【千葉・江戸川】自転車で釣る江戸前のハゼとシーバス。アーバンバイク&フィッシュに挑む|BIKE&FISH
小俣 雄風太
- 2023年09月12日
前回、盛夏のアユとナマズ釣りの好成績に気をよくして、秋の深まる11月は江戸前のハゼ&シーバスと洒落込んだ。ハゼはその釣り文化も含めて江戸前の重要魚種であるし、シーバスは国内でも屈指のフィールドがここ江戸川なのである。いずれも秋はその釣りの盛期とされ、休日ともなると沿岸部は多数の釣り人で溢れかえる。これまで郊外の大自然の中で釣行を重ねてきた本連載も、都市部でのその可能性に挑戦しようではないか。
この地でバイクショップを営み、いつしか釣り好きになってしまったという「…&Bicycle」の渡辺誠一さんをガイドにお迎えし、共に走り、共に釣る。ローカルのライダー兼アングラーとともに釣り場をめぐると、この地の見え方がより一層深まるようだった。
江戸前の魚たちは、我々にほほ笑むのか!?
江戸前・東京湾のシーバスは全国のアングラーの憧れ
今回のテーマは、江戸前のアーバンバイク&フィッシュである。東京湾で獲れる魚介類の総称である江戸前は、ある種のブランドとして高級料亭でもてはやされるが、釣り人にとっては存外になじみのあるエリアでもある。都市型の湾であるから護岸が敷かれ、足場もよく釣りがしやすい。そして自転車乗りにとっても、東京湾周辺はなじみ深い。ツアー・オブ・ジャパンの東京ステージは東京湾に臨む大井ふ頭であるし、絶景の房総フラワーラインを走れば陽光にきらめく東京湾の別の顔を見ることができる。
そんな江戸前で、狙うのは旬のハゼとシーバス(スズキ)。前回、アユとナマズを昼夜2部制で釣った好感触から、今回も昼にハゼを、夜にシーバスを狙うという算段だ。都市型の釣り場では、意外とクルマが停めにくく、また駐車場も有料だから、やっぱり自転車で釣りに行くのが気楽でよい。江戸前というテーマにふさわしい釣り場ということで、今回は東京・千葉の境を流れる江戸川をチョイス。ナベさんこと渡辺誠一さんにガイド役をお願いした。
ナベさんは千葉県・南行徳に店舗を構える「…&Bicycle」のオーナー。自転車の他バスケットを愛するスポーツマンであったのだが、この数年は釣りに熱中。なんといっても、お店のすぐ近くを流れる川でシーバスが釣れること、そしてそのゲーム性の高さにすっかり魅了されてしまったらしい。今回のスタート地点であるお店の中に足を踏み入れると「……釣具屋になってる!」。ショーケースの自転車パーツの合間には、ルアーがぎっしり。これは心強い先達を得たとばかりに、身支度を整えて走り始めた。
近年ブームの“ハゼクラ”に初挑戦
しかし、である。この日の第一部、ハゼ釣りからして関門なのであった。東京湾の秋の風物詩、ハゼ釣り。ビギナーでもたくさん釣ることができる易しい釣りではあるが、今回は近年ブームの「ハゼクラ」で狙う。小型のクランクベイトという疑似餌を使う、ハゼのルアー釣りである。この連載は基本的にすべてルアー釣りを中心にしているが、それは道具がコンパクトであること、餌を買うために大移動をしなくていいことなど、バイク&フィッシュと相性が良いからである。問題は、この「ハゼクラ」をナベさんも、僕も全くの未経験であること。釣り場もわからなければ、釣り方もわからない。見切り発車気味に走り出したのだった。
このあたりをよくライドしているナベさんは、江戸川でハゼ釣り師の多いスポットはチェック済み。ご多分に漏れず河川敷は砂利道のオンパレードで、やっぱりグラベルロードが調子いい。クランクベイトをしばらく投げてみるが、反応はない。正直、ハゼくらい簡単に釣れるだろうとタカをくくっていたが、アタリすらない状況に、嫌な予感が走る。釣れないのはポイントのせいとばかりに、江戸川を上って下って、よさそうなポイントにルアーを投げ込むも、釣れない。貸しボート屋さんの前には、ハゼを釣る人たちの船がたくさん浮かんでいる。
船の発着場所がハゼ釣りのための桟橋も兼ねており、わらにもすがる思いで料金を払い、しばしルアーを投げ続ける。手を変え品を変え、夕方近くまで粘ったけれど、無情にも魚信はなし。隣では餌釣りの家族連れがひんぱんに釣っているだけに、余計に堪えるボウズなのであった。江戸前のハゼ、天ぷらはまたいつの日か……。
ナイトライド&フィッシュ、大人の遊び
後半戦のターゲットであるシーバスは、スズキという名前の方が通りがいいかもしれない。海や河口、ときに河川を遡上して東京湾エリアに広く生息する肉食魚で、その釣り味がブラックバスに似ていることから海のバス、シーバスと呼ばれるようになった。
