関東近郊のグラベルイベントの代名詞となるか。第1回「富士グラベル」に感じた可能性
坂本 大希
- 2024年04月05日
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富士グラベル。いや、ヒルクライムじゃないの?と言われそうだがグラベルで間違いない。関東圏からも日帰りで十分参加可能な待望のグラベルイベントが3月20日に実施された。まだ第1回目で規模も小さく行われるというが、重要なグラベルイベントのひとつになる可能性を感じ、実際に参加してきた。
「グラベル」はこれからくるのか。もうきているのか
「グラベル」という言葉が認識され使用されるようになったのは気が付けばもう数年以上前のこと。これからくるジャンルと常に言われ、各メーカーもグラベルバイクという新ジャンルの開発に乗り出したこともあり、グラベルバイクに乗るライダーも増えてきた。実際、北海道のニセコで毎年2回行われるNISEKO GRAVELは毎回参加者数を伸ばしている。
編集部サカモトもグラベルイベントは国内外合わせて10以上は少なくとも参加してきており、この盛り上がりとカルチャーを肌で感じてきた。遊びとしての魅力は十分。さまざまな路面を走れるし、少しの距離だけでも満足できるし、何より非日常に入っていける感じが好きだ。
ただ、同時にいまひとつライダーたちに浸透しきっていないことも事実。参加者が多くなってきたというNISEKO GRAVELの参加者は約500人弱だが、アマチュアホビーレーサーが目指すイベントの代名詞といっても過言ではないMt.富士ヒルクライムは2023年の参加者で約8000人。その母数の差は一目瞭然だ。本来であればロードレーサーはそのままグラベルバイクに興味を示してもおかしくないはずなのに。広がらない理由として、グラベルバイクで走るいわゆる砂利道がどこにあるか分からないといったことが挙げられる。特に関東近郊でよく聞く悩みだ。そして、目標とするイベントがあることが日本人にとっても重要だ。それこそ富士ヒルのように。
そんななか、待望の関東圏でその解決策を提示できそうなイベントが開催された。その名も「富士グラベル」。奇しくも同じ富士山を舞台にするイベントだ。「富士ヒル出るの?」と同様に、「今年の富士グラ出るの?」とライダーたちの間で話題になる可能性はあるのだろうか。
「富士グラベル」に実際に参加してきた
ここからは実際に参加したレポートをお届けしよう。
舞台は富士山の南側、富士市。埼玉県からも2時間半ほどで到着
編集部サカモトはほぼ千葉の埼玉県に住んでいるが、ここからでも車で2時間半ほどで到着。朝だと道路もすいているのでアクセスはそこまで悪くない印象だ。沼津のSAで海を眺めてから会場に入る。小規模開催と聞いていたが、参加者用のナンバープレートなどもしっかりと用意されていて好印象。タイラップでハンドルバーに取り付ける。
他の参加者も駐車場でバイクを準備しはじめる。グラベルイベントのいいところはバイクが多種多様なことだろう。ロードのイベントだとみんな高級な機材を使っていることも多いが、グラベルの場合はいろいろ。カーボンバイクの人もいれば金属系のバイクも普通にいるし、クロスバイクを進化させたりeバイクも普通にいる。それがいい。
ガイドライダーなどサポートスタッフの目線が絶妙
今回のイベントのいいところは、「グラベルイベントが初めて」の人の目線を主催者側がしっかりと意識していたことだろう。どんなにロードを走っていた経験者でも、いざはじめてグラベルを走るとなると少し怖いものだ。ただ、「何となくいけるっしょ」というノリでやってしまうところが多いなか、ブレーキのかけ方、曲がり方など基本的なところをまずは主催者がしっかりとレクチャーしてくれる時間がある。グラベルライドの経験がないライダーにとってこれはうれしい。自転車イベントにおいては「安全に走ること」がなにより大切だが、それをしっかりと運営側が理解している証拠だろう。
富士の裾野は絶好のグラベルスポット
富士山の裾野には広く深い森が茂っている。そこの林道がメイン舞台となるのだが、この道がいい。主催者が話していたのが、裾野を舞台にしているためもちろん起伏はあるが、山があるわけではないため急勾配が少ないということだ。日本の未舗装路の多くは林道であり、実際グラベルイベントの多くは峠越えを設定することで未舗装路のルートを確保している。それもいいのだが、実際に走ると急勾配の上りはもちろん、下りの急勾配で恐怖を感じてしまい、純粋に楽しむことだけに集中できなくなることもある。また、上りがきつすぎるグラベルイベントばかりだとグラベルライドを気軽に楽しめる人が減ってしまう。
しかし、富士山レベルの裾野になると別に山を越えなくても十分にルート設定が可能なのだろう。アップダウンを繰り返しつつ過度な斜面や峠越え無く未舗装路をつないだコース設定で無理なく楽しむことができた。こういったルート設定は富士グラベルでしかつくることができない特徴になってくるのではないだろうか。
何より富士山というアイコンが唯一無二。こればかりはどこにも真似できない絶景だ
上記でコースのよさうんぬんといったが、シンプルに富士山が近いことは素晴らしいアドバンテージだろう。アイコンとしてこれ以上のものはない。
富士山は海外でも大人気だ。また、グラベルイベントも海外のほうがもっと楽しんでいる人の規模が多い。昨年日本で実施された海外でも行われているグラベルイベントの「Grinduro!」の参加者も400人強と多かったが、そのうち60〜70人ほどが外国人の参加者だったということからも海外でのグラベル人気の高さが分かる。富士の麓のグラベルイベントが大きくなれば、海外からの注目も浴びそうだ。
