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すべてが自然から生まれたカナダ先住民の伝統、文化、生活を学ぶ。|ユーコンで力こぶ

カナダの北、ユーコン準州での生活から見えてくる季節折々の日常をご紹介。今回のテーマは「伝えていきたいもの」。

文・写真◎熊谷芳江 Text&Photo by Yoshie Kumagae
出典◎フィールドライフ 2019年秋号 No.65

北の自然と共に暮らした先住民の手法や知恵

ミタに出会ったのは、もう20年近く前。私のことをじっと見つめる瞳がとても力強かったのが印象的だった。彼女はいまから24年前、パートナーのハロルドとともに、ホワイトホースから西へ90km、車で1時間ほどのところにある、シャンペーンという村の近くに、先住民の伝統的な暮らし、文化、歴史を伝えていくためのキャンプを作った。私はそのキャンプにツアーのガイドとして赴き、彼らとはそれ以来の付き合いになる。

「作った」といっても、だれかになにか建物を建ててもらったのではなく、そこにあるものすべてが彼らの手によって作られたものであり、集められたものである。

ここで私たちを待つミタはいつも、ホワイトホースで会うよりもリラックスしていて、柔らかい雰囲気を醸し出している。そして、言葉の端々から、ここを訪ねてきてくれる人々に心から感謝しているのがわかる。私も、ユーコンの先住民の人々のことを学びたいと思ったら、やはり彼らの土地に行かなければいけないと思っているので、機会があるごとにここを訪れ、彼らから直接、彼らの言葉でストーリーを聞くことにしている。

先住民の魚猟の仕掛けを説明するハロルド

敷地内に作られた昔ながらの罠猟の仕掛けや住居を、歩きながら説明してくれるのはハロルドだ。彼は物静かでシャイな印象だけれど、先住民の人々が北の自然のなかでどう暮らしていたのか、狩をしながらの季節移動のようす、狩の手法、道具、知恵、自然への敬意、そして伝統を後世に伝えていくことへの情熱が強く、静かな語り口からも、その想いが感じられる。

おもしろいのは、彼の話を聞きながらここを歩くと、そこに置かれているものにはとくに変化はないのに、毎回必ず新しい発見があるということ。「その話は初めて聞いた!」と私が通訳の合間に伝えると、いつも彼はニヤリと笑う。これは恐らく、彼がマニュアルどおりの説明をするガイドではなく、自分の持つ、数え切れないほどのストーリーや経験談を私たちにシェアしてくれるからだろうと思う。

罠猟の仕掛け。丸太をバランスよく組み合わせただけで釘などは一切使っていない。

私がここを初めて訪れたときからいちばん好きなのが「ボーン・キャッシュ」だ。これは、木と木の間に作られた棚で、そこにはところ狭しと動物たちの骨が置かれている。これらは、猟をして獲った動物たちの骨。昔のしきたりとして、骨はいらないからと地面に捨ててしまうのではなく、動物たちを敬い、また来年も自分たちに食糧がめぐってくるようにという祈りを込めて、棚の上に置いていたのだという。

動物の骨が置かれた棚「ボーン・キャッシュ」

私は、先住民の人々の、このような自然に生かされているということへの理解や感謝にまつわる話を聞かされると、いつも感銘を受ける。ただ、これらは狩猟のために季節移動をしながら暮らしていた時代のしきたりであり、現在もすべての行為が行なわれているわけではない。それでも、こうして彼らのストーリーをとおして、そういった思いや考えというものを、若い世代に伝えていくのはとても大切なことなのではないかと思うのだ。

すべてが自然から作られる

ウインターキャンプ。保温のために、丸太の間に泥が塗られている。50年後にはすべてが自然に還る、オーガニックな建物だ。

先住民の人々の伝統的な家や道具を見ると、すべてが自然のもので作られている。例えば、木と木を繋ぎ合わせるのに使われるのは、彼らが「シンニュウ」と呼ぶ、動物の腱で作ったヒモで、白くしなやかで強い。魚をスモークするスモークハウスは、ポプラの木と枝葉を使った風通しのいいものだし、冬のキャンプは丸太を組み合わせ、その周りには保温のために泥が塗りつけてある。この内部には常緑樹であるトウヒの木の枝が敷き詰めてあるが、これは座ったときに地面の湿気で身体が濡れないようにするため。そのほかカリブーの毛皮を絨緞として活用したり、就寝時には身体の下に敷いたりした。食糧の保存は、永久凍土を利用し、地面に穴を掘った貯蔵庫だ。

私が好きな話は、狩のために旅をしていて、もし獲物が捕れず、食料が尽きてしまったときにだれかの食糧の貯蔵庫を見つけたら、そのときは中にある食料を食べてもいいというもの。その代わり、自分に獲物が獲れたら、今度は自分の貯蔵庫にあるものをだれか必要としている人とシェアをする。そういう助け合いの精神も、狩の暮らしのなかにはあったのだ。

シンニュウ(左)と、シンニュウで作った紐を使った道具。
ウインターキャンプの内部は、スプルースの葉を利用した敷物が敷かれる。

彼らの敷地内を歩いたあとには、ミタが「バノック」をご馳走してくれる。 これは小麦粉と塩、ベーキングパウダーと油(もしくはバター)、そして水を混ぜて作る、とても素朴なパンだ。フライパンにたっぷりの油を入れて焼くので、外がカリカリしていて香ばしく、先住民の人々はこれにタップリのバターとジャムをつけて食べるのを好む。これと、ムース・シチューというのが、定番のおもてなし料理だ。

ミタの手作りバノック。
アツアツでおいしい。

このキャンプを去るとき、ミタはいつも私たちと輪を作り、両手を腰の前の辺りに構え、開いた手のひらを上下に揺らしながら、「ナナニチヒ」と言って別れを告げる。これは、スピリットを高いところに運ぶ仕草であり、その人の前途に幸あれと願う言葉である。このとき、ここにいる人たちの多くが笑顔になる。

笑顔で別れの挨拶をするミタ。

森羅万象、すべてのものにスピリットが宿る。彼らが直接そう言う訳ではないけれど、ここに来て彼らの話を聞いていると、いつもそういった認識が生まれ、次に森に足を踏み入れるとき、私はまた特別な気持ちになるのだ。

熊谷芳江(くまがえ・よしえ)

カナダ・ユーコン準州ホワイトホース在住。Sweet River Enterprises代表 カヌーガイド。北に憧れ、この地に住み始めて24年。カナダでのアウトドア・ライフを楽しみつつ、相変わらず世界各地も旅して回っている。語学留学やカヌーツアーで当地を訪れる日本人から「屈強な姉さん」と呼ばれながら、ユーコンの魅力を伝えている。
www.yukonriver.com

※この記事はフィールドライフ 2019年秋号 No.65からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっています。

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フィールドライフ 編集部

フィールドライフ 編集部

2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

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