BRAND

  • FUNQ
  • ランドネ
  • PEAKS
  • フィールドライフ
  • SALT WORLD
  • EVEN
  • Bicycle Club
  • RUNNING style
  • FUNQ NALU
  • BLADES(ブレード)
  • flick!
  • じゆけんTV
  • buono
  • eBikeLife
  • HATSUDO
  • Kyoto in Tokyo

STORE

MEMBER

  • EVEN BOX
  • PEAKS BOX
  • Mt.ランドネ
  • Bicycle Club BOX

溶け合うクライミングバイクとエアロロードの境界線|Specialized S-WORKS TARMAC SL8

連載「峠の肖像」最新回において、「日本で3番目に標高の高い」金精峠を走った。標高1843mと、すでにして標高の高い日光の、そのさらに深部に位置する奥日光へのアプローチは、ひたすらに登り詰めだった。しかしその長い登坂の最中にクライマーズ・ハイに見舞われたのは、金精峠のロケーションの良さもさることながら、バイクの素性の良さに起因することが大きい。

スペシャライズドの提唱する「3 Icons」はブランドの中核をなす3車種Tarmac、Aethos、Roubaixを表現したもの。Aethos には「自由」、Roubaixには「挑戦」が掲げられているが、今回奥日光の金精峠を走るために選んだのは、「勝利」を体現するバイク、Tarmac。今夏も目覚ましい数の勝利を飾ったバイクだが、ひとりのアマチュアライダーにも極めて個人的な勝利をもたらしてくれた。

勝利に定義づけられるバイク、Tarmac

世界選手権やワールドツアーレースを筆頭に数々のトップレースで輝かしい戦績を誇る、スペシャライズドのS-Works Tarmac。ピュアレーシングバイクの代名詞といっても過言ではない。今夏も、レムコ・エヴェネプールによってツール・ド・フランス総合3位とマイヨ・ブラン、そしてパリ五輪の金メダルを獲得した。途切れない勝利によってその存在意義が証明される、稀有なバイクだ。

我が国のホビーレースの現場においても、数多く見かける一台だ。ベストセラーとなったS-Works Tarmac SL7、そして現行モデルのSL8をレース会場で見ない日はない。そんなすでに定評あるレースバイクに乗ることは、少なからず気が重い。多くのレビューですでに語られていることの焼き直しになるのではないか、書き手として一抹の不安を覚えながら、奥日光の峠道へとSL8で繰り出した。

意外にも第一印象は「楽しい!」というものだった。楽しさにも様々な種類があると思うが、ロードサイクリングにおける楽しさとは私にとって第一に軽快であってスピードが出ること、そして走りに破綻がないことを意味する。

残念ながら私は、この数年ロードレースを走っていないので、ハイレベルなアマチュアレースの中で、このバイクがどんな性能を見せるか、どんな走り方に向いているかを評する立場にない。しかしレベルはともあれ、一度はレースの極限状況がもたらすバイクの速度感や身体との呼応の喜びを知った身としては、レースに出ずともそのエッセンスを感じられるバイクはいいバイクだと考えている。

これはクライミングバイクだ

金精峠は決して勾配のきつい峠ではない。距離も5kmほどと健脚ならエアロロードバイクのスピード感を活かした登坂ができるだろう。乗り出す前はTarmac SL8をエアロロードだと捉えていたのだが、登坂に入った途端に印象が変わった。

これはクライミングバイクだ。登り坂の軽快さにまず驚く。軽いギアでハイケイデンスに乗ると、すいすいと登っていく。バイクのこの軽やかな反応性には覚えがある。富士スバルラインで乗ったS-Works Aethosと重なる乗り味なのだ。トルクをかければかけただけ進む。しなりが推進力に変わる類の、バイクが「進ませてくれる」感触は無いが、しっかりと入力に対して進む。それが気持ちいい。破綻がない。

私は普段、Aethos Proに乗っているのだが、S-Works Aethosに乗った時の違和感がこのS-Works Tarmac SL8を走らせてわかった。極めて軽く、そして良い乗り味の正体は、FACTカーボン 12Rによるところが大きそうだ。「FACT」はスペシャライズドが誇る複合素材技術で、カーボン素材やレイアップを含めて統合的にグレード分けされている。S-Worksグレードのロードバイクに採用される最上位の「12R」は、軽く乾いたフィーリングが特徴で、その乗り味は別格だと言わざるを得ない。フレーム重量685gという数字も、今回乗った56サイズのバイクの6.66kg(ペダル無し)という軽さも、この素材あってのものだ。

空力の恩恵は言わずもがな、の端正なバイク

峠を登った後には、下りがある。可能な限り身体をコンパクトにして下るハイスピードダウンヒルでは、やはりエアロを実感する。あっという間に速度が出るこの感覚は、Aethosにはないものだ。登り返しもギアチャンジがうまくシンクロすると流れるように進む感覚があって、楽しい。集団でアップダウンコースをこなす展開では空力の恩恵が高そうだ。

