明治時代から大正時代に製造された国産・外国産の柱時計を集めて40年

プラスチック製と違い木製の柱時計には木の温もりが感じられるし、音も心地よい。見ているだけで不思議と和んでくる。そんな木製の旧い柱時計を収集している人がいる。ボンボン時計の他、童謡「おじいさんの古時計」に歌われたような分銅式も所有する。いつも身近にあったのに興味を抱いたのは30歳を過ぎてから。集めたきっかけを尋ねた。

機械好きが高じて柱時計を集め始めた

011 長年寄りそうように、いつも身近にあった道具には、かえって愛着を感じないものなのかもしれない。この人の場合、柱時計がそうだった。子どもの頃から家の柱に掛かっていた時計がゼンマイ式だったこと以外、「何も覚えていない」というのである。「高いものではなかったはずだけど、どんな時計だったのかまったく記憶にないんですよ」
012 そんな田中仁さんが32歳の頃、骨董屋に並んでいた柱時計の前で足が止まった。その店に入ったのは、中学の頃からハマっていた蓄音機を探すためだった。社会人になり、バイクで骨董屋めぐりをしているうちに時計を集めている人と親しくなった。彼らから時計の魅力を聞かされてきたおかげで次第に時計に興味を覚えていった。

その日も蓄音機を物色するために骨董屋に向かった。けれど、ときめいたのは蓄音機ではなかった。いろいろな時計があったなかで、アメリカはアンソニア社の柱時計に見初めてしまった。「初めて見る不思議な形と、美しい飴色の木目に惹かれました。いまでこそこの意匠がダルマ時計(後述)と呼ばれることを知っているけど、当時は何もわかりませんでした」

動かしてもらったら音も心地よかった。時代を経た味わいも気に入り、迷わず買ってしまった。もともと機械が好きだったとはいえ、古時計好き仲間の影響もあり、柱時計に惚れ込んだのだ。

それが柱時計との出会いだった。その日から骨董屋めぐりの目的に、柱時計探しが加わった。珍しい時計に出会うと背中に背負い、バイクで持ち帰った。柱時計をより効率的に収集するにはどうすべきか。考えた末、柱時計を得意とする骨董屋に「こんな時計が出たら連絡をください」と頼むことにしたのだ。
時計というとスイスを思い浮かべるが、スイス製の柱時計とはほとんど遭遇したことがないという。国産、アメリカ製、ドイツ製など、明治時代から大正時代に製造された柱時計を 40年収集してきた。その数約300台。

長年、柱時計を自宅の隣にある実家に保管してきた。ところが、ある日、実家を建て直す話が持ち上がった。貴重な収集品を散逸させたくなかった。
013 3年前、和洋菓子を製造販売するたこ満が、たこまん掛川本館2階に田中さんのコレクションを展示する「柱時計&オーディオミュージアム」を開設してくれることになった。50台を自宅に残し、250台をミュージアムに飾ることにした。

彫刻による装飾を施した柱時計。文字盤が左右反転で、針が左回転する通称「床屋時計」。上下をひっくり返すと張り子のダルマに似ていることからその名があるダルマ時計。どこのメーカーの製品なのか、といった説明書きが時計の脇にそえられている。

米国製を模倣した柱時計が主流だった

009 ミュージアムには精工舎の時計も多いが、現存しないメーカーの製品が数多く並んでいた。豊橋時計、名古屋時計製造会社など、かつて愛知に時計メーカーが復数存在したことに驚かされた。
040 「明治期、木材集散地である木曽川を控える名古屋地方には、木工職人がたくさんいたことから、愛知で時計製造が発達しました。中條勇次郎という人物が、県下で量産タイプの時計作りに着手したことも多分に影響しています」

中條は明治18年、アメリカ製の高額な時計をモデルに安価な時計を作ろうと挑んだ。その後、明治20年代から30年代にかけて愛知、東京、京都、大阪などにも時計メーカーが次々に誕生した。

安価なモデルもあったはずだが、田中さんが集めてきた柱時計の大半はとても庶民の手が届くものではなかった。偶然かもしれないが、村長のような地元の名士でないと買えない柱時計を中心に収集してきた。「とくにドイツ製は、一軒家が買えるぐらい高価でした。ここにあるドイツ製の柱時計は、おそらく華族の家にあったものだと思います」

ドイツやアメリカから輸入した機械を、木工職人が作った外箱に組み上げた柱時計も展示されている。立派な彫刻を施した外箱に入った柱時計も多い。機械メーカーこそ断定できてもどこの会社が輸入し、外箱を作ったのかまったくわからない。製造年も刻まれていない。国産も輸入品も、製造年はメーカーカタログなどから類推するしかないという。
001 ひとつ言えるのは、柱時計黎明期に作られた国産モデルは、アメリカ製を模倣したものが多いことだと田中さんは説く。

「日本もアメリカと同等のものを作れるようになったと思いますが、技術的にはアメリカのほうが一枚上手。国産と比較すると、アメリカ製はできる限り長持ちさせようという思いで作っていた気がします」
039 ここ「柱時計&オーディオミュージアム」には、柱時計だけでなく、田中さんが集めてきたオーディオも並んでいる。通常時計はゼンマイを巻いていない。頼めばオーディオ同様、その美しい音色を聴かせてくれる。明治から大正時代、どこかの家の柱で時を告げていた時計たち。その懐かしくも心地よい音に耳を傾けてみたい。
008

【DATA】
●柱時計&オーディオミュージアム
住所:静岡県掛川市南西郷458-7 たこまん掛川本館2F
電話:090-7301-9485(田中仁さん携帯)
営業時間:9:00~16:00
定休日:無休(たこまん掛川本館の営業日に準ずる)
入場無料

(出典:『Lightning 2019年2月号 Vol.298』)
(ライター:千葉泰江)

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