誰が“いい自転車”を作るのか|FELT FR/VR/ブリード試乗記(後編)
Bicycle Club編集部
- 2024年10月02日
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万能ロードのFRとオールロードのVRを同時にフルモデルチェンジさせたフェルト。新型FR&VRの分析と新旧比較を通して、ジャーナリストの安井行生が“フェルトの今”を書く。後編は、新型FR/VRの印象、新旧比較、そしてグラベルロードであるブリードの試乗記。
前編はこちら
美点を捨てないFR
ニューモデルの試乗印象を記すだけでもいいが、「そのメーカーがどのような設計思想を抱いているのか」「新型は旧型に比べてどのように変化したのか」を原稿に折り込んだほうが読者の皆さんにとって有益な情報になる(はず)。そこを正確に判断するために新旧比較をしたいんですが―― フェルトの輸入代理店ライトウェイにそう申し出たところ、快諾していただき、旧型の試乗車を同時にお借りできることになった。
まずはFRから。試乗時のセオリーに則って、旧型(新型と同じアドバンスドグレード、ただし機械式105完成車)から乗ることにする。
旧型ではあるが、万能モデルのお手本のような自転車だ。軽快で扱いやすく、ハンドリングよし。適度にレーシーで適度に快適で、どんなペダリングに対しても力強く進み、地形の好き嫌いも言わない。なにより走っていて超楽しい。
また、
これはあまりよくない傾向だ。ロードバイクの先鋭化が進む現在、モデルチェンジしたことで想定速度域が上がってしまい、「扱いやすさ」「楽しさ」「気持ちよさ」「疲れにくさ」「ポジション自由度」など一般サイクリストにとって重要な性能が犠牲になり、結果として「我々にとっては旧型のほうがよかった」という結果になるのは、昨今珍しいことではない。
旧型がここまでバランスがいいと、それを維持したまま近代化させるのは難しい。それに、試乗は結局相対評価だから、旧型に感動してしまうと新型の評価はどうしたって辛くなる。
もしかしたら旧型に乗ったのは失敗だったか、と思いつつ新型へ。剛性が上がり、よりシャープに、よりレーシーになっている。要するに動力伝達性が上がっている。近代化させてロードバイク技術競争の先頭集団に入るために、これは必須だ。
しかし、プロ専用機材であればそれは正解だが、一般サイクリストにとっては、時として動力伝達性よりも重視すべき項目がある。旧型が持っていた利点は、まさにそれだった。
結果から言うと、扱いやすさや、ペダリングの滑らかさ、踏みしめられる剛性感は、新型になってもほとんど陰っていなかった。剛性アップにともなってペダリングフィールは多少硬質になったと感じるが、挙動がシャープになったメリットがそれを上回っている。
今から思えばこれは、初代~2代目のFシリーズ、その後に続く先代FR、そして今回の新型FRと、どの世代にも共通する美点だ。おそらく意図したものだろう。これは地味にすごいことだと思う。
新型VRの着地点
ではVR。こちらも旧型(アドバンスドグレード、機械式105完成車)から乗る。
かつて、その総合力の高さに感動したZシリーズに共通する万能性がある。「快適性」ではなく、「万能性」だ。というのも、Zシリーズはエンデュランスロードにありがちなもっさり感が少なく、フレームのしなりを活かしてしっかりと進んだから。ただ快適なだけではなかった。
比較のために乗った旧型VRも、その延長線上にある自転車だった。ゆったりしたバイクだが、ゆったり一辺倒ではない。かつては、「路面からの振動は吸収してくれてるけど、ペダリングパワーも吸収してくれちゃってるから、むしろ疲れやすいじゃん」という本末転倒なエンデュランスロードも存在した。「温泉気分で気分穏やかに、150W以上は絶対に出さない」というような向きにはよかったかもしれないが。
旧VRはそうではない。快適で穏やかなれど、それだけではない。普段は包容力があるけれど、いざとなればレーシングバイクともガチンコにやり合える、そんな自転車だ。
新型VR、結構レーシーなことに驚いた。フレーム自体の剛性は上がっており、動力伝達性は想像するよりずっと高い。レースユースも視野に入れたということだから、フレームはがっちり作っておき、快適性は太いタイヤと低い空気圧とシートポストに任せる、というコンセプトなのだろう。FRには一貫性を感じたが、グラベルロードのブリードやアドベンチャーバイクのブロームが登場したこともあり、VRは設計思想をやや変化させたという印象だ。
