BMCの新型エアロロードは“チームマシン”の名を冠す|安井行生が試乗レビュー
安井行生
- 2024年04月06日
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スイスのバイクブランドBMC(ビーエムシー)、その最新モデルが「チームマシンR」。その試乗レビューを自転車ジャーナリストの安井行生さんがお届けする。
ロードバイクシーンでのBMCのリーダーシップ
少数のビッグメーカーがハイレベルな技術戦争を繰り広げ、それ以外のメーカーとの格差がどんどん開いている昨今のロードバイクシーン。中規模メーカーながらその先頭争いに食い込んでいるのがスイスのBMCである。
同社のロードバイクといえば2013年デビューの、2代目で自動設計という開発プロセスを取り入れたチームマシンSLRが記憶に残るが、エアロロードにも力を入れてきた。2012年に発表されたリムブレーキ時代の初代タイムマシンTMR01は、全チューブにボルテックスジェネレータを設けたり、フォーク内蔵ブレーキを採用したりと、空力追求に積極的だった(今から思えばやや稚拙な手法ではあったが)。
2018年にはBMCのエアロロードとして2代目となるタイムマシンロードを発表する。ディスクブレーキ化されたと同時に、ケーブルを内蔵し、各チューブ形状を空力的に洗練させた。ボトルケージとストレージを一体化させ、空力性能向上策として使うエアロモジュールも画期的だった。
タイムマシンロードの記事はこちら
2023年の新型エアロロードモデル「チームマシンR」デビュー
2023年10月、同年のクリテリウム・デュ・ドーフィネやツール・ド・フランスで目撃されていた新型エアロロードが正式発表される。誰もが次期タイムマシンロードだと思っていたが、BMCはこれに万能モデルであるチームマシンの名を与えた。ただし、従来のチームマシンには“SLR”というサフィックスが付けられていたが、新型ではレーシングを意味する“R”となった。
輸入代理店担当者に確認すると、これはあくまでタイムマシンロードの後継車だが、プロチームの主力機種になるということで、これまでエアロロードに与えられてきたタイムマシンではなく、“チームマシン”というモデル名になったという。よって新型チームマシンRのデビューと引き換えにタイムマシンロードはディスコンとなる。ちとややこしいが、新型はチームマシンというモデル名を冠するものの、これまでタイムマシンロードが担っていたエアロロードとしての役割も任される、ということだ。
最新トラックバイクのようなワイドスタンスのフォーク、マッシブなヘッドチューブとBBエリア。これは、空力に関して膨大な知見を有するレッドブル・アドバンスド・テクノロジーズとの共同開発によって生まれた形状なのだという。
ハンドルの上部幅は360mm、レースのためだけに割り切った設計
ハンドルは当然のようにエアロ形状のステム一体型(ICSカーボンエアロコックピット)だが、なんと上部の幅は360mmの一択(ドロップ部の幅は420mmのフレア形状)。これは、空力性能はもちろん、プロレース界のポジションのトレンドを鑑みた結果だという。開発時には幅が広いハンドルも試作してテストしたようだが、8割ほどの選手から「狭いハンドルのほうがいい」とのフィードバックがあったらしい。それを一般人が乗る市販モデルにまで適応するとは、すさまじい割り切りだ。
ただし、アルミステム(ICS2)を使えばノーマルハンドルが使用可能。選択肢を残してくれていることは評価できる。
公表されているフレーム重量は910g(フォークは395g)。日本国内で販売されるのは、チームマシンR 01フォー(アルテグラDi2完成車)と、フレームセットの2種類。フレームセットにはICSカーボンエアロコックピット、専用シートポスト、専用ボトルケージが付属する。
フレームサイズは47~61の6種類だが、日本に入荷するのは56までの4サイズ。ジオメトリーに癖はなく、レーシングバイクとしてよく考えられているという印象。フォークオフセットは2種類用意され、トレイルは全サイズ63mmに統一されている。
