京都暮らしプラス・ワン #01 ギャラリー「日日」/ ティールーム「冬夏」 オーナー・奥村文絵さん
- 2020年09月07日
食、器、服、アート、そしてサブカルチャーまで、良質なプロダクトや文化が生まれ、集まる京都。
そんな京都のエッセンスを暮らしにプラスすることで、毎日はもっと豊かになる。
様々な分野で活躍する京都の人々に、自分の“プラスワン”をお聞きします。
#01
ギャラリー「日日」/ ティールーム「冬夏」
オーナー・奥村文絵さん
「京都は自分の感覚を取り戻せる場所」——そう話すのは、京都御所のほど近く、風雅な日本家屋でギャラリー&ティールーム「日日/冬夏」を営む奥村文絵さん。日本や海外の作家による上質な一品に出会える「日日」と、薫り高い日本茶を楽しめる「冬夏」には、そこで過ごす洗練されたひと時を求めて、国内外問わずお客様がやって来ます。
そんな奥村さんが暮らす京都の魅力と愛用する逸品について教えていただきました。
京都移住の決め手は、御苑、鴨川、大文字山。
千葉県市川市で育ち、港区の学校で中高時代を過ごした奥村さん。大学を卒業後はデザイン会社勤務を経てフードディレクターとして独立し、東京で目まぐるしい日々を送っていたといいます。
「京都には結婚を機にやって来ました。2014年のことです。ドイツ人である夫が京都在住だったので、東京か京都、どちらを住まいにしようかと迷いましたが、緑豊かな京都御苑や鴨川、大文字山の存在が決め手になりました。
ドイツの都市には自転車で巡る森の中の自然道があり、誰でも自由に泳げる湖が市民から愛されていますが、京都でもそんな風に、人間らしく素の姿で自分の感覚を取り戻せる場所がすごくたくさんある。自然にあふれた街の成り立ちはヨーロッパに通じますね。大文字山にちょっと登って街を見下ろせば気持ちいいし、鴨川沿いを自転車で走るのも大好き。『この街に鴨川があってありがとう』という気持ちになります」。
休日は京都市郊外まで自転車でツーリングするという奥村さんご夫婦。「京北町(けいほくちょう)まで、自転車で出かけたこともあります(笑)」。
京都の職人は優れたデザイナーである
「東京のものづくりは専門分野が細かく分業化されていますから、デザイナーの領域は、新しい形を考え抜くこと。実際に素材を加工する段階では、技術者や工場の出番になります。ですから、開発途中で『それを形にするのはちょっと難しい』なんてやりとりを繰り返しながら、コミュニケーション能力が高い人ほど、アイディアを実現する力も高まります。
一方の京都では、手で考える。たとえば、ある宮大工さんのところでは、家屋を新築する際に、一度工房で仮組みして、細かな部分を実際に見て確認してからバラし、施工に取りかかると伺って、なるほどそうかと腑に落ちたことがあります。
素材の声を聞き、代々受け継がれた技術を更新しながら、目指す姿へと整えていく。贅沢な話のように聞こえますが、素材の良き扱いは姿の良さとなり、技術の高みは新しい形を生み出していく。職人さん自身に、形と技術の洗練が同居しています。それにしても、京都の美しいものってそうやってできているんだと知って、びっくり仰天しました(笑)」。
品物は、作り手の分身であり、心そのもの。
そんな職人の手仕事に惹かれる奥村さんの愛用品の一つが京都の伏見区に六代続く染司(そめのつかさ)よしおかさんの品々。麻や絹などの天然素材を、植物の根や実、花びらで染め上げた作品からは、自然の温かみや生命力を感じます。「いつも使っているのが名刺入れです。大きな袋は男性用の数寄屋袋(茶会で持つ懐紙袋)なんですが、私は特別の外出にバッグとして使っています」。
植物染めを通じて本物の仕事の尊さを伝える染司よしおかさんの袋物。奥村さん曰く、「仕事ですから、職人さんとは山あり谷あり、厳しい局面もご一緒します。そうして生まれた品物は、作り手の分身であり、心そのもの。それを売る私の役目は、作り手の代弁者となって、彼らの声をお伝えすること。私が一番のファンだと言ってもいいかもしれませんね」。
この岡山県の漆器作家・仁城義勝さんの器も、奥村さんが毎朝のミューズリーやスープ、お味噌汁用に使う愛用品。「人って好みが変わるけれど、長年使っていても飽きることがない、何も考えずに毎朝自然に手に取れる、極まった器の姿だと思っています」。
心と心で繋がっていけたらハッピー
「京都でもう一ついいなあと思うのは、心の繋がりを大事にするところ。どんな些細なことにも、お礼のひと言を忘れずに添えたり、歳時記に合わせて、旬のお菓子と一緒に「ちょっと寄りました」なんてお訪ねくださる。生きていく上で、本当に必要なもの、大事なものは目に見えないことを、教えてもらいます」。
小さなスーパーシティーで生きていく
日々の買い物やおいしいパン屋さん、仕事場と気分転換の散策まで、京都市は生活に必要な場所が、住まいから自転車で15分程度の範囲に大体おさまる。奥村さんはそんな京都の街を「スーパーシティー」と称えます。
「もともと飲食店として改装されていたこの日本家屋を、元の姿に戻す目的でリノベーションしました。今でもお世話になっている庭師さんや大工さんも、小さな相談のご連絡をすると、すぐにお訪ねくださる近さに助けられています。京都の住みやすさは想像以上でした。まさにスーパーシティーですね。栄枯盛衰に動じず、手間ひまを厭わず、衣食住のいずれにも、本物を頑なに守る人々が脈々と受け継いできたこの街が、とても愛おしいです。
ギャラリー「日日」/ ティールーム「冬夏」
京都市上京区信富町298
075-254-7533
火曜休
11:00〜18:00
(17:30 L.O.)
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http://tokaseisei.com(リニューアル中)
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