ジロ・デ・イタリア2024有力選手プレビュー|ダブルツールへポガチャルの第一関門
福光俊介
- 2024年05月02日
2024年のロードレースシーズン最初のグランツール、ジロ・デ・イタリアが5月4日に開幕する。トリノでの開幕から首都・ローマでのフィナーレまで、3週間かけての総走行距離は3400km、総獲得標高は44650mに及ぶ長き戦い。今年の大会は最大の目玉となるタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)の参戦や、豪華スプリンター陣そろい踏みなど、見どころが盛りだくさん。今大会で押さえておくべき選手やポイントをプレビューしていこう。
最大の焦点はポガチャルがどれだけ大差をつけるか? 他選手は総合表彰台が現実目標?
前回は最終日前日の山岳個人タイムトライアルでの大逆転。プリモシュ・ログリッチ(当時ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)が、ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)との激闘の末に、悲願のマリア・ローザを獲得した。このときは3週間の総獲得標高が50000mを超える“クライマーズ・ジロ”だったが、今回は数字の上では山岳比重が減り、昨年とは違ったレースを見ることができるだろう。
なんといっても、ポガチャルの参戦がすべてである。昨オフの段階でジロ出場を明言し、ツール・ド・フランスとの“ダブル・ツール”を目指すと高らかに宣言。パリ五輪イヤーで多くの選手が出場レース選択に慎重な様子を見せるなか、ポガチャルだけは目標を固めていまなおその姿勢にブレがない。
1998年のマルコ・パンターニ以来となるジロとツールの2冠に向け、レース数も絞っている。3月初旬のストラーデ・ビアンケで圧巻の82km独走勝利でシーズンインすると、ミラノ~サンレモ3位、直後のボルタ・ア・カタルーニャでも圧勝。昨年は落車で大けがを負ったリエージュ~バストーニュ~リエージュでも悪夢を払拭する完勝。このところの勢いを誰も止めることができない状態だ。
戦いぶり、そしてバリューからしても、ポガチャル「一強」と見る向きが強い。今大会は第2ステージから山岳コースが組み込まれることもあり、早々にレースを掌握するのでは?との声もあるほど。アシストにラファウ・マイカ(ポーランド)やミッケル・ビョーグ(デンマーク)といったレギュラー陣を配備し、体制は完全に整っている。
ただ、何が起こるか分からないのがグランツール。昨年のツールでまさかの大ブレーキを喫した姿をいまなお鮮明に覚えている方も多いことだろう。それに、ジロは天候が変わりやすく、体調に直結することも考えられる。順当に戦えばマリア・ローザに一番近い選手であることは間違いないが、ポガチャルといえど1日でも取りこぼすことなく走り切ることが大会初制覇への最大条件といえよう。
ポガチャルにストップをかけるとしたら誰だろうか。昨年の雪辱に燃えるトーマスか、今年はジロにフォーカスするベン・オコーナー(デカトロンAG2Rラモンディアール、オーストラリア)か、イタリアでの3週間を知り尽くすダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)か。先のリエージュで2位となり復調を印象付けたベテランのロマン・バルデ(dsmフィルメニッヒ・ポストNL、フランス)、強力ヴィスマ・リースアバイクの若きリーダーのキアン・アイデブルックス(ベルギー)といった名も挙がる。
ただやはり、真っ向勝負ではポガチャルに対して分が悪いのは否めない。ポガチャルの、さらにはUAEチームエミレーツの虚をつく動きを仕掛けないことには、流れを引き寄せるのはなかなかに難しい。展開によっては、早い段階で総合表彰台狙いにシフトする選手も出てくるかもしれない。覚悟を決めてポガチャルに対峙しにいくか、リスクを最小限にとどめながら自身のチャンスを追い求めるか、各選手たちの判断も見ものになってくる。
トップスプリンターの競演! マリア・チクラミーノがNo.1スプリンターの証に
このジロは、スプリンターたちの競演にも大いに注目していきたい。今大会では6~7回のスプリント機会が訪れると予想され、その中には最後を飾るローマ市街地でのフィニッシュも含まれる。
もっとも、第1ステージからスプリントチャンスがめぐってくる。この日を制すれば自動的にマリア・ローザが着用できることから、大会初日にフォーカスしている選手も多い。
その筆頭格に挙がるのが、ティム・メルリール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)。昨年逃したグランツール出場にこだわり、いよいよそのスタートラインにつくときがめぐってきた。脇にはジュリアン・アラフィリップ(フランス)らが控えており、フィニッシュに向けての主導権争いでは優位に立つシーンをたびたび見られるはず。
