アップル、シカゴでの教育関連発表の真意。日本に欠けてるものがそこに

『教育』こそ、未来の世界をよくするための唯一の方法だ

2018年3月28日、アメリカ・シカゴの歴史ある私立の高校、Lane Tech College Prep High Schoolで行われた発表会は、非常に重要なものだった。その意味がきちんと伝わるかどうかで、国の将来、我々の子供たちの将来が変わってしまうほど。現場で体験した私はそう思った。
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テクノロジーを正しく使えるかどうかは、良い未来を迎えるために、非常に大きな意味を持つ。

おそらく太古の世界で、火を使えた部族は、使えなかった部族より良い未来を迎えられたはずだし、馬車に乗り続けた人たちより蒸気機関や内燃機関を利用した人の方が、より豊かな生活を送れるようになったはずだ。

50歳近い筆者が中学生の頃、親世代の人たちにとってコンピュータは『高価なゲーム機』だと思われており、小学生時代にはそろばんを習わされた。当時、そろばんに取り組んでた人と、パソコンでプログラムに取り組んでいた若者と、どちらがより大きな可能性を得られたかは、説明するまでもないだろう。未来は見通し難いが、旧弊なものにこだわるのは賢いスタイルではない。

しかし、親というのはいつの時代も、旧時代の成功体験を子供に受け継がせようとするものだ。多分我々の親はそろばんができることで仕事にありついたのだ。今、多くの保護者のみなさんは、子供がタブレットを使っているよりも、ノートと教科書を広げて勉強している方に、安心感を覚えるのではないかと思う。しかし、それはそろばんにこだわっているのと大差ない。

タブレットを与えられた子供たちをよく観察して欲しい。

彼ら、彼女たちは、知りたいことを瞬時に検索して知り、表計算アプリで高度な演算をこなし、You Tubeの海外映像から海外の言語の発音を学ぶことができる。Google Mapで世界中の地理と距離感を体感し、ドラムのループとベースのループを組み合わせてあっと言う間に音楽を作り上げ、自分だけの映画をタブレットのカメラで撮影して、編集することができるのだ。

ノートと教科書しか持っていない子供と比べると、石器を持っているか鉄器を持っているか、以上の違いがある。

筆者の子供は「それは覚えなくてもいいよ。検索すればいつでも分かることだから。それより、理解することが大事なんだから」と言い放った。グウの音も出なかった。

思い出して欲しい。我々が子供の頃、ポンペイを滅ぼした火山が何だったか知るためには、百科事典を延々とめくるか、図書館に行かねばならなかった。「フィボナッチ数って、なんだっけ?」と思っても、すぐに答えが出なければ放置しておくしかなかった。「squirrel(リス)」の発音が分からなければ、ネイティブ並みの発音ができる英会話の先生を探さねばならなかった。

今なら、どれも瞬時に分かる。子供たちはそんな世界に生きてる。正しい方法で、テクノロジーを与えられた子供たちはそれを使いこなす。あなたの子供が、取り残されたしまってもいいのだろうか?

自分自身がテクノロジーを手にした時に、まずセクシャルな画像を探すためにその力を使ったからと言って(笑)、子供たちからテクノロジーを取り上げるのは、間違っているということをご理解いただけただろうか?

「子供の教育は何より大事だ」とティム・クックは言う。「情熱が世界を変える。子供たちに教育が与えられた時に魔法のようなことが起こる。子供たちが世界を変えたいと思い、情熱を持って教育を受けたときに世界は変わる。より良い世界で、みんなが幸せに暮らすためには、子供たちにより良い教育が必要なのだ。そして、テクノロジーが教育を変えると信じている」と。

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(ちなみに基調講演の冒頭でティム・クックは『この週末に情熱をもってワシントンから世界を変えようとした若者たちがいる』と、銃規制問題に対する学生の意思表明に賛意を表明した。つくづくアップルはトランプ政権とは逆の方向にいる会社だ)

40年間教育に携わってきたアップルの乾坤一擲

今回の発表でアップルは、新しいiPadという道具立てを用意し、アプリケーションを用意し、『クラスルーム』や『スクールワーク』という教えるための道具だてを用意し、『Everyone Can Create』という新たなカリキュラムを用意し、先生方にさまざまな革新的な教え方を提案するApple Teachersプログラムを立ち上げ、Swift Playgroundsというプログラム教育の方法論を磨き上げ、40年間教育に携わってきた、『アップル』という会社の総力を挙げて教育に取り組んでいる。

