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ロード女子マスターズチャンピオン渡邊瑛里が考える女性選手の生き方【出産からの復帰~後編】

6月25日に開催された全日本自転車競技選手権大会ロードレース「女子マスターズ」でチャンピオンとなった渡邊瑛里さん。渡邊さんがその栄光をつかむまでには紆余曲折があった。前編に引き続きお送りする後半では、出産、そして持病の喘息を乗り越えてチャンピオンの座を獲得するまでの過程、今後の目標を須藤むつみさんがレポートする。

▼【前編】はこちらから
ロード女子マスターズチャンピオン渡邊瑛里が考える女性選手の生き方【自転車との出会い~前編】

ロード女子マスターズチャンピオン渡邊瑛里が考える女性選手の生き方【自転車との出会い~前編】

2022年10月18日

出産とその後の1年間の産休からの復帰。そして子育てとの両立

須藤:JBCF(全日本実業団自転車競技連盟)のレースを中心にレースの成績も良くなっていく中で、いよいよお子さんが……。

瑛里:早く子どもが欲しかったんです。2020年に息子の友瑛(ともひで)が生まれました。

須藤:友瑛! もしかして?

瑛里:主人の名前の「友一」の「友」、それと私の名前の「瑛里」から「瑛」を取りました。念願の子どもでうれしかった!

瑛里:33歳で出産しましたが、思ったより大変で……。3200gとすくすく育った赤ちゃんがなかなか出てこなくて。ギリギリで帝王切開は免れましたが骨盤が大きく開いたままになって。元の位置まで閉じるのに1年かかりました。それまで、普通に歩くのも痛かったので自転車に乗るのは無理で。それで1年間は完全にトレーニングをお休みしてました。

須藤:それで、またまたトレーニング内容の見直しをするわけですね。

瑛里:ようやく骨盤が閉じて痛みも治まって、2021年の4月ぐらいから自転車トレーニングを再開しました。34歳ですね。そのときに16kg増えちゃった体重を元に戻すことを最初の目標にしました。

友一:春先からサイクリングで乗り始めて、7月ぐらいから本格的なトレーニングに移行していきました。その際、子どもが小さいので室内トレーニングとしてズイフトを導入しました。このズイフト練習を平日におこない、パワーメーターを使用したトレーニング管理も始めました。

瑛里:これで、おかげで11月ぐらいには目標体重に近づいてきました。

須藤:この少し前に「ツール・ド・かつらお」だったかな? レースで久しぶりに会えて、「子どもが無事に産まれました!」って報告してもらって。ちょっとポチャっとしていたけど、また走りが戻ってきていた感じでしたよね。

2022年の渡邊瑛里さんのトレーニングプラン

年間スケジュール表。まずは1年間に出場できるレース日程を仕事のスケジュールや全体のバランスを見て決める
決定した年間スケジュールを基に各月を半分に分けて、その際に出場するレースごとにおこなう練習内容のボリュームを調整
トライ・アンド・エラーチェックでは、走るときに必要なさまざまな要素が意識でき、実現できているか?を具体的に確認

先頭でコントロールラインに戻れなければ、自転車競技を辞める覚悟

瑛里:走りの感触も良かったです。でも年が明けて今年の1月に喘息の症状が出てしまいました。その後の4月にはチャレンジ(第45回チャレンジサイクルロードレース大会)を目標にしていたので、調整ができるか考えていました。それと「自転車競技そのものを続けるかどうか?」も……。

友一:そう。自転車競技を続けるかを相談されました。それで「チャレンジレースの1周回目で、先頭でコントロールラインに戻ってきたら競技を続ける」と約束してくれました。

須藤:再び、自転車レースを続けるかどうかの岐路に立ったのですね。

瑛里:それでスタートから踏ん張って、約束どおりに最初のコントロールラインを通過したときにトップにいました! その後は集団にいるのが精いっぱいで、最後はトップから約1分遅れの8位でしたが。それでも何とか走り切れて手応えを感じました。

須藤:これで合格と。

友一:本当に約束したとおりにやってくれた、約束を守ってくれたな!と。やはり真剣にレースを続けたい、というのがわかりました。そこで、年間予定のとおりニセコ・クラシック(ANAニセコクラシック2022)を目標に練習を重ねるなかで、今度は全日本選手権ロードレースのマスターズ開催が決定したんです。これがニセコ(6/12)と同じ6月開催(6/26)なので急遽、準備やスケジュールを再調整し、両方の優勝を狙うことにしました。

ニセコ・クラシックで優勝、念願のチャンピオンジャージを獲得

PHOTO:野原肇

瑛里:6月に大きなレースの連続になったので、パワー値を目安にトレーニングを重ねました。ズイフトはワークアウト中心で、あと毎週水曜には松輪塾のズイフト・グループミートアップに出るようにしました。そしてFTPを目標パワー値まで上げて、6月の2連戦に。そして、まずは6月12日のニセコ出場のため北海道に入りました。

友一:それまでは友瑛は両親に預けて、夫婦だけでレース遠征していました。でもレース中も友瑛のことが心配になってナーバスになるときがある。それで、このニセコから友瑛も一緒の3人レース遠征をすることにしました。

瑛里:友瑛と一緒に遠征することで、いつでも面倒が見られるし、一緒に遠征するチームメイトのみなさんにもかわいがってもらえるのがありがたいです。やっぱり友瑛も一緒の3人でレース遠征できるのが安心だし良いですね。おかげでレースに良い状態でスタートできました。

撮影:野原肇

須藤:そんなニセコのレース、いかがでしたか?