フレーム各所に可動機構を盛り込むエンデュランス/オールロードも多い。メーカーによってステムにサスを入れたり、シートポスト部分に凝ってみたりと手法はさまざまだが、ヘッドチューブが長いVRは上体が起きるため、ハンドルから荷重が抜け、自ずとサドルにどっかりと座るポジションになる。ならば、重量増となるサス機構や可動機構は設けず、シートポスト部分にシンプルな緩衝材を挟むだけ、という設計は理にかなっている。
かつてエンデュランスロードは、レーシングバイクに比べれば太いタイヤを履けたものの、リムブレーキの物理的制限もあって、28Cくらいがタイヤサイズの上限だった。それで快適性を出そうとすると、フレーム全体をしなやかに作っておく必要がある。それが結果として“いいフィーリング”に効いたりもしていたのだが、今はタイヤ幅の自由度が上がり、空気圧含めてタイヤ側でチューニングできる領域が以前とは比べ物にならないくらい広がった。
だから新世代のVRは、フレームは軽く硬く作っておき、シートポストとタイヤで快適性を出し、グラベルレースからのんびりとしたツーリング的ライドまで幅広いバーサタイル性を持たせたのだろう。快適性一辺倒でもない。あくせく走るだけでもない。いい落としどころだと思う。
グラベルバイク「ブリード」のバランス
最後に、グラベルロードのブリードにも乗らせてもらった。ブリードシリーズにはカーボンフレームのブリード・アドバンスド(GRX820完成車、GRX610完成車、フレームセット)と、アルミフレームのブリード30(GRX820/610混成完成車)があるが、用意していただいたのはGRX610完成車。トーンを揃えて色相で差を付けた配色が目に心地いい。
フレーム形状は空力を意識しつつも、整備性、快適性、剛性を優先したと思われるもの。悪路を含んだツーリングというよりは、グラベルレースを想定したモデルで、フロントサスペンションやドロッパーシートポストにも対応する。
近所のホームコースで試乗した。加速も、舗装路も、コーナリングも、砂利道でのタイトターンも、フラットダートでの疾走も、なにもかもが自然でバランスがいい。ホイールはフェルトのオリジナル、DEVOXのアルミリムだったが(たぶん結構重い)、フレームの素性がよっぽどいいのか、きびきびした動きが薄まっておらず、舗装路からガレたトレイルまで欠点がない。
グラベルロードとしてバランスのとれたジオメトリ、フレームの素材と積層、重量と剛性感、タイヤを含めたパーツアッセンブル、それらすべての積み上げだろう。
正直、そこまで戦闘的な形状ではないし、カラーリングも優し気な雰囲気なので、もう少し大陸的な性格なのかと思っていたが、その実、ブリードの実力は相当にレベルが高い。
今だからこそ
現在、超高性能とブランド力の両方を有するハイブランドがあり、その一方にフレーム製造工場の独自ブランドや代理店のプライベートブランドがある。さまざまな要因でスポーツバイクの高価格化が進む今、ハイブランドに手が届かない、もしくは必要ない人達は、いわゆる中華カーボンやPB商品で十分、という二極化の風潮がある。
そんななかで、立派なブランドではあるが、決して派手なイメージを持たないフェルトのようなメーカーは、立ち位置が難しくなっているように思う。あくまでミドル~ハイエンド市場に限っての話だが、二極化の谷間にはまってしまったような印象だ。しかし、本当はこんな今だからこそ、フェルトのようなメーカーに注目すべきなのだ。
「技術先行」「空力命」「武闘派」「ラグジュアリー」「奇抜な個性派」「とにかくコスパ」など、ブランドが喚起するイメージは様々だ。スポーツバイクは趣味のための乗り物だから、なにかそういう極端な看板を掲げたほうが個性を主張でき魅力をアピールしやすい。
しかし、フェルトのイメージは、一つの看板に焦点を結ばない。それはこのメーカーが、自転車に必要なものすべてを自社製品に込めようとし、絶えず真面目なもの作りをしてきたが故なのだと思う。
10月19日‐20日に試乗会を開催
問:ライトウェイプロダクツジャパン https://www.riteway-jp.com/
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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
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