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知られざるフェルトの製品哲学|FELT FR/VR/ブリード試乗記(前編)

万能ロードのFRとオールロードのVRを同時にフルモデルチェンジさせたフェルト。新型FR&VRの分析と新旧比較を通して、ジャーナリストの安井行生が“フェルトの今”を書く。前編は、FRとVRの設計について。

不動のフェルト

浮き沈みの激しいこの世界である。

時代を謳歌していたあのブランドが、消えかけている。幾人もの名選手に愛されたあのブランドが、忘れ去られようとしている。いつかは○○といわれたあのブランドが、息も絶え絶えになっている。一方、かつて欧米ブランドに「坊や、何しに来たんだ?」と言われていたあのブランドが、今や時代の寵児になっている。誕生して間もないあのブランドが、世界にその名を轟かせている。かつては新参者の一人に過ぎなかったあのブランドが、セレブの仲間入りをしている。

浮かんでは沈み、現れては消え。栄枯盛衰、死屍累々。

しかしフェルトだけは、少なくともこの20年ほどは、立ち位置が変わらない。決して派手ではないが、技術的チャレンジは欠かさず、しかしトレンドに迎合しすぎない。キラキラしたスペックを盲目的に追うのではなく、基本性能はしっかりと押さえつつ、目立ちはしないが自転車にとって大切な性能 ――扱いやすさや、疲れにくさ、汎用性や整備性など―― を疎かにしない。

主観も多分に含まれるが、いつの時代もフェルトは浮かれることなく、地に足のついたもの作りをしてきたように思う。

社の主力機ともいえるFRとVRという二機種が同時にデビューした2024年、それにグラベルロードのブリードを加えた3モデルに乗り、改めてフェルトの今を考えてみる。

流されないFR

2~3年周期でガンガン刷新し続けるメーカーも多いなか、フェルトのモデルチェンジのテンポは比較的のんびりしている。エアロロードである現行ARがデビューしたのは2020年のことだが、旧型ARは6年も現役を続けたロングライフモデルだった。先日デビューしたFRも、先代の発表は8年も前のことである。「モデルチェンジのためのモデルチェンジ」「計画的陳腐化」とは無縁、と捉えることもできる。

フェルトのロードレース用バイク、Fシリーズを発端とするFRはこれで4代目。先代(3代目)のときに「F」から「FR」へとシリーズ名を変更している。新型FRのコンセプトは「万能レーシングバイク」で、ヒルクライムスペシャルというよりは、空力も意識しつつ、重量・剛性などもバランスさせた、いわゆる新世代万能ロードである。

エアロを意識したと言いつつ、近年のバイクの多くが採用するドロップドシートステーは取り入れていない。フェルトは「ダブルダイヤモンドデザイン」と自称しているが、これは工学的にはもっとも理にかなった構造である。
ドロップドシートステーは、よく勘違いされるようにリヤ三角の剛性向上ではなく、トップチューブ後端とシートステー前端をずらすことでシートチューブをしなりやすくする(=快適性向上)ことと、シートステーの位置を低くすることで前面投影面積を減らすことが目的とされるが、ライダーが乗車した際にチューブにとって苦手な「曲げの力」がシートチューブに入ってしまう。

しかし、「ダブルダイヤモンドデザイン」にすれば、強靭なトラス構造となり、単純化して考えれば「すべてのチューブが圧縮もしくは引っ張りのみを受ける」という状態になる。よって、同じ重量であればより強くなるし、同じ強さであればより軽くできる計算だ。

ドロップドシートステーは一種のトレンドでもあり、いかにも新しくスマートで速そうに見えるが、FRの最重要項目である剛性と強度と重量のために頑なに採用しないフェルト、さすがだと思う。

「テキストリーム廃止」からフェルトの製品哲学を邪推する

フェルトは2代目Fシリーズのときから、素材にテキストリームカーボンを使っているとさかんに喧伝していた。テキストリームカーボンとはスウェーデンのオゼオン社が製造する特殊なカーボンシート。通常の炭素繊維の束を薄く広げて伸ばして(開繊という)、テープ状にしたものだ。うどんに対するきしめんである。

通常の炭素繊維の束は丸に近い断面で、これをそのまま織物(クロス)にすると屈曲が大きくなり、繊維と繊維の隙間も大きくなる(CFRPの樹脂率を下げることができない)。しかし平べったい開繊糸なら、クロスにしたときの繊維の屈曲度合いが小さくなり、隙間が少なくなるため樹脂率を下げることができ、炭素繊維の物性を発揮させやすくなる。また、同じ強度・剛性ならプリプレグを薄くできる。