これがグランツールデビューのオラフ・コーイ(ヴィスマ・リースアバイク、オランダ)もわれわれに鮮烈なインパクトを与えるかもしれない。リードアウト役を買って出ていたワウト・ファンアールト(ベルギー)は負傷で欠場するが、その代役はクリストフ・ラポルト(フランス)とあって不安はないはず。フィニッシュ前の勝負強さは群を抜く22歳は、大飛躍のときが近づいている。
ジョナサン・ミラン(リドル・トレック、イタリア)も、この春には強さを印象付けた。ティレーノ~アドリアティコではステージ2勝。その後の春のクラシックではアシストに回ってマッズ・ピーダスン(デンマーク)を勝利に導くなど大車輪の働き。好調を維持して迎える今大会では、複数勝利の期待がかかる。そして何より、前回大会でポイント賞「マリア・チクラミーノ」に輝いている。同賞2連覇をかけて臨むことになる。
チャンスを有する選手はまだまだ。新たな環境で調子を上げてきたファビオ・ヤコブセン(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)も控えているし、ステージレースのスプリントにめっぽう強いカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)も。カレブ・ユアン(チーム ジェイコ・アルウラー、オーストラリア)は復権をかけ、2年前のジロで勝利しているビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ、エリトリア)も調子を合わせてくるはず。
大集団スプリントで勝てるだけのスピードとパワーを持つ選手が15人近くいると予想される今回。激戦必至だが、それを勝ち抜いた先には勲章マリア・チクラミーノが待っている。ジロの、いや現在のプロトンにおけるスプリンターナンバーワン決定戦と言っても過言ではないレベルのスピードバトルが始まろうとしている。
ヤングライダー賞は新たな局面へ ガンナらTTの走りも
25歳以下の選手が対象のヤングライダー賞「マリア・ビアンカ」は、ここ数年ツールで同賞をほしいままにしてきたポガチャルが“卒業”したこともあり、新たなフェーズを迎える。
有力視されるひとりが、テイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ、オランダ)だ。前回はトーマスのアシストに従事しながら、自身も個人総合6位で走破。同賞争いにおいても2番手で終えている。今回も役回りは変わらないが、みずからも上位を狙える状況にあればヤングライダーを飛び越えて総合表彰台の可能性も秘める。
前述したアイデブルックスや、今年のパリ~ニースでは2日間リーダージャージを着たルーク・プラップ(チーム ジェイコ・アルウラー、オーストラリア)も総合戦線に加わるようであれば争いは激化する。
前哨戦のツアー・オブ・ジ・アルプスで個人総合3位とまとめたアントニオ・ティベーリ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)、直近のツール・ド・ロマンディで個人総合3位に入ったフロリアン・リポヴィッツ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)も有力候補。昨年のツール・ド・ラヴニール個人総合3位のダヴィデ・ピガンゾーリ(ポルティ・コメタ、イタリア)も、自国では次世代を担うオールラウンダーとして名が挙がっている選手だ。
山岳賞「マリア・アッズーラ」は、個人総合争いからの流れで上位陣が着ることになるか、この賞狙いにシフトした選手に渡るか、予想が難しい。いずれにせよ、急峻な山々を越えた末に手にできる価値あるタイトルだ。
そのほかでは、第7(40.6km)、第14(31.2km)の2ステージで設定される個人タイムトライアルでフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ、イタリア)らスペシャリストがどんな走りを見せるか。ステージ狙いの選手による逃げや、新鋭の台頭なども含め、楽しみは尽きない。
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- Bicycle Club
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- TEXT:福光俊介 PHOTO:LaPresse A.S.O./Gaëtan Flamme MD Luc Claessen /Getty Images A.S.O./Billy Ceusters Syunsuke FUKUMITSU
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。