『天気の子』は『壊れたままの世界』で生きる若者へのエール〈新海誠インタビュー03〉
- 2020年03月10日
『天気の子』の帆高や陽菜は世界を救わない
実は新海誠監督の最新作『天気の子』を見た時の筆者の感想は複雑なものだった。
この物語の基盤には、現代の世界を覆う地球温暖化という問題が据え置かれている。
産業革命からこちらの我々の経済活動によって排出された温室効果ガスの影響で、世界的な気温の平均値は着実に上昇し、極地の氷は溶け、南洋の高水温によりサンゴは消え去りつつあり、台風は超大型化し、海水面は上昇し続けて、ヴェネチアやツバル共和国はそう遠くないうちに水面下に沈むことが予想されている。気温の上昇による高温化によりカリフォルニアやオーストラリアで自然発生する山火事は、さらに多くの温室効果ガスを生み出し、温暖化を加速させる。ホッキョクグマもコアラもその生態系に致命的なダメージを受けている。
にもかかわらず、この映画ではこの問題は解決されない。
『君の名は。』では、瀧くんや三葉の活躍により、糸守町の人たちはティアマト彗星の破片による破滅から救われる。主人公たちの活躍により世界が救われる物語だ。
しかし、『天気の子』の帆高や陽菜は世界を救わない。
それどころか帆高が陽菜を救うことで、世界に雨は降り続け、映画のラストシーンでは3年間降り続いた雨により、東京の荒川、江戸川下流域は水没してしまっている。
帆高「天気なんて狂ったままでいいんだ!」と叫んで、陽菜を救う。
自己の希望を通すために、世界の方を壊れたままにしてしまう。そんな物語だ。
世界を救った『君の名は。』に対して、なぜ『天気の子』では世界を壊れたままにしたのか? 新海監督に聞いてみた。
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PROFILE
flick! / 編集長
村上 タクタ
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。