織田 聖と小川咲絵、昨年悔しい思いをしたシクロクロスチャンピオンが笑顔となるまで
Bicycle Club編集部
- 2023年01月17日
1月14日から15日にかけて、愛知県稲沢市の国営木曽三川公園「ワイルドネイチャープラザ」で2022-2023年シーズンのシクロクロス全日本選手権が開催された。
既報どおり、男子エリートは織田 聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)が、女子エリートは小川咲絵(AX cyclocross team)がそれぞれ制し、全日本チャンピオンのタイトルを獲得。
今回はJCFシクロクロス部会長であり日本ナショナルチームの監督である三船雅彦氏のコメントで大会を振り返るとともに、「勝つべくして勝った」2人の新チャンピオンの準備について触れたいと思う。
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勝ちたい、全日本のタイトルを獲りたいという思いが
一番強い選手のもとにタイトルがいった全日本選手権
1月14日から15日かけ、愛知県稲沢市の国営木曽三川公園「ワイルドネイチャープラザ」で2022-2023年シーズンのシクロクロス全日本選手権が開催された。
男女エリートは織田 聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)と小川咲絵(AX cyclocross team)がそれぞれ優勝という形になったが、その点を含めてJCFシクロクロス部会長であり日本ナショナルチームの監督、そして元全日本チャンピオンである三船雅彦氏に大会の総括を聞くと、「勝ちたい、全日本のタイトルを獲りたいという思いが一番強い選手のもとにタイトルがいったのかなと思う。そういう思いが走りにも表れていたなとも」という答えが最初に返ってきた。
「(勝ちたい、全日本のタイトルを獲りたいという思いは)選手としても非常に重要だし、同じ会場で走ったユース、ジュニアやアンダー世代の選手たちがそんな彼らの思いや走りに何かを感じ、彼らを目標に競技に取り組んでくれれば、自転車競技の面白さに引かれてくれれば、愛知県というこの会場で全日本選手権をやったことが将来的にも意味があるものになるんじゃないかなと思う。そういう意味でも今大会は非常に良い大会になったんじゃないかなと、JCFシクロクロス部会の会長としても思う」と三船氏は大会を総括する。
ユースやジュニア、アンダーの選手たちが自分のレースが終わっても帰らずにエリートの選手たちの走りを間近で見る姿が会場では多く見られた。
織田と小川の思い、そして去年敗れてからの1年間の準備については後述するが、そういった思い、走りを感じたこれからの選手たちは多いのではないだろうか。
「砂」対策を入念に行なった織田 聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)
織田は2020年の飯山全日本と2021年の土浦全日本の2年連続、小川は2021年の土浦全日本で優勝候補に挙げられながら2位と、あと一歩優勝に届かなかった選手だ。そんな2名の選手は今シーズンの全日本選手権こそは優勝すべく1年間に渡って入念な準備をしてきたように見受けられた。
周知のとおり織田は今シーズン無敗で全日本選手権に臨み、見事に優勝。悲願となるエリートでの全日本タイトルを獲得した。
ジュニア、U23で全日本のタイトルを獲得してきた織田は、U23時代から当時のチームメイトであり、2018年と2019年と全日本選手権を連覇した前田公平と共に国内シクロクロスレースを盛り上げてきた選手だ。
織田の周囲はエリートに昇格した2020-2021年シーズンからエリートでの全日本選手権制覇を期待し、特に2021-2022年シーズンはロードレースでの活動の場をヨーロッパに移したこともあってかフィジカル面で非常に成長したように見受けられ、土浦で開催された全日本選手権では優勝候補筆頭に挙げられるほどの選手となった。
そんな中で迎えた土浦での全日本選手権では織田は脚が攣ってしまい、後半に小坂 光(宇都宮ブリッツェン)に逆転を許す形で2年連続2位という結果に終わった。
フィニッシュ後に悔しさのあまり放心していた姿は、本人がどれほど悔しかったかを表すシーンとして今でも鮮明に思い出せるほどで、本人にとっても非常に悔しいレースとなったことだろう。
今シーズンもロードレースでは引き続きヨーロッパを主戦場に、シクロクロスシーズンが始まると帰国する体制は変わらなかったが、11月に全日本選手権と同じ会場で開催されたJCFシクロクロスシリーズ第3戦ではこれまでと違う姿を織田は見せていた。
