。
このヒルクライムには公式ルールがあり、そのルールに基づいた記録を公式ウェブサイト( https://everesting.cc/ )に申請すると、しばらくして承認され、同サイトのHALL of FAME( https://everesting.cc/hall-of-fame/#/ )に掲載されます。今まで世界で自転車のエベレスティングに成功した人は8806人。さらにもう少し高い10,000m(10Kと言われます)を上った人は898人。それぞれ、日本では336人と、40人。かなり限られた人しか達成していません(達成者数はいずれも原稿執筆時2022/01/08現在)。
もし10Kを達成できたら、日本でたった40人。エベレストならまだしも10,000mとなると成層圏。エベレスティングを超えて、ストラトスフィアリングというわけです。もしかしたら、18歳は最年少かもしれないと思って、公式サイトに問い合わせてみましたが、今のところ回答はありません。
ともあれ、筆者はそんなに過酷なチャレンジだとは露知らず、息子が近所の坂を上ったり下りたりするだけだと思って、息子を送り出しました。
彼は自分の部屋で、もぞもぞと自転車の用意して、学校から帰って2〜3時間睡眠を取って夜の9時ごろに自転車で家を出ていきました。
エベレストの高さまで坂道を上り続けるという無謀なチャレンジ
チャレンジは息子の他に、友人の海老原ユウマ君と、潮崎マオ君が参加し、何人かの友人がサポートしてくれるということでした(潮崎マオ君は、都合により2〜3時間遅れてスタート)。
夜中になって、少し心配になって、家族でクルマに乗って(30分ぐらいかかります)息子が走っているのを見に行くことにしました。
そこで、筆者ははじめて、このチャレンジがけっこう大変なものであることに気がつきました。
駅から遊園地に向かう上り坂を1回上がると、標高を63m上ります。それを145回繰り返すと8,848mに到達するというのです。
息子たちは夜10時ぐらいから走り始めていました。1回上って下りてくるのにおよそ5分。10回走ったら50分。10分休憩して1時間を1サイクルで走るといいます。つまり、14時間ぐらいでゴールできる勘定になりますが、そう簡単なものではないでしょう。
通常、大人がこの場所でエベレスティングする場合には、クルマで来てコインパーキングに停めてそこをベースキャンプにするようですが、自分の荷物を背負って自走で来ている高校生は、拠点の場所選びにも苦労して、坂から少し離れた公園に荷物を置いて、サポートの友人はそこでずっと(夜中も)待ち続けてくれたようです。
筆者が見に行ったのは、夜の2時頃なので走り始めて4時間ぐらい。12月の初旬だったので、夜はけっこう冷え込みます。しかし、昼の暑さよりはマシということで、この時期をチャレンジに選んだとのこと。
「まぁ、息子たちが自分で挑戦していることだし」と思って、その日は帰りました。
多くの友人が、差し入れを持って応援に
翌日、筆者も週明けに締切の原稿を抱えていたので、応援に行ってる場合ではなかったのですが、やはり気になるので、現地のクルマの中で原稿を書くことにして、昼下がりに再び現地に向かいました。
夜を超え、夜明けを迎え、彼らはまだ走り続けていました。この時点で14時間ぐらい。
最初は3人一緒に走っていたようですが、次第にペースごとにバラバラになり、ラップを重ねているようです。
明け方が一番寒くて、ただ待ってるだけのサポートの友人は「ガタガタ震えながら、あまりに寒くてコンビニで暖かい物を買ってきて過ごしました」と語ってくれました。筆者が行ったときには「ネットで知り合った」という多くの自転車仲間が差し入れを持って集まって応援してくれたり、一緒に走ってペースを作ってくれたりしていました。
走ってる当人たちは、眠らないのがルールなので休憩を挟みつつも延々と走り続けていました。
長時間にわたる競技なので、栄養補給を続けられるかどうかがけっこうミソ。ゼリー系飲料などをけっこう用意していましたが、食べられるウチは固形物を食べたほうがいいということで、普通の弁当なども食べていました。息子がポテトチップスを砕いて、ザーッと口に流し込んでいるのを見て「若いってすごい」と思いました(笑)
