全8ステージ・フルスペック開催のTOJ2023、各選手そして栗村 修氏からのコメントでレースを振り返る
Bicycle Club編集部
- 2023年05月30日
5月21日から28日の8日間にかけて開催されたツアー・オブ・ジャパン2023(以下、TOJ)。
4年ぶりのフルスペック開催となり、日本国内チームに所属する選手たちによるステージ優勝や岡 篤志(JCL TEAM UKYO)の活躍で大きな盛り上がりを見せた今年のTOJ。
各ステージにおけるレース模様はすでにお伝えしてきたとおりだが、今回は大会最終日に行われた各ジャージ獲得者へのインタビューや、ステージ1勝と総合3位を獲得した岡へのインタビュー、そしてレースディレクターである栗村 修氏へのインタビューをもとに8日間のレースを振り返る。
INDEX
昨年9月の大ケガから復活したネイサン・アール(JCL TEAM UKYO)
富士山ステージでステージ優勝し、個人総合でも2年連続の優勝となったネイサン・アール(JCL TEAM UKYO)。
結果だけ見れば昨年と同様のパフォーマンスを発揮したように見えるが、ここまでの道のりは決して楽ではなかった。
昨年9月、練習中に大ケガを負い、手術やリハビリを経てレースに復帰したのは今年4月のツアー・オブ・タイランドだった。
ネイサンは現在の状態について、「現在の身体的なコンディションからすれば、コンディションとしては100%の状態にまで戻せたと思います。ただ、ケガをする前の状態に戻せたかというとそうではないです。肩の位置がずれていたり、腕がしっかりとは伸ばせないといったこともあり、その状態に合わせてポジションを変えるなど、現在の身体的コンディションに合わせる必要がありました。実際、まだ首や肩、腕に痛みが残っています」とケガの影響がまだ残る状態だと語る。
それでも「現在の状態で勝てたということで、今回の大会は特別な意味を持つ大会になりました。今後はもっと状態が良くなると思いますし、シーズン後半には体内にある金属プレートを除去する予定なので、手術が終われば以前と同じ状態に持っていけるのではないかと思っています」と前向きなコメントをネイサンは残す。
ネイサンは今大会を「今年は8ステージでの開催に戻り、本当の意味でTOJが戻ってきたなと思っています。TOJはショートTTや富士山ステージなどさまざまなコースが用意されていて、すべての選手がどこかのステージで活躍できる、すべての選手に適したコースが用意されていたと思います。富士山ステージでGC(総合)を決めましたが、全体的にとてもバランスの取れたTOJで、すべてのステージがエキサイティングで、でも簡単なステージは一つもありませんでした。各ステージは少し距離が短いと感じる部分もありましたが、集中しながら走ることができました」と振り返った。
初来日でステージ3勝、ポイント賞と新人賞を獲得したトリニティ・レーシング
選手全員が新人賞対象となる年齢の選手で出場したトリニティ・レーシング。
本誌ではチーム、そしてルーク・ランパーティについて個別に取材をし、トリニティ・レーシングというチームがどういうチームなのか、そしてルーク・ランパーティの素顔に迫った。詳細はこちらの記事を参照いただければと思うが、本記事では東京ステージ終了後に行われた囲み取材でのコメントを紹介する。
ステージ3勝、そしてポイント賞ジャージを獲得したルーク・ランパーティは「今回が初来日でしたが、最高の成績を残すことができました。TOJはとてもハイレベルで素晴らしいレースだと思います、勝つことは簡単ではありません。また日本に戻ってこられたらと思います」と今大会を振り返る。
そんなランパーティをアシストし、富士山ステージでは11位に入り新人賞ジャージを獲得したリアム・ジョンストンは「今回が初来日でしたが、良い結果を残すことができました。自分が普段走っているレースとは異なっていましたが、それぞれのステージで特色があり、各地域で異なる景色を見ることができました」と振り返る。
「TOJはとてもハイレベルなレースだと思います。ヨーロッパとは違うレースですが、勝つことは簡単ではないです」
2年連続で特別賞ジャージを獲得したレオネル・キンテロ(ヴィクトワール広島)
昨年はマトリックスパワータグから出場し、ポイント賞ジャージを獲得したレオネル・キンテロ・アルテアガ(ヴィクトワール広島)。
今年はヴィクトワール広島に移籍しての出場となったキンテロは、信州飯田ステージでの逃げにより山岳賞ポイントを大量に獲得すると、富士山ステージでもポイントを獲得。相模原ステージでは兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)との3度に渡る山岳賞ポイントでのスプリントを制し、逆転で山岳賞ジャージを獲得するに至った。
キンテロは今大会を「8ステージ開催のTOJは今回が初出場でした。8日間ととても長かったですが、海外からのチームも多く、レベルの高いレースだったと思います。そんな中で山岳賞ジャージを獲得することができ、とてもいい経験ができました。また、総合でも10位以内に入ることができ、良い結果を残すことができました」と振り返る。
昨年とは異なる賞ではあるが、2年連続での特別賞ジャージを獲得することができた点については、「去年はポイント賞ジャージ、今年は山岳賞ジャージを獲得と、異なるジャージを獲得できてうれしく思います。特に今年のようなレベルの高いTOJの中でジャージを獲得することができ、うれしいです。個人としてもチームとしても山岳賞はとても大切なものだと感じていますし、昨年に続いて特別賞ジャージを持ち帰ることがで、うれしいです」と語った。
ステージ1勝、そして総合3位を獲得した岡 篤志(JCL TEAM UKYO)
昨年に続き今年は信州飯田ステージでの優勝となり、2019年以来となるリーダージャージの獲得、最終的には個人総合3位となった岡 篤志(JCL TEAM UKYO)。