これは11月の同レースでナショナルチーム三船監督の話だが、ワイルドネイチャープラザの特徴である砂の走り方について織田は三船監督にアドバイスを求め、三船監督もアドバイスしたという。
織田はこのアドバイスもあってか11月のレースでもライバルたちを寄せ付けない走りを見せていた。
さらに織田は全日本選手権の1週間前に全日本選手権のコースと同じく長い砂区間のあるシクロクロス千葉にも出走し、見事な走りを見せていたという。今回の全日本選手権は「砂」というキーワードが会場が発表された頃から関係者の中で飛び交うほど、「砂」が勝敗を分ける要因になると予測されていた。
フィジカルでは今シーズン負けなしという圧倒的な状態を作り上げたうえ、「砂」対策も入念に行っていた織田は、勝つべくして勝ったと言えるのではないだろうか。
1年間入念に準備をして全日本選手権に臨んだ小川咲絵(AX cyclocross team)
女子エリートの優勝候補筆頭として今シーズンの全日本選手権に臨んだ小川咲絵(AX cyclocross team)。
慶応大学時代にはインカレ個人ロードレースを2回制し、ロードレースの日本代表として海外レースを走るなどロードレースで多くの実績を残してきた小川だが、じつは就職を機に一度競技を離れており、昨シーズンから競技に本格復帰した経緯がある。
平日は会社員として朝から夜遅くまで働き、特に出張の多い小川は練習時間を決して多く確保できる選手ではないため、確保できる時間内で最大限できる努力をこなしてきた。
その結果、昨シーズンはシクロクロスのUCIレースで優勝できるほどのレベルにまでフィジカルレベルを戻すことができたが、土浦で開催された全日本選手権ではわずか1秒差で全日本のタイトルを逃す形となってしまう。復帰当初は全日本選手権で優勝争いができるとは思っていなかったと本人から聞いていたが、1秒差で全日本タイトルを逃した悔しさからレース後には涙を浮かべるなど小川は悔しさをにじませていた。
それでも世界選手権の代表に選ばれた小川は、男子エリートのトップライダーである斎藤朋寛(RIDELIFE GIANT)にアドバイスを求め、世界選手権に向けて斎藤との練習を開始する。残念ながらこのときの世界選手権は新型コロナウイルスの影響で日本代表の派遣が中止され、小川の世界選手権出場はかなわなかったが、翌シーズンの全日本タイトル獲得に向け、斎藤との練習は継続された。
そんな環境で迎えた今シーズン、小川はJCXシリーズで開幕戦・土浦、第2戦・幕張と昨シーズンの全日本選手権で敗れた渡部春雅(明治大学)に再び敗れてしまうものの、続く第3戦および第4戦・野辺山では與那嶺恵理(ヒューマンパワードヘルス)も出場する中で2連勝を飾り、第5戦・琵琶湖ではトラブルから3位になるものの、第6戦および第7戦・宇都宮ではこちらも2連勝を飾るなど、第7戦を終了した時点でJCXランキングトップに立つ。
さらに、11月に開催されたJCFシクロクロスシリーズ第3戦でも圧勝を見せ、優勝候補筆頭として全日本選手権に臨む形となった小川は、年末には元チャンピオンである前田公平とも練習を行い、全日本選手権に向けてできる限りの練習を積んだという。
そんな中迎えた今年の全日本選手権。砂区間ではテクニックに勝る小林あか里(弱虫ペダルサイクリングチーム)がタイム差を縮めるものの、フィジカルで勝る小川は林間区間でタイム差を広げる展開となり、見事全日本選手権を制すことができた。
最後は自身の強みであるフィジカルで優勝を勝ち取る形となったが、小林や渡部に対抗するために入念な準備をして手に入れたテクニックがあったからこそ、フィジカルで圧倒できたのではないだろうか。
今回男女エリート共に昨年の大会で2位となった選手が優勝する形となったが、これは決して偶然ではない。
悔しさをバネに、入念な準備をしてきたからこそ今回の結果につながったのではないだろうか。
他の選手たちが準備を怠ったわけでは決してない。ただ、「勝ちたい、全日本のタイトルを獲りたいという思いが一番強い選手のもとにタイトルがいった」という三船氏の言葉のとおり、今回は2人の新チャンピオンの思いが誰よりも強かったのではないだろうか。
今回男女エリートおよび男子U23で優勝した選手たちを含め、6名の選手たちがオランダで開催される世界選手権へ出場することが発表されている。日本代表が世界選手権に出場するのは2020年以来3年ぶりになるが、全選手がベストを尽くせることを願いたい。
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