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vol.1「物は人なり」|天使よ自由であれ!byケルビム今野 真一

スチールバイクの限界に挑む今野製作所「CHERUBIM(ケルビム)」のマスタービルダー、今野真一の手稿。今回は日本でも古くから語られる“物には魂がある”というお話。

鞴祭(ふいごまつり)

落ち葉散りゆく11月のころ、東京サイクルデザイン専門学校(TCD)で「鞴祭」なる行事を執り行った。

火を使う鍛冶職・金工職人・金物商たちのお祭りで、一年の職人の仕事や安全健康、さらには商いの発展を火の神様に祈願するという江戸時代より続く行事だ。

私も火を使う職人として毎年感謝し、いつも身の引き締まる思いとなる。

東京サイクルデザイン専門学校で行われる鞴(ふいご)祭。火を扱う職人の育成、日本の文化・精神もしっかりと継承する

鞴(ふいご)とは、製鉄などに用いられ、火力を安定させるために使う火吹き棒のような道具だ。「踏鞴(たたら)祭り」とも呼ばれ、土地によっていろいろな作法がある。

ここ東京サイクルデザイン専門学校では古くから伝わる実際の鞴を祭るスタイルで執り行われる。道具や物に感情があるがごとく祭る姿勢は、道具と密接に関わる職人としては好感が持て、毎年関心する。この鞴祭に限らず日本には多くの「物に魂がある」という行事が多くある。

たとえば、いらなくなった筆を祭ったり、針供養なる行事は折れた針やいらなくなった針を毎年、豆腐やこんにゃく等に刺して川等に流し供養したりと、こちらも江戸時代より続く道具の魂をねぎらう風習だろう。

さて、みなさんはいらなくなった自転車をどのように処分しているだろうか?

ここで「処分」という言葉を使うことすらいささか自転車に失礼な気もしてしまうが、多くは知り合いに譲ったり、中古販売店や店舗に流れるのが一般的だろうか。ネットオークションなどで販売することも多いだろう。

物はいずれ役目を終える。壊れてしまったり、必要でなくなってしまった自転車はスペースの都合などで、手放す必要がある。必要な人がいれば、そこに流れていくことが、今の時代では、美しいとも思う。

しかし物はあふれているのでそうはいかないことも多い。そんなときには自転車神社なる場所があり、お守りのように「納札所」なる場所へ収められれば気が楽ではある……。

自転車を、どちらかというとある種の消耗品と考える傾向が強い競輪選手であっても思いは同じだ。競走前には自転車を塩でお清めし自転車に手を合わせる姿はよく見かける光景だ。勝敗のみならず清い競走を願う美しい光景だ。

美しくない逆パターンの光景もあり、海外では調子の悪い自転車を投げ飛ばしたり蹴飛ばしているのもよく見かけるが……。

物に精神が宿り、そしてその物に頭を下げる、そんな思想は、考察すればするほどに、じつは日本人特有の感性ということが見えてくる。

マシンの擬人化

海外の工場では生産ラインに、ロボットが導入されることを不快と感じる労働者が多くいるようだ。「ロボット=シゴトを取られる」という構図が今でもあるのだという。おそらくロボットに名前を付けるなんて発想もないだろう。

一方、日本では以前よりロボットには「名前」が与えられ「太郎」「花子」にはじまり「信長」や「秀吉」などさまざまだ。名が付くことにより、親近感が湧き、メンテナンスも行き届き故障が激減するという。

日本の技術者やSF作家たちが生み出してきたロボットの多くは、人間味のある魂が宿ったキャラクターとして作られている

さらにスタッフたちとの距離が縮まり機械の仕事の効率も上がるというから驚きだ。日本人は古来より物や機械を擬人化する風習があるから、自然にそうなるような気もする。

海外では、最近やっとイーロン・マスク率いるテスラ社の生産ラインのロボットにヒーローコミックの名前をつけるようになったという。

しかし彼は「人はハサミを擬人化しないが」という発言をしていた。日本人は針一本まで擬人化するから、文化の違いに疑いの余地はない。日本の典型的なヒーロー、鉄人28号や鉄腕アトム、ドラえもんなど、日本人はロボットに感情を持たせ親近感を得るのが好きだ。

欧米のロボットは悪者であることが多い。「2001年宇宙の旅」に出てくる「ハル9000」は、「機械に魂が宿ると人類を滅ぼしかねないぞ」という欧米人の潜在意識が浮き彫りになっている。そもそもロボットとは「ROBOTA」が語源で、意味は「強制労働」だ。

50年以上前のSF 映画「2001年宇宙の旅」に登場する人工知能「HAL9000」。AIが幅を利かせる近年の環境を彷彿とさせる

自転車の擬人化

自転車に名前を付けているライダーはどれだけいるだろう?

先日、学生に聞いてみたところ照れくさくもあり、あまり口には出さないようだが、自覚はなくとも「○○1号、2号」なんて生徒は意外に多くいた。名はなくともたまに話かけることはある、という学生も多くいた。

自転車はどんな存在なのだろうか?

相棒、道具、友だち、ヒーロー、物、飾り物、速く走る道具、さまざまだろうが、サイクリストにとって間違いなく言えることは、人生を彩ってくれる「なにか」だろう。

天国へ旅立ったある女性サイクリストの生前の写真を拝見した。笑顔でのサイクリングや、レースでは必死の形相でハンドルを握る姿が印象的だった。

われわれの作るケルビムが彼女の人生を彩る相棒として寄り添っていたのだなと涙が頬を伝った。誠意を込めて仕事と向き合う決意を新たにした。

相棒なのか道具なのかはそれぞれとして、オーナーにとっては、かけがえのないものだ。そう考えると作る側も乗る側も自転車をぞんざいに扱うわけにはいかない。

デザインの擬人化

ならばデザインはどうだろう。やはり人に寄り添い、擬人化しやすいデザインでなければならないのではないだろうか?

アップルの初代マッキントッシュは人の顔に似ている。スティーブ・ジョブズがそこをえらく気に入って採用したというのは有名な話だ。

イタリアの美しいスポーツカーもどことなく愛嬌のある顔やクールな顔に見えるのもよくある話だ。なにか人間に寄り添う要素を持たせるのは大事な条件のひとつだろう。

自身のマシンに名前を付けてはいかがだろう?

わりとメーカー名で自転車を呼ぶ人は多くいるようだ。「私のケルビム」「俺のデローザ」などなど。私はそれで十分だと思う。すでにあなたにとって特別な一台となっているのだから。名前を付ける付けないは別として、感情のある物のひとつとして扱ってほしいと願っている。

私の場合

私の作るショーモデルなどは、よく「円谷っぽいですねー」と言われたりする。最初はどういう意味か理解に苦しんだが「あっウルトラマンぽいということか」とわかった。

2019年のジャパンバイクテクニークで最速記録を打ち立てた一台。銀と赤で塗り分けたカラーリングは「ウルトラマン」とよく言われた

私の好きな色はシルバーや赤なので好きにやると大体そうなってしまう。先ほどの日本のアニメやヒーローという意味でいえば、これはこれで日本人らしさが出ているのかもしれない。そう考えると私のヒーローは自転車なのかもしれない。夢というか希望というか、うまく表現できないが……。

物に愛情を注ぐという行為は、人のみに持たされた感情であり、日本人ばかりでなく、人間としての大切な基本的心理のひとつだと思う。

ケルビム 今野真一

東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。

▼ケルビム今野 真一の過去の連載記事はコチラから。
ケルビム今野 真一の世界

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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