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【茨城・鹿嶋】あの星野リゾートが手がける、真冬のバイク&フィッシュとは!?|BIKE & FISH

真冬は困りものである。寒さゆえ自転車に乗るのは辛いし、寒さゆえ魚はなかなか釣れない。自転車に乗って釣りへ行く「BIKE & FISH」を掲げる当連載だが、そんな冬にどこへ行って何を釣るべきか? 本格的な冬を前に頭の痛い問題に直面していると、あの星野リゾートが「BIKE & FISH」を企画しているとの情報をキャッチした。今や日本の観光産業をけん引する星野リゾートまでもが、自転車と釣りの組み合わせに注目しているとは!

しかもこの取り組みは冬時期だけの特別企画だという。これはBIKE & FISH愛好家として体験せねばならない。だが、よくよく見てみると自転車で楽しく釣ろう、というよりも、自転車で苦しんで釣ろう、というメッセージが企画の裏に透けて見えるのであった……。ホテルリゾートでの快適な冬の釣り、なんてものは自転車釣人には幻想なのである。

「サバ」イバルな1日が始まる

全国にさまざまなブランドのホテルを持つ星野リゾートが、茨城県土浦市に展開しているホテルがBEB5(ベブファイブ)土浦だ。関東圏のサイクリストにとって、土浦市は自転車に力を入れている街として知られていることだろう。「カスイチ」こと霞ヶ浦一周や、ヒルクライムスポット筑波山をつなぐ「つくば霞ヶ浦りんりんロード」の起点であり、例年シクロクロスレースも開催され県内外のサイクリストを引きつけている。

JR土浦駅直結のBEB5土浦は自転車をそのまま持ち込めるホテルであり、訪れる人にサイクリング体験を提供するレンタサイクルも完備されている。幅広い人々へ開かれたホテルは、おしゃれ、の一言に尽きる。そんなBEB5土浦が放つBIKE & FISH企画が「サバイバルサバイシクル」である。……ん、サバイバル? なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ……。

サバを求めて往復120km!
……特製サバイシクルで

BEB5土浦の須永総支配人。目玉企画?でもある「サバイシクル」とともに

聞くと真冬の寒い時期に、土浦から片道60km(!)を走ってから鹿島港でサバを狙うというもの。もちろん帰路も自走で、合計120kmを走ることになる。サバの漁獲量日本一である茨城県を走って釣って楽しんでほしいということらしい。とことんサバイバルであるようにと、自転車は特製の「サバ」イシクル、釣りの仕掛けは3つのみ使用が許され、ロストしたらその時点で強制終了という。

どうせ冬は誰も乗りたがらないからヤケクソで企画を作ったのだろうなんて勘ぐってみるも、なんと今年で2年目。それに特製の自転車とヘルメットは、デザインにすさまじく気合いが入っている。ただのお笑い企画ではないのだ……。

誰が決めたか、魅力度ランキング

今回の舞台の茨城県であるが、こと観光面での悩みは尽きないようだ。都道府県魅力ランキングでは下位に甘んじている。2021年に最下位、2022年はひとつ順位を上げて46位というのが茨城の立ち位置。しかしサイクリストにとってはこうしたランキングは意味をなさない。観光名所よりも良い道と自然こそが魅力だからだ。

釣り人にとっては、茨城東部は日本屈指の水郷地帯。豊かな生態系と水辺の人々の営みを見ることができるのなら、それ以上に喜ばしいことはない。片道60km、自転車でじっくりと楽しもうではないか。……体力が持てばの話だが。

ひたすらに平坦路として紹介されることの多いカスイチ、だがバイク&フィッシャーとしては、たびたび登場する流入河川を渡るたびに高揚する。それぞれの川に違う表情があり、生命感に満ちた水面を真上からのぞけるのが何よりも楽しいのだ

