Adobeが指し示すクリエイティブの次の戦場。『AI、iPad、AR』
FUNQ
- 2018年11月21日
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クリエイティブはAdobeなしには語れない
コンシュマー向けITの世界は、『アップルvsマイクロソフト』とか、『iPhone vs Android』とか、『Twitter vs Facebook』とか、いろんな対決の構図で語られることが多いが、そのどれとも違う圧倒的シェアを持つ企業がある。Adobeである。
クリエイティブワークに携わっている人しか知らないかもしれないが、写真を加工するならLightroomやPhotoshop、図版を描くならillustrator、本を作るならInDesign、ウェブサイトならDreamweaver、映像を作るならPremiere Pro……と、我々の目にするほとんどすべてのクリエイティブはAdobeのアプリで作られている。
信じ難いことに、ほとんどすべてのポスターや看板、単ページの印刷物はillustratorで作られているし、本はInDesignで作られている。商業用に使われている写真でPhotoshopやLightroomを経ずに使われることは稀だろう。そして、全般でいえばほとんどライバルはない。
クリエイティブのほぼすべてを手中に収めた企業。それがAdobeだ。そしてその祭典がAdobe MAXで、日本で開催されるのがAdobe MAX Japanだ。
そのAdobe MAX JapanのKeynoteを聞いてきた。
Adobeの解釈はまた違うのだが、話を聞いた私から見た重要ポイントは3つ。
1.AI
2.iPad
3.AR
だ。
極論ではある。しかし、クリエイティブワークに直接関わっていない人に知っておいて欲しいのはその3つのポイントだといえるだろう。
Adobeにとって日本は重要
「私たちにとって、日本は重要な国だ。我々は日本に来て、デザインが引き算であることを再認識した」と、最初に話をしたCreative Cloud担当上級VP兼CPOであるスコット・ベルスキー氏は語った。リップサービスにしてもうれしい話だ。
もはや複雑怪奇なクリエイティブアプリの集合体となったAdobe Creative Cloudは、4980円/月でほぼすべての機能を使うことができる。写真、印刷物、ウェブ、動画……など、すべてのデザインを行うことができる。そのAdobeがデザインが引き算であることを忘れたら、大変なことになりそうだ(笑)
ベルスキー氏が語った、今回の発表の重要項目は3つ。『ACCELERATE——仕事をスピードアップ』『LIBERATE——クリエイティビティを開放』『DRIVE——新たな表現への挑戦』ということだ。
このうち前半の2つは既存のアプリのリニューアル、チューンアップとともに、AdobeのAI(人工知能)であるAdobe SENSEI(日本語の『先生』を由来としている)の能力の向上によるところが大きい。各アプリには多彩な機能が付け加えられ、それぞれ人工知能のサポートにより、簡単に高度な機能が使えるようになっている。
が、まぁ、このあたりは専門でない人には難しい話になるので、駆け足でいこう。
追加される多彩な機能
illustratorにはフリーグラデーションという機能が付け加えられた。従来は単純なグラデーションの他に、メッシュを使ったグラデーションの機能があったのだが、それは使いやすくなかった。フリーグラデーション機能を使うと、従来よりはるかに複雑なグラデーションを簡単に作ることができるようになる。どういうことかというと、複雑な陰影を持つ写真のようなイラストを簡単に描けるようにあるということだ。
テレビ番組や、映画の制作でも使われる超高度な映像製作アプリPrimiere Proに対して、もっとスピーディに動画を作れるアプリ、Primiere Rushが追加された。制作にスピードが要求される動画編集、ラッシュフィルムの作成や、YouTube動画の作成、ファミリーでの動画の編集など、高度でない……というか、一般的な動画編集の多くは、このRushで行った方が良さそうだ。
Xdは、ウェブサイトのプロトタイプを作るアプリ。Dreamweaverが使えなくても、illustratorなどの専門的なアプリを使えなくても『こんなウェブサイトが作りたい!』というプロトタイプを簡単に作ることができる。最新版では、レスポンシブデザインも使えるし、音声操作など最新の技術にも対応している。そして、これはクリエイティブ担当の人でなくても使える必要がある……ということで、現時点では無料で公開されている。
AdobeとAppleの蜜月、再び
さて、ここからが重要なポイントだ。
アメリカ本国のAdobe MAXでも言及されたし、先日のアップルのニューヨークでのiPad Proの発表会でもフォーカスされた通り、来年、AdobeはiPadで扱える3つのアプリをリリースすると宣言している。
それも、どうやらこれまでのモバイルアプリのように、単機能の無料版ではなく、フル機能の有償版として発表されるようだ。3つのアプリとはPhotoshop CC for iPad、Project Gemini、Project Aeroだ。
いずれもiPadを最優先として開発される。こんなことは初めてだ。
(Adobeのスコット・ペルスキー氏と一緒に登壇したのは、Appleのプロダクトマーケティング担当VPマイケル・チャオ氏。すごい面々が日本まで来てくれたものだ!)
