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チーム再建へ正念場のシーズン、ボーラ&DSM 2022年体制|ロードレースジャーナル

vol.28 カギを握るのは総合系ライダー
グランツールの出来でチームの浮沈が決まる

国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。ヨーロッパを中心に今季のレースが本格化。そんな中でお届けしていくチーム展望は、ボーラ・ハンスグローエとチームDSM。大黒柱だったペテル・サガン(トタルエナジーズへ移籍、スロバキア)が抜け新たな方向性を探るボーラ・ハンスグローエと、移籍による退団選手が多く出たチームDSM。両者の共通点は、「チーム再建」にある。

グランツールを中心に戦いの幅に自信 ボーラ・ハンスグローエ

ボーラ・ハンスグローエ
2021年UCIチームランキング:7位

昨シーズンは30勝。マキシミリアン・シャフマン(ドイツ)のパリ~ニース2連覇や、ニルス・ポリッツ(ドイツ)とパトリック・コンラッド(オーストリア)によるツール・ド・フランスでのステージ勝利など、要所で結果を残した。また、ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)がツールで個人総合5位、フェリックス・グロスシャートナー(オーストリア)がブエルタ・ア・エスパーニャで同じく10位と、しっかりと存在感を残している。

高いレベルでレースをまとめられるような選手がそろった今、チームは変革の時を迎えている。5シーズンにわたってリーダーとして引っ張ってきたサガンが移籍により離脱。これまでどこかサガン頼みだった集団は、チーム力をもって強さを示していくことが求められている。

ボーラ・ハンスグローエの総合エース筆頭格のウィルコ・ケルデルマン。2022年はジロ・デ・イタリアに臨む © BORA – hansgrohe / Bettiniphoto

なかでもポイントは、グランツールでの戦い方だ。前述の結果を残しているケルデルマンが、相性の良いジロ・デ・イタリアへと回ることを決意。個人総合3位を収めた一昨年を超える成果を上げたいと意気込む。

何よりパートナーが心強い。ジロでの快走時に共闘し、自身を上回る2位となったジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)が移籍加入したのだ。2年前の再現とばかりに、早速両者のジロ参戦が内定。実績に勝るケルデルマンがメインで戦う見通しだが、状況次第でプラン変更することもいとわない。

この2人の方針が固まったことで、ツールへのイメージもクリアになった。こちらも移籍加入組のアレクサンドル・ウラソフ(ロシア)が総合エースを務める。昨年のジロ個人総合4位のオールラウンダーは、一発もあるクライミングと安定感のあるタイムトライアルとの組み合わせで上位を押さえる能力に長ける。強いプレッシャーの中で走ることを好まないとあり、ツールだけにフォーカスする姿勢はとらないつもり。春にはアルデンヌクラシックで上位を狙い、その後ツールに向けた準備に入る予定だ。

移籍早々勝利を挙げたアレクサンドル・ウラソフ。ツール・ド・フランスでもこんなシーンが見られるか(写真はボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ第3ステージ) © BORA – hansgrohe / Sprintcycling

この3選手の動向を受けて、他のクライマー陣が適材適所へと振り分けられていく。エマヌエル・ブッフマンとレナード・ケムナ(ともにドイツ)はジロへ、グロスシャートナーとシャフマンはツールといった具合。今季から加わったセルヒオ・イギータ(コロンビア)はブエルタで個人総合にチャレンジすることになりそうだ。

サガンや、ここ数年エースを務めたパスカル・アッカーマン(UAEチームエミレーツに移籍、ドイツ)の退団によって、スプリント路線の後釜は3年ぶりに復帰のサム・ベネット(アイルランド)で決まり。ドゥクーニンク・クイックステップで走った昨年は、ヒザの故障に加え、それに起因する首脳陣との確執でシーズン後半を棒に振った。まずは本来のフォームに戻すことが最優先だが、調子が戻れば激戦のフィニッシュ前がさらに熱いものとなる。今季の目標は、ツールのポイント賞「マイヨヴェール」2年ぶりの獲得だ。

さらに見ものとなりそうなのが、北のクラシック。2019年にパリ~ルーベで2位となったポリッツを中心に、悪路での戦いにも照準を定める。

こう見ると、派手さこそないもののストロングポイントはそろっている印象。チームのエンジン始動も上々で、1月29日のトロフェオ・ポレンサ~ポルト・ド・アンドラッチ(UCIヨーロッパツアー1.1)でウラソフが3位。2月1日開幕のサウジ・ツアー(UCI Pro.2)第1ステージではマルティン・ラース(エストニア)、2日開幕のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ(UCI Pro.2)第4ステージでウラソフがステージ優勝し個人総合首位に浮上(本記執筆時点)。今季の活躍を予感させる出足だ。

ボーラ・ハンスグローエ 2022年シーズン 所属選手

●継続
ジョバンニ・アレオッティ(イタリア)
チェザーレ・ベネデッティ(ポーランド)
エマヌエル・ブッフマン(ドイツ)
マッテオ・ファッブロ(イタリア)
パトリック・ガンパー(オーストリア)
フェリックス・グロスシャートナー(オーストリア)
レナード・ケムナ(ドイツ)
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)
パトリック・コンラッド(オーストリア)
マルティン・ラース(エストニア)
ジョルディ・メーウス(ベルギー)
アントン・パルツァー(ドイツ)
ニルス・ポリッツ(ドイツ)
ルーカス・ペストルベルガー(オーストリア)
マキシミリアン・シャフマン(ドイツ)
イーデ・スヘリング(オランダ)
マチュー・ウォールス(イギリス)
フレデリク・ワンダール(デンマーク)
ベン・ツィーホフ(ドイツ)