しかし筆者は、その効果にずっと疑問を抱いてきた。

今さらだが、カーボンシートには、繊維が一方向に並べられたUD(ユニディレクショナル)と、クロス(繊維を縦横に織った織物)がある。“カーボン”という言葉から想像するのは表面にチェック柄が現われるクロスだが、実際にCFRP製品に用いられるのはUDが多い。自転車のカーボンフレームもしかり。一部の特殊な例を除き、材料の大半はUDだ。

その理由は、UDのほうが炭素繊維の性能を引き出しやすいため。UDは繊維が真っ直ぐのままなので、炭素繊維本来の強度や弾性率を発揮できるが、織物であるクロスは繊維が曲がってしまうので、強度や弾性率が落ちる。また、クロス繊維の方向が0度と90度に限定されてしまうが、UDであれば30度だろうが45度だろうが積層角度は自由自在。カーボンと聞いて我々が想像しがちなクロスは、実は炭素繊維にとっては不利な状態なのである。

UDには、亀裂が入ったときに割れ目が広がりやすいというデメリットがあり(クロスであれば亀裂が一マスしか進まない)、それが故に亀裂対策としてクロスをカーボンフレームの最外層に使うことがある。同様の理由でボルト台座やケーブル挿入口など、穴あけ加工をする周辺にもクロスが用いられる。また、織物にすると柔軟性が出るため、レイアップが難しい複雑な形状の場所にも使われる。

フェルトはテキストリームを使うメリットを「繊維の屈曲が最小限になるため、クロスでありながら弾性率の高い繊維を使用できる」と説明していた。主にBB周辺などの複雑な場所や、フレーム最外層に使用しているという。「少量しか使わないクロスでもできるだけ剛性を出す」という意図なのだ。

しかし、カーボンフレームの大半がUDであることに変わりはない。ごく一部のクロスをテキストリームにしただけで、どれほどの実効果があるのだろうか。かかるコスト(繊維を広げる工程が加わるため、テキストリームの製造コストは普通のプリプレグの数倍)に見合うだけの効果があるのだろうか。

そう思っていたから、新型FRがテキストリームをやめたと聞いて納得した。


マス目の大きな織り目がフレーム表面に浮き出るテキストリームカーボンは外観状のインパクトがそれなりにあったらしく、「テキストリームカーボン=フェルト」というイメージが醸成されつつあり、それが売りにもなっていた。だから表面に1枚だけ使って「まだテキストリーム使ってますよー」とアピールすることだってできたはずだ。

しかし、必要ないと考えたらスパッと廃止する。「ダブルダイヤモンドデザイン」にしろ、真円シートポストにしろ、飾り気のない実直なフレーム形状にしろ、このテキストリームカーボン廃止にしろ、新型FRは非常に理性的な設計が施されていると感じる。

大切なのは製造技術

なお、このテキストリームカーボンからも分かるように、フェルトは積層にこだわるメーカーである。工場にフレーム製造を委託する際、メーカーの開発部門から工場にレイアップスケジュール(フレームに用いるプリプレグの種類、形状、角度、場所、順番などが記載された指示書)を提出するが、その指示書の枚数がフェルトは通常のメーカーの数倍にものぼるという。

プレスリリースに誇らしげに記述されるのも、プロダクトマネージャーが自慢げに語るのも、そのほとんどが設計技術である。どんな技術が投入されてエンジニアがどのように工夫をこらしたか――。
もちろんそれも重要なのだが、それと同じくらいに重要なのが、製造技術である。エンジニアがいくら緻密で天才的な設計をしたとしても、同じクオリティで大量に作れなければ意味がない。プリプレグの貼り込み工程の管理がラフでプリプレグの位置や角度がずれたら、緻密な設計は台無しだ(多少ズレることを見込んで、あらかじめプリプレグを大きめに設計しておくケースもあると聞く=重量増・過剛性)。

フェルトはそこまでこだわっている。もちろんそのぶんコストもかかるだろう。しかも、宣伝材料にはなりにくい。それを聞いて興奮するのはマニアックな自転車評論家くらいのものだ。フェルト、やっぱり真面目なのである。