理由は簡単。
iPadのマルチタッチが優れていて、Apple Pencilの描画能力が高く、かつ最新のiPad Proの能力が大きく上がり、もはやパソコンをしのぐほどになったから。となれば、クリエイティブワークでiPad Proを使える可能性は大きく向上する。
自作パソコンや高性能パソコンを得るのにWindowsの方が便利とか、Surfaceの対応がよくてWindowsが重視されたりしたようなタイミングもあったが、そもそも感性を重視したアップルの製品はAdobeのクリエイティブワークと相性がいい。
Macではなく、iPadでだが、『AppleとAdobeの蜜月再び』……とでも言いたくなるような状況だ。
その3つのアプリをご紹介しよう。
フル機能のPhotoshop CCをiPadで
ひとつ目は、Photoshop CC for iPad。
従来、iPadやiPhone、Android用のアプリといえば、機能限定版で、価格は無料……ということになっていたが、これはパソコン用とほぼ変わらないフル機能版。『CC』と付くからには『Creative Cloud』の契約をしないといけない有償版なのだろうが、ともあれ完全な機能のPhotoshopが、iPadで使えるようになるのはうれしい(要求スペックは公開されていないので、もしかしたらiPad Proだけで、通常のiPadでは使えないかもしれない)。
デモでは280ほどのレイヤーを持った2〜3GBものサイズのある巨大な画像を、iPad Proでやすやすと編集して見せていた。
絵を描く人全員注目の『Project Gemini』
続いては、Project Gemini(ジェムナイと読む)。
Adobeには、いわゆる『ペイントアプリ』がない。多くの場合Photoshopがその用途に使われるのだが、本来写真加工アプリがそのまま絵を描くのにも使われているという状態はちょっと不可思議。
iPadでは、今は他社製のProcreateが主流となっているが、Adobeとしてもこの状況を座して見ていることはできなくなったようだ。『Project Gemini』はコードネームらしいので、製品版は違う名前が付くのだと思われるが、ともかく完全なお絵描き用アプリがAdobeのラインナップに加わったのはうれしい。
当面は、iPad用アプリとして先行開発し、その後、他のデバイスへと展開していくようだ(断言はされなかった)。データとしては独自形式で持つが、デスクトップのPhotoshopに渡してプリントしたり、若干の加工をしたりすることも可能。そしてまたProject Gemini側に戻して開くこともできるとのこと。
新たな水彩ブラシ、油彩ブラシは出色の出来で、水彩は水に滲んで色が混じっていく様子、油彩はキャンバス上で絵の具をブレンドするようなことが本当にリアルにできる。これは楽しみ。
『AR時代到来』の地慣らしを担う『Project Aero』
さて、最後がProject Aeroだが、これが一番ちょっとよく分からない。
文字通り、AR空間への描画をテーマとしたアプリで、Photoshopの画像などをベースにしているようだ。
もちろん、空間上に突然物体が出てくるわけではなくて、iPadやiPhoneなどを向けると、画面上に仮想空間上にあるモノが写るということだ。
たとえば、小売店で商品の上にかざすと価格や説明書きが表示されるとか、ナビゲーションアプリで空間に矢印が浮かび上がるとか、ミュージアムで解説が浮かび上がるとか、仮想空間上に立体物の彫刻が浮かび上がるとか、エンターテイメントとして目の前の壁が割れてゾンビが出てくるとか……いろいろな用途がありそうだ。
当面は、iOS用のARKit上で動くことを前提としているが、Androidの ARCoreへの移植など、当然将来的にはマルチプラットフォームでの動作を前提としているそうだ。
しかし、どうやって立体空間上に描くのか、まだまだ謎が多い。
ともあれ、そんなわけで、来年のクリエイティブは、『AI』『iPad』(多分Pro)『AR』が大きく注目されることになっていくと思う。クリエイティブやマーケティングに携わっている人は、先端を行こうとするなら新しいiPad ProとApple Pencilを買って、『AI』と『AR』について、情報収集しとくと良さそうだ。
(出典:『flick! digital (フリック!デジタル) 2018年12月号 Vol.86』)
(村上タクタ)
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