●加入
シェーン・アーチボルド(ニュージーランド) ドゥクーニンク・クイックステップより移籍
サム・ベネット(アイルランド) ドゥクーニンク・クイックステップより移籍
マルコ・ハラー(オーストリア) バーレーン・ヴィクトリアスより移籍
セルヒオ・イギータ(コロンビア) EFエデュケーション・NIPPOより移籍
ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア) チームDSMより移籍
ヨナス・コッホ(ドイツ) アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオより移籍
ルイスジョー・リュールス(ドイツ) ジュニアカテゴリーより昇格
ライアン・ミューレン(アイルランド) トレック・セガフレードより移籍
キアン・アイデブルックス(ベルギー) ジュニアカテゴリーより昇格
ダニー・ファンポッペル(オランダ) アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオより移籍
アレクサンドル・ウラソフ(ロシア) アスタナ・プレミアテックより移籍

エースクラスの擁立が急務、まずはスプリント路線で結果を チームDSM

チームDSM
2021年UCIチームランキング:21位

UCIワールドチームとしてはランキング最下位となるチームランク21位に終わった昨年。チームスポンサーの変更や選手の加入・退団と慌ただしい中でシーズンを戦う格好だったが、それにしてもシーズン8勝はさみしい限り。

また、このオフには所属選手の契約解除による退団が多数発生。ほかにも、ヒンドレーのボーラ・ハンスグローエ移籍や、ブエルタ山岳賞のマイケル・ストーラー(オーストラリア)のグルパマ・エフデジ移籍など、主力選手のチーム離脱が相次いでいる。

チーム力アップを目指しトレーニングに励むチームDSMの選手たち © Patrick Brunt | Keep Challenging | Team DSM

実情として戦力ダウンは否めない。そうした中で、重要なポジションを託されるのが経験豊富なベテランである。プロトンではおなじみのロマン・バルデ(フランス)は、昨年出走を回避したツールへ帰還することを決意。第一の目標としてステージ優勝を掲げ、レース展開次第で総合成績を考えたいとしている。昨年このチームに加入して以来、大きく向上している点として「タイムトライアル能力」を挙げており、ツールの総合争いでそれを試したいとの思いもある。まずはステージ優勝を果たし、その勢いで個人総合上位に食い込みたいところ。

バルデとともにチームを引っ張ることになるのが、6年ぶりに古巣へと戻ったジョン・デゲンコルプ(ドイツ)。ロット・スーダルで走った2シーズンは不本意な形に終わり、契約を1年残した状態で移籍を決意。復帰にあたり、かつて隆盛を極めたスプリントでもうひと花咲かせたいという。平地に強い選手がチームにはそろっており、彼らをリードアウト役に据えてスプリントチャンスを構築する。

6年ぶりに古巣へと戻ったジョン・デゲンコルプ。新たなジャージ姿も様になっている © Patrick Brunt | Keep Challenging | Team DSM

何より、デゲンコルプの合流はスプリント路線の活性化につなげたいところ。昨年のツールではエーススプリンターを担ったケース・ボル(オランダ)や、ブエルタで勝利まであと一歩に迫ったアルベルト・ダイネーゼ(イタリア)はブレイク間近まできている。チームの現在地を考えたときに、急務となるのがエースクラスのライダー擁立。それに一番近いのが、絶対的な力を誇るスプリンターの養成であることは間違いない。

そのほかでは、一昨年のツールで2勝を挙げたセーアン・クラーウアナスンや、意外性のあるカスパー・ピーダスン(ともにデンマーク)といったパワーのあるライダーが控える。彼らが北のクラシックで戦線をにぎわせるようになると、チームの勢いは確実に高まる。さらに、自国開幕となるツールでも魅せることができれば一気にヒーローへとのし上がる。

チームDSM 2022年シーズン 所属選手

●継続
アスビャアン・クラーウアナスン(デンマーク)
セーアン・クラーウアナスン(デンマーク)
テイメン・アレンスマン(オランダ)
ニキアス・アルント(ドイツ)
ロマン・バルデ(フランス)
ケース・ボル(オランダ)
マルコ・ブレンナー(ドイツ)
ロマン・コンボー(フランス)
アルベルト・ダイネーゼ(イタリア)
ニコ・デンツ(ドイツ)
マーク・ドノヴァン(イギリス)
ニルス・エーコフ(オランダ)
クリス・ハミルトン(オーストラリア)
アンドレアス・レックネスン(ノルウェー)
ニクラス・メルクル(ドイツ)
ヨリス・ニューエンハイス(オランダ)
カスパー・ピーダスン(デンマーク)
フロリアン・ストーク(ドイツ)
マーティン・トゥスフェルト(オランダ)
ケヴィン・ヴェルマーク(アメリカ)

●加入
ジョン・デゲンコルプ(ドイツ) ロット・スーダルより移籍
レオン・ハインシュケ(ドイツ) デヴェロップメントチームDSMより昇格
ヨナス・ヴィデバーグ(ノルウェー) ウーノエックス・プロサイクリングチームより移籍
マリウス・マイヤーホーファー(ドイツ) デヴェロップメントチームDSMより昇格
ティム・ナーベルマン(オランダ) デヴェロップメントチームDSMより昇格
フレデリク・ルーンバーグ(デンマーク) ウーノエックス・プロサイクリングチームより移籍
ヘンリ・ファンデンアベーレ(ベルギー) デヴェロップメントチームDSMより昇格
サム・ウェルスフォード(オーストラリア) ネオプロ(トラック競技から転向)

福光 俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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