Fishing a Go! Go! |オリノコ川アドベンチャーフィッシング
フィールドライフ 編集部
- 2020年04月17日
南米コロンビアとベネズエラ国境沿いの町、プエルトカレノ。その町の郊外を流れるビタ川は、ギアナ高地の裾を流れるオリノコ川水系の原始河川のひとつ。そしてそこには、巨大なピーコックバスが潜み、1982年には26.8ポンドというワールドレコードが生まれた。世界記録を夢見て、釣友とふたりでアドベンチャーフィッシングに挑んだ。
トーハツ170馬力の船外機のスロットルを絞り、雨季の増水で大きくえぐられたビタ川の急流を遡上する。60ポンドPEラインの先には、ワイヤーハリスに結ばれたレッドヘッド6インチのミノー・ルアーが、泥流のなかをゆっくりと引っ張られている。
ピーコックバスのワールドレコードを何度も塗り替えた実績のある、南米コロンビアのビタ川を友人と訪れたのは、東日本大震災前だった。ベネズエラとの国境沿いの町、プエルトカレノの郊外を流れるビタ川は、ギアナ高地の裾を流れるオリノコ川水系のひとつで、かつて巨大なピーコックバスが潜む川として、世界中のルアーアングラーから注目を集めるほどだった。しかし、政情不安などから、釣り人からその存在を忘れ去られようとしていたのだ。
その当時、コロンビアでは外国人の誘拐と身代金の要求が日常茶飯事に行なわれ、ボゴタ空港の税関を抜けて国内線のゲートまでのわずかな距離でさえ、現地のツーリストガイドが雇ったボディーガードに守られて移動するというありさまだった。そして、ここ30年間で日本人の釣り人はおろか、ビタ川へロッドとリールを携えてたどり着いた外国人は、ガイドいわくアメリカ人の3人のグループに継いで我々は2組目だという。
そのため現地の治安や伝染病、疫病といった基本情報さえもたらされておらず、唯一わかっていたのは、1982年に26・8ポンドの世界一のピーコックバスが釣れたという話だけだった。しかし、我々のような釣り人にとって〝巨大なピーコックスが存在する〞だけで、現地赴く十分な情報だったのだ。
疲弊した大地を抜け密林の奥へ
成田空港から最終到着地プエルトカレナ空港までは、乗り継ぎ時間を含め39時間以上かかった。小さな飛行場を出ると、目のくりくりした少年少女と目つきの悪い警察官が立ち、電線には首が長くくちばしが赤い、黒い鳥が3羽とまっていた。
オリノコ川に面した人口わずか数千人の街プエルトカレノは、グローバル化という世界の大きな渦から未だ完全に取り残された街だ。しかし、どこからか流れてくるラテンのリズムに腰をブルンブルンとさせながら、子どもたちをしかる母親たちの姿を見ていると、人々の暮らしに暗さはなく、晴れ晴れとしていた。
小さな街を出ると広大な牧草地が広がり、鮮やかな赤土の幹線道路が続いている。その道路から荒れた放牧地を抜けると、マンゴーやアーモンドの樹々に囲まれた、オレンジ色の壁と緑のトタン屋根のニマハイ・ロッジに到着した。
ニマハイ・ロッジは、ビタ川が西から北へ大きくの湾曲する土手の上に建てられ、ゲストハウスは2棟。1棟には2部屋、4名が泊まれる。キッチン兼食堂兼リビングは、虫よけ用のナイロンメッシュに囲まれ、まるで虫かごのような作りだ。ロッジには電話もなく、携帯電話は小高い山の上に立ち、雲があれば電波が反射してかろうじてつながる。
到着早々、ガイドのエディーのボートで、口を開けると下あごから頭を越えるほどに歯が伸びた牙魚、パヤーラのトローリングに出かけた。コロンビアやベネズエラなどスペイン語圏ではパヤーラと呼び、ブラジルなどポルトガル語圏ではカショーハ(犬の歯をもつ魚)と呼ばれている。銀色の体色で、体長は最大1m以上にもなる。南米で一度は釣ってみたい猛魚だが、頭部と長い牙をのぞけば脂びれまであり、まるでシルバーサーモンそっくりだ。
2度ほど同じポイントを繰り返し流したころだろうか。水面ギリギリに構えたロッドティップがギュンギュンと大きくしなった。とたんにエディーが「パヤーラ! パヤーラ! グランデ(大きい)!」と叫ぶ。強めに絞めたドラグに負けることなく、ラインは出ていく。そして、銀鱗の華麗なジャンプ!