レンコン、イタコ、ナマズ

サバイバルサバイシクルの朝は早い。12月の午前6時、日の出前の土浦市は氷点下である。フラットペダルを踏む運動靴の通気性が良すぎてつま先が痛い。しかし霞ヶ浦から上る朝日の美しさがそれを忘れさせてくれた。一部が凍っている蓮田に腰まで浸かる農家の方がいる。今が盛りのレンコンの収穫だ。

サバだけでなく、レンコンもこの地が全国一の生産量を誇るという。まだ半分眠っている街よりも、水辺の朝はだいぶ早い。

早朝のレンコン畑。水は凍りついているが、すでに収穫作業は始まっていて、農家の方は腰まで水に浸かりながら白い息を弾ませていた

霞ヶ浦湖畔は平坦である。釣り道具を詰め込んだクーラーボックスを搭載したサバイシクルで走る分にはありがたい。今日は釣り竿を出さないけれど、霞ヶ浦もまた豊かな水辺。いい季節にはまたBIKE & FISHで訪れないとな……と考えていたら、常陸利根川へと出た。

サバイシクルの走り方がつかめてきた。ヘルメットとのマッチングもバッチリだ。流線型のサバをイメージしてエアロなライディングフォームを意識。どれだけ効果があるかはわからないけれど……

水鳥の群れを見ながら川を下ると、そこは潮来の街。かつては鹿島神宮と常陸国の国府(現石岡市)をつなぐ陸路の駅があったらしい。図らずも、古来の道をサバイシクルで進むのだ。さて、潮来に来たからには釣り人として立ち寄りたいスポットがある。一度立ち寄ったら最後、何時間でも過ごしてしまいそうな潮来つり具センターだ。後ろ髪を引かれながらも、このあとのミラクルを祈願して先に進む。

潮来つり具センター。釣り人なら知らぬものはいないレジェンドアングラー、ミラクルジムこと村田 基さんのショップである。残念ながらこの日は不在

続いてルートに現れるのは鹿島神宮。ここもじつは、釣り人なら縁のある場所である。連載第4回で釣ったナマズは、古来から地震を起こすと考えられてきた。鹿島神宮にはその元凶の大ナマズを地中に封じる要石が祀られている。由緒正しいナマズの神社でもあるのだ。水郷地帯の神社にこうした伝説が残るのは自然なことに思える。

道すがら鹿島神宮に立ち寄る。この地中には大ナマズが封じられているという
ひたすらにペダルを漕ぎ続け、遠目に工業地帯の煙突とそこから吐き出される煙が見えてくるとそこは鹿嶋である。片道60km、なかなかの道のりだったが本番はこれから

ようやく釣り開始!

寄り道をしながら片道60km。釣り場の鹿島港魚釣園には12時過ぎに到着した。ライド中は気にならなかったが、堤防には風がびゅうびゅうと吹き荒れている。港の紳士にサバを釣りたいんです、というと「最近はしばらく釣れてねぇな」と、ツレない返事。どうやら、釣りの方もサバイバルなものになりそうだ。

ライドにはサバ寿司がランチとして付属する。敵を喰らい、いざ挑戦というわけだ

帰路のことを考えると、暗くなる前には走り出したい。釣りができる時間は数時間というところだが、これが一向にアタリがない。不慣れなサビキ仕掛けに悪戦苦闘しながら、冷たい風に吹き付けられた3時間。まったく反応なく、本連載始まって初めてのボウズ!

BIKE & FISHあるあるだが、釣れた日の帰路は軽やかにペダルが回るのに、釣れなければギヤ2枚ぐらい重く感じるのだ。クーラーボックスは空なのに、なぜ重く感じるのか。

帰路、黙々とペダルを踏みながら、ただ霞ヶ浦に沈む夕日だけが心を慰めてくれた。息も絶え絶えにBEB5土浦へ戻ってきたのは19時半。日の出前から日没以上に自転車に乗り、釣りをした僕を須永総支配人は温かく迎えてくれた。「お気になさらないでください。昨年からサバを釣った人はまだいないんですよ」……なんたるサバイバル!「サバイバルサバイシクル」は2月28日まで参加が可能とのこと。ぜひ、BIKE & FISHな読者のみなさまに挑戦いただきたい。見事サバを釣り上げた暁には編集部までご一報を。

