『鉄ちゃん』の夢 個人で作った究極の私鉄

鉄道趣味が高じ、架線集電の私鉄を開業

大阪のベッドタウン豊能町。この街を眼下に望む高台に、二駅しかない『私鉄』が存在する。線路全延長約200m、軌間(線路幅)381mmの上を、長さ2,400×幅720×高さ1,500mmの電気機関車が客車を牽引している。

こちらは桜谷軽便鉄道の南山線。持元節夫オーナーの鉄道趣味が高じ、2001年8月に『開業』した個人所有の私鉄なのだ。

営業は月に1度。誰でも自由に参加できる運転会の日だけ運行している。切符(硬券!)を発券するのだが、乗車記念に無料で配っているのため、全員が無賃乗車だ。ギシギシガタガタ懐かしい音を響かせながら、歩く速さとほぼ同じスピードで、桜谷駅と風の峠駅間の1周約150mを約2分で結んでいる。

ゆっくりとはいえ、両駅の脇にあるループ状のカーブを走り抜けるときは意外と迫力がある。軌道が狭く、カーブがキツいためか、やや強い横Gがかかる。しかも駅のすぐ脇を走るため、思ったよりも速く感じられるのだ。

駅舎などの建築物は大工に頼んで造ってもらったが、それ以外の作業は、用地買収(約300坪)から線路の敷設、車両の製造までオーナーがほぼすべてひとりで行った。

バッテリーで走る動力車や、石炭を炊いて走る蒸気機関車もあるのだが、電車は架線で集電している。架線集電にしたのはリアルな鉄道情景を作りたかったからなのかと持元さんに尋ねたが、そうではないという。

「大勢の人に乗ってもらうことを考えると、充電が必要なバッテリーカーよりも電化にしたほうが便利です。家庭用電源は交流100Vですが、万が一触っても危なくないように、施設内に設置した変電所で直流36Vに変換しています」。

鉄道を遊具として運行している遊園地は多い。けれど、そのほとんどがバッテリーカーなどの動力車を走らせているはずだ。架線集電の電車を走らせている遊園地はまずないだろう。なぜなら架線を引くのは面倒だし、管理も修理も厄介だからだ。鉄道ファンが架線集電の電車を走らせたことに驚かされる。

もうひとつ特筆すべきは、講習を受けて免許さえ取得すれば、小学生でもひとりで運転できることだ。真剣な面持ちで、要所要所点呼確認をしながら運転していた少年が何人もいた。そんな子どもたちに混じり、鉄道趣味とはおよそ縁がなさそうなご婦人も嬉しそうに列車を走らせる姿が印象的だった。ここでは遊園地の鉄道ではまずありえない、不思議な光景を目の当たりにすることができる。

20160713_01_2 すべての列車が出発する風の峠駅。

20160713_01_1 桜谷駅。列車は停車しないが、鉄道情景として駅を設けた。資料室を兼ねた待合室には、桜谷軽便鉄道開業の経緯が書かれた印刷物が貼られている。

鉄道ファンによる、鉄道ファンのための鉄道

持元さんの鉄道好きは子どもの頃からだというから、年季が入っている。定年退職後、「自分が乗れる鉄道を作りたい」と、家屋と塀に囲まれた自宅庭に、軌間381mm、全延長75mの線路を敷設。最初は手押しのトロッコで満足していたが、「欲が出て動力車も欲しくなった」ため、庭に変電所を設け架線集電の自家用鉄道を完成させた。長年、電機関係の仕事をしてきた技術と経験を活かし、架線集電を自家用鉄道に適用させたのだ。

2000年初夏全国誌で紹介されるや、鉄道好きが運転会に押し寄せるようになった。やがて自宅が手狭になり、南山線を開通することにする。この『新事業』を思いついたのは72歳。その年齢で、肉体労働を伴う新事業に着手したと思うと頭が下がる。

「ここは家庭菜園などがある市街化調整区域だったため、安く土地を購入できたものの、線路の敷設はかなり面倒でした。いくつもの引き込み線が混在する複雑な線路が完成したのは開通後数年経ってから。当初自家用鉄道と南山線の両線を所有していましたが、その後自宅の線路を廃線にしました」。

運転会当日、制服代わりにお揃いのベストを着た10数名の『鉄道員』が、朝早くから試運転と保線確認を繰り返していた。全員がボランティア(もちろん鉄道好き!)でそれぞれ総合司令、運転長、保線員などの職務を担っている。中には本物の鉄道員もいる。ここで鉄道を運転していた少年が、やがて私鉄に就職。現在駅係員や運転士見習いとして働く傍ら、月に一度の運転会を愉しみにしているのだ。

この日もたくさんの子どもが電気機関車を運転していた。オーナーとしては「鉄道好きになるための英才教育をしているわけではない」というのだが、桜谷軽便鉄道は鉄道員養成所としても機能しているような気がしてならない。

20160713_01_3桜谷軽便鉄道が運行する車両の中で一番人気が高いのが蒸気機関車(0.2馬力)。車両庫の脇で、石炭を園芸用のスコップで釜に入れて、走る準備をしていた。試運転を繰り返した後、乗客を乗せた客車を牽引した。

20160713_01_5 運転日の朝、持元オーナーも加わり、朝礼が行われた。オーナー以外のスタッフ全員がベストを着用。そのベストには、桜の花をモチーフにした桜谷軽便鉄道の社章が刻まれている。

20160713_01_4 持元オーナーは、風の峠駅構内にある工作室で車両などの部品を製作してきた。金属の接合には溶接を用いずにボール盤で穴を開け、ボルトやネジで処理した。現在オーナー専用の休憩室になっている。

◯桜谷軽便鉄道
大阪府豊能郡豊能町吉川
※毎月第1日曜日の13時から
15時まで運転会を開催予定。
http://nakanoke.com/sakuradani/

(編集 M)

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