瑛里:ニセコはグランフォンドで、ロードレースとは少し違ってさまざまなカテゴリーとの同時スタートで慣れていないこともあり非常に走りづらかったです。特に集団で密度が高いとき、男子選手に寄りかかられたり怖かったこともありました。それでも何とか走り切って、目標にしていた優勝ができました。

ニセコ・クラシックでは85km Women Age of 35 to 39で優勝し、この念願のチャンピオンジャージを手に入れた

全日本選手権の裏側、最後尾スタートとゴール後の不安

須藤:そして、いよいよ2週間後、6月25日に全日本選手権ロードレースの女子マスターズに臨むことになるわけですね。

瑛里:それがレース会場の広島県中央森林公園サイクリングロードは、レースで走ったことがなかったんです。それで早めに移動してレースの2日前に会場入りして、主人と一緒に何度も試走を重ねました。

須藤:ニセコも全日本ロードも、初めてのコースで戸惑ったところもあったと思います。そんな中、少しでも早めに会場入りしてコースを見ておくのは大事ですよね。エントリーリストも手元にあったと思いますが、どんな作戦を考えてましたか? マークしていた選手とか教えてもらえたら。

瑛里:そうですね。マークしていた選手は林口幸恵さん(gufocycleworks)です。あと、このレースもニセコのように男子マスターズMM(50~59 + 60~69)との混走になっていて、しかも同時スタートなのが怖かったです。そこでスタートで一番前から出たかったので最前列でスタンバイしていたのに、当日スタート前の移動でうっかりして一番後ろからのスタートとなってしまいました(笑)。

渡邊さんがマークしていたと語る林口幸恵さんはシクロクロスでも活躍する選手だ。写真は今年のJBCF群馬CSCロードレース

須藤:それでも冷静にスタートした、と。コース5周回で61.5kmレース、リザルトを見ると13名の出走ですね。その中でどのように動きましたか?

瑛里:スタート直後からマークしていた林口さんが先行していきました。そのちょっと後ろ、10秒ぐらいのところの男子マスターズの選手もいる集団に私はいました。2周目の下り区間が終わったあたりで林口さんに追いつきました。コース後半の三段坂で少し踏んでみて様子を見つつ、集団はそのままで。3周目、上りの度に踏み込んでみたら男子マスターズもいた集団の人数が減っていきました。林口さんは同じ集団に残っていましたが、三段坂で私が男子に合わせてペースをあげた、そのタイミングで林口さんがドロップしました。その後は私が先頭をキープし、2番手を走る林口さんとの差を周回ごとに広げることができたみたいです。

須藤:そのときのタイム差は、どれぐらいでしたか?

瑛里:なぜか移動審判のバイクやクルマから、2番手とのタイム差を教えてもらえなかった。それで「どれぐらいのタイム差かな? ちゃんと逃げ切れる状態なのかな?」と不安なまま走ってました。結局、2位の林口さんに約3分のタイム差で勝つことができたのですが、男子マスターズと同じレースで残り周回数もよくわからなかったのでゴールしても本当に優勝したのかも不安で、ガッツポーズとかする暇がなかったです(笑)。

ようやく手に入れた全日本タイトルとチャンピオンジャージ、そして愛車バイクはCHAPTER2のカーボンエアロロードフレームRERE、ホイールはMavicのCOSMIC PRO CARBON SL・UST、フロントギヤはROTORの楕円ギヤQ-RINGS50×34T、リアはSHIMANOデュラエースDi2の11×28T

須藤:そんな不安になることもありつつ(笑)、無事にニセコと全日本ロードの女子マスターズの両方でチャンピオンジャージと権利を手に入れました。目標としていたレースで優勝していかがでしたか?

全日本選手権ロードの女子マスターズも優勝し、自宅の室内練習用バイク横には2つのチャンピオンジャージが並んだ

瑛里:主人と相談しながら、明確な目標をもって計画を立てたことが達成できてホッとしています。ただ、この後もレースが続いてますし、いつまでも余韻に浸っているわけにはいきません。

育児と仕事、そして競技活動を両立するための新たなチャレンジ

瑛里:じつは新たな目標としてトラックレースにも挑戦することにしました。

須藤:トラックレース。新たなチャレンジですね。それは、どのような理由で?

