マシューズが激坂でアタック決め勝利。ヴィンゲゴーはジャージ守る|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2022年07月17日
ツール・ド・フランス2022は第2週の戦いが進行中。現地7月16日は第14ステージが行われ、レース前半に決まった大人数の逃げがそのままステージ優勝争いに。この日最後の急坂区間で独走に持ち込んだマイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ、オーストラリア)がツールでは5年ぶりとなるステージ優勝を挙げた。逃げを容認したメイン集団では、同じ上りでヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)とタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)のマッチアップに。両者譲らず、このステージもヴィンゲゴーがマイヨジョーヌを守った。
逃げでも勝てることを示したマシューズ、チームの目標も達成
ツール第2週は残り2ステージ。翌週に控えるピレネー決戦へ向けて、着々とフランスの地を西へと進んでいる。第14ステージは、前日のフィニッシュ地でもあったサンテティエンヌを出発し、マンドまでの192.5km。終始アップダウンの連続となるコースセッティングで、合計5カ所の山岳ポイント以外にも無印の上りが待っている。とりわけ、マンドの街に入ってからやってくる2級山岳モンテ・ド・ラ・クロワ・ヌーヴは、登坂距離3kmながら平均勾配10.2%。最大16%の激坂をこなしたのち、1.5km走ってマンド・ブルヌー飛行場の滑走路にフィニッシュする。なお、この激坂は1995年大会登場時に勝利したローラン・ジャラベールにちなんで、“モンテ・ジャラベール”の異名を持つ。
リアルスタートが切られると、3人の飛び出しをきっかけに続々と選手が追随。6km地点で18人がリードする流れとなり、さらには集団からポガチャルがアタックする場面もここはさすがにヴィンゲゴーとワウト・ファンアールト(ベルギー)のユンボ・ヴィスマ勢が放っておかない。
14.2km地点に置かれた3級山岳に向かってレーススピードが上がったことにより、後方に取り残される選手もちらほら。プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)も集団復帰を目指す一員となっていた。メイン集団の人数が60人ほどまで絞られていたが、40km地点を過ぎて逃げの動きが固まってくるとレース全体が落ち着き始めて、やがて後ろに残っていた選手たちも集団復帰した。
出入りの繰り返しを経て逃げグループ形成に至ったのは23人。このうち個人総合最上位は、トップから15分46秒差で13位につけるルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、南アフリカ)。マイヨジョーヌを脅かす選手がいないこともあり、リーダーチームのユンボ・ヴィスマは意識的に先頭グループとのタイムを拡大。レースが100kmを残した時点で約10分差となって、先頭メンバーによるステージ優勝争いになることは濃厚になった。
流れが変わったのは、残り52km。先頭23人からマシューズが抜け出して独走を始めると、他の逃げメンバー間でこれを追うべくアタックが散発。5kmほどしてルイスレオン・サンチェス(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)、フェリックス・グロスチャートナー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストリア)、アンドレアス・クロン(ロット・スーダル、デンマーク)が追走パックを組むと、残り40kmでマシューズへの合流を果たした。
ここから4人の逃げが始まり、追う選手たちとの差は30秒前後で推移。追走メンバーでもアタックを試みる選手がたびたび出るものの、前線合流につながるものにはならない。懸命に逃げる4人では、この日4つ目の3級山岳通過後の下りでクロンのバイクにトラブルが発生し制御不能になってコースアウト。3人逃げとなったものの、それでも後ろからの追撃をかわし続けた。
いよいよ迎えたモンテ・ジャラベール。先頭3人と追走グループとの差は15秒ほどとなって上りに入ると、すぐにマシューズがアタック。サンチェスとグロスチャートナーを振り切ることに成功する。そのまま独走かと思われたが、追走グループから猛然と迫ったのはアルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト、イタリア)。みるみるうちに差を詰めると、残り3kmを切ったところで追いつく。その勢いのまま、頂上まで1.2kmのタイミングでアタックすると、数メートルながらマシューズとの差が開いた。
しかし、ここから驚異の粘りを見せたマシューズ。しばしベッティオルとの差をキープしていたが、頂上目前で再合流すると、お返しとばかりにカウンターアタック。ベッティオルがたまらず遅れると、マシューズはそのまま頂上をトップ通過して、滑走路フィニッシュに向けて下りを急いだ。
最後の直線である滑走路に入る頃には十分なリードを得たマシューズ。残り200mで勝利を確信すると、そこからは歓喜のウイニングライド。2017年以来、5年ぶりとなるツールのステージ優勝を飾った。
2017年大会では2勝を挙げ、ポイント賞のマイヨヴェールを獲得したマシューズ。プロトンにおける「上れるスプリンター」の代表格で、丘陵地のレースでも力を発揮してきた。この日は激坂勝負を制しての独走。スプリントにとどまらない、多才なところを見せての勝利となった。
激闘を演じたベッティオルがステージ2位。同じ場所にフィニッシュした2015年の第14ステージでは2位に入っているティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ、フランス)は、今回3位だった。
別のレースが展開されたメイン集団は、前線を走っていたメインチェスとのタイム差調整のため、ユンボ・ヴィスマが残り20kmになろうかというところでスピードアップ。モンテ・ジャラベールの入口までファンアールトが牽引して、マイヨジョーヌを安全圏へと戻す。
