【埼玉・入間川】狙うは清流の女王、あるいは淀みに潜む川の主|BIKE&FISH
小俣 雄風太
- 2023年09月10日
前回は北海道・ニセコでの遠征釣行をお届けしたが、今回はぐっと地に足をつけて、身近なロケーションでのBIKE&FISHを深めたい。ターゲットは夏の風物詩、アユとナマズだ。一日でターゲット2魚種を狙うという、本連載では初の試みに挑む。
毎回釣れない時間にじりじりするこの取材、それが2倍になると思うと我ながらプレッシャーを感じるが、フォトグラファーの田辺氏も先行きに不安な表情を浮かべている。しかしうまくやれば1本の釣り竿で、ひとつの川で2種類を釣ることができるとあっては、チャレンジしないわけにはいかない。
埼玉県西部の峠道を目指すサイクリストたちを見送りながら、我々は入間川へと自転車でやってきた。
一日に一本の竿で狙う、美女と野獣
「清流の女王」アユと、「淀みに潜む川の主」ナマズとでは、大きく釣りの趣向が異なっている。実際、この2魚種の見た目は全く違っていてさながら美女と野獣である。しかし昼に活動するアユと夜行性のナマズは同じ川に生息し、狙い方によっては1本の釣り竿で、一日をかけて楽しむことができるのだ。
コンパクトな道具立てと、ポイントをテンポよく巡る機動性。これこそ、BIKE & FISHにうってつけのターゲット。ひとつの川を1本の釣り竿で、釣り方と時間帯を変えることで、果たして2種目達成なるか。身近なビッグチャレンジでもある。身近な、というのはこの釣りは都市型河川で充分に可能だから。
アユとナマズは同じ魚!?
今回の舞台は、埼玉県西部の入間川。関東圏のサイクリストにはおなじみの荒川に注ぐ支流で、奥武蔵グリーンラインへのアクセスがいい飯能市を流れている。知らずのうちに近くを通っているサイクリストも多いのではないだろうか。
今回、アユとナマズを一日で狙うのには言葉遊びの側面もある。アユは漢字で書くと鮎だが、これは中国ではナマズを表す漢字。日本でもかつてはナマズを示していたことは、室町時代の水墨画である国宝の「瓢鮎図」を見てもわかる。この絵では、いかにしてつるつるのヒョウタンで鱗のないぬるぬるのナマズを抑えるか、という禅問答が描かれている。いつからかナマズには現行の鯰という漢字が当てられ、鮎という漢字はアユを指すようになったそうだ。言葉遊びの域は出ないが、いざ「鮎」釣りを自転車で楽しもうではないか。
アユがルアーで狙えるようになった
ところで、アユは日本の釣り界における大スターである。友釣りという日本独自の釣法は世界に誇る釣り文化だ。これはアユが餌とするコケの周りに縄張りを持つ習性を利用したもので、オトリアユとよばれる生きたアユをその縄張りに通すことで追跡させ、引っ掛けて釣るもの。技術や道具に趣向の余地が多いにあり、今日でも多くの人々を魅了する釣りのスタイルだ。
しかし自転車で釣るには相性が悪い。生きたアユを運ぶのに難儀するし、長い竿を使用するなど道具立てもかさばる。それゆえに敷居の高い釣りではあったのが、近年流れが変わりつつある。
それはアユのルアーフィッシングの流行。基本的に疑似餌を使った釣りというのは、魚に餌だと思い込ませる食性に訴える釣りだが、このアユルアーは、先述の縄張り習性に訴える。つまり、餌場を荒らすライバルアユをルアーで演出することで、釣るというもの。
荷物がコンパクトになるルアー釣りがこのBIKE & FISHと好相性であることはこれまでの連載でもお伝えしてきたとおり。これはトライするしかない。
アユ用のルアーと、夜にナマズを釣るためのルアー。ロッドとリールは共用できるのでワンセットのみ。取り込み用のネットと、仕掛け少々があれば準備はOKだ。バイクパッキングの仕立てならネット以外は収まってしまう。
快適にペダルを回しながら、良さそうなポイントを探す。アユ釣りの有名河川であれば、駐車スペースの問題が常につきまとうが、バイクだと川沿いに走って良いポイントに気兼ねなく入れる。路面の荒れた箇所も少なくないが、やはりグラベルロードはこのスタイルにドンピシャなバイクだとほれぼれ。
初めての一尾に打ち震える
今さらではあるがアユのルアー釣りをするのはこれが初めてだ。のみならず、アユの友釣りも大昔に一度したことがあるのみで、ポイントはおろかどうルアーを動かせば良いかもわからない。完全に初めての釣りである。しかし、釣りはこの試行錯誤感が楽しいものでもある。目的の一尾に至るまでのプロセスに難儀が多ければ多いほど、その喜びは大きいものだ。
