ツール・ド・フランスでの補給の方法に迫る|チームスタッフ目線で見るツール
Bicycle Club編集部
- 2023年07月08日
7月1日に開幕した世界最大のサイクルロードレース「ツール・ド・フランス」に、国内外のチームでマッサー・ソワニエとして活躍し、現在も現役スタッフである森川健一郎さんが帯同している。
「原点回帰」として、長年の経験をフィードバックするとともに、世界のトップチームが導入している技術をみずからの目で確かめるため、3週間のフル帯同を決意したという。そこで、“チームスタッフ目線”で見るツール・ド・フランスがいかなるものかを、数回にわたってレポートしてもらおうと思う。
第1回は、「レース時の補給」について。かつて一緒にヨーロッパのレースをめぐった“同志”でもある、イネオス・グレナディアーズのケアラー、ヤチェック・ヴァルツァック(Jacek WALCZAK)さんに話を聞いている。
コース中7カ所で補給を行う
第3ステージ。大会3日目にしてようやく、イネオス・グレナディアーズで働く友人のJacek WALCZAKさんに会えた。
彼には聞きたい話がたくさんある。世界トップのチームで働く彼は、今日のチームスタッフの動きや、仕事に関するノウハウを多数有しているはずである。この大会期間中にあらゆるアプローチから話が聞ければと思う。今日は、補給やレース後の選手のリカバリーなどについて聞かせてもらった。
まず、レースにおける「マッサー」「ケアラー」といった役職のスタッフの動きとしては、大まかにではあるが以下の3つに分けられる。
①レース前の準備
②補給についての準備
③レース後のリカバリーについての準備
今回は、主に②・③について彼に質問をしてみる。よく「フィードゾーンで選手たちにどんな飲食物を渡しますか?」といった質問を見聞きするが、今回はスタッフ目線からの質問とさせてもらう。ツール・ド・フランスにおける「Hydration strategy」(給水戦略)へのトップチームとしての考えを確認してみたいと常々思っていた。
ヤチェックによれば、「補給の回数については、コース中メインとなるフィードゾーンでの補給を手始めに、計7回もの補給を数人のスタッフで手分けして行う」とのこと。これはヨーロッパのラインレース特有のものだが、200kmのレースであれば前後30kmをのぞき、じつに20kmごとに補給できる準備をしているのだという。加えて、チームカーから補給するケースもある。
チームごとに戦略は違うので全チームが同じではないにせよ、徹底ぶりが伺えるところにワールドツアーチームの本気度を感じた。これを可能にするのは、抱えられるスタッフの人数であることは間違いない。
そしてミュゼット(サコッシュとも呼ばれる)の中には、ボトルが3本・食べ物(バー・ジェルなどの補食)を中心に入れて各ポイントで補給を行う。それをアシスト陣がキャッチして、選手同士でシェアする……という流れ。
天候・気温に応じて、ミュゼットの中にはアイスソックス(アイスネットに氷を入れる。これは日本でも多く用いられる)を入れておく。そうして、暑熱環境下での冷却を随時行なっていけるようにする。
昨今のレースシーンでは、深部体温における過度な上昇がパフォーマンスを妨げる一因になっているという考えのもと、パワーメーターなどと同じように「深部体温を可視化するデバイス」の利用を積極的に行なっているチームもある。
グランツールに出場するような百戦錬磨の選手たちは、チーム内での競争をも突破し臨んでくるのである。暑さなど、さまざまな状況に肉体レベルで適応できるようなトレーニングをしていることは容易に推察される。それでもなお、万全を期し準備をするところこそが、ワールドツアーのワールドツアーたるゆえんだと言えるだろう。
彼はこれらを当たり前のことのように説明をしてくれたが、その言葉からは経験に裏打ちされた確かな自信を感じさせてくれた。
次回は「レースフィニッシュ後のリカバリー」についてお届けする予定です。
森川健一郎
コンディショニング・トレーナー
アスレチックトレーナー
インディバ・アクティブ セラピスト
自転車ロードレースチームスタッフ
柔道整復師
BLUE CORN SPORTS 代表
略歴
2004〜
自転車ロードレースのスタッフとして活動を始める。
同時に、数多の方々の協力でイタリアへソワニエ修行のチャンスをいただく
2005〜2008
ナショナルチームスタッフとして活動
2008〜
日本国内でのスタッフ活動を中心に、主にアジア・オセアニアツアーで現在も活動
自転車チームスタッフ歴約20年
2012〜
スキー競技、アルペン・クロスカントリーのジュニア・育成年代のトレーニングに自転車を取り入れた、基礎体力育成・強化トレーニングセッションを通年で開催している。
2015〜
ワールドツアーのチームや多くのトップ選手のケアにも多数導入されている「インディバ・アクティブ®️」のセラピストとして、一般の方から選手まで、ケガ等のアフターケア〜スポーツコンディショニングケアをスタッフ活動と並行して行なっている。
1969年(昭和44年)生まれ
静岡県静岡市(旧清水市)出身
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- CREDIT :
- TEXT:森川健一郎 PHOTO: A.S.O./Charly Lopez A.S.O. / Pauline Ballet Syunsuke FUKUMITSU EDIT:福光俊介
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