現在のロードレースで勝ちたいならば(安井行生)
試乗車は日本国内では未展開のスラム・フォース完成車だった。カラーも日本では発売されないものとなる。
試乗時間に限りがあったため、純正ホイールでしか試せていないが、まず感じられるのはフレーム剛性の向上だ。どうやっても踏み切れないというレベルではないが、これまでのBMC各車に見られた「脚当たりの良さ」はやや影を潜めている。これは近代プロの大馬力を前提に仕立てた結果だろう。
ハンドリングはクイックだ。おそらくハンドル幅起因(特殊なフォーク形状も影響しているかもしれないが)。先述のとおり専用ハンドルは上部の幅が36cmのみとかなり狭い。普段サンパチを使っている筆者でさえ操縦性に違和感がある。
アマチュアが持て余しそうな剛性、幅狭な専用ハンドルとクイックなハンドリング。それらによって低~中速域では扱いやすいとは言えないが、なんとかかんとか高速高負荷域まで持っていくと、印象が変わる。全ての要素のピントが合うのだ。
フレームの剛性は200W後半になってはじめて生きてくる。強烈な加速G。ダイレクトで豪快な走り。平坦でも登坂でも推進力が無駄にならない。ハイパワー領域で動力伝達性を犠牲にしないための剛性感なのだと思う。高速になればハンドリングは安定するし、件のハンドルはドロップポジションでは幅が広くなるので違和感は消える。
高速域での巡航性能は相当に高い。これは、煮詰められた空力性能と高負荷域に合わせて仕立てられた剛性の相乗効果だろう。快適性も悪くない。ハンドル、ペダル、サドルのどの点においても吸収性・減衰性のバランスがとれており、長時間のレースでもライダーを痛めつけるようなことはしないと思う。
とはいえ、パーツのセッティング含め、高負荷高速域に特化した一台である。おそらくこれがBMCの考える“今、勝てるバイク”なのだろう。
幻想の終わりの始まり
そんなチームマシンRと半日を共にして感じたのは、BMCの強い割り切りだ。
平均スピードが上がっている昨今のロードレースで勝てるバイクを作るには、ここまで空力性能を重視しないといけない。選手のパワー(W数)も増しているので剛性アップも必須だ。それにはレッドブルとの協業が必要になり、素材に高価な高弾性カーボンを要求し、結果としてこのような性能と価格になった、ということなのだと思う(もちろん日本における価格は為替の影響を大きく受けているのだが)。
それは、一般ライダーが趣味として楽しめる領域をいよいよ逸脱しつつある。チームマシンR、確かに速い。レーシング機材としては一級だと思う。ワールドツアーの速度域ならこれは大きな武器になるのだろう。しかし、我々がそれで走りを楽しめるかというと別の話だ。極端に狭い専用ハンドルや御しにくい剛性感はその代償である。
だから新型チームマシンRでサイクリングロードを流すということは、フォーミュラカーで街中を走る行為に近い。おそらくBMCは百も承知だろう。彼らは「プロが速く走るため」というただ一点を見つめてこれを作ったのだ。多少ハンドルが狭くても、フレームが硬くても、それでいいと考えているのだ。だって乗るのは一流の選手なのだから。
言い換えれば、BMCは「兵器のようなプロユースバイク」と「一般ユーザーが楽しみのために乗るスポーツバイク」を切り分け始めたのだと思う。今後は、一般ユーザーにはロードマシンやウルスが寄り添い、プロには兵器のようなチームマシンRを供給する。そういう商品構成に移行するのかもしれない。
F1やWRCやスーパーGTを走るレーシングカーは、市販車とは似ても似つかぬ別物である。一般人が公道で走るために最適化はされておらず、当然普通の人は買えないし乗れない。クルマ好きは、レーシングカーのイメージを市販モデルに転写して、一般公道用に最適化された自動車を買って楽しむ。
数年後か十数年後か、ロードバイクの世界もそうなる可能性は十分にある。ここまでプロユースマシンが先鋭化すると、むしろそうなったほうが健全だろう。
新型チームマシンR、「プロと同じバイクに僕らも乗れる」という無邪気な幻想の、終わりの始まりかもしれない。
