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マチュー・ファンデルプールが初優勝! 渾身アタックで最後の5.5kmを独走|ミラノ~サンレモ

ロードレースのクラシックの中でも、とりわけ伝統と格式のあるレースである「モニュメント」の1つ、ミラノ~サンレモの2023年大会が3月18日に開催された。全行程294kmと、ワンデーレース最長距離で争われた戦いは、勝負どころ「ポッジオ」でアタックを成功させたマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク、オランダ)が、最後の5.5kmを独走。2位以下に15秒以上の差をつける完勝で初の大会制覇となった。

春のクラシックシーズン本格到来を告げる

ミラノ~サンレモは、春のクラシックシーズンの本格化を告げるレースとして名高く、イタリア語で「ラ・プリマヴェーラ」(春)との愛称を持つ。初開催は1907年で、今年は114回大会にあたる。

コースは全体的に見れば平坦基調ではあるものの、ところどころ登坂区間があり、これらが勝負を左右するポイントになる。特に終盤の2カ所、フィニッシュ前約27kmから上り始める「チプレッサ」、そして同じく約9kmから上る「ポッジオ」では一気にスピードが高まり、ポジション争いも激化。ポッジオでアタックがかかるのは必至で、頂上からのテクニカルなダウンヒルとその後の平坦では逃げたい選手とスプリントを狙う選手との駆け引きが見もの。フィニッシュまでは5.5kmで、あっという間に決着を見ることになる。

©️ LaPresse

25チームから175人が出走したレースは、リアルスタートから15kmほど進んだところで飛び出しに成功した9人が先頭グループを形成。そのまま先導をするが、メイン集団は彼らに大きなリードを許すことはせず、最大でも3分程度にとどめながらレースを進めていく。ユンボ・ヴィスマやトレック・セガフレードが主となって集団のペーシングを担った。

しばらくは静かに進んだプロトンだったが、最初の登坂区間であるトゥルキーノ峠でジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ、フランス)やヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)らが巻き込まれるクラッシュが発生。スピードが上がっていなかったこともあり、各選手とも大事には至らず。フィニッシュまで約150kmを残していたこともあり、どの選手も問題なく集団へ復帰している。

©️ LaPresse

それからは逃げ9人、メイン集団の構図は100km以上保たれたまま進行。慌ただしくなっていったのは残り55kmを切ってからで、登坂区間で逃げに脱落者が出始め、メイン集団でもチーム単位でのポジション争いが見られるようになる。落車する選手も現れ、残り46kmでアレクサンデル・アランブル(モビスター チーム、スペイン)が、残り35kmを切ったところではサム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ、アイルランド)ら4人が地面へと叩きつけられてしまう。ベネットは立ち上がることができず、この時点でレースをやめている。

先頭グループは250km近く逃げ続けたが、猛然とペースを上げたメイン集団のチプレッサの目の前でキャッチされる。ここからはチームごとの主導権争いへと移り、ロット・デスティニー、イネオス・グレナディアーズ、UAEチームエミレーツと代わる代わる集団先頭へ。優勝候補と目される選手たちが次々と前線へ位置を挙げる一方で、注目株の1人であったアルノー・ドゥリー(ロット・デスティニー、ベルギー)が遅れて優勝争いに絡むことができなかった。

チプレッサを終えたところでニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)が単独で抜け出す場面があったものの、レースの流れを変えるほどのものとはならず、集団へと戻っている。残り15kmを切ったこの段階で、メイン集団には70人が残っている状況。イネオス・グレナディアーズ、EFエデュケーション・イージーポスト、バーレーン・ヴィクトリアスが集団の前方を固めつつ、最重要区間のポッジオへと急いだ。

©️ LaPresse

マチューのアタックにワウトもポガチャルもついていけず

フィニッシュまでは残り9km。ポッジオの上りでまず主導権を握ったのは、前回覇者マテイ・モホリッチ(スロベニア)を擁するバーレーン・ヴィクトリアス。アシストの人数をかけて一気に集団を縦長にする。そのまま中腹まで進むと、今度はティム・ウェレンス(UAEチームエミレーツ、ベルギー)がタデイ・ポガチャル(スロベニア)を引き連れて先頭まで上がってくる。すぐさまマチュー、フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ、イタリア)が続き、モホリッチ、ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)、マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)もポジションを上げる。