ようやく上がったパヤーラは、80㎝ほど。魚体のあちこちにほかの魚に噛まれた跡があり、強面のパヤーラといえどもこの川では、つねに身の危険にさらされているのだ。
原生河川の濃密な個性
「パボーン、パボーン、グランデ!」と、エディーは船外機を片手で取り回しながら叫んでいる。パボーンとは、現地語でピーコックバスのことだ。ラインは黄土色の水のなかへ一直線に伸び、そのラインがふっと緩んだかと思うと、まるで黄色い花が飛び散るようにグリーンとも黄色とも見える鮮やかな魚体が跳ね上がる。
大型ポッパーに喰らいついた重量14ポンド、体長78㎝の大物は、3種類いるピーコックバスのうち、現地名でバーと呼ばれる3本の縦ストライプが入ったタイプだった。
ニマハイ・ロッジでの釣りは、夜明けの6時に起床して、7時から朝食。8時すぎにボート乗り場に行くと、釣り道具やコーラ、ビール、サンドイッチの入ったクーラーボックスがすでにスタンバイされ、即出発となる。
そして、ロッジ上流30㎞、下流20㎞の広大な範囲を都合7日間、縦横無尽に釣って、釣りまくった。「エディー、パボーン・グランデ、ワールドレコード?(ワールドレコードのピーコックバスはここにいるか?)」が、合言葉だった。
ビタ川周辺は、まさに手付かずの原生熱帯雨林が広がっている。その密林のなかを毛細血管のように細かな水路が走り、ラグーンがあり、最終的に大きく蛇行を繰り返すビタ川に集まっている。
ここではピーコックバスやパヤーラのほかに、淡水ダツの一種、アグヘト、カマスそっくりのパヤラ・ペケーニョ、淡水エイのラカ、巨大ナマズのワァタグアロ、そしてピラーニャなどが釣れ、川イルカがフッキングした魚を横取りしようと虎視眈々と狙っている。しかも川周辺には、マナティ、カワウソ、カピバラにワニなどが見られ、森の奥からは不気味なホエザルの声が始終響いてくる。
そんな密林に潜む高密度な生物たちはつねに「食うものと食われるもの」の両面を背負い、過激で奇抜、強烈で豊穣な野性の論理のなかで生きている。そして、スポーツフィッシングといえども「やるか、やられるか」。あらゆる病害虫を含め、その野性に負けず釣りをする覚悟が必要となる。少しの油断でも大怪我が待っているからだ。
アマゾン河のマナティは絶滅の危機にひんし、ピラルクーは小さくなり、小魚たちの群れも年々見られなくなりつつあるというが、コロンビア、オリノコ河水系ビタ川の原生熱帯雨林は、野性力の減退も衰退もないようだ。まさに「釣りと野生動物のパラダイス」というのは、こういう場所をいうのだろう。
現在、首都ボコダへの渡航は、当時のレベル3(渡航中止勧告)からレベル1(渡航注意)まで下がっている。近い将来、もう一度ビタ川でワールドレコードを目指してみたい。この川なら20ポンドオーバーのピーコックバスも夢ではない。
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取材・文◎遠藤 昇 Text by Noboru Endo
写真◎ディック・アレン Photographs by Dick Allen
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PROFILE
フィールドライフ 編集部
2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。
2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。