大きな個性と感じられにくいのが、平坦路の走り。端正で、真っ直ぐ進むいいバイクだが、突出した癖がない。違和感なくよく走り、よく進む。それに尽きる。むしろ空力の実感よりも、身体への負担が少ない快適さの方に関心がいく。これは、昨今の優れたエアロロードバイクがそうであるように太いタイヤの恩恵を受けつつも、SL8になってさらに垂直方向のしなりが6%向上したシートポストがいい仕事をしている。

正直なところ、これはレースに出ない人にも進められるバイクだ。峠越えをいくつも含む、1日200kmを超えるライドを楽しむ人には、この軽くよく登るエアロバイクの恩恵は計り知れない。レースを走りたい人には馬の耳に念仏だろうが、ティム・メルリールやポール・マニエといったスプリンターが今季だけで20勝近くを挙げている事実だけで剛性や加速感についての説明は不要だろう。

私的な勝利を味わうのも、悪くない

それにしても、空力と快適性というものはいつのまにか両立する時代となったことに感じ入る。それを高らかに宣言したものが前作SL7であり、クライミングバイクとしての性能を手に入れたSL8ではそれに軽快さまで加わったという印象だ。

金精峠のフィニッシュを告げるトンネルの入口が見えたら、残る力を振り絞ってスパートする。傍からみれば無様で無惨なスピードかもしれないが、もがき切る。フィニッシュラインも無ければ観客もいない山頂で、それでも強く走り切れたことに喜びと高揚がある。誰と競うわけではないが、この走りができたことがひとつの勝利だと感じられる。

誰もがレムコ・エヴェネプールのように、エッフェル塔を背後に、このバイクを前にして両手を掲げられるわけではない。それでも、身近なところにサイクリストとしての勝利はある。それに気づかせてくれたS-Works Tarmac SL8で、また峠を走りたい。リザルトに載らない勝利もまた、いいものだ。

S-Works Tarmac SL8

フレームセット価格:792,000円
完成車価格:1,793,000円(SRAM RED ETAP AXS)、1,793,000円(SHIMANO DURA-ACE DI2

ヘッドチューブ部分は前作SL7よりもボリュームが増し、空力向上に寄与する
見慣れたカムテール形状のシートチューブ。シートステーのスリム化もトピックス
シートポストもカムテール。15mmのオフセット仕様。
ホイールにはRoval Rapide CLX II。オールラウンドホイールだが、プロ選手に倣ってクライマーならAlpinistを履くとよりクライミングバイクとしての性能が際立つだろう
ボトル穴は3つ。ケージのマウント位置を好みで選べる。フレームバッグを装着するロングライド時にも役立つ
シェイプされたリアエンド周り。乗り味の良さ、快適性に寄与していると思われる

「S-Works Tarmac SL8」
製品詳細はこちら

それぞれに個性豊かなスペシャライズド 3 Icons

幸運なことに、これでスペシャライズド 3 Iconsのバイク「Tarmac」(勝利)「Roubaix」(挑戦)「Aethos」(自由)全てのS-Worksグレードに乗ったことになる。

フューチャーショックを搭載し、走れる道を拡張するロードバイクRoubaix。その走行性能の高さは登坂とグラベルが入り交じるコマクサ峠のライドで真価を発揮した。

▼コマクサ峠を走った「Roubaix」の記事はこちらから

未だ見ぬ地平へ飛び込むためのバイク|Specialized S-Works Roubaix SL8

未だ見ぬ地平へ飛び込むためのバイク|Specialized S-Works Roubaix SL8

2024年07月19日

「ライドをそのものとして楽しむ」ためのバイクがAethos。軽量バイクとして注目されることも多いが、その本質は優れたライド体験にある。富士スバルラインの20kmに及ぶ登坂では、このバイクをじっくりと味わった。

▼富士スバルラインを走った「Aethos」の記事はこちらから

富士スバルラインで味わった自由の感覚|Specialized S-WORKS AETHOS

富士スバルラインで味わった自由の感覚|Specialized S-WORKS AETHOS

2024年05月20日

SHARE

PROFILE

小俣 雄風太

小俣 雄風太

アウトドアスポーツメディアの編集長を経てフリーランスへ。その土地の風土を体感できる方法として釣りと自転車の可能性に魅せられ、現在「バイク&フィッシュ」のジャーナルメディアを製作中。@yufta

小俣 雄風太の記事一覧

アウトドアスポーツメディアの編集長を経てフリーランスへ。その土地の風土を体感できる方法として釣りと自転車の可能性に魅せられ、現在「バイク&フィッシュ」のジャーナルメディアを製作中。@yufta

小俣 雄風太の記事一覧

No more pages to load