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近道はないからこそ必要だったショートカット|『sio』鳥羽周作さんが読んできた本

時間を取り戻すために必死に読み漁った

手にしてきた書物を見れば、そのシェフの生き様が見える。代々木上原『sio(旧店名Gris)』の鳥羽シェフの5冊はまさにこの連載のコンセプトそのものであった。

「プロになりたくてサッカー浸けの10代を過ごしました。そして夢が破れた頃、テレビに映るプロ選手を馬鹿にしている自分がいました。同時に、俺、なにやってんだろうと……。これ以上他人を羨みたくなくて飛び込んだのが料理の世界でした。完全に出遅れですよ。待ったなし、逃げ場なし。この世界に飛び込んでからは我武者羅に突き進んできたつもりです。この人と決めた人の技術を盗み、この店と決めた店のスタイルを身体に染み込ませました。30歳を過ぎてキャリアをスタートさせたから、若い子のようにゆっくり見て学ぶ時間なんてありません。だから現場で触れて本で確かめて、本で知って現場で試しての繰り返しでしたね」

そんな鳥羽シェフがGrisで腕を奮うようになったのは2016年のこと。いまでは料理本はほとんど手にしていないという。

「吸収する段階から、生み出すステージに移行しました。胡坐をかくつもりは毛頭ありませんが、他人の真似は終わりです。フレンチとかイタリアンとかでは定義できない『自分が作る日本人料理』を世界に発信します」

挫折を経て口にした言葉には“プロ”の自負が感じられた。

鳥羽さんが読んできた本

書影はすべて鳥羽シェフの私物。

【キャリアスタートの一冊】
『アロマフレスカ』のパスタブック」原田慎次/講談社

師匠の技を盗むための 予備知識がもたらしたもの
ひと“口”惚れして飛び込んだ『ディリット』で坂内正宏シェフ(アロマフレスカ出身)のDNAを知るために手にした一冊。

「ソースすら作り置かず、麺があがった瞬間が仕上がりのタイミングとなるアロマフレスカの“キレ”を盗みたかったんです。まるで日本刀のような鋭さと、タイムロスのないスタイルは、私にとっての料理の原体験となりました」

【修業時代の一冊】
PASTA115 — 気鋭のシェフ14人が見せるパスタのアイディア」柴田書店

いつも顔を合わせる坂内氏の凄みを感じたレシピブック
『ディリット』で独自のスタイルを確立した坂内シェフ。その技が詰まった料理書で師匠の高い技術を再確認させられることに。

「日本におけるイタリアン界で第一線を走る14人のシェフの共著でした。中でも坂内シェフの手打ちオレキエッテは秀逸でした。シェフが常々口にしてい た『食材と手打ちパスタの対話』がページを飾っていたんです」

【我武者羅期の一冊】
月刊専門料理」(2011年2月号)柴田書店

“スタート地”への決別、その決心をさせた一冊
「努力が報われたのか、掲載するデザートを作らせてもらえたんです。嬉しかったですね。そして、掲載誌が届いてページをめくったら、『フロリレージュ』の川手(寛康)さんが作ったオムレツが目に飛び込んできて。まるで別世界の料理でした。しかも同い年。迷っている時間はありませんでした。翌日に辞意を伝え、フロリレージュの門を叩きました」

【ブレイクスルー期の一冊】
フランス料理を描く フロリレージュ」川手寛康/柴田書店

ページから感じ取る、戦い抜いた厨房での日々
「33歳、イタリアンでのキャリアが2年の自分には、予約の取れないレストラン・フロリレージュの厨房は厳しい世界でした。スペシャリテのメレンゲを習得するために寝る間を惜しんで試作を重ねました。その頃、フロリレージュに1年がかりで撮影が入り、完成したのがこの本です。死にもの狂いの日々の片鱗は今見ると感慨深いものがあります」

【現在の一冊】
Sports Graphic Number」(922号)文藝春秋

26年の歳月を超えてレジェンドが語りかける
「小4の時、サッカー教室で『やり続ければ、プロになれる』って言われて。先日、この表紙のカズさんを撮影したカメラマンさんが偶然、Grisにいらして、この本をもらいました。インタビューを読んだら、あの時と同じことを言ってるんです。『続けな』と。道は変わりましたが、やはり続けるべきなんだと思い知らされました。やりますよ!」

 

Profile
sio シェフ 鳥羽周作
30歳になるまでは教員を務める。料理人のキャリアは『ディリット』でスタートし、『フロリレージュ』を経て2016年に『Gris(グリ)』のシェフに就任。2018年7月、オーナーシェフとして自身のすべてを出し尽くしたレストラン「sio」をオープン。独自の世界観にファン多し。

出典

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PROFILE

buono 編集部

buono 編集部

使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。

buono 編集部の記事一覧

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