PGA TOURの共存はあるか? イベントプロデューサー薬師寺 輝氏が語る「LIV GOLF」
EVEN 編集部
- 2022年07月29日
今年、LIV GOLFという新リーグが立ち上がった。「54ホール、48名、個人戦とチーム戦、ショットガンスタート、予選落ちなしで年間8試合。各試合の賞金総額2500万ドル(約30億円)」というのが基本コンセプト。ちなみに「LIV」は、ローマ数字で「54」を指している。この新リーグは、今年8試合、来年は10試合を開催予定だという。6月9日〜11日にロンドン郊外で開催された第1回大会には、ダスティン・ジョンソン、フィル・ミケルソン、ルイ・ウーストハイゼンなどのビッグネームが名を連ねた。大会期間中には「ビジネス上の決断」とし、ブライソン・デシャンボーも参戦を発表。世界のトップ選手たちは、数億ドルとも取り沙汰される契約をLIV Golfと交わしていると言われている。
1試合あたりの賞金を比較するとPGA TOUR(LIV GOLFの初戦と同週に開催されたRBCカナディアンオープン)は総額870万ドル(約11億円)で、LIV GOLFの初戦(ロンドン)は総額2500万ドル(約32億円)。1シーズン当たりの、それぞれのツアー(リーグ)の賞金総額は、PGA TOUR(メジャーを除く44試合)が4億640万ドル(約530億円)、LIV Golf(8試合)は2億2500万ドル(約293億円)となっている。LIV Golfは1試合あたり約3倍の賞金総額の試合で、出場選手数で割ると、選手たちの収益率は9.3倍にも及ぶ。なお、最下位の48位になったとしても、12万ドル(約1600万円)が支払われる。PGA TOURは予選落ちすればゼロだ。
残された選手寿命の期間でPGA TOURで稼げるはずの金額とスポンサー契約金に対し、LIV Golfの契約金と賞金が上回っていれば、PGA TOURを去ることは合理的な判断と言える。一方で、お金の価値は人によって違うということも事実。2杯目のビールより、1杯目のビールの方が美味しいように、お金も有する量が増えれば、その単位に対する効用は減る。
現時点でPGA TOURに忠誠を誓うローリー・マキロイやジャスティン・トーマスなどは「お金の問題ではない」としているが、彼らが有している資産からすれば提示された金額ではそれに見合った効用を得られないと感じているということだろう。
それでは彼らがお金よりも重視する“効用”とは何か。それはPGA TOURが有するレガシーであり、幼少の頃から夢みてきた舞台への憧れ、そして競技への渇望だろう。PGA TOURで活躍するトップ選手たちは、タイガー・ウッズの出現以降、「お金の問題ではない」と言えるほど稼げるようになってきたことも事実だ。
RBCカナディアンオープンが118年前から続くように、ジェネシスインビテーショナルがロサンゼルスオープンからスタートしたように、PGA TOURのイベントの多くは、それぞれの地域の競技に対する必然性から生まれてきたものだ。世界のトップ選手たちを見るのではなく、様々なゴルファーたちに必要とされるイベントであり続けることが出来、そのレガシーを大切に守れば、どんなに賞金額で差がつこうとも、PGA TOURのイベントは価値を失うことはないはずだ。そういった意味では、ゴルフというゲームは、報酬を目的に競技するのではなく、純粋にスポーツを愛好する精神、つまり「アマチュアリズム」と切り離せない関係にあるのかもしれない。皮肉なことに、トッププロであるマキロイやトーマス、ラーム等は、自らの技術によって十分なお金を手にしたことによって、「アマチュアリズム」を追求しているように見える。PGA TOURにとってLIV GOLFは「ライバルリーグ」と呼ばれているが、それぞれの価値は異なるもののように感じる。そういった意味では、ライバル関係にはなく、共存することも十分可能なのではないだろうか。主管がどこであれ、「オープンチャンピオンシップ」と名がつく大会だけは、プロ・アマ・団体問わず、誰にも開かれた大会であり続けてほしい。それがゴルフという競技の本質のはずだ。
LIV GOLFに参戦した選手はPGA TOURの競技を出場停止されると発表。LIV GOLFは出資がサウジアラビアの政府系ファンド。ミケルソンはPGA TOURが放映権などを独占していることへの不満もあった。マキロイはPGA TOURへの忠誠を示す。
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写真/USA TODAY Sports/ロイター/アフロ、AFP/アフロ 文/薬師寺 輝(NibLinks Co.,ltd&IAGTO Japan)
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スタイリッシュでアスリートなゴルファーのためにつくられたマガジン。最旬のゴルフファッション、ギア、レッスン、海外ゴルフトリップまで、独自目線でゴルフの魅力をお届け。
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