東京湾は国内屈指のシーバス生息密度を誇るとされ、江戸前を代表する魚でもある。おさかな天国沖縄の釣り人をして、シーバスは憧れとも言わしめる。それだけ釣趣もよい。
夜の一瞬、水面がざわめいた
夜の帳が降りる。秋の日暮れは早いが、それだけ夜行性のシーバスを狙う時間は増えるということでもある。冬に産卵するシーバスは、栄養を蓄えようと秋に荒食いをする。釣りにおいてベストシーズンだ。バイク&フィッシュは必然的にナイトライドになるため、装備も抜かりなく準備しておきたい。街の灯を縫うように進んで、江戸川河川敷へ。釣り場までダイレクトに移動できるのは、いつだって正義だ。土手に自転車を置き、ルアーを投げ込んでいく。
すると唐突にロッドが絞り込まれた! シーバス特有のエラ洗い(針を外すため首を振りながらするジャンプ)をかわしきって、ランディング成功。なんとも立派な、70㎝を超えるシーバスだった。その迫力に、ちょっと膝が震えた……。ガイド役を買って出たナベさんも、「いやいや、釣れてよかった。これで記事になるね。ボクは釣れなくてもいいから、釣ってほしかった」とようやく出た一尾に安堵の表情。その後アタリが遠のいたので、再び自転車に乗ってポイントを探る。
都市部だからこその、夜の美しさ
江戸前の釣りは華やかだ。街灯が多くて明るいし、それが水面に反射する様子は幻想的ですらある。ヨーロッパではストリートフィッシングという、街なかを流れる川で普段着のまま釣りをするスタイルが若者を中心に流行しているが、ここ江戸前も、そんなフィールドである。
ナベさんは相変わらず淡々と、集中した面持ちでルアーを投げている。物静かな彼は、果たして待望の一尾がかかったときでも、落ち着いていた。駆けつけると、狙いどおりの魚を手にしたナベさんの表情がすべてを物語っていた。釣れなくてもいい、なんてことはない。やはり釣り人は釣りたいのだ。帰路、ペダルも会話も軽快でスムーズなのだった。自転車と釣りって、いい遊びだ。真冬になるまで江戸前の魚は遊んでくれるだろう。ナベさん、次はいつ行きますか?
バイク&フィッシュin江戸川のバイク&ギア
河川敷のグラベルと、都市部のオンロードの両方を軽快に。ここはやはりグラベルロードの出番!
昼と夜、2種類の釣りを楽しむ江戸前スタイル
ナベさんの愛車はクオリスのオールロード。チタンバイクの匠が生み出す乗り味は絶品。アウターシェルのフレームバッグなどショップカラーのブルーをアクセントで各所に配す。
ボトルケージにはサーモスの真空断熱ケータイマグ。冷える秋のバイク&フィッシュに温かい飲み物が落ち着く。
小俣はハゼとシーバス、2種類の対象魚に合わせロッドを2本持ち込んだ。適度なフレームバッグに出合えておらず、直でトップチューブに固定。破損のリスクもあるのでなるべく避けたい。
渡辺誠一(わたなべせいいち):千葉県南行徳のバイクショップ「…& Bicycle」オーナー。ロードバイクからグラベル、シクロクロス、MTBとあらゆるジャンルに通じるサイクリスト。数年前にルアーフィッシングと出合ってからのめり込み、店の近くの川で釣れるシーバスに傾倒。バイクショップなのに釣り具が結構なスペースを占め始めている。
…& Bicycle(アンドバイシクル)
千葉県市川市南行徳3-18-22 yawara part5 1F
TEL.047-727-4171
http://andbicycle.blogspot.com
東京メトロ東西線、南行徳駅から徒歩3分。今回のフィールドとなった江戸川にもほど近いバイクショップ。ロードバイクからMTB、シクロクロスまで、マルチライダーでもある渡辺さんはメンテナンスやライドも積極的に行っている。釣り人なら、店舗奥のショーケースに注目。クリスキングに並んで数々のルアーが展示されている。バイク談義、釣り談義に訪れてみては?
小俣雄風太(おまたゆふた)
アウトドアスポーツメディア編集長を経てフリーランス。土地の風土を体感できる釣りと自転車の可能性に魅せられ、バイク&フィッシュのメディアを準備中。 @yufta
※この記事はBiCYCLE CLUB[2023年1月号 No.447]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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