今のAppleのデザインを作ったジョニー・アイブが同社を去った。変化の時は来るのか?
- 2019年06月28日
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世界で一番、トータルな意味でのデザインにこだわる会社であるアップルから、そのデザインを作って来たCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)であるサー・ジョニー・アイブが今年後半に同社を去るとの発表が合った。彼は独立したデザイン会社を設立するという。
冒頭の写真(左)は、2017年の9月に筆者が撮影したもの。初めてメディアにSteve Jobs Theaterが公開され、そこでiPhone Xが発表された時だ。Keynoteが終わり、製品に触れるタッチ&トライの会場に我々が向かう時に、会場の入り口で談笑されていた。
Steve Jobs Theaterのタッチ&トライ会場は仕掛けトビラで突然現れるようになっていたので、そのことに我々メディアが驚くのを見て、喜んでらっしゃった。私はアイブを実際に目にするのは初めてだったので、「思ったよりふくよかでいらっしゃるな……」と思ったことを覚えている。
『世界を変える』という強烈なメッセージを放った初代iMac
ふくよかだろうがどうだろうが、ジョナサン・アイブが、故スティーブ・ジョブズと手を携えて、現代のアップルのデザインの基礎のすべてを構築したというのは確かなことだ。
アイブはジョブズが ’97年に戻ってくる前からアップルにいて、ジョブズと気が合ったらしく、彼がアップル製品で世界を変えるために大きな力となった。
20th Anniversary Macintoshや、eMateも懐かしいが、最初に世間に大きなインパクトを与えたのはボンダイブルーの初代iMacだろう。
これまでの、ベージュや、黒、グレーのパソコンとはまったく違う、まるで異星から来た来た人が作った斬新なデザインは、それまでのジリ貧で、弱小パソコンメーカーと化していたアップルが『これから世界を変える!』と高らかに鳴らしたファンファーレのようなものだった。
実際には、彼が打てる手立ては限られていて、巨大なブラウン管などを組み込んでなんとかカタチにした側面はあったようだが、この奇手はパソコン業界に大きな衝撃を与えて、続いた5色の半透明ボディを使ったデザインを、世界中のデザイナーがこぞって真似をしたものだった。
ひたすらシンプルに
以来、iPod、iPhone、iPad、MacBookシリーズ、AirPods、Mac Pro、そして最大のデザイン作品であるアップルの新社屋Apple Parkに至るまで、彼のデザインの根底にあるのは、ひたすらにシンプル、そぎ落とせるものはすべてそぎ落とす……というものだった。
基本は直線とコーナーのR(円弧ではない)。余計な凹みや出っ張り、カーブ、ボタン果てはコネクターまで、そぎ落とされるものはすべてそぎ落とした。時にそれは我々に不便を感じさせるほどに徹底されていた。
下の写真は、現行Mac miniだが、これ以上何を省略することもできないほど、シンプルな形状である。
必要でないものはすべてそぎ落とす。そうやってデザインされたiPhoneがなければ、Samsungの携帯も、HUAWEIの携帯も、今のようなシンプルなカタチになっていなかっただろう。MicrosoftのSurfaceだって、もっと複雑なカタチになっていたに違いない。
新Mac Proに変化を感じる
では、アイブが去った後、アップルのデザインは変わるのだろうか?
アイブは自らのデザイン会社を作り、アップルをクライアントとしてビジネスを始めるという。アイブが打ち立てた『アップルデザイン』というアイコンは強烈だが、それでも変化は起こっていくだろう。
実は先頃発表されたMac Proのデザインに筆者は異質なものを感じていた。これまでのように、どこまでもシンプルに……というわけではなく、フロントグリルのデザイン、素材を変えたフレームは明らかに従来と違い『装飾的な意味』を持っている。これは『ゴージャスなパソコンなんだ』と主張している。メルセデス・ベンツのフロントグリルや、ルイヴィトンのモノグラムのように『高級であること』を主張している。これまでになかったことだ。
この製品にアイブがどのぐらい関わったのかは知る由もないが、筆者的には何かこれまでとは違うものを感じるのである。これから、もっと変わって行くのだろう。
不変のものはない
ファッションにしても、大きな世界的トレンドは移り変わっていくもの。ひたすらシンプルが良しとされる時期もあれば、豪華なもの、カジュアルなもの、民族色を感じさせるもの、ユニセックスなもの……いろいろと移り変わって行く。
不変のものはない。そろそろ、アップルのデザインにも大きな変化の時が来たのかもしれない。
(出典:『flick! digital (フリック!デジタル) 2019年7月号 Vol.93』)
(村上タクタ)
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PROFILE
flick! / 編集長
村上 タクタ
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。