入間川の中流域を走っていると、川の中にきらきらとアユが光っているのが見える。慌てて降りていき、釣りを開始する。サイクリストからアングラーへのスイッチを入れるのだ。
アユはすぐに応えてくれた。ちょっとした深みにルアーを通した刹那、ぐぐぐっと竿に重みが! 流れの中ということもあってひたすら重く感じる。そして右に左にと突っ走る。あまりにパワーを感じるので、コイか何かが掛かったのではと半信半疑で引き寄せると、そこには立派な体躯の清流の女王がいた。無事にネットイン。
初めての一尾に、手は少し震えていた。それにしてもなんと美しい魚だろう! そして爽やかな香りが立つ。鮎がナマズだった時代は、アユに香魚という漢字が当てられていたことを、後から思い出すのだった。
日が暮れてからも本番。自転車と釣りの長い夏の一日
その後もポイントを移動しながら夢中になってアユ釣りを楽しんでいると、日が暮れてきた。そろそろルアーを付け替える時間だ。暗闇の中で、今度はナマズを狙う。
夜の部、ナマズ釣り
ナマズはアユと違って、流れのない淀みを好むため、バイクを走らせながらポイントを探っていく。闇夜の中でしばらくルアーを投げ続けていると、「ガボン」と反応あり! しかしこれは手元で針が外れてしまい逃げられてしまった。50cmはくだらないナマズ、先ほどのアユも充分大きいと感じたが、やはり迫力が違う。たくさん泳いでいたアユは、こうしたナマズたちの格好の獲物でもある。食物連鎖さもありなん。
ナマズのルアー釣りは水面で音を立てる釣りなので、数回ポイントを通したらもう釣れない。粘るのではなく、移動。ここでバイクの機動性が生きる。水の流れが穏やかで、静かな場所がポイントだ。そんなスポットで停車してはルアーを投げ込んでいく。「パシャッ」と今度は控えめな捕食音。やや小ぶりなナマズがようやく釣れてくれた。
これにて入間川の「美女と野獣」フィッシングはミッションコンプリート。ほっと胸を撫で下ろしつつ、釣れてくれたナマズを見ると、愛嬌があってこれはこれでかわいらしい。共に魅力溢れる2種類の「鮎」釣り、夏の終りの長い一日をたっぷりとBIKE & FISHで楽しんだのだった。
※全国的に広まりつつあるとはいえ、アユのルアー釣りが許可されている河川や時期は限られています。かならず当該の漁業組合に確認の上でお楽しみください。
バイク&フィッシュin入間川のバイク&ギア
川に立ち込む夏の釣りは、2魚種を狙うとしても軽装だ。ライトにBIKE & FISHを楽しむにはうってつけ。
ひとつの川を釣り走る
この連載のメインバイクであるシムワークスのDoppo ATB。ブルックスのフレームバッグとラファ×アピデュラのサドルバッグで釣具や工具などはひとしきり収納が可能だ。今回はウェーディングシューズで漕ぐことが増えることを想定して、ペダルを三ヶ島ペタルのフラペであるグラファイト-XXに換装。これがとても調子良かった。
今回はライド距離もそこまで長くないため、サイクリングショーツではなくブリングの水陸両用ショーツを着用。濡れてもすぐ乾くのでとてもラク。サドルバッグに入れておいた帽子は釣りをする際にかぶる。ブローディンのランディングネットはマグネットで背中に装着しており、ライドの際も安定する。
昼と夜、一本の竿で楽しむ「アユ&ナマズ 釣りタックル」
アユ釣り用とナマズ釣り用のタックル。いずれもコンパクトでほとんど荷物にならないのが最大の魅力。
アユ釣り用
ロッドは パームスのショアガンSFGS-76M/P5。海の砂浜でのロングキャストを想定した一本だが、パックロッドで収納がコンパクトになり、胴調子で扱いやすい。アユルアーだけならもう少し長くてもいいと感じた。リールはダイワのセオリー2000番に、PE1号ライン。リーダーはフロロカーボンの4lbをセット。
ナマズ釣り用
ナマズ釣りもロッド&リールは共通。リーダーだけフロロカーボンの25lbに付け替えている。
小俣雄風太(おまたゆふた)
アウトドアスポーツメディア編集長を経てフリーランス。土地の風土を体感できる釣りと自転車の可能性に魅せられ、バイク&フィッシュのメディアを準備中。 @yufta
※この記事はBiCYCLE CLUB[2022年11月号 No.446]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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