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DJIのロボマスターS1は、単なるトイではなく国力の発露。日本はもう敵わないのか?

「なんだ、四輪戦車のラジコンか」と思ったら、そんな単純なものではなかった!

筆者が中学生の頃、プラモデルが好きで、ガンダムを操縦することを夢想した。模型屋でタミヤのリモコン(有線)戦車大会が開催されバトルした。エアガンで撃ち合いし(まだサバゲという言葉はなかった)、8ビットパソコンで潜水艦ゲームのプログラムを組んだ。そんな中学時代の夢が、すべて1台で簡単に叶ってしまう商品が登場した。

ドローンで知られるDJIの、ロボマスターS1(6万4800円(税込)・2019年6月12日発売)は、本当に革新的な商品だ。

最初に商品発売のリリースを見た時に「なんだ、四輪戦車のラジコンか」と思った。たしかに、アプリからラジコンとして操縦できる。しかし、そんな単純なものではなかった。

ドローン、自動運転に繋がる『PID制御』をプログラムできる!

意義は、『センサーを積み、自動操縦可能で、高度にプログラマブルである』というところにある。

利用できる言語はScratch 3.0と、Python。どちらでも、深層学習データを元にしたカメラからの画像認識、PID制御などを組み込むことができる。

筆者も初めて知ったのだが、PID制御のPIDとは Propotional Integral Differential(比例・微分・積分)の略で、現実世界のモーションコントールで使われる手法。

たとえば、80km/hで走ろうとした時に、『80km/hまで加速、80km/hを越えたら減速』という制御を行うと、設定値を越えてからのON/OFF制御になるので、80km/hを越えるとブレーキ、下回ると加速……ということを延々と行ってしまう。

80km/hが近づくと、徐々にスロットルを緩め、逆に80km/h近辺で緩やかにブレーキをコントールする。これが速度を安定して維持するための制御だ。大きく速度が足りなかったら強く加速し、大きく超過したらブレーキをかける。

S1はこの制御を組み込むことができ、加減速、コーナリング……などの制御に使うことができる。たとえば、コーナリングであればどのぐらい減速するのか? 旋回時にどのぐらい強くフィードバック制御を行うのかで、内側に切れ込んだり、曲がり切れず外側にハミ出したりする。たとえば、自動操縦でレースゲームをするなら、プログラム次第でスムーズさ、速さが違うのだ。

この、PID制御は、考えてみれば、DJIのドローンの安定(制御が下手だとずっと左右に揺れ続けることになる)、カメラジンバルの制御に使われている、DJIにとっては企業の根幹的テクノロジーだ。

それどころか、これからの自動運転、ロボットなどの制御で、基礎になってくるテクノロジーで、それを小学生の子供でも分かるように、具体的なカタチにしているところが本当にすごい。

私が中学生の時にS1があって、バトル大会で勝ちたいと思ったら、私はきっと必死で微積分を勉強したに違いない(笑)多分。

実はこのS1、日本では人工知能を使った学習教材、学習塾で知られるQubenaのCOMPASSと協業しており、COMPASSではS1を使ったプログラム学習カリキュラムを開発している。

人や他のS1戦車、ビジョンマーカーなどを『見て認識』できる!

それだけではない。S1は深層学習データを使った画像認識も可能だ。今回のプレゼンテーションでは、タレントでソフトウェアエンジニアの池澤あやかさんが、自作のプログラミングの成果を披露。見せた番号札によって、S1がさまざまなアクションを行う様子が発表された。設定されてない数字を見せると、赤く光って、イヤイヤと左右に揺れる様子など、戦車がまるでペットのように見えるから不思議なものだ。

この深層学習を使った画像認識機能では、人認識、S1ロボット認識、拍手認識、ジェスチャー認識、ビジョンマーカー認識、ライン認識を行うことができる。人を追いかけるとか、他のS1戦車を識別して攻撃するとか、逃げるとか、ビジョンマーカーを見せると特製のアクションを行う……などのプログラミングが可能になる。

思わず「ボクが一番S1を上手く使えるんだぁ!」と、叫ぶ

メカニズムについて説明しよう。ロボマスターS1は46個に分けて梱包されており、ネジを締めて、自ら組み立てるところからスタートする。

移動は、小車輪を円周上に45度に傾けて多数マウントしたメカナムホイールで行う。駆動する車輪によって、前進、後退、ヨコ移動、ナナメ移動、超信地旋回が可能。駆動は250 mN・mの大トルクを持つブラシレスモーター。かなり力強く、高速移動が可能。その自在な操縦感覚はまさに某多脚戦車。僕らはみんな生きている♪ なのであるw

砲塔部は2軸のメカニカルジンバルで保持され、高性能なチップセットを登載、高精度な制御、低遅延のHD映像伝送、AIコンピューティング、プログラム開発などをサポート。ブラスターはゲル弾を打ち出すと同時に、赤外線を発し、全体に6カ所に設けられたインテリジェント検知アーマー(アーマーといいつつ、ここを撃たれたら負けというセンサーなのだが)をターゲットに戦車の射撃戦を行うことができる。

かなり高速で動くのだが、激しくぶつかっても壊れることもない。精細かつ高性能なメカニズムなのに、衝撃にも強い。構造設計的にもかなりしっかりした作りになっているようだ。

実際に、体育館で6台での戦車戦に参加させてもらった。撃たれたら、自分のHPゲージが減少し、ハートマークのビジョンマーカーを認識させるとHPが回復する……というゲームなのだが、他社に撃たれないようにジグザグに移動しながら連続的な射撃が可能で(撃ちまくり過ぎると砲身が熱くなり過ぎて撃てなくなるという制御まである)、おもわず斜めジグザグに敵の弾を回避しながら射撃し「ボクが一番S1を上手く使えるんだぁ!」と、叫んでしまうぐらい盛り上がった(笑)

ちなみに、カスタムスキルを設定すれば、ボタンひとつでまるで必殺技のようにプログラムを起動し、左右にドリフトしながら、画像認識した敵に対して射撃し続ける……というようなアクションをプログラムすることも可能。ゲームの勝敗は操縦スキルだけでなく、知力が大きく左右する……のである。

これを作れる企業がある中国の凄さ

子供(大人も)の心拍をレッドゾーンまで上げるような面白さを持ちながら、遊んでいるうちに、プログラミングや、PID制御まで身に付いてしまい、本格的なコーディング、ロボット工学、ドローン設計、自動運転、AI画像認識……などが可能なエンジニアに成長できる(かもしれない)。

さらに6個のPWMポートを持っており、自作の機能拡張を組み込んだりできるし、最終的には世界的なロボット大会RoboMastarを目指すようなエンジニアになれる(ロボマスターS1の名は、RoboMaster大会を目指すためのStep 1の意味)。

PID制御やAI画像認識なんて当たり前で、プログラミングしてロボットやドローンを自在にアクションさせられるような若者が続々と生まれるに違いない。

こんな製品を中国は作れて、かつ深圳にはそこから進むための道がいっぱい用意されているかと思うと、これはもう本当に日本は立ち後れた国になってしまったのだなぁと思う。2020年からようやっとプログラミング学習必修化なんていうおふれが出ているが、そんな中でも現場で先生が途方に暮れている日本は、もはやテクノロジー後進国だ。せめてロボマスターS1を子供に買い与えて、これ以上未来から遠くらならないようにしておきたい。

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(出典:『flick! digital (フリック!デジタル) 2019年7月号 Vol.93』

(村上タクタ)

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