試乗モデルはBMC Teammachine R 01 THREE
BMC Teammachine R 01 THREE(BMC・チームマシン R01 スリー)
価格:日本未入荷モデル
DATA
フレーム:チームマシン R01 プレミアムカーボン
フォーク:チームマシン R01 プレミアムカーボン
コンポーネント:スラム・フォースeタップAXS(パワーメーター付き)
ホイール:CRD-501 SLカーボン
サイズ:47、51、54、56、58、61
カラー:アイアングレー/ネオンレッド
重量:フレーム910g(最軽量フィニッシュの塗装済み・54サイズ)、フォーク395g、シートポスト155g
ワイドスタンスのフォーク、タイヤは30Cまで対応
フレームにおいて真っ先に空気が当たるヘッドチューブ~フォークの空力性能は、フレーム全体の空力性能を決定づけてしまうほど重要だ。チームマシンRのフォークはまるで最新トラックバイクのようなワイドスタンス。前輪とフォークの間隔を広く取る設計だ。タイヤサイズは25~28Cを前提とし、30Cまで許容する。
エアロを考えた専用のボトルケージ
先代タイムマシンやチームマシンSLRでも採用されたエアロコアボトルケージはチームマシンRにも採用されている。フレームチューブに統合された形状で、ボトル込みで空力性能を向上させる。なお、通常のボトルケージを付けることもできる。
上部幅360mmという究極のエアロハンドル
フレームセットに付属する専用ハンドル、ICSカーボンエアロコックピット。幅は上部360mm、ドロップ部420mmのワンサイズだが、ステム長は80~140mmと幅広く用意される(フレームセットに付属するステム長はあらかじめ決まっており、その他のサイズはオプション)。よって「ラインアップを減らしてコストダウン」というわけではなく、「空力を考慮したら360-420mmが最適だった」ということなのだろう。自転車の空力性能向上には、空気が最初にぶち当たるハンドルとヘッド~フォークを空力的に洗練させる必要がある。そういう意味では、チームマシンRの設計アプローチは空力的には真っ当だ。
全面投影面積を減らすためにフォークコラムの断面を長方形に
ヘッドチューブの前面投影面積を抑えつつ、ケーブル内蔵を実現するため、フォークコラムは長方形断面。通常のプレッシャープラグが使えないため、雌ネジが発泡剤で固定されている。
ステルスドロップエンド
スルーアクスルのネジ穴部をふさいだステルス・ドロップアウト。見た目がすっきりする他、剛性や空力の向上に寄与するという。
専用設計のシートポスト
シートポストの断面形状もチームマシンR専用のものとなった。シートチューブ内に埋め込まれたボルトで金属プレートをシートポストに押し付けて固定する方式で、固定力は高そうだ。金属プレートは磁力でフレームにくっついており、フレーム内部に落ちにくい工夫がされている。また、BMCはタイラップを用いることによる空力悪化を懸念して、専用のシームレスゼッケンホルダーまで用意している。
チームマシンR、日本での販売仕様
Teammachine R 01 FOUR
完成車セット 価格:165万円
アルテグラDi2完成車のチームマシンR 01フォー。カラーは写真のカーボンブラックのみ。ハンドルはICSカーボンエアロコックピットではなく、専用のアルミステム(ICS2)となる。ノーマルハンドルが使用可能なため、ポジション自由度という点ではICSカーボンエアロコックピットよりこちらのほうが優れている。ホイールはCRD-501カーボンというBMCオリジナルのカーボンホイールが付く。純正タイヤはピレリ・PゼロレースTLRの26C。
Teammachine R 01 MOD
フレームセット 価格:105万6,000円
ICSカーボンエアロコックピット、専用シートポスト、エアロコアボトルケージ、シームレスゼッケンホルダーが付属。カラーは写真のカーボンブラック/クールホワイトのみ。
問:フタバ
https://e-ftb.co.jp/
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