テクノロジーを使った教育は決して『お金持ちのための方法』ではない。むしろ、テクノロジーは『教養』を民主化するものだ。古い時代には、裕福な家の子供しか手に入れることができなかった特別な知識や教育を、貧しい子供にも、世界のどこの国にいる子供にも手に入れることができるようにする道を開いている。新しいiPadはApple Pencilと一緒に買っても税込4万6384円で手に入れることができる。
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また、新しいApple School Managerの『共有iPad』の機能を使えば、学校の全校生徒分のiPadがなくても、学校が購入したiPadを複数の生徒で共有することができる。生徒はログインすれば、1分もかからずに、iPadを自分の環境として使うことができるし、そのために必要なiCloudの共有ストレージは、なんと1人200GBをアップルが無償で用意するという。この機能は、経済的に裕福でない地域の公立学校などでiPadを導入するための大きな助けになるはずだ。
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そればかりか、アクセシビリティの機能により、弱視者や色弱の子供、手に不自由がある子供、会話や耳の機能に不自由のある子供たちにとっても、可能性を大きく広げてくれるデバイスであることも注目したいポイントだ。

もはや、紙とノートで表現していては置き去りになる

では、順番にもう少し詳しく触れていこう。

iPadについては、これまでのiPadは、これほどの機能をこの価格で子供たちに提供できるようになるまでの序章だったのではないかと思えるほど、教育にフィットした性能と価格を持つデバイスだ。

詳しくはこちら(https://www.ei-publishing.co.jp/articles/detail/flick-461887/)に書いたが、キーボード操作がテクノロジーに接するための障壁にならず、多彩な表現力を持つApple Pencilによる手書きが可能になり、学びのために非常に有意義なソリューションにあるAR表現が可能なA10 Fusion(最初にiPhone 7に搭載された高性能チップセット)を搭載しているということに意味がある。

手書きとAR。これがものすごく教育にフィットしているということは、アップルの提供している動画を見ればわかるはずだ。
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Pages、Numbers、Keynoteというアプリに、本格的にApple Pencilでの描画を取り込んだのも意義が大きい。エクセルの表に、マジックでぐるっと囲みの円を入れたり、矢印を入れたりできればどんなに便利だろうと思ったことはないだろうか? iPad用のNumbersとApple Pencilを組み合わせればそれが可能になるのだ。

また、A10 Fusionによって複数のアプリを同時に使う性能も担保されている。

さらに、ARが大きな可能性を広げる。Boulever ARは世界の美術館にある絵画作品が、あたかも目の前の壁にかかっているかのように見せてくれる。壁にiPadを近づければ、あたかも壁の絵に近づいたかのように細かなマチエールまでもが表示される。
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Free Riversは起伏のある土地を流れる川はどのように流れるかを知ることができるし、ダムなどの治水がどういう影響を与えるかを自分でダムを作ったりして学ぶことができる。
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FroggipediaはAR空間に精密なカエルを登場させ、骨格だけにしたり、血管だけにしたり、筋肉が見えるようにしたり、卵から成体への変化を連続的に見ることができる。Apple Pencilをメスに見立てて、解剖することだってできるのだ。実際に解剖することも大事だが、気持ち悪さが先に立ったり、命を奪うことに気持ちの大部分を持って行かれるより、知識を得ることに集中できるかもしれない。
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『クラスルーム』は、教師が生徒のiPadをすべてマネージメントするためのツール。それぞれがどんなアプリケーションで何をやっているかを把握することもできるし、授業中に、他の作業をしないように特定のアプリケーションにロックしたり、iPadでの操作を停止させたりもできる。このアプリはiPadからだけでなく、Macを使う先生も使うことができる。
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また、『スクールワーク』は生徒たちの課題を管理するサービス。授業で提供する練習問題や、教育アプリ中の課題を割り当て、生徒の進み具合を把握することができる。宿題を出すのも、発表させるのも簡単だ。

生徒側からいえば、今、何をすればいいのか『スクールワーク』を見れば一目瞭然。まずパソコンを立ち上げて、生徒に課題を渡すだけで一苦労……という従来のパソコン教育とはまったく違った快適さを実現している。

PDFや書類、ウェブリンク、アプリ内のアクティビティへのリンクを配ったり、お知らせ、リマインダーなどを扱うこともできる。

プログラミング思考と、テクノロジーを使ったクリエイティビティを!

