【新型Jeepラングラー試乗記】ホーボージュンの“Wrangler Days”
フィールドライフ 編集部
- 2024年07月24日
Jeepラングラーが新しくなった。その新型モデルを数日間に渡ってドライブする機会を得たので、友人を誘い八ヶ岳へキャンプに行ってきた。それは胸躍る体験だった。新しくなったJeepラングラーをリアル・アウトドアーズマン目線でレポートしよう。
文◎ホーボージュン Text by HOBOJUN
写真◎山田 真人 Photo by Makoto Yamada
あのラングラーが、ハンサムに生まれ変わった
ひと目見た瞬間にラングラーだとわかった。ボクシーなシルエットに丸目の2灯、そして伝統の7スロットグリル。張り出した台形フェンダーからはWILDな匂いがプンプンと沸き立つ。変わらないスタイルに思わず笑みがこぼれる。
「おう!ひさしぶり!」
「おや?ちょっと雰囲気変わったか?」
ひさしぶりの再会だったが、ラングラーの顔つきが少し変わっていた。Jeepマニアでなければたぶん気づかないだろうが、7スロットグリルの内側にグリッド加工が施され、ブラックアウトされたフェイスと相まって精悍さがグッと増しているのだ。またフェンダー脇に備わっていたマストアンテナもなくなり、とてもスッキリした印象に。ますますハンサムになっているである。
「悪くないじゃん、そのツラ構え」
「だろ?」
今回、借り出したモデルはもっともスタンダードな「アンリミテッド・スポーツ」というグレードだ。僕はラングラーの最大の魅力は悪路走破性を含む“旅の相棒としてのポテンシャルの高さ”だと思っているのだが、それを一番色濃く感じることができるのがこのスポーツグレードなのだ。
これはいわゆる「無印」グレードだが、僕はラングラーには余計な装飾は不要だと思う。サイドステップがないので脚の長さが際立つし、無塗装のバンパーやフェンダーからは無骨さがプンプン匂い立つ。またクロカン四駆や輸入車の価格が高騰する中、ギリギリ700万円代を保っているのもスポーツの魅力だ。
ご存知のようにこのJeepラングラーは、1941年に軍用車として生まれた『ウィルスMB』の直系モデルだ。Jeepの中でももっともタフで悪路走破性に優れている。いまの「JL型」はこれで4代目になるが、ラギットなデザインとその外観が醸し出す雰囲気は今回も完ぺきに受け継がれた。Jeepといえばラングラーのこのスタイルを思い浮かべる人も多いだろう。
僕はリアゲートを開けて、さっそくキャンプ道具を積み込んでみた。張りめぐらされたロールバーのせいで日本のミニバンのようなイージーな積み方はできないが、高さのあるスクエアな空間を活かし、テーブルなどの大物を縦に縦にと組み込んでいけば、じつはおどろく程の積載量がある。オトコふたり分のキャンプ道具と食糧、そして大量の薪をこともなげに飲み込んだ。
東京を出発したときはあいにくの雨で、大きな雨粒がFRPのルーフを賑やかに叩いていた。このモデルはリアウインドウを含めてすべてのルーフを取り外せるフリーダムトップ仕様だ。「こんな雨じゃなければ屋根なしで出かけるのにな……」と舌打ちをする。だがすぐに「まあ、向こうへ着いて屋根を外せばいいか」と思い直す。ラングラーは特殊工具なしで簡単にルーフを外せるのだ。こんな楽しいクルマ、世界広しといえどそうそうない。
その後、僕は街を離れ、海岸線の渋滞を抜け、高速道路を走り、ゆるやかなワインディングを八ヶ岳方面へと登っていった。運転していて感じたのは、ドライビングフィールがとても素直なことだ。このラングラーには2.0L直4DOHCターボエンジンが搭載されている。小排気量ながら最高出力は272psとパワフルで、高回転域までよく回り、荷物をフル積載しているのにもかかわらず高速道路の合流や急峻な山道でもまったく不満を感じなかった。
また水平基調のコックピットと見切りのよいボディは狭い側道やコンビニの駐車場での取り回しがとても楽だった。全幅は1,895mmあるのだが、それをまったく意識させないのだ。もしこのマッチョなボディに躊躇している人がいるなら、ぜんぜん心配ないよと伝えてあげたい。
まるで北米大陸の原野を駆けているような気分になった
サブウーファー付きのオーディオシステムからフーファイターズの『Monkey Wrench』が流れていた。1997年のキラーチューン。サビの疾走感とドライブ感がラングラーにぴったりだ。こんなアメリカンロックに身体を揺らしながら太いステアリングを握っていると、まるで北米の原野を走っているような錯覚を受ける。
じつは僕は先代のラングラーで、アラスカのアンカレッジからカナダのユーコンテリトリーまで800マイルに渡るロングドライブしたことがある。季節は真冬で、ありとあらゆるものが凍てついていた。このときはプロの山岳スキーチームと氷河地帯で何週間もキャンプを張り、最深部の未踏峰に分け入っては50度もある大斜面や数十メートルもあるクリフを飛びまくり(もちろん僕ではなく、スキーヤーたちが)、その果敢な姿を映像に収めるという取材だった。
