BRAND

  • Lightning
  • 2nd(セカンド)
  • CLUTCH Magazine
  • EVEN
  • BiCYCLE CLUB
  • RUNNING style
  • NALU
  • BLADES(ブレード)
  • RIDERS CLUB
  • CLUB HARLEY
  • DUCATI Magazine
  • flick!
  • じゆけんTV
  • 湘南スタイルmagazine
  • ハワイスタイル
  • buono
  • eBikeLife
  • ランドネ
  • PEAKS
  • フィールドライフ
  • SALT WORLD
  • Kyoto in Tokyo

雲海の上、星空の下・前編|ホーボージュンの全天候型放浪記

北海道の道東にある屈斜路湖は日本最大のカルデラ湖だ。この夏の終わりに、僕は友人とここを訪れた。インフレータブルSUPでこの広大な湖面を漕ぎ渡りそのあとはカルデラの外輪山に登ろうという作戦だった。果たしてその旅の行方は……。

文◎ホーボージュン Text by HOBOJUN
写真◎二木亜矢子 Photo by Ayako Niki
出典◎フィールドライフ 2020年秋号 No.69

日本最大のカルデラ湖を漕ぎ渡る。

女満別空港からはローカル線を乗り継いで屈斜路湖近くの美留和駅に向かった。

JR釧網本線の美留和駅に降り立つと靴底が「ジャリ」っと鈍い音を立てて滑った。

「えっ?」と思って足元を見ると駅のプラットホームは舗装されておらず、盛り土に砂利が敷いてあるだけだった。ズリズリとホイールダッフルを引き摺りながら駅舎に向かう。駅舎は古い車両を改造したいわゆる “ダルマ駅舎” だ。もうそれだけで顔がにやける。ああ、これぞ北海道。大好きな道東の原風景がそこにあった。

思い起こせばもう40年も前のこと。僕のひとり旅デビューは15歳の夏休みに訪れた道東エリアだった。このときは帯広から広尾線に乗って幸福駅へ行った。東京から帯広までどうやって行ったかはもう覚えていないけど、ローカル列車の窓からみた地平線とそのときに感じたえげつないほどの胸の昂ぶりはいまでもよく覚えている。少年時代のあの旅がなければいまの僕はない。昔懐かしいダルマ駅舎を見てそれを思い出した。

駅前の空き地にツカちゃんのデリカが停まっていた。「ういーっす。ひさしぶり!」「おお! 元気そうだな!」かけ寄ってハイタッチを交わす。

駅にはツカちゃんが迎えに来てくれていた。ひさしぶりの再会を喜ぶオジサンふたり。

ツカちゃんこと塚原聡は僕の古い旅仲間だ。「北海道バックカントリーガイズ」というガイドカンパニーを主宰し、季節やエリアを問わず冒険的なツアーを催行している。彼とはニセコから日本海までスノーボードで踏破したり、積丹半島をシーカヤックで回ったりとスケールの大きな旅をしてきた。年齢も近く、山、川、海をボーダーレスに遊ぶ感覚も共通で、なにかと気が合う。

今回僕はインフレータブル式のSUPで屈斜路湖を横断し、そこからカルデラの外輪山によじ登って湖を上から眺めてみたいと思っていた。北見出身のツカちゃんはこの道東エリアになまら詳しい。だからこの計画に誘ってみたらふたつ返事でOKが出た。

「まずは湖の南岸にある和琴半島へ行こう。今日はここから北へ向かって漕ぎ上がり、砂湯あたりに上陸してキャンプを張る。あとは天気をみながら山に登ってもいいし、漕いでもいいし、成り行きで決めましょう」とツカちゃん。もちろん僕に異論はない。

インフレータブルSUPを膨らませ、さっそく湖へ向かう。旅の始まりに胸が高鳴る。

ここ屈斜路湖を中心とする屈斜路カルデラは東西26㎞、南北20㎞に及ぶ巨大な地球のエクボだ。いまから100万年以上前にこの地にマグマが吹き出し、大爆発とともに先カルデラ火山が形成された。その後もわかっているだけでも10回以上の噴火があったが、約12万年前に起こった大噴火では火山灰が札幌以西を除く北海道のほぼ全域を覆ったという。

対岸に外輪山がそそり立ち、ここが巨大なカルデラ地形であることが実感できる。

その火口が沈下して雨水がたまり日本最大のカルデラ湖となった。以後も活発な噴火が繰り返され、中島やアトサヌプリなどの山が出現。最初は真円だった屈斜路湖は現在の空豆のような形になったという。

初日は信じられないほどの美しい凪だった。透明の湖水と原始のままの光景に息を飲んだ。

湖畔についた僕らはさっそくSUPを膨らまし、広大な湖面を漕ぎ出した。風がなく湖面は穏やかに凪いでいた。湖面には船影がまったくなかったが、南岸にはカナディアンカヌーが何艘か置いてあった。

屈斜路湖は釧路川の源流で、カヌーイストにとっては聖地のような場所だ。釧路川は全長154㎞に及ぶ大河だが、このあたりの源流域は幻想的な森と自然の湧き水が美しい光景を織りなしていてとくに人気が高い。

湖を漕ぎ進むと大きな壁に突き当たった。正面に見える頂が藻琴山だった。早朝にあの山頂に立つと湖面いっぱいに広がる雲海が一望できるそうだ。これは登らない手はないな。湖面に浮かびながらそんな会話をかわしていた。

若いころからカヌーイストの野田知佑さんに憧れていた僕も「いつかは釧路川」とずっと思っていたが、じつはその夢はいまだ叶えられていないなかった。だから今回はSUPだけでなく、ココペリのパックラフトも持ってきた。前線の動きと川の水量をチェックし、もしチャンスがあれば川下りもしようと企んでいた。

光の上を漕ぎ進み、夕照のなかに天幕を張った。

日本最大の湖中島、中島が遠くに見えていた。鏡のような湖面にツカちゃんの影が映っていた。

初日は夕刻まで漕ぎ続け、砂湯に上陸すると夕照のなかでテントを張った。

屈斜路湖の火山活動はいまも続いていて、湖底や湖畔のあちこちに温泉が湧いている。この砂湯ではほんの数十センチ砂を掘ってやるだけで、温かいお湯が染み出してくる。僕はパドルの先端で膝下ぐらいの穴を掘り、染み出してきた温泉に足を浸けた。こわばった足の筋肉に地球の体温がじんわりと染みる。クーラーボックスから冷えた缶ビールを出してゴクリ。

夕映えを浴びながらテントを張る。短かった北国の夏が終わりを告げ、湖畔にはもうだれひとりいなかった。

「くう〜。たまらん」

こうして砂湯を満喫すると森で薪を拾い、焚き火を熾して肉を焼いた。ツカちゃんが名物の牛サガリを大量に持ってきてくれた。サガリというのは横隔膜のことだ。ハラミよりも赤身でサシが少なくとても柔らかい。

「道東のサガリは世界一ウマいよ」

焼き肉の街・北見出身のツカちゃんが胸を張る。

「そんなことあるかよ。東京や大阪だってウマいぞ」

ムキになって反論したが、この件に関しては圧倒的にツカちゃんが正しかった。

これが午前4時15分。気の早い暁に追い立てられるようにして僕らは山を登り続けた。

 

>>>後編へつづく

SHARE

PROFILE

フィールドライフ 編集部

フィールドライフ 編集部

2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

フィールドライフ 編集部の記事一覧

2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

フィールドライフ 編集部の記事一覧

No more pages to load