新型FRのフレームは、今のところアドバンスドグレード(フレーム重量900g)のみ。より軽量なアルティメイトは開発中で、重量は750gになる予定だという。

販売形態は、アルテグラ完成車、105Di2完成車、機械式105完成車の3種類。50万円弱となかなか魅力的なプライスタグを下げる機械式105完成車はさすがにアルミホイールだが、上位2機種はレイノルズのカーボンホイールを履く。後から手を入れる必要はほとんどない、いいパッケージである。

シートステーは複雑に断面形状を変化させる。横剛性を確保しつつ、上下方向の柔軟性を上げるためだという。専用シートポストを採用するモデルが多いなか、FRは27.2mm径の真円シートポストを使う。シートクランプはフレームに内蔵されるが、臼を押し付けるためのボルトの受けに金属製のバレルを用いている。確実に固定するためだという。とことん真面目な設計だ。
ヘッドチューブの前面投影面積を抑えつつ、ケーブルを内蔵するには、コラムを異形断面にして上側ベアリング径を1-1/8インチにしたまま、ベアリングの内側にケーブルを通すしかない。各社試行錯誤しているところだが、フェルトは前側を削いだD型断面を採用している。そのため、プレッシャーをかけるためのボルトがオフセットしており、専用のトップキャップが必要になる。
タイヤクリアランスは30C。ロードレース用と考えれば十分だ。
リヤエンドにはUDHを採用。ハンガーの入手性などを考えるとメリットが大きい。
BBは大径スレッド式のT47だが、ドライブトレイン側はベアリングがエクスターナル、反対側はインターナルというT47Aという規格。ハンガー幅をある程度確保しつつ、チェーン落ちによるフレームへのダメージを軽減する

FR 4.0 | クライミングレースバイク

オールロードのVRも同時デビュー

そんなFRと同時にデビューしたのがVR。フェルトはグラベルロードのブリードもラインナップしているので、このVRはエンデュランス~オールロードという位置づけだ。オールロードだがレーシングも視野に入れているという。
旧型VRに比べると、フレーム形状は一気に近代的になった。最小限のメーカーロゴにフロント車軸から後輪上端に向けてスパッと切ったような塗り分けも特徴だ。見た目の変化はFRよりも大きく、激変と言っていいレベルである。

端正なフレーム形状、D型コラム、真円シートポスト、UDH、T47Aなど、FRとの共通点も多いが、こちらは悪路での快適性を高めるため、ドロップドシートステーを採用し、さらにシートポスト部に振動減衰スリーブを入れ、サドル部の快適性を高める工夫が盛り込まれている。

FR、VRに共通する見どころはジオメトリ。フレームサイズはカーボンフレームにしては多めの7種類(国内では完成車で4種類、フレームで5種類)で、シート角やヘッド角はサイズ毎に細かく調整されており、全サイズ統一とされることも珍しくないチェーンステー長は3種類(VRは2種類)。フォークオフセットも2種類あり、リーチは漸増的に伸びている。

商品力として理解されにくいジオメトリは、真っ先にコストダウンの餌食になるところだが、フェルトは手を抜いていない。何度も言うが、真面目だ。

販売形態はFRと同じ(アルテグラ完成車、105Di2完成車、105完成車)で、価格もFRシリーズと同一とされる。

フレームは空力性能を意識した形状。フォークやシートステーは回転するホイールの乱流発生を抑制する効果を織り込んでいるという。
タイヤクリアランスは38Cで、フレームはアドバンスドグレードのみ。重量は900gと、オールロードとしては軽量に仕上がっている。

VR 4.0 | オールロードバイク

見た目とスペックを見る限り、相変わらずフェルトは真摯なバイク作りをしているようだ。しかし自転車は走ってみなければ分からない。次回、旧型のFR&VRもお借りし、FRとVRの新旧比較を行うほか、ブリードにも試乗し、“フェルトの今”をレポートする。

後編はこちら

誰が“いい自転車”を作るのか|FELT FR/VR/ブリード試乗記(後編)

誰が“いい自転車”を作るのか|FELT FR/VR/ブリード試乗記(後編)

2024年10月02日

 

10月19日‐20日に試乗会を開催

イベント詳細はこちら

問:ライトウェイプロダクツジャパン https://www.riteway-jp.com/

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PROFILE

安井行生

安井行生

大学卒業後、メッセンジャー生活を経て自転車ジャーナリストに。現在はさまざまな媒体で試乗記事、技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半を自転車につぎ込んできた。

安井行生の記事一覧

大学卒業後、メッセンジャー生活を経て自転車ジャーナリストに。現在はさまざまな媒体で試乗記事、技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半を自転車につぎ込んできた。

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