ヴィンゲゴーが山岳で圧巻の走り 後半戦レビュー|ティレーノ~アドリアティコ
福光俊介
- 2024年03月13日
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ティレニア海からアドリア海まで、2つの海をつなぐステージレース「ティレーノ~アドリアティコ」。今年は3月4~10日の会期で催され、海の王者を表すトロフィー“トリアイナ”をかけて戦いが繰り広げられた。個人総合争いは後半ステージに集約され、2つの本格山岳ステージでヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク、デンマーク)が圧倒的な強さを披露。2位以下に大差をつけて初優勝を果たした。
ヴィンゲゴーが山岳2連勝でリーダージャージをたぐり寄せる
個人タイムトライアルやスプリントでしのぎを削った大会前半戦。好調さをアピールしたジョナサン・ミラン(リドル・トレック、イタリア)が個人総合リーダーで、後半戦を迎えることとなった。
大会前半戦のレビューはこちらから。
ミランが総合トップ。ヴィンゲゴーも好位置で追う 前半戦レビュー|ティレーノ~アドリアティコ
今大会1つ目の本格山岳となった第5ステージ(144km)で、王者がついに腰を上げた。
山岳区間サン・ジャコモまでに集団を統率したヴィスマ・リースアバイクは、上りに入ってアッティラ・ヴァルテル(ハンガリー)とベン・トゥレット(イギリス)が一気にペースアップ。これで集団を総合系ライダーだけに絞り込むと、頂上まで5km以上を残しながらヴィンゲゴーがアタック。フィニッシュまでの29kmを独走に持ち込んだ。
ヴィンゲゴーが先行する間、チームメートのキアン・アイデブルックス(ベルギー)がライバルたちの抑えに回っていたこともあり、着実にリードを拡大。この日だけで1分以上を稼ぎ出し、ステージ優勝と同時に個人総合でもトップに立った。
すると、今大会唯一の山頂フィニッシュである第6ステージ(180km)でも登坂力で圧倒。強力クライマーが逃げを打ち、ボーラ・ハンスグローエが集団のペースを上げようとも、ヴィンゲゴーは冷静に対処。ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストラリア)やフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)が仕掛けるも、これらをチェックしたヴィンゲゴーが残り6kmで再び独走態勢を築いた。
2日連続のステージ優勝で、個人総合でのリードを拡大。2位のアユソに対し1分24秒差とし、1ステージを残して大会制覇を決定的なものにした。
最終の第7ステージ(154km)はスプリンターの競演で大会のフィナーレ。ソーレン・ヴァーレンショルト(ウノエックスモビリティ)のアタックで混迷の状態となるも、ミランがみずからの脚で差を埋め、最後はスプリントで勝利。今大会2勝目を挙げた。
グランツールレーサーが表彰台を占める、新鋭デルトロの走りも光る
これらの結果から、2024年のティレーノ~アドリアティコはヴィンゲゴーが個人総合優勝に輝いた。ツール・ド・フランス3連覇に向け視界は良好のように見えるが、自身は「ツールとは関係なく、春の目標レースに据えていた」と述べる。ツールに向けた取り組みは春のレース活動を終えてから始めるとし、このティレーノ後には少しの休養を経てイツリア・バスクカントリーに臨む予定。いずれにせよ、プロトン最高のステージレーサーにふさわしい戦いを見せた。何より、ヴィスマ・リースアバイクはパリ〜ニースでマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ)が勝ち、チームとしての充実度が際立っている。
大会初日の個人タイムトライアルを勝ち、リーダージャージにも袖を通したアユソは2位でフィニッシュ。第5ステージでヴィンゲゴーの走りを見せられてからは、個人総合2位狙いにシフト。2月のUAEツアーで落車した影響からこの大会を回避したアダム・イェーツ(イギリス)に代わり、総合エースとしての責務をまっとうした。また、UAEチームエミレーツはプロ1年目のイサーク・デルトロ(メキシコ)も4位に入る殊勲の走り。次世代のエース候補がビッグネーム相手にも臆せず戦ってみせた。
3位にはヒンドレーが入賞。2年前にはジロ・デ・イタリアを制するなど、同国のレースとはもっぱら好相性。今年のツールではプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)を支える重責が待っており、4月以降はほぼ同じレースプログラムが予定される。今大会は自身がエースとして走る大事な機会で、きっちりと結果を残してみせたあたりはさすが。
なお、4賞はヴィンゲゴーが個人総合と山岳賞、ミランがポイント賞、アユソがヤングライダー賞をそれぞれ獲得。
日本勢では新城幸也が唯一参戦し、第3ステージではフィル・バウハウス(ドイツ)のスプリント勝利をアシスト。最終の第7ステージで役割を果たしたのちにバイクを降り、総合順位はつかなかった点は「不本意な形で終わってしまった」と悔やむが、調子自体は良く、今後のレースにつなげていく構えだ。
ティレーノ~アドリアティコ2024 最終成績
個人総合時間賞
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク、デンマーク) 26:22’23”
2 フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)+1’24”
3 ジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ、オーストラリア)+1’52”
4 イサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ、メキシコ)+2’20”
5 ベン・オコーナー(デカトロン・アージェードゥーゼールラモンディアル、オーストラリア)+2’24”
6 テイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ、オランダ)+2’25”
7 キアン・アイデブルックス(ヴィスマ・リースアバイク、ベルギー)+3’10”
8 レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)+4’02”
9 トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+4’05”
10 ケヴィン・ヴォークラン(アルケア・B&Bホテルズ、フランス)+4’24”
ポイント賞
ジョナサン・ミラン(リドル・トレック、イタリア)
山岳賞
ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク、デンマーク)
ヤングライダー賞
フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)
チーム総合時間賞
UAEチームエミレーツ 79:16’40”
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。