また、富士山だけではない多様なロケーションも参加者としてとても気に入った。静岡ならではといえばお茶畑。その中を走ることもできた。もちろん林道もあり。砂利は基本的によくしまっていて走りやすく、あまりにもルーズで危険な砂利道は今回は出合わなかった。コースづくりの妙ともいえるが、そもそものこの場所のポテンシャルが非常に高いのではないかと感じる。純粋にもっと走りたかった。
参加者と主催者の実際の声
各地のグラベルイベントに参加しており、普段もグラベルライドを楽しむ田澤さんはグラベルコミュニティー「5G」の運営も担っている。
「林間メインで非常に楽しめました。アイコニックな富士山ビューがとてもいいですね。コースについては基本的にダブルトラックで路面は締まっていてガレ場もなく、本当に誰でも楽しく走りやすいのではないかと思います」
千葉のチームに所属する稲益さんは、今回が初めてのグラベルライドだ。
「そもそもグラベルライドをした経験が無かったので正直はじめは不安でした。ただ、しっかりとガイドの方もついてくれるし、なにより素晴らしい景色でとても楽しく走れました。初めてグラベルを走る自分にとっては大きめの石などもあったりして難しいのかなと思うところもありましたが、ガイドの人が速度などをちゃんとコントロールしてくれたことで下りでも不安なく安全に走れたのがとてもよかったです」
初めてということもあり自分のロードに装着できるギリギリの32Cで参加したんですが、それでも全然今回は大丈夫でした。ちゃんとしたグラベルバイクでタイヤも38Cや40Cの太めのタイヤで走ればもっと快適に下りも楽しめたかなとも思いましたが(笑)。でも、普通の自転車でもちょっと太いタイヤを選べば楽しめる本格的なグラベルイベントがあるのはいいですね」
主催者の2人。テラインコグニタ代表で元プロロードレーサーのトム・ボシス(左)さんとトライクル代表でグラベル世界選手権で完走経験もある田渕君幸(右)さん。
「富士市は林道もいっぱいあるし、富士山の斜面を活用するので峠越えなどそこまで厳しくしなくても楽しめる。世界で通用する富士山を舞台にできるのもとても魅力的で可能性を感じています」とトムさんは語る。また、「自転車業界と密接につながっている田淵さんと、地域との関わりが深い自分が組むことで、非常にバランスよくいいチームになれたかなと思います。今後グラベルや自転車イベントに興味がある人をちょっとずつでいいので呼んでこれたらと考えています」とも話す。
また田渕さんも、「けが人も無く、天気も途中からよくなり、個人的には最高でした! 参加者の方々の声も聴きましたが、皆さまにも楽しんでいただけたようで、今回はとてもいい結果に終わったかなと思います。2グループに分けて走ったのも良かったですね。第2回、第3回とこれから続けていくにあたってとてもいい第一歩になったと思います」と語った。また、「ただ、駐車場のキャパシティやトイレ、携帯の電波の問題など、これからイベント規模を大きくしていくにあたって解決すべき問題が多くあることは間違いありません。中身についてはとても高いポテンシャルのある地域を使わせていただいているので、あとは運営の部分より洗練させていきたいですね。『富士グラベルがあるからグラベルバイクを買いました』であったり、グラベルライドの楽しみを味わえる最大級のイベントにするのが目標です。今は北ではニセコグラベルがありますが、関東では富士グラベルだよね、というレベルまでもっていきたいですね。最終的にはインバウンドまで視野に入れて国際的なものにしたいと思っています」
“富士グラ”の愛称で親しまれる日を期待したい
冒頭でも書いたが、日本で行われるグラベルイベントといって名前が挙がるのはまず「NISEKO GRAVEL」だろう。グラベルという言葉がでてきたいわゆる黎明期からイベント開催を続けている功績は大きい。編集部サカモトも2回参加したことがあるが、グラベルライドを楽しむ場所としてはとても素晴らしく、あれほど直線を楽しめる砂利道はそう多くないだろう。しかし問題としてはアクセスがあまりよくないこと。基本的には飛行機での輪行が必要になるし、最寄りの空港に着いてからも車で3時間かかるのがネックだ。それでも参加する人が多いところがその高い魅力の証明になるが、同時にそのアクセスハードルの高さで離脱する人がいるのも事実。
より気軽に行けて、それでいて内容は本格的。このイベントで感じたポテンシャルの高さから、富士グラベルは大いに期待している。第2回、第3回と大きくなっていくであろう“富士グラベル”が、愛称として“富士グラ”とライダーたちに言われ始める瞬間を逃さないよう注目していこう。そして真に「グラベルが来てる」と言われる理由の一つとして名前が挙がるイベントになることに期待したい。
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PROFILE
坂本 大希
元海上自衛官の経験を持つライター。1年間のドイツ自転車旅行をきっかけに自転車が好きになる。2022年秋ごろよりグラベルイベントに多数参加。2023年のUnbound Gravelで100マイル完走。グラベルジャーナリストになるべく知見を深めるため取材に勤しんでいる。
元海上自衛官の経験を持つライター。1年間のドイツ自転車旅行をきっかけに自転車が好きになる。2022年秋ごろよりグラベルイベントに多数参加。2023年のUnbound Gravelで100マイル完走。グラベルジャーナリストになるべく知見を深めるため取材に勤しんでいる。