『プログラム教育』について、Swift PlaygroundsとSwiftを利用した『Everyone Can Code』に基づくソリューションが非常に優れていることは以前お伝えした(https://www.ei-publishing.co.jp/articles/detail/flick-461548/)。これにもAR機能などが追加され、非常に興味深いことになっているのだが、今回はさらにこのソリューションを他のあらゆるクリエイティビティを育てるために活用する『Everyone Can Create』というソリューションが発表された。

子供と接した教師や親は、誰もがその天才性に驚いたことがあるはずだ。

『Everyone Can Create』はその天性的なクリエイティビティを花開かせるカリキュラム。
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理科や、算数、社会の勉強のためにClipsやiMovieで動画を作ったり、世界の多くのものを写真に撮り自分だけの図鑑や、発表資料を作ったり、GarageBandで音楽を作ったり(筆者の子供は小学生の頃にガレージバンドで歌謡曲を再現したりしていた)、自由自在な色彩を駆使して絵画表現を行ったりできる。

さらに、それを組み合わせることもできる。絵をムービー上にちりばめ、自作の音楽を背景に、鉱物や、生物、人体の不思議について、自分の子供が研究発表したら、感動しない親がいるだろうか?
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そういえば、こうやって子供が身近にあるiPadを使ってインタラクティブな研究発表を夏休みの宿題として作り上げたら、iPadを学校に持ってくることを禁止して、プリントアウトで展示させられたという話がある。

ムービーでBGMまで付いた動画を作ったのに、貧弱なプリントアウトで展示させられては、子供のクリエイティビティが育つどころか、『二度とやらない!』という気持ちになってしまうことは想像に難くない。「iPadを壊したり、紛失したり、盗難が起ったらどうしよう?」と思った先生が責任逃れをした結果、子供のクリエイティビティが永遠に失われたわけだ。しかし、哀しいかな、それが日本の多くの小中学校の現実である。
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アップルのこの大きなムーブメントを子供たちに提供しようとする教師たちのために、Apple Teacherというプログラムが、先生たちがiPadをうまく利用して子供たちの能力を引き出す方法を教えてくれる。教え方に関するさまざまなプログラム、アドバイスが用意されている。さらに、Apple Teacher Learning Centerのプログラムを受けることで、バッジを受けて自分の進み具合を確認することもできる。

ニッポンにはリベラルアーツが必要だ

アップルは『クリエイティブの天才』を産み出そうとしている。

知識はエントロピーに逆行して『Wheels for the mind(知恵の車輪——アップルが1980年に提唱していたコンピュータは人間の知恵を大きく効率的にするというコンセプト)』を加速させる。

『明日の教室を作ろうとした』とティム・クックは言う。
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スティーブ・ジョブズはアップルを『テクノロジーとリベラルアーツの交差点にいる』と言った。ティム・クックはこの言葉をもう一度取り上げた(これは長年のアップルファンにとっては嬉しいポイント。ジョブズの精神は受け継がれているのである)。

テクノロジーとリベラルアーツはどちらも不可欠なのだ。

リベラルアーツとは日本語に簡単に訳せば『一般教養』となり、大学で受けた通り一辺の授業を思い出してしまうが、英語圏で言う『リベラルアーツ』は、もっと広い範囲で、科学、文学、音楽、絵画などの芸術、論理学……などを含んだ表現だ。

昔あったはずの『教養』という概念に近いのではないだろうか?

日本は、もしかしたら不幸な戦争と、高度経済成長の間に『教養』を置き去りにしてきてしまったのかもしれない。あまつさえ、文系の学科は要らないなんて言う政治家がいる貧しさだ。テクノロジーや、経済学、商学を駆使して経済成長を得るだけでは、片輪で走っているようなものだったのだ。

日本にはリベラルアーツが要る。

AIがより完成度を高め、普及していった時に、どの製品が売れるかとか、株式がどう動くかなんてAIの処理に人間はかなわなくなってしまう。どこにコンビニを出店するか? どの新製品が売れるのか? その最適な流通経路はどこなのか? ……AIが大きく世の中を変えるはずだ。

その時に必要な『教養』こそが『リベラルアーツ』なのではないだろうか? スペック(つまりテクノロジー)だけを追うのではないアップル製品の豊かさはそこにある。

フィボナッチ数(一種の数列。たとえば巻き貝の成長の仕方など、自然の中に多く見られ、同時に絵画作品の中などに多く隠されている)を見て、その美しさに気付き、数的な神秘に興奮し、生物学の研究に活かすような人を産み出すためには、真の意味での『教養』が必要なのだ。

子供たちに、iPadを使ってテクノロジーと一緒にリベラルアーツを提供すべきではないだろうか? いや、そうしない限り、日本の将来はなかなか開けないのではないか? とさえ思えてくるのである。

最後にアップルが基調講演の中で紹介した動画を観ていただきたい(https://www.youtube.com/watch?v=IprmiOa2zH8)。
『宿題、宿題……いやだよねぇ』というモノローグを背景に、すごく楽しそうな顔をして『Gravity』についての宿題をやっている子供たちの創意工夫、天才性に驚いて欲しい。この天才はあなたの子供にも秘められているのである。

(村上タクタ)

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