米敷地当たりの売上一位のアップルストア。その新世代店舗の工夫とは?
FUNQ
- 2018年04月18日
INDEX
2011年からずっとアップルストアが独走の1位
アメリカの小売店舗の単位面積あたりの売上高は、服飾や貴金属などあらゆる業態を合わせても、アップルストアが2011年からずっと1位を獲得し続けている。
今となっては、単価の高いパソコンやiPhoneを売っているのだから当然、だと思えるが、2001年にアップルが小売業に乗り出した時には、大手メディアやアナリストは失敗すると断言していたものだった。
もう古い話だが、アップルストアが出来るまでは、アップルのパソコンといえば、市場の9割以上を占めるウインドウズパソコンに追いやられた『変わり者の使うパソコン』。家電量販店の片隅に置かれ、値引きの札と、ホコリに埋もれていたものだ。
カジュアルないい雰囲気の中でアップル製品に自由に触れるようにして、価値をちゃんと理解できるように展示したアップルストアが、アップル製品の印象を大きく変えたのはみなさんご存じの通り。
モデル末期のたたき売りを止め、ひどい値崩れが起らないようにしたから、『ウェブで買った方が安い』ということもない。今でも、アップル製品は、家電量販店で買っても、通販で買っても、アップルストアで買ってもほぼ同じ価格だ。ならば、良い雰囲気のアップルストアで、フレンドリーなスタッフの説明を聞いてから買おうと思うのも当然だ。
シカゴの街が始まった場所に建った、Apple Michigan Avenue
その後、アップルストアは世界24の国と地域に500店舗を展開するに至り、さらなる進化を続けている。
その中でも最新の『タウンスクエア型』と呼ばれているコンセプトの店舗をご覧に入れよう。
まずは、アメリカはシカゴに2017年の10月にオープンしたApple Michigan Avenue(最近は名称に『Store』は付かない。この店こそが『Apple』だ、ということなのだろう)。
アップルストアは、常に目抜き通りの価値ある場所、平日も、休日も変わらず多くの人が通る場所に設けられることになっているが、この店舗もその例に漏れない。
Apple Michigan Avenueも、目抜き通りのひと目に着く場所にある。ミシガン湖に注ぐ、シカゴ川のほとり、ミシガン大橋のたもとの非常に人通りのいい場所だ。シカゴを開拓した人たちが上陸した場所だとも言われている。
その川岸の階段を、そもままガラスで包んだようなカタチで作られている。
人が集う場所『タウンスクエア型』コンセプト
『タウンスクエア型店舗』とは『タウンスクエアのように、街の人が集まる場所にしよう』というコンセプトを持つ。
特徴としては中央に大きなディスプレイと、キューブ型の木箱、それに組み合わさる立方体や球形のレザークッションが置かれていること。その空間は、普段は休憩したり、パソコンで作業したりするのに使われる。イベントを開催する時には、ディスプレイを使って、ライブやトークなどいろんな催しに使える自由なスペースになっている。
このコミュニケーションを促進する、カジュアルなスペースが街の『広場』たる場所の象徴だ。この空間をアップルは『Forum』と呼んでいる。
そのイメージを涵養するのが、すでに世界中で有名になっている大きなガラスの壁だ。床から天井まですべてを1枚のガラスで構成するデザインは最近ではアップルの専売特許のようになっているが、そもそも高い技術と、大きなコストをかけられるから実現できるデザインではある。
外壁がすべてガラスだから、中と外は連続した空間になる。アップルストアの中も街の風景の一部だし、まわりの広がる風景もアップルストアを構成する要素になる。
屋外の床も暖房され、内外が連続した空間に
Apple Michigan Avenueの場合は川岸の段丘の階段の一部がそのまま店になっている感じ。実はそればかりか、この戸外の階段も店の敷地なのだ。そして石段部分も床暖房のような仕組みで暖められている。
私が行ったのはまだ寒い3月のシカゴだったが、春になれば木々は葉を付け、暖かな陽光が降り注ぐことだろう。
他の店舗もそうだが、店内には定型のメープル材の展示台がならび、レジなどはなく、ショップスタッフはTシャツを来て店内に待機している。顧客に対向して応対するのではなく、まるで友達のように横に並んで接客するのもアップルストアの特徴だ。
壁際にはAvenueと呼ばれる、壁面を使った展示がされている。
細部のディテールは非常に凝ったもので、店内と天外を区切るガラスの壁面に付く手摺りは、なんとガラス面と組み合わされ、まるで宙に浮いてるような仕上げになっている。
天井はウッド製で、照明、音響機器、スプリンクラーなどが巧みにビルトインされている。まだまだここでは紹介しきれないが、美しく端正な店舗デザインを行うために、ディテールにはさまざまな工夫が施されている。
SF市街中央の公園を借景にするApple Union Square
シリコンバレーの玄関口、サンフランシスコの街の中心部、ユニオンスクエアという公園に面しているのがApple Union Square。2016年の5月にオープンした新しいストアだ。
この店で特徴的なのは、正面の巨大なガラス製の窓。これが可動式で、天気のよい昼間は前の公園に向かって開くのだ。これがなんとも気持ちいい。カリフォルニアならではのカラリと乾いたさわやかな空気が店内を吹き抜けて行く。
日本には庭園に敷地外の風景を取り込んで楽しむ『借景』という考え方があるが、正面のUnion Squareの風景を取り込んだApple Union Squareの情景はまさに借景。
店内では、イスに座ってメールをチェックしたり、コーディングなどの仕事をしたりしている人がちらほら。こんな空間だったら、仕事も捗りそうだ。
店舗の後ろ側はは、別のカタチで屋外と繋がっている。屋外にも、屋内にも移動可能で座れるプランターに植えられたいちじくの木が配されている。これによっても屋内と屋外の区別がつきにくくなっており、風が強ければ屋外に行ってもいいし、日差しが心地よければ、屋外で過ごしてもいい。そんな快適な空間が出来上がっている。
本拠地のApple Park Visitor Centerも新コンセプト
アップルの新しい本社であるApple Park……巨大な4階建ての円形のガラス張りの建物には、我々メディアも立ち入ることができないので、中がどうなっているのかは分からないが、おそらく似たような考え方が、取り込まれており、またApple Parkを作ったことで蓄積された経験が、ストアのデザインに活かされているのだろう。
Apple Parkの横にある、一般ユーザーの訪れることができるApple Park Visitor Centerも、タウンスクエア型店舗に近いデザインになっている。
Apple 新宿から始まる日本の新世代店舗
そして、この4月7日にオープンしたApple新宿も、このタウンスクエア型店舗の流れを汲むデザインとなっている。
正面は37mに渡るガラス製のウォールによって構成されており、外の光を大きく取り入れるようになっている。丸井の店内と繋がる側のガラスは、時間によっては開いて、柱に引き込まれるようになっており、丸井の店舗空間と繋がるようになっている。
入り口正面には巨大な6Kディスプレイと、キューブ状のイスが置かれた『Forum』になっている。レジはなく、購入時にはスタッフの持っているiPhoneで決済され、オーク材製の仕込まれたビニールの袋に入れてもらえる。
このApple新宿を皮切りに、アップルは日本に何カ所かのアップルストアを立て続けにオープンする予定だという。とりあえず、2018年内にあと2カ所。その後も何カ所かのストアがオープンしそうだ。
どこにオープンするのだろう。楽しみだ。
(村上タクタ)
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