「amadana」 クリエイティブディレクター熊本氏に聞くデザインの良いゴルフクラブって何?
藤井順一
- 2022年03月30日
スポーツ用品である以上、ゴルフクラブは性能が第一だ。その形状はゴルフ競技の歴史や技術的な革新を経て進化してきた一方、カラーや形状、ロゴなど外見的な意匠でも魅力を増してきた面がある。ゴルフクラブをプロダクトデザイン的な視点で紐解くことで、マイクラブとより濃厚な関係が結べるのではないか。家電にいち早くデザイン的な視点を持ち込み、日本のプロダクトデザイン史に名を刻んだクリエイティブディレクターに、プロダクトデザイン的な視点から見るゴルフクラブのデザインについて聞いた。※本記事はEVEN 2022年2月号に掲載された記事を再構成したものです。
amadana代表 熊本浩志
1975年宮崎県生まれ。大学卒業後、東芝へ入社。2002年リアル・フリート(現・アマダナ)を設立し、家電ブランド「アマダナ」をスタート。現在は総合クリエイティブ商社としてグループ会社を複数展開し、経営戦略からブランドマネジメント、商品企画、マーケティングなど幅広い事業を展開。
機能美の実現はデザインの絶対条件
2003年のブランド発足以降、美しく、機能性に富んだ電化製品を次々に生み出してきた「アマダナ」。日本のデザイン家電業界を牽引してきた存在であるが、現在では家電の分野だけにとどまらず、コーヒー器具およびコーヒー豆の企画・開発・販売やカフェ運営などを行う「BeastyCoffee」、ボーダレスに音楽を楽しむためのソリューションブランド「アマダナ ミュージック」、スポーツビジネスのDtoCを実現するデザインファーム「アマダナ スポーツエンターテイメント」、大学のコミュニティマーチャンダイジングプラットフォームを提案する「カレッジマーケット」など、クリエイティブ総合商社として多岐にわたる事業を展開している。
アマダナを率いるのは、総合スポーツクラブ「東京ヴェルディ」のディレクターであり、その野球カテゴリーのGMでもある熊本浩志氏だ。社会人野球チームからスカウトされるほどの実力を有す生粋のスポーツマンで、年間50ラウンド以上をこなすゴルファーでもある。長年、プロダクトデザインに携わり、スポーツビジネスも手がける熊本さんにとって、「デザインの良いゴルフクラブ」とはどのようなものなのだろうか。
「一概にはいえないのですが、まずクラブを含めるマスプロダクト全般において、デザインは制約のかたまりなんですね。パフォーマンスを生かすために導かれるデザインと、表層的なデザインの両方が必ず求められます。よって機能性と美しさを両立させていることは、マスプロダクトの絶対条件でしょう」
機能美を大前提ととらえる熊本さんの考えは、ものづくりの第一線で活躍するクリエイターだからこそ感じさせる説得力がある。
「機能美を叶えるうえで、ブランドの規模感は非常に影響しています。近年、ゴルフクラブは海外ブランドが人気を集めていますよね。なぜかというと、グローバルに展開しているがゆえ、莫大な予算を投じられるからなんです。マーケットシェアが高ければ、コストがかかっても単価は下がりますし、パーツを製造する企業だって受注数の多いブランドと取り引きしたいですから、技術力のある企業とも協業できる。結果、多くのゴルファーに支持される、優れた製品がつくられるんです」
オーセンティックなデザインは年月を経てもなお美しい
熊本さんが話すように、海外ブランドのクラブを選ぶゴルファーは以前よりも増えている。クラブの〝顔〞や
カラーリングなど、見た目のデザインも影響しているのだろうか。
