家庭教師のトライが『本物のAI』GHELIAと協業して、生まれた圧倒的効率化とは?

実は、AIはまだほとんど社会実装されていない

私もそうだったのだが、多くの人が誤解していることがふたつある。

ひとつは、ハイジを使ったCMに出てくる『トライさん』は家庭教師ではないということ。

これは重要なポイントで、トライは家庭教師サービスではなく、家庭教師を派遣するサービスだということを表現している。トライさんは家庭教師ではなく、『教育プランナー』で、生徒ひとりひとりに合ったカリキュラムを作成し、適切な先生を配置するのがその仕事。

もうひとつの誤解は、正確には実際に社会実装されたAIはまだほとんどないということ。

AIという言葉の定義自体、一般的にはあいまいで、あらゆるコンピュータ処理について、『AI』と喧伝されるケースもあるが、弊誌としては現時点では深層学習(ディープラーニング)を用いてデータを処理したものをAIとして表記するよう心掛けている。

(本当の意味での)AIに関して、非常に先進的な立ち位置にあるGHELIAの業務にしても、まだまだ『効果確認』に相当するプロジェクトが多く、今回の家庭教師のトライの案件のように『社会実装』まで進んだプロジェクトは非常に少ないということ。

従来の法則性を見つけ、それをアルゴリズム化していく処理方法ではなく、大量のデータを多層のニューラルネットワークに通すことで、我々がいわゆる『論理』では解説できない処理が可能になる。「丸が三つあって、青、赤、黄色だったら信号機」という画像認識プログラムを組むのではなく、何万枚もの信号の写真を取り込んで、フィルターを通して、漠然と「信号機」という特徴を理解させるのが深層学習だ。

今回のトライとGHELIAの協業は、この深層学習が、実際に社会的に効果を発揮する非常に先進的な例となるはずだ。

ちなみに、本件はGHELIAがトライから仕事を受けたということのみならず、資本提携を含む非常に親密な強力関係を構築して行われている。

1/10の時間で、生徒を診断できる

『家庭教師のトライ』のことに話を戻そう。

社会状況の悪化により強迫観念的に子供に高学歴を求める人が増えるとともに、少子化により教育産業の競争は過当化する。国公立や有名私大を目指す生徒から、学校の授業についていけないから補習が必要な生徒まで、ニーズも多様化している。

そんな中、一時の進学塾ブームから、個別指導のニーズが高まっており、トライはその点に着目し、まず学力試験を行い、面接を経て、22万人以上の登録講師からセレクトした講師を紹介するというビジネスだ。この学力試験が重要な問題だ。

その生徒が、どこが分かって、どこが分かっていないのか? どこでつまずいているのか? たとえば高校3年生でも、高1、高2、場合によっては中学校のカリキュラムまで戻って学習しなおさなければならない。たとえば数学のような授業だと積み重ねなので、根本的な「ついていけなくなったステップ」を見つけないと、何を教えたらいいのか掴めない。逆に歴史の授業などだと、平安時代と戦国時代が分かってるのに、室町時代は全然知らない……ということも起こりうる。結果、このための最初の学力試験がとても重要で、かつ大変ということになる。

実際、今回のシステムを作る前には2万2000人の生徒が、各教科200問、5教科合わせて1000問のテストを受けてもらうことになった。1000問となると理解の進んでいる生徒にとってはともかく、学校の授業にもまったくついていけていないレベルの生徒にとっては苦痛でしかない。いきおい、途中で投げ出してしまう子だっているかもしれない。いや、理解している生徒でも、1000問を緊張感を切らさず解くのは大変だ。そうなると、ただしい理解度が測れない。

そこで、GHELIAの深層学習だ。まずの試験結果をデータセットとしてニューラルネットワークに学習させる。そうすると「この問題が解けない人は、ここが分かってない可能性が高い」……という関連性が浮かび上がってくる。その結果、なんとたった、各教科20問で、その生徒がどの分野を理解しており、どの分野を理解していないのか、9割前後の確実性で判定できるようになった。

トライでの学習を始める時に、各教科200問、合計1000問のテストを解かなければならなかったのが、各教科たった20問、合計100問で済むようになったのだ。これが本当のAIの力である。

「勉強してみようかな……」というような生徒に、いきなり1000問の試験をしたら、意欲を失ってしまうかもしれない。そういう意味でもここの試験はヘビーでない方がいい。

AIが生活を変える時代が始まった

この結果を受けて、ひとりひとりにオーダーメイドのカリキュラムを作り、22万人以上の登録講師から適切な講師を紹介できるのがトライの強みである。

今後、より個別学習塾化が進んだ時に、国公立から、有名私学受験のレベルから、補習授業のレベルまで、適切な授業を提供できる講師を紹介するためには、こうした仕組み作りが必要だ。

また、この仕組みは今後運用を進めていく上で、テストを受けて、実際に授業を受ける生徒が増していく上で、フィードバックが起こり、より精度が高まっていくし、状況の変化にも対応できる。

トライとGHELIAは相乗効果で共進化していくのである。

これだけの規模で、深層学習が社会実装された例は、実は過去にほとんどない。

おそらくこのプロジェクトは大きな成果を挙げるだろう。そして、これを皮切りに多くの分野で深層学習による解析が実装されていくだろう。本格的に我々の生活をAIが変える時代が始まったのだ。

(『flick! digital (フリック!デジタル)』)

(村上タクタ)

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村上 タクタ

flick!編集長

村上 タクタ

デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。

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