上りが始まるとUAEチームエミレーツのペーシングが始まり、集団の人数が絞られていく。そして、残り3kmを前にポガチャルがアタック。ついていけたのはヴィンゲゴーだけで、ここから2人のマッチレースへ。残り2.6kmで再びポガチャルがアタックしたが、ヴィンゲゴーは動じない。結局両者一歩も引くことなく、フィニッシュまで到達。最後はポガチャルがスプリントを試みたが、ヴィンゲゴーとの差はつかず。ステージ優勝のマシューズとは12分34秒差。2人の後には、個人総合上位の選手たちが続々と走り終えた。
このステージを終えて、ヴィンゲゴーのマイヨジョーヌは変わらず。個人総合2位のポガチャルとの差は2分22秒のまま。タイム差変動はありながらも、トップ6は前日と変わらず。この日ステージ10位だったメインチェスが個人総合7位に浮上している。
その他の賞も変わりなく、ポイント賞のマイヨヴェールはファンアールト、山岳賞のマイヨアポワはシモン・ゲシュケ(コフィディス、ドイツ)、ヤングライダー賞のマイヨブランはポガチャルが着続ける。
第2週最終日の17日は、第15ステージとしてロデズからカルカッソンヌまでの202.5kmで争われる。平坦ステージにカテゴライズされ、前後半1つずつの3級山岳を越えられればスプリンターが勝負できる絶好のチャンス。レースの流れは、ユンボ・ヴィスマが統率するのか、スプリント狙いのチームがコントロールするのかでも変わってきそうだ。
ステージ優勝 マイケル・マシューズ コメント
「このステージ優勝は私のキャリアにおけるストーリーの1つだ。一番に妻と娘に捧げたい。ここまで失敗も多かったが、そのたびにそれを取り返してきた。娘にその姿を見せたかったし、妻との夢も実現したかった。昨日は大きなチャンスを逃してしまい、ディランにスプリントをさせることができなかった。チームとしては昨日から明日にかけて1つのブロックと考えていて、3ステージのうち最低でも1勝することが目標だった」
マイヨジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「ポガチャルが攻撃してくるだろうと思っていたので、きっちり対応できてよかった。このステージ最初の上りで彼がアタックしたとき、私は後ろにいて追うのに時間がかかってしまった。ただ、彼が私を脅かしたとは感じていない。なぜなら、彼が攻撃してくることは分かっているからだ。だから、いつどんな時でも、もちろん休息日も集中力を保たないといけないと思っている。いずれにしても、今日の上りの感触はとても良かった。マイヨジョーヌを着て素晴らしい1日を過ごすことができた」
ツール・ド・フランス2022 第14ステージ結果
ステージ結果
1 マイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ、オーストラリア) 4:30’53”
2 アルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト、イタリア)+0’15”
3 ティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ、フランス)+0’34”
4 マルク・ソレル(UAEチームエミレーツ、スペイン)+0’50”
5 パトリック・コンラッド(ボーラ・ハンスグローエ、オーストリア)+0’58”
6 ヤコブ・フルサン(イスラエル・プレミアテック、デンマーク)ST
7 フェリックス・グロスチャートナー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストリア)+1’06”
8 レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)+1’12”
9 シモン・ゲシュケ(コフィディス、ドイツ)ST
10 ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、南アフリカ)
個人総合時間賞(マイヨジョーヌ)
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク) 55:31’01”
2 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)+2’22”
3 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+2’43”
4 ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム、フランス)+3’01”
5 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+4’06”
6 ナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック、コロンビア)+4’15”
7 ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、南アフリカ)+4’24”
8 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)ST
9 トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+8’49”
10 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+9’58”
ポイント賞(マイヨヴェール)
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)
山岳賞(マイヨアポワ)
シモン・ゲシュケ(コフィディス、ドイツ)
ヤングライダー賞(マイヨブラン)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ 166:24’21”
▼ツール・ド・フランス2022のチーム&コース情報はこちらへ
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- TEXT:福光俊介 Photo:Syunsuke FUKUMITSU A.S.O. / Pauline Ballet
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。