特に息子が特徴的だったのは、淡々とペースを刻んでいたことです。まったくペースは落ちていませんでした。本人いわく「休憩時にちゃんと計画した栄養補給を続ける」「下りは速度を上げ過ぎずに、上体を起こして休憩する」などを意識していたそうです。体力の維持については、ボーイスカウトで奥穂高や冬の西穂高などの登山の経験があったのも良かったのかもしれません。
また、昨夜から徹夜でサポートしてくれている友人が、ドリンクの受け渡しをしたり、休憩時にはマッサージまでしてくれていて、本当にありがたかったです。
再び日が暮れても走り続ける
冬の日が暮れるのは早く、5時頃にはもう真っ暗です。
3人とも頑張っていますが、事情により遅れてスタートした潮崎君は、遅れを取り戻そうと頑張ったり、疲れてペースが落ちたりと、ペースが乱れがちなようでした。
息子はゴールが見えてきて、さらに淡々と走っていました。ベストタイムもこのあたりの時間に出ていたので、非常にコンスタントに走っていました。固形物もまだ食べられる状態でした。
高度の計測はサイクルコンピューターが行いますが、回数は原始的で、ハンドルにビニールテープで固定したカウンターで手動でカウントしていました。「ネットで計測誤差でエベレスティングが認められなかったケースもある」ということで、何回か多めに走るのがセオリーのようです。
夜6時過ぎ。カウンターでカウントしているだけだし、誤差もあるからよくわからないのだけれど、一応、標高差63mを145本走って、多分エベレスティング達成!
しばらく休憩してから、「でも、他の2人も走ってるし、引っ張りついでにまだ走るよ」と、息子はまた走り出しました。多分、体力に余裕があったから10Kを目指したかったんだと思います。「10K目指す!」と言わずに走り出すところに彼の性格が出てるように思います。
さらに、海老原君もエベレスティング達成。そして、走り出して約24時間。夜の10時頃に息子は10K達成。
自転車では永遠のライバルである海老原君も、息子だけに10Kを達成されるのは悔しかったようで、さらに1時間半頑張ってめでたく10Kを達成した。
39、40人目のエベレスティング10K達成
だが、実はそこからがなかなか悩ましかった。
サイクルコンピューターのデータがサイトにアップできないのです。サイトにアップして10Kを達成していることを確認したい。もし、足りなくても現地でそのことがわかれば、追加が走ることができる。何度もアップを試みるが、アップできない。間違った操作をして、消えてしまったりしたら、すべてが水の泡です。全部無駄になってしまったら……と思うとさすがにヒヤヒヤします。サイコンは予備も用意しておいた方がいいかもしれません。
結局、諦めて帰宅して、家のパソコンからアップしたらあっさりとアップロードされました。スマホアプリで送るにはデータがあまりにも重過ぎたようです。
日本で、39人目のエベレスティング10K達成者。昨夜送り出したときには、そんな大変なことにチャレンジしているとは知りませんでしたが、こうやって表示されると父親としても誇らしい気がします。
獲得標高は1万206m(つまり3回ぐらい余分に上がったことになる)。タイムは24時間8分。10K到達時点では24時間以内。ギリギリの達成だった。走行距離は258km。
ちなみに、Apple Watchによると消費カロリーは9,500kcal。ラーメン20杯分。これならどんなに食べたって痩せられるだろう。休憩時に食べるようにしていたけれども、それでも体重は4kg減っていたという。
一緒に参加した潮崎君は最初のぺースの乱れがたたったのか、最後なかなかゴールできず、夜中の3時頃までかかってエベレスティングを達成したつもりだったのだが、余分なラップを重ねる体力がなく、計測誤差でエベレスティングは承認されなかったという。なんとも残念な話だ。
結果はどうあれ、高校3年生のときにこんなチャレンジをしておけば、これからの人生、どんな困難があっても「エベレスティングよりは楽」と思えるに違いない。
息子は翌日、昼過ぎまで寝ていたが、その後、友だちと自転車に乗って10kmほど離れたラーメン屋にラーメンを食べに行った。若いと回復力もすごいようである。
(村上タクタ)
- BRAND :
- Bicycle Club
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PROFILE
flick! / 編集長
村上 タクタ
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。