「当初のプランとは異なっていたが、レース展開もあってステージ優勝することができた」と信州飯田ステージでの囲み取材で語っていた岡に、改めて今大会を振り返ってもらった。
「チームとしても個人としても大成功のTOJになりました。チームとしてUCIポイントを大量に獲得することもでき、UCIランキングもかなり上がったと思うので、良かったと思います」と岡は今大会を振り返る。
JCL TEAM UKYOはアジア、そしてヨーロッパのレースで活躍することを目標に掲げている。
2020年から2022年までの3年間ヨーロッパで活動していた岡は「フィジカル面で伸び悩んでいた部分もありましたが、今回チームのサポート体制も非常に良く、トレーニングにも集中できているので、これまでできなかったことが今回はできるんじゃないかと思っています。実際、今回のTOJでは良い結果が残せましたし、成長も実感できたので。ヨーロッパでも成績が残せたらなと思います」と今後の海外遠征に向け、今大会で自信を取り戻せたようだ。
レースディレクター・栗村 修氏による4年ぶりのフルスペック開催への振り返り
今大会でもレースディレクターとして活動した栗村 修氏に、4年ぶりのフルスペック開催、TOJとしての今後の方向性、そして富士山ステージの価値について話を聞いた。
各種レポートで何度もお伝えしているとおり、今年は4年ぶりに全8ステージ・フルスペックでの開催となったTOJ。
このフルスペック開催に対して栗村氏は「前半の4ステージがすべて4年ぶりということで、担当者の入れ替わりなどもあって不確定要素が多い中での開催となりましたが、全8ステージを終えて振り返ると、4年前と同等か、それ以上に安定感のある大会となりました。
不安要素があったおかげで入念に準備ができた部分もあったと思いますし、何より東京五輪のおかけで国際レースを開催するスタッフのレベルが上がったなと感じました」と振り返る。
岡や窪木の活躍、そしてそれ以上に目立った外国人選手の活躍について聞くと、栗村氏からは違う角度からの答えが返ってきた。
「チーム選考の段階から海外チームのバリューが低いとは言われてしまっていました。私がTOJのスタッフとして着任してから、TOJをワールドツアーのレースにしたいという目標がありましたが、実際ワールドツアーのレースとなってしまうと、日本のチーム・選手がワールドツアーレベルにならないと日本人が誰も出場しないレースを作ることになる。それでは全然意味がない。関わり始めてから10年近く経ちますが、まだまだレベルの差は大きいと感じています」と日本と世界の差はまだまだ大きいと栗村氏は語る。
「その中でTOJは過渡期にあると思っています。日本人選手も活躍していますし、日本のチームも好きですが、平均年齢がどんどん上がってきていて、でも世界とはどんどん差が広がっていて。今回トリニティのような若い選手たちのチームが大活躍しましたが、本来であればああいうチームが日本にもないと。TOJだけでできることではないですが、レース界全体で若返りみたいなことをしっかりとやっていきたいと思っています」
具体的に何かが決まっているわけではないですが、と前置きしつつ「TOJは8ステージあって、若い選手が8回国際レースを経験できる場なので、ワールドツアー化のような背伸びをする方向から、アジア版、日本版ツール・ド・ラヴニールにするというのが今後10年のTOJの新しい指針になるかと思います。急にU23のレースにしても国内チームも対応できないので、段階を踏んでやっていければ、そのメッセージは送っていかないと。そういう意味もあって今回はRTA(ロード・トゥ・ラヴニール)とも提携しました」
「ノウハウを持ったベテラン選手も必要ですが、全員がベテラン選手では未来がないので、遠くてもツール・ド・フランスへつながっていることが必要かなと。若手選手のステップアップの場になってもらえれば。TOJはもともと若手の登竜門的な部分があって、過去にはマイケル・マシューズやクリス・フルーム、ジャック・ボブリッジやメイヤー兄弟らが走っている。きついレースなので実力がある選手たちが上位にくる、そういう世界に向かう途中にあるレースであり、TOJで活躍した選手をワールドツアーのチームの関係者が見るようなイメージに持っていきたい。あそこで勝った選手は本物だよねと」と。
TOJを若手選手の活躍の場とし、これまで海外勢がTOJで活躍した上でワールドツアーへとステップアップしたのと同じように日本人の若手選手がステップアップできるようになれば、と栗村氏はTOJとしての今後の目標を語る。
最後に富士山ステージの存在についても聞いた。
富士山ステージだけで総合優勝が決まってしまう現在のステージ構成に対して批判の声があるのは事実だ。
その点について栗村氏に聞くと、「選手、監督時代は同じように富士山ステージで決まってしまうと思っていました。ただ、この立場で冷静になって考えると、スプリンターであるマシューズは富士山ステージで4位に入っていて、ユンボ・ヴィズマに在籍していたクリス・ハーパーも富士山ステージを優勝して総合優勝を果たしています。ハーパーが勝ったときは雄たけびをあげていて、ネイサン・アールも今回泣いていました。そういうステージが富士山ステージであり、力があれば勝ちやすいのが富士山ステージ。富士山ステージを外すのはどうなのかな? 同じようなサーキットレースでボーナスタイムで決まるようなレースはTOJではない、富士山ステージで勝って世界へ行ってほしいと思っています。TOJのレベルへと日本人選手のレベルを上げてきてほしい」と富士山ステージに対する栗村氏の思い、そして日本人選手に対するある種のエールを回答として返してくれた。
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