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vol.4「世界一美しい自転車を目指し」|天使よ自由であれ!byケルビム今野 真一

スチールバイクの限界に挑む今野製作所「CHERUBIM(ケルビム)」のマスタービルダー、今野真一の手稿。今回はオリジナルの「フロントエンド」にまつわるお話。

オリジナリティー

私の職人としての目標のひとつに「世界一美しい自転車を作る」というのがある。
何をもって美しいと判断するかはさまざまだが物体としてのデザインもそのひとつだろう。それには全てのパーツをオリジナルで作らなければならないと信じている。

「オリジナリティー」という言葉は多くの側面を持っており簡単に言葉にすることは避けたいが、やはり根本的に大事な理念だ。
他社と同じ物を作っているのであれば、基本的に値段競争に貢献するのみの存在になる。

世の中にないから始めた組織と、こんな仕事が利益を生むからと始めた組織には雲泥の差が生じる。
職人で言えば、ただ技術があるから自転車を作っている人と自転車に情熱や問題意識があって製作しているのとでは全くの別物で似て非なるものだ。

現在では外部からパーツを調達すればそこそこのスチールフレームは作れてしまうが、われわれがオリジナルパーツの設計をライフワークとしている理由は、理想像を追いかけているからにほかならない。以前の連載でも少々触れたが、今回完成したオリジナルの「フロントエンド」について話を進めていこう。

1㎝四方のフロントエンドだが、理想を実現するため、構想から始まり細かな値の指定や度重なる試作の繰り返し、多くの技術者の協力を経て完成までこぎつけた

ロストワックスとは

ロストワックス製品でのオリジナルパーツが多くあるが、簡単にロストワックスとはなにか?を説明しよう。

端的にいうと型に溶けた鉄を流し込み製品の形状にする技術だ。奈良の大仏もロストワックス製法と言ってよく、かなり古くからある製法だ。自転車では1970年代前後から技術も上がり、フレーム作りにも応用されるようになった。

ロストワックス製法が導入されラグやエンドの精度は飛躍的に上がった。剛性が非常に高く、複雑な形状での製作も可能となった。

私は自転車界きってのロストワックスマニアと自負しており、かなりの数を手掛けてきた。

エンドの詳細

フロントエンドは歴史を振り返れば、古くは鍛造製のエンドをパイプにスリットを入れてロウ付けする方法が主流だった(今でも良い工作として重宝がられる事もある)。しかしロストワックス技術の登場により事態は変わった。キャップ状のような複雑な形状が可能となったのだ。

メリットは、パイプへのダメージが圧倒的に少なくロウ接が可能になること。
精度も高く作業性も飛躍的に向上した(作業性が高いということに疑念を抱く人もいるが、よい製品を目指す以上、それはまったく取り違えと思われる)。エンドの形状は、このようなメリットによりロストワックス製のキャップ式がベストだ。

キャップ式で製作された新型フロントエンドとシートステーキャップの内部。ロウ接の面積を十分に設ける構造となっている。ある意味われわれの得意技だ

世界的に初めての機構

オリジナルのフロントエンドの新機構を解説しよう。

「角度をつけた」。悩みのひとつにフロントエンドは製作時に角度をつけなければならないということがあった。少なからずエンド自体にダメージを与え強度も低下し、わずかではあるが高次元の走りでは影響する。(ちなみにフロントフォークは自転車フレームの中でライダーの感覚に最も影響を与える部分でもある)

そこで最初からフロントエンドに角度を付けるということにした。
「あたり前じゃないか!」という声も聞こえてきそうだが、これが今まで世界中どこにもない。理由としては金型が左右2つ必要という事での生産コストや、強度面に関してもそのくらいはよしと妥協してしまっているのだろう。

エンドに最初から適正な角度を付けてあるのがわかる。またエンドの取り付けセンターがわずかにオフセットしているのが見えるだろうか。さまざまなハブやシャフトや工具に対応するように多くのテストも行った。全体的なシルエットも洗練された

「パイプをできるだけ長く」フォークチューブの長さをできるだけ出せるように非常にコンパクトな設計とした。他社と比べ5㎜以上のコンパクト化に成功している。
またロウ付けの剥離や破損防止のため内部の接着面積は驚くほどに広く確保した。

「水抜き穴(エア抜き)」ロウ接作業時にはパイプ内で温度が上昇したエアが行き場を失い作業に悪影響を与えるため必ずエア抜きの穴が必要となる。
多くの場合パイプに穴を空けるが、これも得策ではない。なぜなら、多くの事故例を見ているとこの穴から破損するケースが少なからずある(むろん適正な位置であれば破損は免れるが)。

また、内部には雨や湿度変化などで錆が発生するために完成後も水ぬき穴として必要だ。
ロスト鋳造時よりある工夫をしてエンド自体に後から穴を開けられる構造に成功した。下部のシャフトが当たる部分であるが車輪装着時には隠れて見た目もよく水抜けも最高の位置だ(2㎜程度の水抜き穴は鋳造時に詰まりが起こり、今まで不可能とされていた)。「オフセット構造」自転車フォークは空力の関係から前面投影面積を減らすことが望ましい。通常、左右同じ金型での製造を念頭に入れているために、車軸は常にセンターと考えられている。

しかし経費度外視の金型製作により、左右違ったデザインが可能となったためエンドに対しフォークブレードを内側にオフセットして作れた。わずかではあるが、確実に剛性感や空力性は上がるはずだ。

子どもは最高のデザイナー

完成までは長い道のりだった。ロストメーカーの担当者やアシスタントとして動いてくれた弊社CAD担当の廣江くんには感謝しかない。完成間近で仕切り直したりもした。われわれの「こだわり」はどこからくるのだろう、きっと自転車に関して言えば全くの子どもなのかもしれないと思う。

子どもにとってクッキーはどれひとつとして同じ物はなく、2つ渡せば、隅々まで見比べて自分の気に入る方を選ぶ。しかし大人は経験や知識からクッキーはクッキーであって気にせずに手に取ってしまうだろう。ここに大きな違いがある。

われわれにとって自転車は2つとして同じ物はなく、いつも見比べては吟味を重ね理想像を追求している。これが最高の自転車デザイナーに求められる大事な部分ではないだろうか。
知識や経験は二の次、まずは物を比べて考察する大事さを養いたい。

この新型フロントエンドは強度試験も終え安全性も立証され今後ケルビムのレーサーたちに使われることとなる。
強度、性能、作業性、プロポーション、どれを取っても理想を形にできたと自負している。きっと多くの人はこの作り込みに気づくことはないだろう。

「神は細部に宿る」たかがエンドされどエンド。フレームを作ったとしても見えない部分や細部に神経が張り巡らされていないのであれば、職人としては失格だ。
ユーザーが気づくか否かは二の次だ、大事なのはそこにわれわれの「誇り」があること。ビルダーのみならず多くの仕事や物作りに言えることだろう。

手がけたロストワックス部材の一部。小さなパーツばかりだが精魂を傾けた金型製作の経験は私の財産でありケルビムの誇りだ

ケルビム 今野真一

東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。

▼ケルビム今野 真一の過去の連載記事はコチラから。
ケルビム今野 真一の世界

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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