「ゴルフクラブのデザインの印象やカラーは、車や時計のトレンドを意識していると聞いたことがあります。また、海外ブランドのクラブが選ばれる理由として、ネットや動画サービスなどの普及でPGAツアーが観られるようになったのも大きいですね。アマチュアがプロが使っているクラブを使いたいという思いを抱くのは、今も昔もゴルフクラブ選びにおいて普遍です。特に日本のゴルフクラブ市場ではその傾向が強いと感じます。『テーラーメイド』の『トラス TB1 トラスヒール パター』は、海外よりも断然、日本で売れているんです。このパターは稲見萌寧プロなどが使っており現に良い成績を残していますし、パターはプロと同じ仕様にできる唯一のゴルフクラブという視点も、関係していると思います」
いま、熊本さんのクラブセッティングは「アーティザンゴルフ」のクラブが中心。ドライバーを始め、ウッド系は「キャロウェイゴルフ」を、パターは「ゲージデザイン」の「303 ソフトステンレス」をセレクトしている。
「アーティザンには心底惚れ込んでいるんです。もともとアイアンとウェッジは『ナイキゴルフ』を使っていて、ナイキゴルフの撤退後、かたちで選んで決めたのが『ブリジストン』。その後、アーティザンにたどり着いたのですが、日本でアーティザンをサポートする『インフィニット』代表の秋山弘充さんは、ナイキゴルフとブリジストンに在籍されていた方だったんです。直接デザインに関わらなかったとしても、最終的に製品として完成したアウトプットには、多かれ少なかれディレクターのクセや好みが反映されているもの。僕は結局、秋山さんが手がけるクラブに惹かれているのだなと気づきました」
アーティザンゴルフは世界のトップレイヤーたちが絶大な信頼を寄せるクラフトマン、マイク・テーラー氏が設立したブランド。名匠が研磨するマスターヘッドは極めて美しく、工芸的魅力に溢れている。
「オーセンティックな形状と、クラフトマンシップを感じるデザイン、そしてつくり手の背景に魅了されています。ストーリー性のあるクラブなだけに、より愛着が湧くんですよ。ドライバーは比較的簡単に変えがちですが、アイアンは違う。僕にとっては野球のグローブに近くて、クラブを育てていく感覚なんです」
とはいえ熊本さんは基本的に『つくり手は好き嫌いがあってはならない』という考えであるという。
「そうでないとフラットに物事をとらえられませんからね。でもやはり思考のクセはあるんです。自分はオーセンティックなかたちを好む傾向にある。時を経ても色褪せない王道感が好きで、身の周りには普遍的なプロダクトを置いています」
最後に、日本のクラブのデザインに対する期待を聞いた。
「職人の技術や手触り感といった、日本ならではの個性を表現できたらおもしろいですよね。いまの時代では新鮮に映りますし、それが新しい価値になると感じています」
デザインの良さとは「クラフト感がある」
「伝統と常なる革新の融合」という美的ポリシーに基づき展開される「アマダナ」のプロダクト。ミニマルで洗練されたデザインには、日本ならではのクラフトマンシップが宿っている。
デザインの良さとは「オーセンティックである」
熊本さんを魅了するのは、10年、20年経っても、価値が陳腐化しない王道感のあるデザイン。オーセンティックであることは、ゴルフクラブ選びの一つの基準となっている。
「タイトリストやミズノのマッスルバックは工芸的な美しさがあり所有感を満たす好デザインです」
デザインの良さとは「ストーリー性がある」
「『アーティザン ゴルフ』のクラブからは、ストーリー性が感じられるんです」と熊本さんは話す。クラフトマンの思いと熟練した技術が詰まったクラブゆえのことであろう。
デザインの良さとは「コミュニティに訴求する」
熊本氏のクリエイティブの領域は製品デザインに限らない。たとえば、国内の大学オリジナルグッズをデザインの力で米国のカレッジアイテムのようなファッションアイテムとして昇華するプロジェクト「カレッジマーケット」。大学や地方などのコミュニティでのデザインには可能性があると熊本氏。兵庫・姫路の市川町の鍛造アイアンやミズノの養老工場など、国内メーカーの一部にブランド化の流れはあるものの、工芸品というイメージを超える展開はなされていのが現状だ。
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