もし釣れれば近隣の居酒屋に持ち込んで調理をしてもらえたのだが、ボウズのため店の通常メニューのサバの一夜干しを食す。貧果に涙がこぼれる。かなしい。だがこれもまた釣りである。120kmも茨城の道を堪能できたのだから、それでよしとしよう……

BIKE & FISH in鹿嶋のバイク&ギア

スペシャルバイクと釣具一式のレンタルから始まるサバイバルサバイシクル。イロモノ企画と思いきや、そこには星野リゾートの本気が詰め込まれていた……!

サバイバルサバイシクル

サバイシクル。ベース車両はミヤタのクォーツ エクセルアルファ。完成車で7万円以内というシティバイクだが、往復120kmの道のりをよく走ってくれた。目を引くサバのグラフィックはフレームとホイールの隙間にイラストをプリントしたパネルを配している。後ろ7段変速で、起伏の少ない土浦〜鹿嶋往復なら問題なし。タイヤも28Cでスポーティな走りだった。クーラーボックスや釣具を搭載するラックはトピークのMTX ビームラック Vタイプ。キャリアダボの無いバイクに釣具を積む方法としてスマートだ。

ハンドルの外付けライトとは別にサバライトも搭載。なんと食品サンプルの模型メーカーに発注したものだという。気合いの入り方に感服
ロッドホルダーがビス止めされるクーラーボックス。キャリアとはアタッチメントで簡単に着脱できる
KABUTOのKOOFU シーエス・ワンにスペシャルペイントが施されたサバヘルメット。後部まで凝ったカラーリングに、感服その2。ライド中、道行く人々から熱い視線が投げかけられるが、そこは毅然と、サバサバとしていたいものだ
釣具はダイワのリバティクラブとサビキ仕掛け。3セットしか与えられないので根がかり厳禁。実際、2時間の釣りでひとつロストした

星野リゾート BEB5 土浦

茨城県土浦市有明町 1-30 プレイアトレ土浦3階
TEL.050-3134-8094
@beb5tsuchiura

バイク&フィッシュなサイクリストの定宿か!?
「ハマる輪泊」が合言葉のBEB5(ベブファイブ)土浦は、とことんサイクリストのためのホテルだ。それでいて滞在しやすいリーズナブルな価格設定がうれしい。eバイクも種類をそろえてレンタルがあるから、家族や友だちを連れてきてカスイチにチャレンジするのも楽しいはず。愛車を持ち込める部屋も用意され、なんとお風呂に浸かりながら眺められるようバイクラックの配置にもこだわったという。オプションでバイクをベッドにまで持ち込める(!)サービスもあるとか。総じて館内、部屋ともに清潔でおしゃれ。ライドを早く切り上げて館内でまったりしたくもなるほどなのだ。ロビーには自分でペダリングしてミキサーを稼働させ、スムージーを作れるバイク・フェンダーブレンダーといった遊び心も。サバイバルサバイシクルでは、連れた魚を近所の居酒屋、笹揶さんに持ち込んで料理してもらえるようになっている。郷土料理を中心に食のレベルが非常に高くオススメ。

BEB5 土浦 公式サイト

 


小俣雄風太(おまたゆふた)
アウトドアスポーツメディア編集長を経てフリーランス。土地の風土を体感できる釣りと自転車の可能性に魅せられ、バイク&フィッシュのメディアを準備中。 @yufta

 

※この記事はBiCYCLE CLUB[2023年3月号 No.448]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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PROFILE

小俣 雄風太

小俣 雄風太

アウトドアスポーツメディアの編集長を経てフリーランスへ。その土地の風土を体感できる方法として釣りと自転車の可能性に魅せられ、現在「バイク&フィッシュ」のジャーナルメディアを製作中。@yufta

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