悪天候で山には入れない日には国境を越えて大西洋岸のヘインズの町までシャワーを浴びに行ったり、メールチェックに行ったりした。凍てついた峠道はラングラーでなければとても越える気にならない。あるときなど国境閉鎖時間に間に合わず、輝くオーロラの下ラングラーで車中泊をしたこともある。寒さでろくに眠れなかったが、それはまさに自由と冒険の日々だった。そんな毎日を支えるのにラングラーほど似合うクルマもない。
あれからわずか数年のあいだに、僕らの暮らしやクルマを取り巻く環境は激変した。ラングラーにもPHEVモデルが登場し、ガソリンエンジンもより環境性能に優れたタイプになった。バンパー形状やサイドカーテンエアバッグなど衝突安全性も日進月歩で進化している。しかし、こうしてステアリングを握っているときの胸の高揚感と期待感はなにひとつ変わらない。ウインドスクリーンの向こうに広がる未知への期待感を煽るのは、カタログの「主要諸元」には載ることのない、ラングラーだけの特別なスペックなのだと僕は思う。
オフロード好きにはもう説明不要だが、ラングラーは「セレクトラック・フルタイム4×4システム」という本格的な駆動システム搭載している。雪道やダート走行時は前後輪のトラクションを自動配分する「4H AUTO」に入れておけばまず問題ないが、よりタフな場面では「4H PART TIME」にしたり、すさまじい悪路や岩山をじっくりと進むときにはローギアードの「4L」に入れれば最大駆動力を発生してくれる。地球上のあらゆる悪路を踏破することができると言っても過言ではない。
ラフロードを抜け、山麓のキャンプ場にたどり着くころには雨もすっかり上がり、絵画のような夏の夕暮れが訪れた。僕らは手早くタープとワンポールテントを張り、焚き火を熾す。ガスも電気も来ていないワイルドサイドに佇むと、ラングラーの逞しさと頼もしさがヒシヒシと感じられる。この日は炭火で炙った新鮮な高原野菜と12インチの巨大鉄板で焼いた1ポンドステーキ、そしてレモンピールを入れたバーボンソーダというオールドスクールなアメリカンBBQを楽しんだ。
「明日はどこへ行こうか」
ゆっくりと食事を楽しんだあと、僕はそう相棒に語りかけた。
「どこへでも」とラングラーは答えた。
こんなにも心強いクルマがほかにあろうか。
僕は焚き火を眺めながら思わずにやついてしまう。
夜はすっかり更け、キャンプサイトを静寂が包み込んでいた。
ラングラーのボンネットには、まばゆい満月の光が映っていた。
ホーボージュン
全天候型アウトドアライター。20代はゴリゴリのオフロード野郎で『4×4マガジン』『OFF-ROAD EXPRESS』などの四駆専門誌で活躍。その後、400日間をかけたユーラシア大陸横断ドライブを経て、『パリ~ダカール・ラリー』や『パリ~モスクワ~北京ラリー』『南米縦断マラソンレイド』などの国際ラリーレイドに多数参戦。海外遠征はのべ12万km、地球3周に及ぶ。登山やシーカヤックなど、人力移動とアウトドア三昧になった現在も長距離ドライブは大好物。好きなJeepは1980年代のグランドワゴニアとTJラングラー
Jeep Wrangler Unlimited Sport
ジープ・ラングラー アンリミテッド・スポーツ
Specifications
全長×全幅×全高:4,870×1,895×1,845mm
車両重量:1,990kg
乗車定員:5名
エンジン:2.0L直列4気筒 DOHCターボ
最高出力:200kw(272ps)/ 5,250rpm(ECE)
最大トルク:400N-m(40.8kg-m)/ 3,000rpm(ECE)
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
タンク容量:81L
駆動方式:後2輪・4輪駆動・オンデマンド方式4輪駆動(選択式)
トランスミッション:電子制御式8速オートマチック
サスペンション:コイルリジット(前・後)
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(前)、ディスク(後)
タイヤサイズ:245/75R17
メーカー希望小売価格:¥7,990,000〜
ジープフリーコール
0120-712-812
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PROFILE
フィールドライフ 編集部
2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。
2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。