瑛里:育児をしながら仕事をすることで、練習に集中できる時間の確保が今後さらに難しくなっていくと思うので、トラックとロードの個人タイムトライアルに絞る方向にしてみることにしました。そこで、7月17日・18日に長野県松本市の美鈴湖自転車競技場で開催のトラックマスターズに出場することにしました。エントリー種目は2㎞個人追い抜きと、500mスプリントにしました。

写真は2022年7月に福島県小野町で開催された「小野町こまちロードレース」個人タイムトライアルの模様

須藤:結果はいかがでしたか?

瑛里:2㎞個人追い抜きの女子Aは2:42.655で優勝、500mの女子Aでは42.496で2位でした。

須藤:さらにリザルトを見ると2㎞個人追い抜き女子Bで優勝した小沼美由紀さんが2:43.693、500mの女子Bで優勝したのも同じく小沼美由紀さんで39.748ですね。彼女は前にうちのチームに所属していたことはあるのですが、その頃から育児と仕事を両立しながらマスターズ・カテゴリーでの戦歴を重ねて長くチャンピオンの座にいます。

2014年からマスターズにチャレンジし、多くのタイトルを獲得する小沼さん。写真は今年のJBCF東日本トラック(撮影:gg_kasai)
小沼さんが2015年の2㎞個人追い抜きで獲得した女子マスターズのチャンピオンジャージ(撮影:加藤 智)

瑛里:そうですよね。マスターズで小沼さんの存在は大きいので目標になります。あと今回のトラックマスターズ、ちょっと女子選手のエントリーが少なかったので、もっと女子選手のトラックマスターズ出場も増えてほしいです!

須藤:それは小沼さんもいつも言ってました。ロードレースの女子マスターズの設定ができたのが最近のことなので、こちらも30歳以上の選手は参戦を検討してほしいですよね。

友一:今回の全日本選手権ロードでのマスターズ開催発表が遅かったので、できれば年度初めからスケジュール予定に入れてほしいです。そうすればマスターズ年齢の選手参加も増えると思います。

瑛里:エリートとマスターズの区別が整備されてきたので、これによりコア年齢から外れた後に競技を続ける目標ができて良いと思います。あとマスターズではエリートよりもレース時間や距離が短くなりますが、だからこそロードレースの本質を改めて、もっと知ってほしいと思います。とくにサーキットで2時間から3時間をグルグル走るのではなく、コースレイアウトを利用した走りや駆け引きを……醍醐味を知ってほしいです。そんなコースでのレースが増えるのも願っています。

須藤:真剣に何度も自転車レースを続けるか、辞めるかを検討したことがあるからこそ分かることがありますよね。今後の目標は?

瑛里:今年はマスターズ個人タイムトライアルで優勝、そしてツール・ド・おきなわ女子国際ロードで優勝です。あとFTPを体重の5倍にします!

須藤:FTPを体重の5倍! それは凄いですね。そこまで明確な目標を立てられるのは、やはりエリートに続く、その先のマスターズというカテゴリーシステムがあるからこそですね。

瑛里:そうですね。みなさんにも生涯スポーツとしてマスターズ参戦を考えてほしいし、広めていきたいです。仕事とか出産を経験しながら、自転車が好きだったら乗り続けるために一緒に頑張りましょう!

 

▼渡邊瑛里(わたなべ えり/旧姓・新屋)

1987年12月1日生まれ・島根県浜田市出身

松輪周回の集合場所で記念撮影。これからも家族みんなで目標に向かって自転車レースを走っていきます!

*主な戦歴
2008年:第14年日本トライアスロン選手権・女子34位
2008年:学生トライアスロン観音寺大会(インカレ)・女子7位
2013年:東京都クラブ対抗ロードレース・女子優勝
2017年:第7回JBCFタイムトライアルチャンピオンシップ・女子2位
2017年:第13回富士山ヒルクライム・女子2位
2022年:ANAニセコクラシック2022・85km Women Age of 35 to 39優勝
第90回全日本自転車競技選手権大会ロード・レース 女子マスターズ優勝

▼須藤むつみ(スドウムツミ)

ミュージシャンを目指すなかで自転車と出会い、のちに実業団チーム所属選手となりレース活動を本格化。1997年1月、オランダで開催されたシクロクロス女子ワールドカップ「CYCLO-CROSS HEERLEN」に参戦、完走。1999年、第6回全日本シクロクロス選手権大会・優勝。2003年に現役を引退後、NPO法人および女子レースチームを設立。その後、2014年から自身のチーム所属として選手活動に復帰。
現在は女子エリート選手として、国内外のシクロクロスレース活動をおこないながら、「MC牛」としてもレースMCや大会運営活動を通して、シクロクロスを中心とした自転車レース普及を実施。2020年からは女子とジュニアのための自転車リーグ「Qリーグ・Nリーグ」を発足した。

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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