先頭付近に役者がそろったところで、ワウトの番手につけていたマッテオ・トレンティン(UAEチームエミレーツ、イタリア)が意識的にスピードを落として中切れを発生させる。これで集団が完全に割れて、8選手が先行した状態で上りを突き進んでいく。後続はペースが緩み、前を行く選手たちに追いつくのが難しくなった。

©️ Tim De Waele-Getty Images

最前線では、頂上まであと1.1kmのところでポガチャルが満を持してアタック。これに対応できたのはガンナ、マチュー、ワウトの3人だけ。モホリッチ、ピーダスン、セーアン・クラーウアナスン(アルペシン・ドゥクーニンク、デンマーク)は引き離され、2番手パックに。

©️ LaPresse

そして決定打は残り5.5kmで生まれた。ポッジオの頂上が見えてきたところでマチューがアタック。勢い十分の仕掛けには誰も即座の反応ができず、マチューとライバル3人には5秒ほどの差がついてダウンヒルへ。下りではワウトが積極的に追撃の姿勢を見せるが、ラインを乱すことなく加速するマチューとの差は開く一方。この下りを終えた時点でマチューと追走3人との差は6秒。

最後の平坦区間でもタイム差は変わらず。むしろ残り1kmを切って追走メンバーが牽制を始めたことから、フィナーレのローマ通りに入る頃にはその差は一層大きなものに。これで勝利を確信したマチューは、ジャージのファスナーをしっかり閉めて、沿道のファンに盛り上がるようあおりながらミラノ~サンレモ初優勝のフィニッシュを迎えた。

©️ LaPresse

舞台は北のクラシックへ移る

28歳のマチューは、今年2月にシクロクロス世界選手権で優勝。2年ぶり5回目のマイヨアルカンシエルを獲得した。その後はロードシーズンに向けた調整にシフトし、3月4日のストラーデ・ビアンケでシーズンイン。ティレーノ~アドリアティコでは、エーススプリンターのフィリプセンのリードアウトを担いながら全7ステージを走り終えていた。

そしてミラノ~サンレモ初優勝。モニュメントではロンド・ファン・フラーンデレンを2回制しているが、そこに新しい勲章を加えることとなった。62年前の1961年には祖父のレイモン・プリドールがこの大会を制覇しており、世代を超えた偉業ともなった。この先は当然北のクラシックを目標とし、4月2日のロンドで3度目の優勝を、4月9日のパリ~ルーベでは初優勝を目指すことになる。

©️ LaPresse

最後の最後までマチューを追い切れなかった追走メンバーは、ローマ通りで早めのスパートに出たガンナが2位。ポガチャルを振り切ったワウトが3位となり表彰台を押さえた。結局マチューとこの3人との差は15秒だった。

294kmの長丁場にあって、リタイアした選手はわずか5人。完走率は97%だった。

©️ LaPresse

優勝 マチュー・ファンデルプール コメント

©️ LaPresse

チプレッサで追い風だったので、チームメートにはポッジオ上り始めのポジショニングを意識してほしいと伝えていた。クインテン・ヘルマンスとセーアン・クラーウアナスンが素晴らしい仕事をしてくれて、私を先頭まで送り出してくれた。ポッジオではもう少し早めにアタックする予定だったけど、思っていた以上にタイム差がついたのでダウンヒルではリスクを負わないことにした。攻め具合としては80%といったところ。クラッシュしていたら悔いが残っていたと思うが、仮に後ろに追いつかれたとしてもスプリントに備えられたと思う。

過去3回出場したミラノ~サンレモではディフェンシブになりすぎていた。モニュメントの中では最もイージーだが、最も勝つのが難しいモニュメントでもある。祖父の大会制覇から62年経った今、自分自身が勝ったことを誇りに思うし、本当にうれしい。

ミラノ~サンレモ 結果

1 マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク、オランダ) 6:25’23”
2 フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ、イタリア)+0’15”
3 ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)
4 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
5 セーアン・クラーウアナスン(アルペシン・ドゥクーニンク、デンマーク)+0’26”
6 マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)
7 ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)
8 マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア)
9 アントニー・テュルジス(トタルエナジーズ、フランス)
10 ヤスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード、ベルギー)

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PROFILE

福光俊介

福光俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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